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第59話:魔法の鍬
しおりを挟むコーラル王国王都の少し外れ、森に踏み入った所にその店はある。
あらゆる武器防具アイテムが揃うというその店は客のどんな注文にも応えるという。しかし、今日来た客は普段の客とは違っていた。
冒険者・狩人・騎士・聖職者、彼らを客として迎え、武器や防具、アイテムを売ってきた赤髪の店主であるが、今日の客には少し驚きを隠せなかった。
「まさか農夫の方がうちの店に来るとはね……」
「悪かっただか?」
「いやいや、いらっしゃい。うちは来る者拒まずだからね。歓迎するよ」
今日の客は地方で農業を営む農夫のダリオである。
農夫のダリオは長年使っていた鍬が壊れてしまいどうせなら一級の鍬を、それも何か魔術的な効果がある鍬が欲しいと思い、この店を訪れたのだ。
「鍬なんて置いてねえかもしれねえだが。あれば欲しいんだべ」
「いやいや、ちゃんとあるよ。安心してくれ」
「そんじゃ頼むだべ」
ダリオの言葉に赤髪の店主は頷き、店の奥に行く。
帰って来た時には一本の鍬を持っていた。本当に鍬まで置いてあるんだ、とダリオは少しの驚きを覚える。
この店がなんでも揃うという噂は本当のようだ。
一本の鍬を持ってきた店主に「この店はすげえだべな」と思わず口にしてしまう。
店主は微笑を返した。
その鍬には魔術的な紋様が刻まれており、魔術的効果があることは疑うまでもない。魔法などにはてんで疎い農夫のダリオであるが、この鍬がただの鍬ではないことは分かった。
「こいつは地面を耕す力も高いし、魔術でこれで耕した地面は肥料がまかれたのと同じ状態になる。重さも魔術のおかげで普通の鍬よりは遙かに軽く感じられるはずだ」
「そいつはすげえべ。そんないい物があるなんて……オラ、感激だ」
心底凄いとダリオは思った。そんな鍬があるなら是非とも欲しい。
だが、問題は金額だ。そんな鍬だったら相当するのではないだろうか? 不安に思いつつ、ダリオは店主に訊ねる。
「それは、その、いくらするべ?」
ダリオの不安を見抜いているように店主は笑みを浮かべて言う。
「まぁ、金貨2枚って所だな」
「金貨2枚でいいだべか? それならオラにも払えるべ」
店主の言う能力をこの鍬が秘めているとなれば金貨2枚など安すぎる値段設定だ。
ダリオは感激して、金貨2枚を巾着袋から取り出し、払う。
「毎度あり」
店主はそれを受け取ると鍬をダリオに渡す。
ダリオは宝物を持つように、(実際、宝物の認識だろうが)鍬を持った。
「ありがとうだべ。これで来年は豊作だ」
「農家の人々がいてこそ我々も日々の食事に困らないでいられる。力になれたのなら何よりだ」
ダリオは店主に一礼して店を後にする。
ちょうど、畑を耕す季節。この魔法の鍬を早速、使わせてもらおうとダリオは思う。
魔術的な効果で重さが軽減されているのは事実のようだ。木の棒のように軽い。
それでいて先端の刃の部分は鋭く煌めいている。
こいつで畑を耕すぞ、と意気込むダリオは農村に戻り、農作業に入った。
「父ちゃん、どこに行っていただべか?」
母ちゃん……妻がダリオに声をかけてくる。
「ちょっと王都の近くまで行ってきただ。新品の鍬を買いにな」
「へぇ、わざわざ王都の近くまで。それでいい鍬は買えただか?」
「ああ。最高の鍬が手に入ったべ」
畑を鍬を使って耕す。軽々と扱える鍬は充分な力を持って地面をえぐる。
説明の通りならこれで肥料をまいたのと同じ状態が地面に出来上がっているはずだ。鍬を振るって次々に耕していく。
「こんなに軽い鍬は初めてだぁ」
驚嘆の声を漏らしつつも農作業の手を止めることはない。
畑を耕していき、農作業を進める。軽々と扱える鍬のおかげで作業はスムーズに進み、畑全てを耕したのに日がまだ登ったままであった。
これで畑全土に肥料をまいたのと同じ効果があるはずだ。
それからダリオは種をまき、次なる段階の作業に移る。
魔術的な肥料の加護を受けた畑はまかれた種に栄養を与え、のびのびとそれらは育っていった。
季節は流れ、収穫の時期になると豊作も豊作。
大豊作であり、ダリオは今更ながらあの店主の言うことに嘘はなかった、と実感した。
あの店主の元で買った鍬にはそれだけの力があったのだ。
ダリオは豊作の果実などを収穫しながら、気分は良かった。
これなら今年は大枚が舞い込んでくるだろう。
鍬を買った料金などより遙かに多くのお金が舞い込んでくる。そのことに笑みを浮かべる。
「父ちゃん、今年は随分、豊作だべなぁ」
「鍬のおかげだぁ」
「鍬?」
妻に怪訝そうな顔をされたが、ダリオは収穫作業を息子たちと共に進める。
全くもってあの赤髪の店主の店はいい物を売ってくれると思いながら。
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