転生天使は平穏に眠りたい〜社畜を辞めたら美形王子の腕の中でとろとろに甘やかされる日々が始まりました〜

メープル

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第十三話

 隣国の使者が去ってからというもの、アリスターの過保護ぶりにはさらに拍車がかかっていた。
 公務の間も俺を自分の執務室に座らせておきたがるし、少しでも俺が視界から消えると、すぐにカイルさんを遣いに寄越してくる。
 
 そんなある日の夜。俺たちがいつものように主寝室で寛いでいると、アリスターが「シオン、渡したいものがあるんだ」と言って、小さな箱を取り出した。

「これ、使者が帰った後に用意させたんだ。開けてみてくれるかい?」
「俺に……ですか?」

 受け取った箱を開けると、そこには銀の台座に嵌め込まれた、一粒の美しい宝石の指輪が収まっていた。
 深く、吸い込まれるような深緑色の石。それは、灯りを受けて複雑な輝きを放っている。

「すごく綺麗だ。でも、これ、どこかで見たことがあるような……」
「気づいたかい?僕の瞳の色と同じ石を選んだんだ」

 アリスターは俺の手をそっと取ると、箱から指輪を取り出し、俺の薬指へと滑らせた。
 ひんやりとした金属の感触のあとに、アリスターの体温が伝わってくる。

「シオン。この石は、僕の代わりに君を見守る魔法の印だと思ってほしい」
「見守る……?」
「ああ。公務で僕がそばにいられない時も、これを見れば僕に見つめられていると思って。そして思い出して。君が、誰のものなのかをね」

 アリスターの指先が、指輪を嵌めたばかりの俺の指をなぞる。
 爽やかな微笑みを浮かべているけれど、その言葉には、逃げ場を塞ぐような甘く重い響きがあった。

「あの……これ、俺が持っていてもいいんですか?なんだか、すごく特別なものに見えますけど」
「特別だよ。これは、僕の伴侶になる者に渡すと決めていたものだから」

 さらりと言われた言葉の重みに、心臓が跳ねた。
 伴侶。つまり、それは一生を共に歩むという誓いだ。
 前世で社畜として使い潰された俺にとって、誰かの「特別」になるなんて、想像もしていなかった。

(……アリスターは、本気なんだな)

 彼を見つめ返すと、深い緑の瞳が俺を真っ直ぐに捉えていた。
 その熱量に当てられたように、背中の「隠した羽」の付け根が、かつてないほど激しくドクンと波打った。
 熱い。熱くて、疼いて、今にも真っ白な羽がこの場に溢れ出してしまいそうだ。

「シオン、顔が赤いよ。……嫌だったかな?」
「……嫌じゃないです。ただ、その、アリスター様の気持ちが、すごく伝わってきて……」

 俺が指輪を見つめながら呟くと、アリスターは満足そうに目を細め、俺の手の甲に優しく唇を落とした。

「よかった。これからずっと、それを身につけていて。君が僕の視線を感じてくれていると思うだけで、僕はどんな仕事も頑張れる気がするよ」

 アリスターの独占欲は、もはや隠すことすらされなくなっている。
 けれど、指輪に込められたその重すぎるほどの愛情が、今の俺にはたまらなく心地よかった。
 俺は、彼に見つめられ、愛されるこの場所から、もう一生離れたくないと本気で思い始めていた。
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