オカンな幼馴染と内気な僕

kuno1234

文字の大きさ
上 下
1 / 37
プロローグ 友達以上、恋人未満

第1話 オカンな幼馴染と僕

しおりを挟む
 僕、松島宏貴(まつしまこうき)は、男子校に通う高校2年生だ。髪が伸びるのが嫌なので、いつも髪を短く切り揃えている。体格は細めで「真面目で内気な男子高校生」といった風によく見られる。今は、学校帰りで、制服を着ている。親しい友達にはコウと呼ばれている。

 隣で固唾を飲んで見守っているのは、幼馴染の中戸真澄(なかどますみ)。ショートカットで少し茶色がかった髪、くりくりした瞳が特徴の可愛い女の子だ。同じく、学校帰りなので、セーラー服を着ている。僕たちは通っている学校が違うので、制服のデザインも違う。

 そんな僕たち二人は、学校帰りに「デート」をしていた。

【野菜の切り方で、植物の名前がついているものは、何切り?】

 今は、ちょうど、出題されたクイズに、僕が答えあぐねていたところだった。僕は普段、自分では料理をしないので、さっぱりわからない。イチョウ切りが正しそうだけど、紅葉切り、というのもあってもおかしくなさそうだ。
 考えあぐねた僕を見かねたのか

「コウ!正解はそれやって!」

 関西弁で後ろから叫ぶ真澄。

「それって言われてもわからないから……」

 僕にはからっきしだが、料理部の彼女にとっては得意ジャンルだ。

「5番!正解はイチョウ切りやよ」
「わかった」

 真澄に代わって5番の選択肢を押す。

 ぴろぴろーん。
 
 どうやら正解だったようだ。

「ほら。正解やったやろ?」
「そりゃ、真澄は得意だろうけどさ」
「つか、紅葉切りってなんやねん」
「いや、僕に言われても」

 自分の得意ジャンルに居ても立ってもいられなくなった、というところか。

「次はウチな」
「了解」

【織田信長が実行したとされる政策のうち、「正しくないもの」はどれ?】

「正しくないもの……どれやろ。南蛮貿易、楽市楽座は習うたけど」

 選択肢は政教分離、楽市楽座、南蛮貿易、撰銭令、関所の撤廃の5択だ。

 むむむ、と手をあごに当てて考え込んでいる。正解は「政教分離」なのだけど、宗教を嫌ったというイメージが信長にはあるから、ちょっと難しいか。ただ、僕から口を出すのもなので、黙って見守る。

「コウはどれやと思う?」
「政教分離。1番だね」
「ほい」

 真澄が1番の選択肢を押す。

 ぴろぴろーん。

 予想した通り正解だった。

「信長っちゅうと、宗教と政治を分けたってイメージがあるんやけどな」
「それはよくある誤解。敵対しなければ仏教勢力の活動も許したし、戦勝祈願ななんかも普通にやってるんだ」
「なるほどな」

