12 / 24
第十二話
雨降って地固まる、なんて言葉があるけれど、あの雨の夜以来、俺とアリスターの距離は物理的にも心理的にも、さらに数センチ縮まった気がする。
朝、目が覚めると隣にアリスターがいる。そんな光景も、今では当たり前になりつつあった。
だが、そんな穏やかな生活に、小さな波風が立ったのは数日後のことだ。
「アリスター殿下、隣国の使節団が到着いたしました。……例の件で、シオン殿にお会いしたいと」
執務室に現れたカイルさんの声は、いつも以上に低く、どこか警戒を含んでいた。
アリスターの隣でテレーズさん特製のハーブティーを飲んでいた俺は、自分の名前が出てきたことに思わず肩を揺らす。
「俺に?なんでまた……」
「シオン、君の噂が広まりすぎているんだよ。森で拾われた銀髪の美青年……。その正体を確かめたいという、野次馬根性の連中さ」
アリスターはティーカップを置くと、ふっと目を細めた。
その表情はいつもの爽やかな王子様のものだったが、一瞬だけ、瞳の奥に冷たい光が宿るのを俺は見逃さなかった。
謁見の間ではなく、あえて少し格式を落とした小広場で、俺たちは隣国の使者と対面することになった。
現れたのは、煌びやかな衣装に身を包んだ、中年の男だった。彼は俺の姿を見るなり、無遠慮な視線で俺の頭から爪先までを舐めるように眺めた。
「ほう……。噂に違わぬ美しさだ。この銀髪に、吸い込まれるような瞳。なるほど、アリスター殿下が城の中に隠しておきたくなる気持ちもわかる」
男は下卑た笑みを浮かべ、俺に一歩近づこうとした。
瞬間、俺の前にアリスターが立ちはだかる。
「そこまでにしてもらおうか。彼は僕の大切な賓客だ。品定めにくるような輩に、気安く触れさせるつもりはないよ」
アリスターの声は、驚くほど静かだった。
けれど、その背中から放たれる威圧感は凄まじく、背後の俺にまでピリピリとした緊張感が伝わってくる。
「おやおや、厳しいですな。ただ、我が国の王も、この美青年に大変興味をお持ちでして。一度、親善のために我が国へお貸しいただけないかと……」
「貸す?シオンを、物のように言うんだね」
アリスターが、完璧に整った笑みを浮かべた。
でも、その目は全く笑っていない。
「断るよ。シオンの居場所はここだ。彼が望まない限り、一歩もこの城からは出さない。……いや、例え望んだとしても、僕が許さないだろうね」
アリスターの手が、背後にある俺の手を強く握りしめる。
痛みを感じるほどの力。
隣国の使者は、アリスターのあまりの気迫に毒気を抜かれたのか、「……失礼いたしました」と、脂汗を浮かべながら退いていった。
使者が去り、広場に静寂が戻る。
アリスターはゆっくりと振り返ると、俺の両肩を掴んで、食い入るように俺の顔を覗き込んだ。
「シオン、怖かったかい?」
「あ、いや……アリスター様が、ちょっと怖かったです」
正直に答えると、アリスターはハッとしたように表情を緩め、申し訳なさそうに俺を抱きしめた。
「ごめん。……君が誰かに見つめられるだけで、理性がどうにかなりそうなんだ。シオン、君は僕の隣にいてくれるよね?」
「……もちろん、ここにいますよ」
アリスターの心臓が、服越しに激しく鳴っているのがわかる。
俺を奪われまいとする、必死な愛情。
そんな独占欲も、今の俺には、どうしようもなく愛おしく感じられた。
(……この人、本当に俺のことしか見えてないんだな)
背中の羽の付け根が、熱を帯びて疼く。
アリスターの独占欲というスパイスは、俺たちの甘い生活を、より濃密なものへと変えていくようだった。
朝、目が覚めると隣にアリスターがいる。そんな光景も、今では当たり前になりつつあった。
だが、そんな穏やかな生活に、小さな波風が立ったのは数日後のことだ。
「アリスター殿下、隣国の使節団が到着いたしました。……例の件で、シオン殿にお会いしたいと」
執務室に現れたカイルさんの声は、いつも以上に低く、どこか警戒を含んでいた。
アリスターの隣でテレーズさん特製のハーブティーを飲んでいた俺は、自分の名前が出てきたことに思わず肩を揺らす。
「俺に?なんでまた……」
「シオン、君の噂が広まりすぎているんだよ。森で拾われた銀髪の美青年……。その正体を確かめたいという、野次馬根性の連中さ」
アリスターはティーカップを置くと、ふっと目を細めた。
その表情はいつもの爽やかな王子様のものだったが、一瞬だけ、瞳の奥に冷たい光が宿るのを俺は見逃さなかった。
謁見の間ではなく、あえて少し格式を落とした小広場で、俺たちは隣国の使者と対面することになった。
現れたのは、煌びやかな衣装に身を包んだ、中年の男だった。彼は俺の姿を見るなり、無遠慮な視線で俺の頭から爪先までを舐めるように眺めた。
「ほう……。噂に違わぬ美しさだ。この銀髪に、吸い込まれるような瞳。なるほど、アリスター殿下が城の中に隠しておきたくなる気持ちもわかる」
男は下卑た笑みを浮かべ、俺に一歩近づこうとした。
瞬間、俺の前にアリスターが立ちはだかる。
「そこまでにしてもらおうか。彼は僕の大切な賓客だ。品定めにくるような輩に、気安く触れさせるつもりはないよ」
アリスターの声は、驚くほど静かだった。
けれど、その背中から放たれる威圧感は凄まじく、背後の俺にまでピリピリとした緊張感が伝わってくる。
