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第九話
「シオン、今日は少し城下町まで出かけてみないかい?」
翌朝、朝食を終えてまったりしていた俺に、アリスターが爽やかな笑顔で提案してきた。
正直、俺としてはこのままふかふかのソファで一日中ゴロゴロしていたい。今の俺にとって外出は高いハードルだった。
「え、今日ですか?俺はここで留守番しててもいいんですけど……」
「ダメだよ。ずっと城の中にいては息が詰まってしまうだろう?美味しいお菓子のお店もあるし、君に見せたい景色があるんだ」
アリスターは俺の控えめな拒否を、さらりと「遠慮」として受け流した。
結局、彼の「君と一緒に歩きたい」という熱のこもった眼差しに押し切られ、初めて城の外へ出ることになった。
馬車に揺られること数十分。到着した城下町は、活気に溢れていた。
石畳の両脇には色とりどりの屋根が並び、焼きたてのパンやスパイスの香りが鼻をくすぐる。行き交う人々は皆、穏やかな表情をしていて、この国の平和さが伝わってくるようだった。
「すごい……本当に賑やかですね」
「気に入ってくれたかな?さあ、あちらの市場の方へ行ってみよう」
アリスターは俺の手を自然に握ると、歩き出した。
王子の護衛としてカイルさんも少し離れた場所に控えているが、アリスター自身の放つオーラが強すぎて、誰も近寄れないような不思議な空間ができている。
だが、歩き始めてすぐに異変に気づいた。
すれ違う人々が、皆一様に足を止め、こちらを凝視しているのだ。
「……ねえ、あの方を見て。なんて綺麗な銀髪かしら」
「あんなに美しい人、今まで見たことがない。もしかして、どこかの貴族様?」
「隣にいらっしゃるのはアリスター様じゃないか?あの方が連れているということは……」
ひそひそという囁き声が、あちこちから聞こえてくる。
中には、俺の顔を覗き込もうと距離を詰めてくる若い男たちまで現れ始めた。
前世では「地味で目立たない」ことが美徳だった俺にとって、この全方位からの視線は拷問に近い。
「あ、あの、アリスター様。なんか、すごく見られてる気がするんですけど……」
「……そうだね」
アリスターの返答が、少しだけ低くなった。
彼を見ると、先ほどまでの穏やかな笑みが消え、冷ややかな、それでいて鋭い視線で周囲を牽制している。
「シオン、こっちへ」
アリスターは突然、自分の羽織っていた深い緑色のマントを広げた。
そして、驚く俺の肩を抱き寄せ、そのマントですっぽりと俺の頭から体までを包み込んだのだ。
「え、ちょっ……アリスター様!?これじゃ前が見えません!」
「いいんだ。君は僕だけを見ていればいい」
マントの中から聞こえるアリスターの声は、甘いけれど拒絶を許さない響きがあった。
視界は遮られたが、代わりにアリスターのあの清潔な香りが充満する。彼の逞しい腕が腰に回され、ぴったりと体が密着した。
「君がこんなに目立つなんて、僕の計算違いだったよ。こんな無遠慮な視線にさらすくらいなら、やっぱり城に閉じ込めておけばよかった」
独り言のように呟かれた言葉に、背筋がゾクリとする。
アリスターの独占欲が、爽やかな王子の仮面を突き破って溢れ出している。
彼に抱き寄せられた背中の羽の付け根が、その熱に反応して、トクンと跳ねた。
「あの……恥ずかしいんですけど……」
「我慢して。君は僕のものなんだから、誰にも見せたくないんだ」
結局、俺はアリスターに抱えられたまま、城下町を「見物」することになった。
隙間から見えるアリスターの横顔は、騎士のように厳格だった。
(……この人、やっぱりただの過保護じゃない)
マントの暗闇の中で、俺は自分の心臓がうるさく鳴るのを必死に抑えていた。
平穏な生活を求めていたはずなのに、俺を包むこの熱は、あまりに激しく、そして逃げ場のないものだった。
