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跳躍の罠
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休憩は大事だ。心も体もひと息おくことで調子がととのい、まなびが染み込む。人も作物も育つには肥やしと時間が必要なんだ。オレの家は代々農家でな、いまじゃ人を雇うほどになったが、やることの根本はかわらん。耕したら待つことだ。怠けてはいかん。あせってもいかん。
残りの駒はナイトとポーンだったな。まずナイトの動きからいこう。これも双方に二つずつ配置される駒だ。こいつは実戦ではまず起こらない盤面をつくって説明した方がわかりやすそうだ。こういうまず起こらないだろうって思う状況はオレたち人間の歴史の方ではたびたび起こっているんだからたまげるよ。事実は小説よりも何とやらだな。
白のクイーンと黒のルークは完全に敵に包囲されてしまった。こうなると遠くまで一気に行けるという特長も活かせず、キングと同じように一マスしか進めない。たとえクイーンでもだ。だからこうなっちゃあとは覚悟を決めて血路を切り開くしか道はない。
白のクイーンと黒のルークは、やられる前に自分と同じ駒を倒して相討ちに持ち込んだ。どちらもこのあと倒されてしまうが、絶望的な包囲を受けてから得た戦果としてはわるくない。チェスでは一方的にやられることは避けるのが常道だ。だから時には意を決して相討ちを仕掛けなけりゃならない。
さてこれがだ。包囲されたのがナイトなら同じ苦境から脱出が可能だ。
包囲された白と黒のナイトはここから馬の脚力を活かして……
跳躍して囲みを脱した。
ナイトはチェスの駒の中で唯一、他の駒を飛び越えるという例外的な動きをする駒だ。これはキングにもクイーンにも真似できん。
馬というのは駆けることに優れた生き物だ。しかもあいつらはその気になれば多少の障害物はひといきに飛び越える。うちの農場の馬たちはチェスのナイトほどうまく跳ねることこそできんがなかなかのもんだぞ。
あいつらはしょっちゅう首を振っている。退屈しているときも走っているときもな。また犬や猫と同じく人間と強く感情を交わすことができる。馬は臆病である一方、力強く賢い生き物だ。だからあいつらと心をかよわせた者はその背に乗って地を駆け巡るとき一つになれる。チェスのナイトはこの人馬一体を騎士として表現しているのだとオレは思う。いちばん好きな駒だ。
ところで馬の弱点は身体が大きく走力が優れているために急には止まれない事だ。これはチェスでも表現されている。ナイトは他の駒を飛び越えて動けるかわりに、他の駒のように間近にいる駒を倒すことができない。行き過ぎてしまうんだな。着地点のマスにいる駒のみ倒せる。
ナイトが相手の駒を吹っ飛ばすのは加速をつけて飛び込んだ先の標的を蹄で踏みつけるか馬上槍でなぎ倒しているのを想像するといい。とにかく動きになれるのが大変な駒だ。馬を乗りこなすのは簡単にはいかんのだから当然だ。じつに味がある。
ナイトの動きを覚える際のポイントは、今いるマスと移動する先のマスの色は必ず逆になるとこだ。いま白マスにいるナイトが跳ねれば必ず黒マスに着地する。黒マスにいるナイトが跳ねれば必ず白マスに着地する。これを自分の目と手で確かめておけば扱いに馴れるのが相当早くなるぞ。
白と黒のナイトが今の位置から動けるマスを丸で印をつけてみた。よくごらん、ナイトは八方にはねることができるんだ。この街のメインストリートと一緒だな。黒の方は盤の端に位置しているから白と比べると飛べる先が限られている状態だ。ここに他の駒を追加で配置してみてみよう。
着地地点に相手の駒がいれば盤外に吹っ飛ばして着地する。味方の駒がいれば飛んでいくことはできない。どちらの場合も間に駒がいくらいても問題にならない。
ナイトの独特の動きの覚え方には何種類かある。どう覚えてもいい。ここでは二つ示しておこう。一つは白のナイトで示した、二マス直進してそれから直角に一マス曲がったところに移動するという見方、もう一つは黒のナイトで示した、一マス進んでから斜めに一マス移動するという見方だ。
最後につけくわえると、ナイトも他の駒と同じく動くことでキングがやられてしまう場合は動けない。たとえば序盤にこういう展開になって白の手番になった時、白は緑の丸の位置のナイトを動かすことはできない。
このナイトが動くと黒のビショップがキングに向かって斜めに突っ込んでキングが死んでしまうからだ。キング以外の駒は動くことで自分たちの王が死ぬような動きをすることは許されていない。ただし自分が王の身代わりとなって死ぬことは許されている。
