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昔の話 (※はR-18)
誘拐 #1
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*
「やめてよ兄上......っ!」
飛び散る真っ赤な血。同じ色のシアンの髪に、ぽたぽたと降りかかる。
「やだぁぁぁああああ!!!」
悲痛な叫び声が、壁にキーンと反響して溶けていき......あとには、小さく嗚咽をもらす声だけが残った。
*
ある日。シアンは部屋で、外出着に着替えていた。鏡の前で、襟を整え、吊りベルトをして、寝癖のついた髪を梳かす。
「これでいいのかなぁ」
コートを着ると、背中の翼はすっぽり覆われた。翼は小さいとはいえ、背中がちょっと膨らんでいる。フードが付いているから、ごまかせるだろうか。
今日は無断での外出ではない。兄がシアンを連れて外に行くことになっているのだ。街にあるシアンの屋敷御用達の服飾店に、服を仕立ててもらうため、シアン自身の身体のサイズを採寸しなくてはならないのだ。
「シアン、できたか」
「はっ......はい、兄上。今行きます!」
シアンはぱたぱたと走って兄の元へと向かう。走った動きでコートの肩がずり落ち、ちょっと翼が見えそうになっていた。
兄のいつもと違う姿に、シアンは首を傾げた。縦に裂けているはずの瞳孔も、尖った耳も牙も見当たらない。代わりに、人間みたいな瞳と耳がついている。
「お前は魔力が少ないからな」
シアンの頭に手が伸ばされる。殴られる......?一瞬びくっとして目をつぶるが、そんなことはなかった。
「......これでいい。翼は消せないから、コートはちゃんと着ておけ」
耳を触ると、尖ったカドが取れている...なんてことはなかった。目は分からないけど......自身の身体が変化したようには感じないが、見かけ上は人間らしくなっているのかもしれない。
*
「はい、それじゃ背中向けて、腕をまっすぐ伸ばして」
服飾店にて。シアンは大人たちに囲まれて、緊張していた。背や腰や脚や......色々なところを測られて。この店は屋敷の御用達なだけあってシアンの翼を見ても驚かれることはなく、兄たちが人間ではないということも承知の上のようだ。
しかし......シアンの身体の部位を一箇所測るごとに、店員は首を傾げるのだ。
「シアンくん......前とちっとも変わらないですね。男の子で、育ち盛りの年なのに......」
うっ......ちょっと気にしてる事を。前に来たのは1年くらい前の筈で、しかもシアンはもうすぐ9歳になろうとしている。それなのに......身長は、6歳くらいの時から少ししか伸びていない。ちょうど兄たちから、魔力供給をされ始めた、その頃から。
兄の方もそれに思い至ってぎくりとしたようで、店員の一言に曖昧に相槌を打っている。
「まぁ、小さいのも良いことよ。翼が映えるし、可愛い服がたくさん着られますからね」
優しげな笑顔の店員の手が、真っ赤な髪のシアンの頭を撫でる。小さな悪魔はまたぎこちなく首をすくめながら微笑む。シアンの緊張を表すように、翼がふわふわと揺れた。
*
その様子を......シアンたちが店の奥で採寸している様子を、窓の外から盗み見ている人影があった。影は2つ......こそこそと動きはぎこちなく、なにかを企んでいるように見える。
「あれにしやすか?」
「ああ。あの翼......売れば絶対に高く売れる。まだ小さいし、隙を見て動こう」
「了解」
彼らの話し声は誰にも気づかれていない。シアンの兄にも、店員にも......
ふと、視線か何かの気配を感じたらしいシアンが振り向いた。窓の外の通りが見える。誰もいない......
気のせいか、とすぐに窓に背を向けた。
「やめてよ兄上......っ!」
飛び散る真っ赤な血。同じ色のシアンの髪に、ぽたぽたと降りかかる。
「やだぁぁぁああああ!!!」
悲痛な叫び声が、壁にキーンと反響して溶けていき......あとには、小さく嗚咽をもらす声だけが残った。
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ある日。シアンは部屋で、外出着に着替えていた。鏡の前で、襟を整え、吊りベルトをして、寝癖のついた髪を梳かす。
「これでいいのかなぁ」
コートを着ると、背中の翼はすっぽり覆われた。翼は小さいとはいえ、背中がちょっと膨らんでいる。フードが付いているから、ごまかせるだろうか。
今日は無断での外出ではない。兄がシアンを連れて外に行くことになっているのだ。街にあるシアンの屋敷御用達の服飾店に、服を仕立ててもらうため、シアン自身の身体のサイズを採寸しなくてはならないのだ。
「シアン、できたか」
「はっ......はい、兄上。今行きます!」
シアンはぱたぱたと走って兄の元へと向かう。走った動きでコートの肩がずり落ち、ちょっと翼が見えそうになっていた。
兄のいつもと違う姿に、シアンは首を傾げた。縦に裂けているはずの瞳孔も、尖った耳も牙も見当たらない。代わりに、人間みたいな瞳と耳がついている。
「お前は魔力が少ないからな」
シアンの頭に手が伸ばされる。殴られる......?一瞬びくっとして目をつぶるが、そんなことはなかった。
「......これでいい。翼は消せないから、コートはちゃんと着ておけ」
耳を触ると、尖ったカドが取れている...なんてことはなかった。目は分からないけど......自身の身体が変化したようには感じないが、見かけ上は人間らしくなっているのかもしれない。
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「はい、それじゃ背中向けて、腕をまっすぐ伸ばして」
服飾店にて。シアンは大人たちに囲まれて、緊張していた。背や腰や脚や......色々なところを測られて。この店は屋敷の御用達なだけあってシアンの翼を見ても驚かれることはなく、兄たちが人間ではないということも承知の上のようだ。
しかし......シアンの身体の部位を一箇所測るごとに、店員は首を傾げるのだ。
「シアンくん......前とちっとも変わらないですね。男の子で、育ち盛りの年なのに......」
うっ......ちょっと気にしてる事を。前に来たのは1年くらい前の筈で、しかもシアンはもうすぐ9歳になろうとしている。それなのに......身長は、6歳くらいの時から少ししか伸びていない。ちょうど兄たちから、魔力供給をされ始めた、その頃から。
兄の方もそれに思い至ってぎくりとしたようで、店員の一言に曖昧に相槌を打っている。
「まぁ、小さいのも良いことよ。翼が映えるし、可愛い服がたくさん着られますからね」
優しげな笑顔の店員の手が、真っ赤な髪のシアンの頭を撫でる。小さな悪魔はまたