2 / 24
第二話
パカッ、パカッ、という蹄の音が、心地よいリズムを刻んでいる。
けれど、俺の心境はちっとも心地よくなんてなかった。
「……あの、アリスター様。本当に自分で歩けますから」
「ダメだよ。こんなに体が冷えているじゃないか。無理をして倒れでもしたら大変だ」
アリスターはそう言って、手綱を握っていない方の腕で、俺の肩をさらに強く抱き寄せた。
俺は今、彼の操る白馬の背で、彼の胸の中にすっぽりと収まっている。
後ろから包み込まれるような形になり、アリスターの体温がダイレクトに背中へ伝わってくる。
(あったかい……っていうか、熱い……)
男の人の体温って、こんなに高かっただろうか。
前世では満員電車で他人の体温を感じることはあっても、それは不快でしかなかった。でも、アリスターから伝わる熱は、驚くほど清潔で、どこか安心させる香りがする。
「そんなに顔を赤くして、やっぱり熱があるんじゃないかな?」
「なっ、違います!これは、その、空気が意外と温かいからで……」
嘘だ。本当は、至近距離で囁かれる彼の甘い声のせいだ。
俺が焦って言い訳をすると、アリスターは「ふふっ」と喉を鳴らして笑った。その振動が背中から伝わってきて、心臓がまた一つ、大きな音を立てる。
その瞬間、背中の「消したはずの羽」の付け根が、じりじりと熱くなった。
羽自体は完璧に消している。人には見えないし、物理的な実体も消しているはずなのに、俺の感覚だけがそこにある。
興奮したり、心が揺れ動いたりすると、羽が「外に出たがっている」のがわかるのだ。
(落ち着け、俺。このままじゃ、うっかり魔法が解けて羽がドバッと出てきちゃう……!)
俺は必死に深呼吸を繰り返し、意識を別の方向へ逸らそうとした。
目の前に広がるのは、手入れの行き届いた美しい街道と、遠くに見える巨大な白い城。
「見てごらん。あれが僕たちの住む王宮だよ。君の部屋は、一番日当たりの良い場所に用意させるからね」
「俺の部屋?いや、俺はただの通りすがりの……」
「通りすがりの美青年を、魔物が潜む森に一人で返すわけにはいかないだろう?それに、君のその銀髪……光に透けると、まるで奇跡を見ているようだ」
アリスターの視線が、俺の髪を愛おしそうになぞる。
その眼差しは「拾った珍しい小鳥」を慈しむような、穏やかで、けれど決して逃がさないという執着を含んでいるように見えた。
やがて、馬は大きな城門をくぐった。
整列していた兵士たちが一斉に膝を突き、頭を下げる。
「アリスター殿下、お帰りなさいませ!」
「ああ。急ぎで部屋を一つ整えてくれ。それと、テレーズに最高の温かいスープを用意するように伝えて」
アリスターは止まることなく指示を出し、馬を降りる際も、俺を抱き上げたまま着地した。
地面に足を着かせてくれる様子は微塵もない。
「殿下、そちらの方は……?」
困惑したような声が聞こえた。
見れば、眼鏡をかけた真面目そうな青年が、呆れたような、それでいて鋭い視線をこちらに向けている。
「カイル、詳しい話は後だ。今は彼を休ませるのが最優先だからね」
「……また、妙なものを拾ってこられたようで」
カイルの溜息混じりの言葉に、俺は心の中で「全くだよ」と同意した。
天使としての平穏なニート生活を夢見ていたはずなのに、どうやら俺は、とんでもなく過保護で強引な王子様に「獲物」として認識されてしまったらしい。
アリスターの腕の中で揺られながら、俺は豪華な城の天井を見上げ、これからの生活に一抹の不安――と、抗いがたい期待を感じていた。
けれど、俺の心境はちっとも心地よくなんてなかった。
「……あの、アリスター様。本当に自分で歩けますから」
「ダメだよ。こんなに体が冷えているじゃないか。無理をして倒れでもしたら大変だ」
アリスターはそう言って、手綱を握っていない方の腕で、俺の肩をさらに強く抱き寄せた。
俺は今、彼の操る白馬の背で、彼の胸の中にすっぽりと収まっている。
後ろから包み込まれるような形になり、アリスターの体温がダイレクトに背中へ伝わってくる。
(あったかい……っていうか、熱い……)
男の人の体温って、こんなに高かっただろうか。
前世では満員電車で他人の体温を感じることはあっても、それは不快でしかなかった。でも、アリスターから伝わる熱は、驚くほど清潔で、どこか安心させる香りがする。
「そんなに顔を赤くして、やっぱり熱があるんじゃないかな?」
「なっ、違います!これは、その、空気が意外と温かいからで……」
嘘だ。本当は、至近距離で囁かれる彼の甘い声のせいだ。
俺が焦って言い訳をすると、アリスターは「ふふっ」と喉を鳴らして笑った。その振動が背中から伝わってきて、心臓がまた一つ、大きな音を立てる。
その瞬間、背中の「消したはずの羽」の付け根が、じりじりと熱くなった。
羽自体は完璧に消している。人には見えないし、物理的な実体も消しているはずなのに、俺の感覚だけがそこにある。
興奮したり、心が揺れ動いたりすると、羽が「外に出たがっている」のがわかるのだ。
(落ち着け、俺。このままじゃ、うっかり魔法が解けて羽がドバッと出てきちゃう……!)
