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第15話:打倒! ワイバーン;レックス

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 ワイバーン・レックス。巨体を雄々しき羽根で支え、空を駆ける最上位の魔物だ。


 その力は我々黄金獅子王にも勝るとも劣らない。ケルビム城守護のため、温存さえれていた強大な魔物相手に俺は勝負を挑む。

 ここでこいつさえ、倒してしまえばケルビム城は陥落させる事が出来る。絶対に負けられない戦いであった。


 俺は前に出て、ワイバーン・レックスに吠え、挑発し、その注意をこちらに惹く。ワイバーン・レックスはいきり立ったように叫び、俺目掛けて突進して来る。


 「女王様!」と配下の黄金獅子王たちが声を掛けて来るが、「問題ない!」と俺は声を返す。

「このワイバーン・レックスは女王たる俺が討ち取る! 皆の者、女王の戦いを見よ!」

 そう叫び、自軍を鼓舞し、ワイバーン・レックスと戦う。ワイバーン・レックスは両足の爪で俺に斬撃を仕掛けて来る。


 俺はそれを両腕で受け止める。鋼鉄をも凌駕する黄金獅子王の肌だ。ワイバーン・レックスの爪といえど斬り裂く事は出来ず、防御に成功する。


 俺は近寄って来たワイバーン・レックスに豪腕を振るう。黄金獅子王の豪腕の一撃ならワイバーン・レックスが相手といえど、打撃を与える事が出来るはずだ。


 しかし、ワイバーン・レックスはすぐに羽根を羽ばたかせて急浮上し、俺の攻撃を回避する。


 そして、直後に再び急降下して、俺に攻撃を繰り出す。面倒な。俺はそう思い、口から火炎を吐き、ワイバーン・レックスを牽制する。炎の前にワイバーン・レックスは少し戸惑ったようだが、その火炎放射が止んだ隙を狙い、再び攻撃を繰り出して来る。

 それも両腕で受け止め、豪腕をワイバーン・レックスに叩き付ける。今度は攻撃を回避されないように神速の攻撃を心掛ける。

 俺の豪腕の一撃はワイバーン・レックスの肉体に直撃し、ワイバーン・レックスは絶叫を上げる。


 勿論、それだけでやられるワイバーン・レックスではなく、口から火炎を吐き、こちらに攻撃を仕掛けて来る。


 俺も口から火炎を吐き、それに対抗する。火炎と火炎がぶつかり合い、その隙間を縫ってワイバーン・レックスは急降下攻撃を仕掛けて来る。


 それを俺は受け止め、反撃の豪腕を叩き付ける。ワイバーン・レックスは爪でも攻撃を仕掛けて来たが、それは豪腕で防ぐ。


 ワイバーン・レックスの肉体に豪腕の一撃を叩き込み、ついにワイバーン・レックスは地面に落ちる。


 容赦せず四本脚の爪でワイバーン・レックスを斬り付け、とどめを刺す。

「ワイバーン・レックスは女王たるこのライオが討ち取ったーーっ!」

 俺は叫ぶ。ワイバーン・レックス、撃破。それは自軍の士気を最高潮に高め、敵軍の士気を最低限に低下させるのに十分なものだった。


 ワイバーン・レックスを打ち破った俺の勢いに乗るように獅子の軍勢はケルビム城の守兵たちに攻撃を仕掛けて行く。


 亜人たちも犠牲を出しながらも進軍し、敵兵を打ち破っていく。ケルビム城を巡る戦いは大勢は決したも同然であった。


 ケルビム城の守兵たちは外に出ての迎撃では守り切れないと判断して城に籠もるようになったが、それを俺たち獅子の軍勢は包囲し、攻撃を仕掛ける。


 程なくして、籠城も破られ、ケルビム城の中に獅子たちは突入する。俺もまた最前線で軍を率い、獅子たちの突撃を指揮する。

 降伏した亜人たちは捕虜として捕え、最後まで徹底抗戦する敵を討ち取って行く。そうして、ケルビム城は我々、獅子の軍勢の手に落ちた。


 俺はケルビム城の玉座の間に座り、戦後報告を聞く。黄金獅子王と白銀獅子王にはほとんど被害は出ていないが、帰順した亜人の軍勢はその大半を討ち取られる甚大な被害が出ているようであった。