翌朝、朝食を終えてまったりしていた俺に、アリスターが爽やかな笑顔で提案してきた。
正直、俺としてはこのままふかふかのソファで一日中ゴロゴロしていたい。今の俺にとって外出は高いハードルだった。
「え、今日ですか?俺はここで留守番しててもいいんですけど……」
「ダメだよ。ずっと城の中にいては息が詰まってしまうだろう?美味しいお菓子のお店もあるし、君に見せたい景色があるんだ」
アリスターは俺の控えめな拒否を、さらりと「遠慮」として受け流した。
結局、彼の「君と一緒に歩きたい」という熱のこもった眼差しに押し切られ、初めて城の外へ出ることになった。
馬車に揺られること数十分。到着した城下町は、活気に溢れていた。
石畳の両脇には色とりどりの屋根が並び、焼きたてのパンやスパイスの香りが鼻をくすぐる。行き交う人々は皆、穏やかな表情をしていて、この国の平和さが伝わってくるようだった。
「すごい……本当に賑やかですね」
「気に入ってくれたかな?さあ、あちらの市場の方へ行ってみよう」
アリスターは俺の手を自然に握ると、歩き出した。
王子の護衛としてカイルさんも少し離れた場所に控えているが、アリスター自身の放つオーラが強すぎて、誰も近寄れないような不思議な空間ができている。
だが、歩き始めてすぐに異変に気づいた。
すれ違う人々が、皆一様に足を止め、こちらを凝視しているのだ。
「……ねえ、あの方を見て。なんて綺麗な銀髪かしら」
「あんなに美しい人、今まで見たことがない。もしかして、どこかの貴族様?」
「隣にいらっしゃるのはアリスター様じゃないか?あの方が連れているということは……」
ひそひそという囁き声が、あちこちから聞こえてくる。
中には、俺の顔を覗き込もうと距離を詰めてくる若い男たちまで現れ始めた。
前世では「地味で目立たない」ことが美徳だった俺にとって、この全方位からの視線は拷問に近い。
「あ、あの、アリスター様。なんか、すごく見られてる気がするんですけど……」
「……そうだね」
アリスターの返答が、少しだけ低くなった。
彼を見ると、先ほどまでの穏やかな笑みが消え、冷ややかな、それでいて鋭い視線で周囲を牽制している。
「シオン、こっちへ」
アリスターは突然、自分の羽織っていた深い緑色のマントを広げた。
そして、驚く俺の肩を抱き寄せ、そのマントですっぽりと俺の頭から体までを包み込んだのだ。
「え、ちょっ……アリスター様!?これじゃ前が見えません!」
「いいんだ。君は僕だけを見ていればいい」
マントの中から聞こえるアリスターの声は、甘いけれど拒絶を許さない響きがあった。
視界は遮られたが、代わりにアリスターのあの清潔な香りが充満する。彼の逞しい腕が腰に回され、ぴったりと体が密着した。
「君がこんなに目立つなんて、僕の計算違いだったよ。こんな無遠慮な視線にさらすくらいなら、やっぱり城に閉じ込めておけばよかった」
独り言のように呟かれた言葉に、背筋がゾクリとする。
アリスターの独占欲が、爽やかな王子の仮面を突き破って溢れ出している。
彼に抱き寄せられた背中の羽の付け根が、その熱に反応して、トクンと跳ねた。
「あの……恥ずかしいんですけど……」
「我慢して。君は僕のものなんだから、誰にも見せたくないんだ」
結局、俺はアリスターに抱えられたまま、城下町を「見物」することになった。
隙間から見えるアリスターの横顔は、騎士のように厳格だった。
(……この人、やっぱりただの過保護じゃない)
マントの暗闇の中で、俺は自分の心臓がうるさく鳴るのを必死に抑えていた。
平穏な生活を求めていたはずなのに、俺を包むこの熱は、あまりに激しく、そして逃げ場のないものだった。
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