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第11話:ガルマー城の整備

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 魔王軍の前線基地でもあったガルマー城は獅子の軍勢の手に落ちた。


 これで魔王軍はコルニグス王国方面に侵攻するための足場を失った形になる。


 それは俺たち獅子の一族にとっても、コルニグス王国の人間たちにとっても良い事なのには違いはなかった。ガルマー城を占領して数日。コルニグス王国から使者がやって来た。


 表向きはガルマー城を攻略した戦勝を祝福したいとの事だが、これがガルマー城を占領した事で俺たち獅子の一族がコルニグス王国に牙を剥かないか、確かめようとしているのであろう事は俺も軍師のラーバルオも分かっていた。


 使者たちを俺は出迎え、使者たちが発する賛美の言葉を受け止める。

「流石は黄金獅子王族の女王・ライオ様。ガルマー城をいとも簡単に制圧してしまうとは……」
「この城の存在は我々、人間にとっても脅威となる存在でした。その脅威を取り除いてくれた事に感謝致します」

 人間の使者たちの言葉に俺は頷きながら、口を開く。

「それで今後の同盟の件だが……」

 今後の同盟維持。それをするためにこの使者たちは送り込まれて来たのであろう。俺が口にすると見るからに緊張が走った。俺はそんな使者たちを安心させるように笑みを浮かべる。

「引き続き継続、と言う事で良いな? 俺も、我々、獅子族も人間たち、コルニグス王国とは仲良くしておきたい」

 安堵の感情が使者たちより漏れる。俺が、黄金獅子王族がコルニグス王国との同盟を維持したいとの俺の言葉に使者たちは頷く。

「無論です、女王様。同盟の継続は我らが王の意向でもあります」
「引き続き、お互いに協力していきましょう」

 満足げに使者たちの言葉に俺は頷く。そして、言った。

「では、早速で悪いが、このガルマー城、魔王軍から奪取する際にあちこち損傷してしまっていてな。それを修復するための人材が欲しい。我々、獅子の一族は戦う事は得意でもこういった事は苦手でな」
「承知しました、女王様。すぐに人員を派遣致します」
「うむ。頼むぞ」

 そうして、使者たちは帰って行った。俺はその背を見送りつつ、ラーバルオに話し掛ける。

「今は城の修復なども人間に頼っているが、いずれは獅子族だけで出来るようになりたいものだな」
「そうですな、女王様。獅子族の者たちに人間に学ぶようにお伝えしましょうか?」
「受け入れてくれると思うか?」
「……まぁ、無理でしょうな」

 獅子族の者たちは大なり小なり誇り高い性格をしている。それが自身より下と見なしている人間たちに教えを請うなど受け入れてくれる獅子がどれほどいるものか。怪しい所だった。

「それに農業も自らの手で行わねばならん。狩りに行って獲物を獲ってきて食べていた時とは違うのだ。自給自足で生活しなければな」
「農業なら我々、獅子族にも心得があります。早速、行わせましょう」
「うむ。これから先、魔王軍との戦いは長い戦いになる。その期間、戦えるだけの力を蓄える事は必要な事だ。屯田を敷け。配下の獅子たちに農業を行わせつつ、魔王軍との戦いに備えさせるのだ」
「はっ、すぐに命令を伝達させましょう」

 頷き、俺の元から去って行くラーバルオ。屯田で兵たちに農業をさせつつ、有事の際には戦力として使う。


 それはこれから先の戦いを見据えれば必要不可欠な事だった。俺が玉座の間で待機していると、ライナがやって来た。ライナは言う。

「大変よ、ライオ。黄金獅子王たちの間でこの先のケルビム城に攻め込まないか、という声が広まっているわ」
「なんと……」

 絶句してしまう俺。確かに順路から言えばこのガルマー城を制圧したのだから次に攻め込むのはケルビム城なのだが、それは逸りすぎと言うものだ。


 まだこのガルマー城を完全に掌中に収めた訳でもないのだ。そうそう戦戦、と連戦出来るだけの体力は我々獅子族にはない。個人の武勇は一騎当千でも領地をどんどん広げていけばそれだけ弱点も多くなる。