俺は必死に深呼吸を繰り返し、意識を別の方向へ逸らそうとした。
目の前に広がるのは、手入れの行き届いた美しい街道と、遠くに見える巨大な白い城。
「見てごらん。あれが僕たちの住む王宮だよ。君の部屋は、一番日当たりの良い場所に用意させるからね」
「俺の部屋?いや、俺はただの通りすがりの……」
「通りすがりの美青年を、魔物が潜む森に一人で返すわけにはいかないだろう?それに、君のその銀髪……光に透けると、まるで奇跡を見ているようだ」
アリスターの視線が、俺の髪を愛おしそうになぞる。
その眼差しは「拾った珍しい小鳥」を慈しむような、穏やかで、けれど決して逃がさないという執着を含んでいるように見えた。
やがて、馬は大きな城門をくぐった。
整列していた兵士たちが一斉に膝を突き、頭を下げる。
「アリスター殿下、お帰りなさいませ!」
「ああ。急ぎで部屋を一つ整えてくれ。それと、テレーズに最高の温かいスープを用意するように伝えて」
アリスターは止まることなく指示を出し、馬を降りる際も、俺を抱き上げたまま着地した。
地面に足を着かせてくれる様子は微塵もない。
「殿下、そちらの方は……?」
困惑したような声が聞こえた。
見れば、眼鏡をかけた真面目そうな青年が、呆れたような、それでいて鋭い視線をこちらに向けている。
「カイル、詳しい話は後だ。今は彼を休ませるのが最優先だからね」
「……また、妙なものを拾ってこられたようで」
カイルの溜息混じりの言葉に、俺は心の中で「全くだよ」と同意した。
天使としての平穏なニート生活を夢見ていたはずなのに、どうやら俺は、とんでもなく過保護で強引な王子様に「獲物」として認識されてしまったらしい。
アリスターの腕の中で揺られながら、俺は豪華な城の天井を見上げ、これからの生活に一抹の不安――と、抗いがたい期待を感じていた。
あなたにおすすめの小説
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
また恋人に振られたので酒に呑まれていたらゴツい騎士に求婚していた件
月衣
BL
また恋人に振られた魔導省のエリート官吏アルヴィス。失恋のショックで酒に溺れた彼は勢いのまま酒場に現れた屈強な王宮騎士ガラティスに求婚してしまう。
翌朝すべての記憶を保持したまま絶望するアルヴィスだったが当のガラティスはなぜか本気だった。
「安心しろ。俺は誠実な男だ。一度決めたことは覆さない」
逃げようとするエリート魔導師と絶対に逃がさない最強騎士
貢ぎ体質な男が捕まる強制恋愛コメディのつもりです!!
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
愛を感じないのに絶対に別れたくないイケメン俳優VS釣り合わないので絶対に別れたい平凡な俺
スノウマン(ユッキー)
BL
平凡顔・ヒモ・家事能力無しの黒は、恋人であるイケメン俳優の九条迅と別れたがっている。それは周りから釣り合ってないと言われたり、お前の事を愛してない人間なんて止めておけと忠告されたからだ。だが何度黒が別れようとしても、迅は首を縦に振らない。
迅の弟である疾風は、兄は黒の事を特別扱いしてると言うが――。黒は果たして迅と別れることが出来るのか!?
最悪の婚姻から始まるただ一つの愛
統子
BL
最悪の婚姻だった。
皇太子の正室として迎えられながら、
与えられたのは祝福ではなく、冷たい部屋と拒絶だけ。
触れられることすら恐ろしく、
ただ静かに時間が過ぎるのを待つしかなかった。
けれど——
差し出された手は、思っていたものとは違っていた。
無理に触れない。
急がない。
ただ、こちらの様子を確かめるように、少しずつ距離を縮めてくる。
気づけば、隣に座ることが当たり前になり、
言葉を交わす時間が、夜の習慣になっていた。
触れられるたびに怖さは消え、
代わりに残るのは、離れがたい温もり。
これは、最悪の婚姻から始まった関係が、
やがて“ただ一人”へと変わっていく物語。
望まれなかったはずのはじまりが、
いつしか、何よりも大切なものになるまでの——
静かで、優しい、溺れるような愛の記録。