オカンな幼馴染と内気な僕

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第一章 恋人始めました

第21話 ゴールデンウィークの過ごし方

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 4月27日。ゴールデンウィークまであと2日という日の朝。

 僕と真澄はいつものように、二人で一緒に登校していた。僕たちは自転車で登下校をすることが多いけど、時間に余裕があるので、こうしてのんびり歩いている。
 自転車だとのんびり話すことができないけど、二人で歩いているとゆっくり話せる。それに、手をつなぐこともできるし。

「ゴールデンウィーク、どうしようか?」

 真澄にお伺いを立ててみる。先週も、なんとなくその話になったけど、また今度考えようということでお流れになったのだった。

「コウはどこ行きたい?」

 聞き返されてしまった。僕の方も特に考えていなかったので、少し答えに困る。一緒にのんびり過ごすのもいいけど、せっかくなので遠出したいとも思う。
 二人で旅行……はちょっといきなり過ぎるか。

「鎌倉とかどうかな?」

 なんとなく、こないだの半月の夜の会話を思い出しながら言う。

「鎌倉……鎌倉半月やね。ええかもね」

 真澄も同じことを思い浮かべていたようで、少し気恥ずかしくなる。

「じゃあ、鎌倉にしよう。朝から行けば、夜までに帰れるし」

 僕らの住む街からだと、ざっと電車で2時間というところだろうか。少し遠いけど、日帰りで行けない程でもない。実のところ、泊まりを提案したい気持ちもあるのだけど、気恥ずかしい。

 そう思って話したのだけど、真澄はなんだか少し考え込んでいたかと思うと、目線を逸らしてうつむいてしまう。なんだか顔も赤いけど、もしかして……。

「せ、せっかくやし、泊まりでどうや?その、日帰りやとせわしないし」

 言い訳っぽくそう付け足しながら、早口でそう言う真澄。

 最近、ようやくわかってきたのだけど、真澄は恥ずかしがる割に、僕よりも大胆なところがある。日帰りを提案したときも、真澄の方から泊まりを提案してくれないかな……という気持ちも少しあった。

「う、うん。じゃあそうしようか。でも、ホテルとかどうしよう?」

 考えてみると、僕はまだ、一人でホテルを予約したこともない。それに、真澄と二人きりで一晩を過ごす、と考えると、鼓動を抑えきれない。一線を越えた後でもこうなるなんて、人間は難しい。

 そういえば、ゴールデンウィークはホテルとかも混むって聞くけど、大丈夫だろうか?

「ホ、ホテル。せやな。考えとかんと……」

 何を想像したのか、真澄は緊張気味にそう答えてきた。
 手がなにやらそわそわしているし、きょろきょろして落ち着きもない。
 僕と同じようなことを考えているのだろうか。

 その後は、お互い妙に意識してしまい、言葉少なに登校したのだった。

 登校後。

「よう、コウ」

 いつものように挨拶をしてくる正樹。

「あ、ああ。おはよう」

 先ほどの泊まりの話をまだ考えていたせいで、少しぎこちない返事になってしまった。

「どうしたんだ。顔、赤いぞ?」

 まさか、考え事が顔に出ていたのだろうか。

「ああ、うん。ちょっと暑いなって思っただけ」
「ん?まあ、ちょっと暖かくなってきたかもな」

 ちょうど、暖かくなってきた時期だからか、うまくごまかすことができたようだ。

 午前中の授業中。普段と違い、まるで授業に身が入らない。それもそのはず。スマホでひたすら、鎌倉近くのホテルを検索しているのだから。

 そこまでお小遣いを使う訳でもないから、1泊ならケチる必要もない。問題なのは、ゴールデンウィークということもあって、既に部屋が予約でいっぱい、という場所も多いことだ。

 色々探した末、ツインルームで程々のお値段のところを3か所探した。

『朝、話したホテルだけどさ。この辺りとかどうかな?』

 ピックアップしたホテル3か所のページへのリンクを送る。いやらしいことをするためのホテルではないけども、こういうことを聞くのはなんだか、意識し過ぎている気がする。

『……』

 長考を意味する文字。LI〇Eだと、こういうときはスタンプを使うのだけど、真澄とやり取りをするときは、決まって、「こういうときは長考」という感じでやり取りすることが多い。

 僕たちは昔から仲が良かったけど、二人でお泊り、というのは小学校の頃、まだお互いを意識していない時を除けば、初めてだ。もちろん、一緒のホテルに泊まったこともない。どういう反応が返ってくることやら。

『ここが、ええかな』

 返事とともに返って来たのは、候補の中でも海に近いホテルだった。海沿いのホテルで二人きり、というのは妙にドキドキする。

『じゃあ、そこで』

 そう返した後、できるだけ素早く、ネットからホテルの予約を済ませる。ずっとスマホをいじっていると怪しまれるので、隠れながらの操作だ。

――

 そんなこんなで、ホテル探しに必死になった朝と昼休みを経て放課後。
 いつものように迎えに来た真澄と一緒に、僕は下校していた。

「あ、ホテルの予約、ありがとな」
「ああ、いえいえ。満室になってたら、遅いし」

 今思うとなんでこんなに必死だったのだろうと思うけど、ゴールデンウィーク近くということで、そのことを考えていたのも事実だ。

「そ、そやな。あんがとさん」

 そう言って、腕を組んでくる。ふにっと、腕に柔らかい感触と、花のような香りが伝わってきて、落ち着かなくなる。って、香り?

「この香りって。もしかして、香水?」

 男子校なので、周りに香水をつけてくる男は当然居ない。

「あ、気づいてくれたん?朝は反応なかったけど」

 考えてみれば、放課後になってから香水をつける必要もないわけで、朝から付けていたはずだ。気づけて良かった。

「朝は、ちょっと色々考え事をしていたし。にしても、香水か。やっぱり、僕のことを考えて?」

 真澄と遊びに行ったことは数えきれない程あるけど、香水をつけてきたことはまだない。さすがに、ずっと気づかなかった、ということはないはず。

「ウチは「普通の女の子」が彼氏と居るときにどういうことをするか、とか、あんまり考えたことなかったんや。それで、ちょっと勉強してな」

 考えてみると、真澄は、女の子ぽい服装やアクセサリー、というものをあんまり意識してこなかった気がする。だからこそ、僕みたいな男子でも気安く居られたし、色々な男子から想いを寄せられたところがあるんだろうけど。

「うん。似合ってると思うよ」
「あ、あんがとさん」

 付き合い始めて少し経つけど、ときどき、こういうなんとも言えない雰囲気になることがある。意識しているけど、直接伝えると気恥ずかしい。そんな雰囲気。

「鎌倉だけど、どう回ろうか?」

 ホテルの予約は済ませたけど、どういう風な計画で、とかはまるで考えていなかった。そもそも、二人きりでどころか、そういう皆でどこかに行く旅行の計画というものを立てたことが無い。

「うちも、そういうのは、わからんからなあ。後で部屋で相談しよか」
「そうだね」

 お互いの家はすぐ近くだから、ゆっくりと相談をすることができる。

 こういう時は、そんな距離の近さがとてもありがたい。
 そう思ったのだった。
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