「おやおや、厳しいですな。ただ、我が国の王も、この美青年に大変興味をお持ちでして。一度、親善のために我が国へお貸しいただけないかと……」
「貸す?シオンを、物のように言うんだね」
アリスターが、完璧に整った笑みを浮かべた。
でも、その目は全く笑っていない。
「断るよ。シオンの居場所はここだ。彼が望まない限り、一歩もこの城からは出さない。……いや、例え望んだとしても、僕が許さないだろうね」
アリスターの手が、背後にある俺の手を強く握りしめる。
痛みを感じるほどの力。
隣国の使者は、アリスターのあまりの気迫に毒気を抜かれたのか、「……失礼いたしました」と、脂汗を浮かべながら退いていった。
使者が去り、広場に静寂が戻る。
アリスターはゆっくりと振り返ると、俺の両肩を掴んで、食い入るように俺の顔を覗き込んだ。
「シオン、怖かったかい?」
「あ、いや……アリスター様が、ちょっと怖かったです」
正直に答えると、アリスターはハッとしたように表情を緩め、申し訳なさそうに俺を抱きしめた。
「ごめん。……君が誰かに見つめられるだけで、理性がどうにかなりそうなんだ。シオン、君は僕の隣にいてくれるよね?」
「……もちろん、ここにいますよ」
アリスターの心臓が、服越しに激しく鳴っているのがわかる。
俺を奪われまいとする、必死な愛情。
そんな独占欲も、今の俺には、どうしようもなく愛おしく感じられた。
(……この人、本当に俺のことしか見えてないんだな)
背中の羽の付け根が、熱を帯びて疼く。
アリスターの独占欲というスパイスは、俺たちの甘い生活を、より濃密なものへと変えていくようだった。
あなたにおすすめの小説
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
愛を感じないのに絶対に別れたくないイケメン俳優VS釣り合わないので絶対に別れたい平凡な俺
スノウマン(ユッキー)
BL
平凡顔・ヒモ・家事能力無しの黒は、恋人であるイケメン俳優の九条迅と別れたがっている。それは周りから釣り合ってないと言われたり、お前の事を愛してない人間なんて止めておけと忠告されたからだ。だが何度黒が別れようとしても、迅は首を縦に振らない。
迅の弟である疾風は、兄は黒の事を特別扱いしてると言うが――。黒は果たして迅と別れることが出来るのか!?
最悪の婚姻から始まるただ一つの愛
統子
BL
最悪の婚姻だった。
皇太子の正室として迎えられながら、
与えられたのは祝福ではなく、冷たい部屋と拒絶だけ。
触れられることすら恐ろしく、
ただ静かに時間が過ぎるのを待つしかなかった。
けれど——
差し出された手は、思っていたものとは違っていた。
無理に触れない。
急がない。
ただ、こちらの様子を確かめるように、少しずつ距離を縮めてくる。
気づけば、隣に座ることが当たり前になり、
言葉を交わす時間が、夜の習慣になっていた。
触れられるたびに怖さは消え、
代わりに残るのは、離れがたい温もり。
これは、最悪の婚姻から始まった関係が、
やがて“ただ一人”へと変わっていく物語。
望まれなかったはずのはじまりが、
いつしか、何よりも大切なものになるまでの——
静かで、優しい、溺れるような愛の記録。
番になって十年、今さら君の好きが欲しい
ふき
BL
高校生にして番になって十年。
朝比奈翠は、一條要の愛情を疑ったことなどなかった。瞳も、触れ方も、独占欲も、全部が自分に向いていると知っていたからだ。
けれどある日、要から一度も「好き」と言われたことがないと気づいてしまう。
愛されている。求められている。それは分かっている。
それでも、たった一言が欲しかった。
今さらそんな言葉を欲しがるなんて、ワガママかもしれない。
一度知ってしまった足りなさは、もう無かったことにはできなくて――。
※独自オメガバース要素あり
長年仮番として務めてきましたが、王子は正式な番を娶るそうです
けふ
BL
王都を守る巨大結界は、王族の魔力によって維持されている。
第二王子アデルの傍らには、常に一人の騎士がいた。
近衛騎士レオン。
彼は長年、王子の「仮番」として特別な任務を担っている。
しかし王子は、他国の王女との正式な番契約が決まってしまった。
仮番の役目は、そこで終わるはずだった。
だが結界塔で行われる儀式の中で、
二人の関係は次第に変わり始める。
王族と騎士。
主と臣下。
越えてはならない境界を前にしても、
王子は騎士の手を取る。
「共に立て」
※オメガバースではありません
※ふんわり読んでください
※なんでも許せる方向け
※イラストはChatGPTさん
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
また恋人に振られたので酒に呑まれていたらゴツい騎士に求婚していた件
月衣
BL
また恋人に振られた魔導省のエリート官吏アルヴィス。失恋のショックで酒に溺れた彼は勢いのまま酒場に現れた屈強な王宮騎士ガラティスに求婚してしまう。
翌朝すべての記憶を保持したまま絶望するアルヴィスだったが当のガラティスはなぜか本気だった。
「安心しろ。俺は誠実な男だ。一度決めたことは覆さない」
逃げようとするエリート魔導師と絶対に逃がさない最強騎士
貢ぎ体質な男が捕まる強制恋愛コメディのつもりです!!