 得意ジャンルが違うので、正解について話しあったりすることもしばしばだ。

 こんな僕たち二人は、周りからは、きっとカップルに見えているのだろうな。
 悲しいかな、彼女にはそんな気はないのだろうけど。

――

 その後も対戦格闘ゲームやUFOキャッチャー、レーシングゲームなど、色々なゲームをプレイ。現在は、マ〇ドナルドで休憩中だ。

「いやー、いい汗かいたわー」
「たいして汗かいてないよね」

 そうツッコむ。季節は春先。暑くなるのはまだ先のことだ。

 僕はコーラ、真澄はマッ〇シェイクだ。

「かえって喉かわかない?」

 水分補給には不向きな気がする。

「今まで頼んだことなかったからな」

 なるほど。

「それ、もらってええかな」
「ああ。もちろん」

 僕の飲みさしのコーラにあっさり口を付ける。間接キス。その言葉が頭をよぎる。

「美味い!コーラが一番やね」
「じゃあ、なんでマッ〇シェイク頼んだの!?」
「そういうのは、気分やから」

 軽やかに笑う彼女。

「ほい」
「ん?」
「マッ〇シェイク。ウチはコウのもろたし」
「いや、その……」

 戸惑ったのをどう取ったのか、真澄は

「何を気にしとるん?」

 不思議そうに、そう尋ねてきた。
 ええい、ままよ!
 ストローからずずーっとシェイクをすする。
 結局、残ったシェイクを全部飲んでしまった。

「……ぷはー。これでいい?」

 恥ずかしくて、僕はそう言った。

「全部飲むとは思わんかった……」

 顔が熱くなる。

――

 その後もウィンドウショッピングに付き合ったりして、気づけば夕方。

 僕の家と真澄の家は狭い道路を挟んで真向かいにあるので、途中まで同じ道だ。
 横目でちらっと彼女の方をみると、心底楽しい、といった様子だ。

「今日も楽しかったわー」
「それはなにより」

 遊びに誘ったかいがあるというものだ。

「真澄はさ」

 少し緊張しながら言葉を紡ぐ。

「なんや?」
「彼氏とか居ないの?そっちで」

 この問いを発するのは少し勇気が必要だった。

「……特におらへんなあ」
「真澄ならモテると思うんだけど」

 こんなに明るくて、親しみやすい女の子に人気がないわけがない。僕の贔屓目(ひいきめ)かもしれないけど。

「うーん。ウチはオカンやからなあ」

 そう自嘲気味につぶやく。

「オカンっていってもさ、男子受けはよかったでしょ」

 真澄とは中学から別々だけど、男女問わず親しまれていたように思う。
 男女分け隔てなく接することもあって、男子連中の受けも良かった。

「そやね。でも、ウチは皆が幸せな姿が見られれば一番よ」
「そんなものかな……」

 「オカン」というのは、昔からの真澄のあだ名だ。
 皆の世話を焼くところから、自然とそういうあだ名が付いたのだった。

 小学校の頃を思い出しても、意識している奴は多かったはずだし、真澄の言には納得がいかないのだけど。

「それより」

 少し大きな声で、真澄が言う。

「コウはどうなん?男子校のそっちの方が心配よ」

 言葉が突き刺さる。やはり、男として意識されていないのか。

「大丈夫。こっちはこっちでうまくやるよ」

 少しつらかったけど、それだけ返す。

「いつでも話してな。ウチはいつでも相談に乗るから」

 そんな優しさが少しつらかった。

 自宅の前に着いた。僕が中学になってからはいつもここでお別れだ。昔はお互いの家に遊びに行ってたのだけど、中学になってからはどこか踏み込めずにいる。

「誘ってくれて嬉しかったわ。また今度なー」

 そう笑顔で手を振る彼女。

「うん。また今度ね」

 僕も笑顔で手を振り返す。ほんとは、少しだけこの時間がつらかったけど。

――

 家に帰って、ベッドに突っ伏す。

「心配、か」

 そうひとりごちる。わかってはいたけど、『あなたを男性として意識していません』ともとれる、その言葉は少しきつい。

 真澄を異性として意識し始めたのはいつだっただろうか。
 幼い時から一緒に居た真澄を、いつしか好きになっていた。

「真澄はほんとに彼氏が居ないのかな」

 あれだけ人懐っこい性格で、容姿も良ければ、僕のひいき目はおいといても、思春期の男子どもが放っておくはずがないのだけど。

 ただ、真澄は昔から嘘をつくのが嫌いだし、今、嘘を言うとも思えない。

 ということは、真澄にその気がないということになるんだけど、一体どういうことなのだろうか。

(真澄は一体何を考えているのかな)

 そんなことを考えながら、眠りについたのだった。

――

 その夜、私は部屋で一人物思いに浸っていた。

(やっぱりコウはウチの事意識してへんのかな)

 私と、コウこと松島宏貴は、同じ小学校、同じクラスで育った幼馴染だ。故あって、中学からは別の道を歩いている。

 私が彼の事を意識し始めたのはずっと昔のこと。別の進路に進むとわかった時は、とても落胆したのを覚えている。そんな中でも、毎月のように私を遊びに誘ってくれる。もちろん、私が断るわけもなく。

 彼と過ごす一時はとても楽しいけど、家の前で別れるときはとても寂しい。

(どうすれば前みたいに一緒に居られるんやろうか)

 そんなことを考えながら、眠りにつく。
しおりを挟む

処理中です...