それでは今から可愛い悪魔の話をします

モウキンルイ

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本編

悪魔くんとつれない同居人

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*前回までのあらしじ(特に気にしなくてもOK)
 悪魔くんと吸血鬼さんが悪い吸血鬼を捕まえた!しかし場所が悪く、たくさんの人間に見られてしまう!事件のヒーローとして一躍有名人に、しかも顔バレ!いやでもオレたち人外だから目立つわけには......そうだ、別の街に住もう!



「ここ?」

「ここだな」

「ふーん、まぁ良いんじゃない?」

 そこそこ人通りのある通りストリート、そのうちの1軒のこぢんまりとした3階建てアパートメント。雰囲気としては、ポロロッカの店に付属した下宿とそう変わらないだろう。その一番上のワンルーム(風呂とトイレは別)が、オレたちの新しい住処になる。
 ここを決めてくれたのはロロ。何なら賃貸料を払っているのも彼女。だってオレたちが人外の悪者を捕まえ、それを人間に見られることになったのは、雇い主ロロの責任だしな。
 ......にしてもさぁ。

「お前、オレと同じ部屋に住むの、何も思わんの?」

 オレは......。ちらっと隣を見る。正直惹かれてやまないその姿。出会った当初は顔や姿体が好みだと思っていたが、接していくにつれなんかもう全体的にオレの中で完璧だ。だから......思春期の人間かと思うくらい意識してしまう。借りたのはワンルーム。
 __これ、同棲だよな?

「前も、同じ家にいたから。今日からも」

 一緒に住めるのは、嬉しい。__彼がその言葉を言わずに恥じらったのを、シアンは知らない。

「ふーん。まぁお前にとっちゃあんまり変わらないか」

 早く入って荷解きしよう。そう言ってオレはシルフを急かして玄関に向かった。




 オレは今、複雑な感情がバクハツしそうになっていた。

「あ......あいつ......!」

 あいつ、とはロロのことだ。部屋を選んで与えてきた魔女。そしてその感情は、部屋の隅に置かれたとある家具に対して起こっていた。

「これ、ダブルベッドじゃん......!」

 横に2人並んで寝られるやつ。もうちょっと心が純粋なら、広いね~、と喜べただろう。だけど。

「何が問題なんだ?」

 この天然は話にならない。オレ、どういう気持ちで毎晩並んで寝ればいいんだよ......。隣が尊すぎて死にたくなるわ。

「お前はそのっ、また聞くけどなんとも思わないのっ?並んで寝るのっ」

 何度もどうしたんだ、という目で見ないでほしい。お前はオレをどう思ってるんだ、と直球で聞く勇気はないし、せめてこのベッドについての感想くらいは聞かせてくれ。

「えっ......並んで。その、小さい頃は、兄と雑魚寝してたから......」

 戸惑って答えるシルフ。あぁそうか。雑魚寝。邪念に歪んでいたオレが馬鹿だった。オレが意識しすぎているのだ。ロロめあいつ、悪乗りして囃し立てやがって......などと思っていた。

「というか、俺とシアンは寝る時間が違うだろ?」

「え」

「俺は昼間寝るし......お前とは少しくらいしか寝る時間被らないと思う」

 なっ......。寝るのが1人ずつなら、オレとお前が並んで寝る事態にはならないじゃないか......!それに気づかなかったことに、かぁぁっと顔が熱くなった。

「じゃ、じゃあ今日からはオレもお前に合わせて日が出たら寝るよっ」

 微妙な意地が発動してしまい、雑魚寝宣言をしてしまうオレ。シルフの返事を待たず、ぷいと顔を背けて荷物を開けに向かう。
 __意地やけた悪魔は見ていなかったが、取り残された吸血鬼は、一瞬だけとても嬉しそうに微笑んだ。




「シアン、これ昨日ポロロッカさんが餞別にくれたんだが」

「んー、何......。!!」

 それ、どう見ても恋人用のペアになってるマグカップじゃないか......!荷解きの最中。備え付けの家具が多かったので、すでに小物類を出して並べる段になっている。

「棚に置いていいよな」

「あのちょっと、それ意味わかってる......?」

 なにしれっとしてんだ!お前、さては意図を理解していないな?

「ん?セットのマグカップだろ」

 んんん~そうだけど!

「いや、柄」

 それらはご丁寧にも並べればハート型が完成するような絵になっている。

「?」

「ああああもういいよ、うん、ありがたい!そうだなっ、ココアでも入れるか!」

 シルフは1人慌てたり顔を赤くしたりしているオレを見て不思議そうにしている。

「どうしたんだ?まだ荷解き残ってるぞ」

「ああう......」

 オレとあいつはなにも恋人として同棲しているんじゃなくて、わざわざ2部屋も借りる理由がないから、シェアハウスの体になってるだけ。そう思おうとしたんだけど、どうにも波乱が起こりそうな初日だった。
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