 獅子王と違い、亜人の軍勢、ゴブリンやコボルト、オークは絶対的な力を持っていない。被害が出るのも仕方がない事なのだが、参ったな、とは思う。450の亜人の軍勢の内、200は討ち取られてしまったようだ。


 とはいえ、敵軍との兵力差を考えればこれでもまだマシな方だろうと思う。とりあえずこのケルビム城を守護していた亜人たちも捕えた。彼らにも我が軍に加わってもらい戦力になってもらおうと俺は思う。

「ラーバルオ、このケルビム城の亜人たちも我が軍に組み込めるかな?」

 俺の問いにラーバルオは答えを返す。

「可能でしょう。魔王に忠義を尽くす亜人もいない訳ではないでしょうが、基本的に彼らは長いものには巻かれろの生き方で生きている者たちです。我々の軍に組み込む事も不可能ではないかと」
「そうか。それなら戦力の補充になるな」

 的確なラーバルオの言葉に俺は頷く。ケルビム城を攻略したが、ガルマー城の守護の事も考えなければならない。


 700の軍勢、それも黄金獅子王や白銀獅子王を含む軍勢をガルマー城に残して来ているからそう簡単にやられる事はないと思うが、俺自身が指揮を執れないのはやはり痛手だ。


 配下の獅子たちを信用していない訳ではないが、やはり女王たる俺が指揮を執った方が自軍の士気も高まる。

「ここから先に進むに当たって、ガルマー城の兵力をこちらに移動させるのは、やはり厳しいな」
「そうですな、女王様。ガルマー城の守りを減らしてしまうと魔王軍の別働隊にガルマー城を奪還されてしまう恐れがあります。それを防ぐためには今のガルマー城の戦力でギリギリと言う所でしょう」
「ううむ、やはり兵力が不足しているな」

 黄金獅子王、白銀獅子王はそれぞれが一騎当千の強さを秘めた猛者揃いであるが、兵力という面では圧倒的に不足している。


 獅子王の数はそこまで多くない。その中で俺はなんとかやりくりをして、魔王軍の城に攻撃を仕掛けなければならない。


 敵兵の亜人たちを帰順させる事で多少は誤魔化しがきくが、亜人たちは獅子王に比べれば圧倒的に戦闘力で劣る。あまりアテにし過ぎるのもどうかという話であった。


 それでも、とりあえずはケルビム城の奪取に成功したのだ。ここでもしばらくは内政をし、獅子の一族の力を高めなければならない。


 コルニグス王国からの使者もやって来る事だろう。本格的に人間たちと協調態勢を取りたい所だが、それを配下の獅子たちは納得するか、どうか。


 人間の兵士も我が軍と協調し、魔王軍の城を攻める事が出来れば、楽になる部分もあるのだが。

「やはり人間の兵士たちとも協調して攻め入りたい所だのぅ……」
「人間の兵士、コルニグス王国の兵なら数の面では不足はないでしょうな。ですが、それを獅子たちは納得するのか。また、人間の協力を得て落とした城を我々が統治する事が出来るのか。問題は残ります」
「そうなんだよなぁ」

 獅子の一族と亜人だけで城を落としたのならともかく、人間の手を借りて城を落としたとなれば人間の側にも城の所有権を主張する事が出来る。それは出来れば避けたい所だ。


 ともなればやはり魔族の手だけで魔王軍の城を落とさなければならない。しかし、今は兵力に不安を抱える身だ。ライファスたち新兵も戦力に加えているが、まだ獅子王族の全員が戦線に参加している訳ではない。


 コーラシュマー城に残してきたライファスたちよりも幼い獅子の一族がいるにはいる。彼らが成長してくれれば戦力の補充にはなる。


 しかし、それを悠長に待つのもどうか。難しい所だった。元よりあっという間に魔王軍の領地を奪い取れるなどと甘い算段はしていないが、数年、十年越しのプランを練るというのもそれはそれで難ありである。

「まぁ、良い。とりあえずケルビム城奪取の称賛を配下の獅子や亜人たちに与えよう。全軍を集めろ。俺が称賛の言葉を掛ける」
「分かりました、女王様」

 俺の言葉にラーバルオは素早く立ち去り、全軍を集める。俺は居並んだ獅子たちと亜人たちを前にケルビム城奪取の功績を称える言葉を発し、自軍の士気を高めるのであった。
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