それでは今から可愛い悪魔の話をします

モウキンルイ

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本編

自覚がないのは困ります

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*どっちも自覚がない




 「秋のおすすめグルメ」「◯◯町の10月デートスポット」
 長椅子に寝転がって、夕日の長く射しこんでくる光を遮るように雑誌を掲げる。目に映る文字列は、全面に秋をアピールしている。グルメはまぁ良いけど、その次のは俺には関係ない、と思う。
 もう外には木枯らしが吹く季節だ。シアンなんかは毎日寒い寒いと言っている。くっついた方が暖かいと言ってぐいぐい来る。シアンとの距離が近くなるのもこの時期かもしれない。もともと体温の低い自分にはいまいち気候がぴんとこないな。
 そんなことをぼんやり思っていると、当の寒がりがやって来た。

「シルフ~」

 どさっと身体に覆い被さる急な襲撃。やっぱりくっついて来る。全体重俺に預けに来てるから、さすがに重い。

「おい、くっつきすぎ」

「なんでよ~。いいデショ、寒いし」

「んー」

「それよりシルフ、これ見てよ」

「なんだ」

 ぱっと起き上がって手に持ったものを見せる。シアンの手には冊子が握られていた。中にはカラーの動物ばかり写した写真。カメラなんて趣味あったのかと聞くと、いま売られている写真集だという。

「ミュゲが貸してくれた。趣味じゃないって言ったんだけどさ、これが可愛くて」

 ミュゲとは俺たちと同じように日頃人外を相手にしてるやつ__彼自身も妖精族だとか。リナリアというこちらもエルフの青年と暮らしている。
 シアンは目尻をいつもより下げてにへへと笑っている。そんなにその写真集が気に入ったのか。急な動物ブームが始まったシアンが、目の前にページを突き出す。

「これとか、すごいモフモフ、触ってみたくない?」

 綿毛のかたまりのような、これは鳥の雛だろうか?俺には種類とかは分からない。たしかに身を寄せ合って、つぶらな瞳でこっちを向いているカメラ目線は癒される。

「これとか、あとこっちも!」

 子供のように目を輝かせて、次々とページをめくって見せてくれるシアン。俺は気づくと、見せてくれている写真の方ではなくて、シアンのことを見ていた。
 だって、熱中して輝かせた瞳があまりにもきれいだったから......。と、シアンが気付いて、唇を尖らせた。

「なんだよもー、見てくれないのな」

「あ............いや」

 今のふてくされた顔も......。写真よりこっちを見てしまうのは、仕方ないじゃないか。俺がなにも言わないのを見ると、シアンはごろんと脱力した。再び全体重がかかる。

「シルフ、オレちょっとねるから」

「え」

 とは言ったものの、なんだかこのまま一緒に眠ってもいい気がしてきた。驚いたことにさっきまで元気だったこいつはもう寝落ちている。子供のようにあったかい。それにベランダに干した布団のようにいい匂い。何か食べたいものがないか、起きたら聞いてみよう。それまで、おやすみ......。








*余談
*最初に悪魔くんが見せてきたモフモフは、エゾフクロウの雛のつもりです。気になった方は検索してみてください。めちゃくちゃかわいいです
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