それでは今から可愛い悪魔の話をします

モウキンルイ

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本編

そんなことしたらお仕置きするから

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*ハロウィーン3作目
*特に前のとつながってはいない



「......嫌だ」

 少し肌寒い夜。ランタンの灯りと騒がしい人の群れの向こうに相棒の姿。壁際でマネキンのように動かず立っていた。顔は空のどこか遠いところを見ている。
 その周りは......もちろん、お祭りで賑わってるから人はいっぱいいるけど、あいつの周りにはあきらかにシルフを見て近づいてきた若い娘たちが群がっていた。
 声はここからはきこえない......でも確かにシルフに何か喋りかけてる。背が高いしイケメンだね、何してる人?モデルさんかな、一緒に写真写って......たぶんそんなとこ。
 オレちょっとだけ待ってて、と言っただけなのに......嫌だ、こんなの見たくない。
 



「......シアン。なに?これ」

 夜の喫茶店。2人がけのテーブルに向かい合い、コーヒーシェイクをすするシアンに戸惑いの声を上げた。

「なにって、好きでしょ」

 トッピングに期間限定パンプキンクリームと砕いたマロンクッキーをかけたホイップのせチョコレートドリンクを頼んで奢ってくれたのを言ってるんじゃない。これはこれで嬉しいけど。

「違う......」

 仮装の方、と俺は自分の頭を指さした。不相応にしか思えない2本の角の飾り。背中にはコウモリの翼、ズボンに尻尾まで付けられている。イメージ上の悪魔という感じの格好。
 この格好にさせた当の本人、シアンは自分も悪魔なのに同じように角と翼と尾を付けて、きょとんとしている。

「お揃いだよ?いやだった?」

「う......嫌じゃ、ないけど」

 恥ずかしいのだ。もともと変わった格好をするとかそういうのはあまり慣れていないし......。
 というかさっきから。

「す、すごく他のお客さんにこっちを見られてる気がする......」

「あー、そうだなぁ......外出て歩く?」

 すまない、さすがにあれだけ見られると恥ずかしくて......飲みかけの紙カップを持って出る。

「はー、落ち着いた。んでもこれ、美味しい。ありがとう」

「へへっ、合っててよかった」

「席取ってもらったのにすまないな」

 にしてもどうしてあんなに他の客に見られたのだろう。仮装しているのは俺たちだけではないし......

「あー、あの席ね」

 恋人席なんだ、とシアンはこともなげに言った。

「こっ......?」

 あの店だと2人がけで奥の方のテーブルはあそこしかない。照明も暗めで雰囲気が良い。よくカップルがそこに座るんだ、とシアンは、言った。じゃ、じゃああの客たちには俺とシアンが恋人同士って思われてたってこと......?俺は目を白黒させた。

「空いてるのあそこしかなくてー」

「嘘つくな。そこそこ席余ってただろ」

「はははー」

 シアンは弾むようにどんどん先に言ってしまう。逸れるから追いかけないと。

「待て......」

「......シルフ。お前やっぱりめっちゃ見られてるわ」

 ふっと戻ってきたシアンが真顔になった。確かに意識すると視線を感じる。

「やっぱ仮装させたの間違いだったかなー。逆に紛れて目立たないと思ったんだけど」

「どういう事」

「お前の顔良すぎて雑誌のモデルが現れたとか思われてんだろ」

「ええっ」

 そんな事を言われても反応に困るのだ。顔を出す機会なんて、ないようなものなのだ。ハロウィーンでない普段なら正体に気づかれないように隠しているから。

「よし。お前ナンパされたらお仕置きね」

「え」

「声掛けられて、返事とかしたらオレがお仕置きするから」

「......」

「あ、ごめんちょっとそこの店でトイレ行ってくる」

「えっ」

 1人で置いていかないで......シアンの後ろ姿を虚しく見送りながら、刺さる視線に顔を背けた。




 ......嫌だ。
 トイレから戻るなり、嫌な光景が入ってきた。シルフが見られまくってるのが面白くて、冗談のつもりだったのに。本当に、あいつの容姿に惹かれてやってきたやつがあんなにいっぱい。

 オレはダッ......と走っていって娘たちの群れを押し除けると、シルフの腕をつかんだ。相棒は気づいてはっとする。

「いくよっ」

 人の輪から転がり出て、シルフはほっとしたようだ。

「ありがと。ちょっと困ってた」

 なおも周りの娘たちはこっちを見ている。ふん、写真撮れなくて残念だったな。オレはシルフに向き合って背伸び。ほんと背が高くて困る。
 ぐっ......と距離が縮まって、縮まって、やっと、唇が届いた。

「!?」

 シルフだけじゃなくて、周りの人たちも驚いたと思う。でもなんだかもやもやしたから。人間にシルフを取られそうな気がして。
 娘たち以外の人たちもざわざわし始めたから、口を離した。シルフは若干ぼーっとした顔をしている。

「ふん。いくよ」

 後ろではさっきの娘たちが、こんなトコで大胆だなあ、とか、あの人格好良かったけどホモかぁ、とか、でもそれもいい......とか言ってるけど無視無視。腕を取ったまま早足で歩いていく。
 でも歩くうちちょっときまり悪くなって、

「こっ......これお仕置きじゃないから」

 ちら、と横を見た。あ、れ。
 シルフったら、すごく顔を赤くしてる。ほとんど消えそうな声で呟いた。

「今の禁止......。したらお仕置きって言えばよかった」

 そう言う割には満更でもなさそう。繋いだ手を離さないまま、2人で祭りの夜を歩いていった。
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