転生天使は平穏に眠りたい〜社畜を辞めたら美形王子の腕の中でとろとろに甘やかされる日々が始まりました〜

メープル

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第二十三話

 バルコニーの扉を閉めると、それまで鼓膜を震わせていた数万の民衆の叫びが、嘘のように遠ざかった。分厚い防音の石壁と、金糸の刺繍が施された重厚なカーテンが、外界の喧騒を遠くに切り離してしまう。

 静寂が戻った主寝室。俺は、背中を大きく開けた白銀の礼服のまま、まだ微かに震える指先を握りしめた。

「……本当によかったんでしょうか。あんなに堂々と、伴侶だなんて」
「ふふ、今更怖気づいたのかい?」

 アリスターの低い笑い声が耳元を掠める。彼は俺の背後から手を回し、マントを脱がせて露わになった四枚の羽を、壊れ物を扱うような手つきでそっと撫でた。
 先ほどまでの王族としての威厳はどこへやら、今の彼の瞳には、俺を射抜くような情熱と、それ以上に深い、潤んだような愛しさが混ざり合っている。

「君を公表したのは、僕の我儘だ。けれど、これでこの国の誰もが君を敬い、僕の隣にいることが正解だと刻み込まれた。……もう、隠れて怯える必要はないんだよ、シオン」

 アリスターは俺の肩口に顔を埋め、深く息を吸い込んだ。石鹸の清潔な香りと、彼自身の温かい体温が、俺の強張った体をゆっくりと解かしていく。

 彼は俺をベッドの端に座らせると、自らは床に膝をつき、俺の手を取った。それは、王子が臣下に、あるいは神に捧げる最上級の礼装だった。

「シオン。天使を地上に繋ぎ止めるには、ただの言葉だけでは足りないかもしれない。……だから、僕の命を賭けた誓約を受け取ってほしい」

 アリスターが懐から取り出したのは、深緑の石がはめ込まれた、古めかしい、けれど重厚な輝きを放つ首飾りだった。王家に代々伝わるという、魂の守護を約束する魔道具だ。

「これを君に。……君がどこへ行こうとも、僕の心は君に結びついている。もし君がこの地を離れる時は、僕の魂も連れて行ってくれ」

 その言葉は、確かに重い。けれど、これまでとは違う、自分自身の全てを俺に捧げるという、痛いほどの献身が伝わってきた。
 俺は、彼の手にある首飾りに手を重ね、ゆっくりと頷いた。

「アリスター様。俺、天使とか、幸運の先触れとか、そんな大層なものじゃないです。ただ……あなたの隣にいたいだけなんです」

 本音を口にすると、アリスターの表情が劇的に緩んだ。彼は嬉しそうに目を細め、俺の膝に顔を預ける。その姿は、まるで主人の帰りを待ちわびていた大型犬のように、甘えたな色を帯びていた。

「ああ、嬉しいな。今の言葉だけで、僕はあと百年は戦えそうだ。……シオン、羽を少しだけ広げてくれるかい?君の光で、僕を包んでほしい」

 ねだるような声に抗えず、俺は四枚の羽をゆっくりと扇状に広げた。
 室内を優しく照らす純白の光。その中で、アリスターは俺の羽の付け根に、熱い口づけを落とした。

「あ……ん……」

 不意を突かれた刺激に、背筋を甘い痺れが駆け抜ける。
 執着、独占、そして深い慈しみ。それらが混ざり合ったアリスターの愛撫は、夜が更けるまで、止むことはなかった。
 
 俺は、指先に嵌まった宝石と、首元で輝く誓いの証を見つめながら、この心地よい契約の中にある永遠の未来を、心から受け入れていた。
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