ナイトの動きの基本はだいたいこんなところだ。つぎはポーンだな。しかしナイトの特殊な動きで疲れただろう。続きはまた休憩してからにしよう。飲み物は好きなものを頼んで飲めばいい。無理にコーヒーを飲まんでいい。だがここのコーヒーはうまいぞ。
残りの駒はナイトとポーンだったな。まずナイトの動きからいこう。これも双方に二つずつ配置される駒だ。こいつは実戦ではまず起こらない盤面をつくって説明した方がわかりやすそうだ。こういうまず起こらないだろうって思う状況はオレたち人間の歴史の方ではたびたび起こっているんだからたまげるよ。事実は小説よりも何とやらだな。
白のクイーンと黒のルークは完全に敵に包囲されてしまった。こうなると遠くまで一気に行けるという特長も活かせず、キングと同じように一マスしか進めない。たとえクイーンでもだ。だからこうなっちゃあとは覚悟を決めて血路を切り開くしか道はない。
白のクイーンと黒のルークは、やられる前に自分と同じ駒を倒して相討ちに持ち込んだ。どちらもこのあと倒されてしまうが、絶望的な包囲を受けてから得た戦果としてはわるくない。チェスでは一方的にやられることは避けるのが常道だ。だから時には意を決して相討ちを仕掛けなけりゃならない。
さてこれがだ。包囲されたのがナイトなら同じ苦境から脱出が可能だ。
包囲された白と黒のナイトはここから馬の脚力を活かして……
跳躍して囲みを脱した。
ナイトはチェスの駒の中で唯一、他の駒を飛び越えるという例外的な動きをする駒だ。これはキングにもクイーンにも真似できん。
馬というのは駆けることに優れた生き物だ。しかもあいつらはその気になれば多少の障害物はひといきに飛び越える。うちの農場の馬たちはチェスのナイトほどうまく跳ねることこそできんがなかなかのもんだぞ。
あいつらはしょっちゅう首を振っている。退屈しているときも走っているときもな。また犬や猫と同じく人間と強く感情を交わすことができる。馬は臆病である一方、力強く賢い生き物だ。だからあいつらと心をかよわせた者はその背に乗って地を駆け巡るとき一つになれる。チェスのナイトはこの人馬一体を騎士として表現しているのだとオレは思う。いちばん好きな駒だ。
ところで馬の弱点は身体が大きく走力が優れているために急には止まれない事だ。これはチェスでも表現されている。ナイトは他の駒を飛び越えて動けるかわりに、他の駒のように間近にいる駒を倒すことができない。行き過ぎてしまうんだな。着地点のマスにいる駒のみ倒せる。
ナイトが相手の駒を吹っ飛ばすのは加速をつけて飛び込んだ先の標的を蹄で踏みつけるか馬上槍でなぎ倒しているのを想像するといい。とにかく動きになれるのが大変な駒だ。馬を乗りこなすのは簡単にはいかんのだから当然だ。じつに味がある。
ナイトの動きを覚える際のポイントは、今いるマスと移動する先のマスの色は必ず逆になるとこだ。いま白マスにいるナイトが跳ねれば必ず黒マスに着地する。黒マスにいるナイトが跳ねれば必ず白マスに着地する。これを自分の目と手で確かめておけば扱いに馴れるのが相当早くなるぞ。
白と黒のナイトが今の位置から動けるマスを丸で印をつけてみた。よくごらん、ナイトは八方にはねることができるんだ。この街のメインストリートと一緒だな。黒の方は盤の端に位置しているから白と比べると飛べる先が限られている状態だ。ここに他の駒を追加で配置してみてみよう。
着地地点に相手の駒がいれば盤外に吹っ飛ばして着地する。味方の駒がいれば飛んでいくことはできない。どちらの場合も間に駒がいくらいても問題にならない。
ナイトの独特の動きの覚え方には何種類かある。どう覚えてもいい。ここでは二つ示しておこう。一つは白のナイトで示した、二マス直進してそれから直角に一マス曲がったところに移動するという見方、もう一つは黒のナイトで示した、一マス進んでから斜めに一マス移動するという見方だ。
最後につけくわえると、ナイトも他の駒と同じく動くことでキングがやられてしまう場合は動けない。たとえば序盤にこういう展開になって白の手番になった時、白は緑の丸の位置のナイトを動かすことはできない。
このナイトが動くと黒のビショップがキングに向かって斜めに突っ込んでキングが死んでしまうからだ。キング以外の駒は動くことで自分たちの王が死ぬような動きをすることは許されていない。ただし自分が王の身代わりとなって死ぬことは許されている。
ナイトの動きの基本はだいたいこんなところだ。つぎはポーンだな。しかしナイトの特殊な動きで疲れただろう。続きはまた休憩してからにしよう。飲み物は好きなものを頼んで飲めばいい。無理にコーヒーを飲まんでいい。だがここのコーヒーはうまいぞ。
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