オカンな幼馴染と内気な僕

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第一章 恋人始めました

第14話 中戸家訪問と彼女の部屋

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 昨日のあれやこれやが終わった次の日。
 気が付いたら、ぱっちりと目が覚めていた。

「昨日はほんとめまぐるしかった……」

 そう独りごちて、起きる。時刻は朝7時頃。そろそろ真澄は来ている頃だろうか。て、なんで、真澄が来てくれるのが当然のような考えになってるんだ、僕は。そう独りツッコミをした。いや、真澄はきっと来てくれるだろうけど。
 1階に降りて、リビングのソファに座る。そういえば、昨日は色々恥ずかしいことを言った気がする。後悔はしてないけど、雰囲気に流されたというか何というか。

「あ、母さん。おはよう」
「おはよう。今日は真澄ちゃん来てないのかしら」

 そんな挨拶をする。ここのところ、ずっと朝はどこかに引っ込んでいたけど、やっぱり真澄と二人きりにするために気を効かせていていたのか。

「あ、母さん。そういえば」
「なにかしら?」
「ここのところ、朝見かけなかったのって、真澄のために?」
「そうねえ。一人息子がせっかく頑張ってるんだもの。あと、真澄ちゃんから話は聞いたわよ?おめでとう」

 そう素直に祝福してくれる。

 そのまま、なんとなくぼーっとして真澄が来るのを待つけど、まだ来る様子はない。時刻はもう朝7時半前。さっき、念のため真澄にメッセージを送ってみたけど、反応はなし。
 何かあったのだろうか。いや、さすがに真澄に何かあったら、おじさんかおばさんが何か言ってくるだろう。真澄にしては珍しい……といっても、家に再び来るようになってから1週間程度だけど。
 とりあえず、置いてあったコッペパンを牛乳で軽く流し込むと、家を出る。

 知っての通り、真澄の家は、道路を挟んで僕の家の真向かいだ。直接訪れるのは久しぶりなので、少し緊張する。

 ぴんぽーん。

 インターフォンを鳴らして少し待つと、誰かの足音が聞こえる。

「あら。宏貴(こうき)君。お久しぶり」

 そう朗らかに笑いかけるのは、真澄のお母さんだ。名前は中戸百合子(なかどゆりこ)と言う。年齢は40代前半。もう40を超えるのに、30代前半と言われればそれで通じてしまいそうな容姿だ。百合子おばさんは元々関東出身らしく、標準語だ。

「お久しぶりです。百合子おばさん。その……真澄は?」

 たぶん、真澄を通じて色々聞いているだろうけど、少し気恥ずかしい。

「どうもまだ寝てるみたいなの。良かったら起こして来てもらえるかしら」
「え……いいんですか?」

 いくら、昔からの付き合いとはいえ、一人娘をよその男が起こしに行くのをあっさりお願いするとは。よその事ながら心配になってきてしまう。

「真澄から、話は色々聞いてるからね。あの子も、きっと喜ぶでしょうよ」

 そういって、ニヤリと笑いかける。この人、楽しんでる……。

 とはいえ、せっかくの機会だ。あいつの部屋を久しぶりに拝ませてもらおう。久しぶりに中戸家に足を踏み入れ、うちと同様に、2階に上がって、真澄の部屋にたどり着く。

「真澄―。朝だよー」

 ……反応がない。

「あーさーだーよー」

 やっぱり反応がない。少し気が咎めるけど、部屋にお邪魔するか。

 扉を開けると、そこはファンシーなぬいぐるみが色々置かれた……ではなく、綺麗に整理整頓された部屋があった。向かって左側には大きめの本棚と机があり、色々な料理本らしきものが並んでいる。料理好きなこいつらしい。正面奥には、化粧台があり、鏡や小物が置かれている。朝はここで身だしなみを整えているのだろうか。そして、右側のベッドでは……真澄が安らかな寝息を立てていた。