 特に我々は総計の戦力でも1000前後の寡兵なのだ。無理な侵攻は失敗の元である。事は長いスパンで考えていく必要がある。それが黄金獅子王族の女王になった俺の覇者になるための計画でもある。

「分かった。俺が言葉を発し、その者たちを抑えよう」
「頼むわね、ライオ」
「ああ、任せておけ」

 軍議を開き、黄金獅子王や白銀獅子王たちを集める。そこで俺は言った。

「皆の者! この先のケルビム城の攻略を目指している者も多いようだが、それはまだ早い! 今は占領したこのガルマー城で態勢を整える時だ!」

 ざわめきが俺の言葉で巻き起こる。
 やはり皆、ケルビム城に侵攻したがっていたか。


 それも無理はない。このガルマー城の奪取だって、圧倒的兵力差を覆し、苦戦らしい苦戦をせずに奪い取る事に成功したのだ。ならば次の敵城にこの勢いのまま攻め込んで、城を強奪してしまえば、と考えるのも致し方ない事である。


 だが、それは危険だ。我々はあくまで1000足らずの寡兵に過ぎないのだ。無理に手を広げてしまえば自滅の未来しかない。

「ですが、女王様……」
「我が軍の士気は旺盛。このまま一気に攻め込むのも良いかと……」

 黄金獅子王たちはそう言って、俺の言葉に難色を示す。俺は言った。

「長いスパンで考えろ。今はこのガルマー城で徹底的に戦力の補充・兵糧の確保が出来るように務めるべきだ。そうする事が後の侵攻にも繋がる。俺とてケルビム城を攻める気がない訳ではない。ただ、今はまだ早いというだけの話だ」

 困惑が黄金獅子王や白銀獅子王の間に広まっていくのを感じる。


 だが、これは事実だ。
 このガルマー城を獅子たちの前線基地とするのならそれなりの期間はいる。


 その間、魔王軍がガルマー城の奪還を目指して襲って来る事もあるだろうが、それも迎撃しなければならない。


 そうして、ガルマー城を獅子たちの前線基地として申し分なく仕上げた時こそ次のケルビム城に侵攻する時がやって来るのだ。

「全ては我らが獅子族の勝利のためだ。皆の者、分かってくれ」

 悪い意味での熱気は収まっていく事を俺は感じていた。これで部下の黄金獅子王や白銀獅子王たちもガルマー城を維持する事の大切さが伝わったであろう。


 無理にケルビム城に侵攻しようとはもう言わないはずだ。そう思い、俺は獅子たちを見渡し、不満はない事を確認する。


 完全に納得出来てはいないようだったが、少なくとも、ケルビム城に今すぐ攻め寄せるべき、と言う輩はいなくなったようだった。

「これにて軍議は閉幕、ですね。それでは女王様、次のプランを練りましょう」

 軍議の終了を告げるラーバルオの言葉。それに俺も配下の黄金獅子王や白銀獅子王たちも頷き、解散となる。俺はラーバルオと並んで歩きながら、「これで獅子たちの不満は収まっただろうか?」と訊ねる。

「残念ながら、完全に納得した訳ではないでしょう」
「やはりそうか……」
「とはいえ、今すぐケルビム城に攻めると言う者もいないでしょう。とりあえずは上々と言って良いのでは?」

 的確なラーバルオの言葉に俺は頷く。とりあえず、今すぐケルビム城を攻めるという者がいなくなったのなら問題はない。後はこのガルマー城を徹底的に獅子の拠点に作り変えていくだけの話だ。


 黄金獅子王は戦には滅法強いが、こういう事は苦手としている。やはり万能の生命体という訳ではないのだな、と思ってしまうのは俺が元・人間だからか。


 黄金獅子王が苦手としている事も人間は得意としている事もある。今の所は人間の王国、コルニグス王国とも持ちつ持たれつの関係を続けていこうと思う。


 このガルマー城を獅子族の前線基地に作り変えるためには人間の力を借りる事が必要なのだ。


 俺はそう思い、派遣されて来た人間たちと共にガルマー城の修復に当たる。とりあえずは破損した箇所の修復。屯田を敷くのはその後だ。
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