 近づいてベッドの前に立ってみるけど、まだ夢の中のようで、何やら寝言をつぶやいている。

「んー。コウ……」

 僕の名前を呼ばれてドキっとした。僕の夢を見ているのだろうか。苺をあしらったチェック柄のパジャマを着て横向きに寝転がっている姿はなんとも愛らしくて、不覚にも胸が高鳴ってしまう。
 
 考えてみると、百合子おばさんから頼まれたという形だからいいものの、僕は好きな子の部屋に勝手に忍び込む変質者と大差ないのでは……。いやいや、今は、真澄を起こすという大義名分があるのだ。

 しかし、どうやって起こしたものか。恋人とはいえ、いきなり身体に触れるのはセクハラぽいし。枕元で大声で叫ぶのもアレだし……。色々考えた末、ほっぺたを軽くひっぱるという古典的な(?)方法を取ってみることにした。むにー。
 
「……ん。え、コ、コウ。なんでウチに!?」

 真澄が慌てて跳ね起きる。まあ、起きて、いきなり僕が側に居たらビビるよなあ。
 右往左往している真澄に、状況を説明する。

「その……。真澄が起きてこないもんだから、百合子おばさんに頼まれたんだ」
「え?かーさんが?なんで目覚まし鳴ってへんねん。ちゃんとかけたはずや。ていうか、スヌーズ機能もあったはず……」

 と、枕元の目覚まし時計を手元に持っていく。

「あれ?スヌーズごとオフになっとる。なんで……」

 いくらなんでも、スヌーズ機能ごとオフにするとは考えにくい。ふと、百合子おばさんのニヤリとした顔が思い浮かぶ。あの人、まさか……。

「ひょっとして、なんだけど……」

 耳元で先ほどのことを話す。

「……いくらかーさんといえども、娘の部屋に勝手に入るとは」

 怒りで瞳がめらめらと燃えている。

「僕はいいのか?」
「え?そ、それはよくはないんやけど。ウチを起こしに来てくれたわけやし……」

 少し目線をそらしながら、そんな可愛らしい台詞を言う真澄。
 シチュエーションがシチュエーションだったら、暴走してしまいそうだ。
 しないけど。

「そ、そうか。ありがとう」
「とにかく!かーさんに文句言わんと」

 ドタドタと階段を下りていく真澄。

 降りてみると、1階はもぬけの殻だった。夜勤の秀和(ひでかず)おじさんはともかく、さっきまで居たはずのおばさんまで居ないとは、いったい。

 ダイニングの机に、何やらメモ用紙ぽいものがある。なんとなく嫌な予感がして、手に取ってみる。

『娘の寝姿はどうだったかしら? by 百合子』

 どうやら、百合子おばさんは最初から娘をおもちゃにして遊ぶ気だったらしい。
 真澄にメモ用紙を見せる。

「……一体何考えとんねん、あいつは!」

 ぷるぷると怒りに震える真澄。
 母親をあいつ呼ばわりはどうかと思うけど、気持ちはわかる。って、時間を見ると、もう8時だ。急がないと。

「真澄。怒ってるとこ悪いけど、時間、時間」
「……!もうご飯食べてる暇もないやんか……もー」
「怒るのは後にして急ごう!」
「帰ってきたらシメたるから」

 そんな物騒な台詞とともに家を出て、自転車を準備する。

「そういえば……」
「ん?」

 揃って自転車で出発しようとする直前に、真澄が声をかけてきた。

「うちの身体、変なとこ触ったりはしとらんよね?」
「そりゃもちろん。信用できない?」
「それは信用しとるけど。夢が……」
「夢が?」

 夢がどうしたんだろう?
 僕の名前をつぶやいていたようだけど。

「……あー、もう。それは気にせんといて!出発!」
「あ、うん」

 そうして、とても慌ただしい形で1日が始まったのだった。
真澄の寝ている姿を拝めたのは、眼福……なのだろうか?
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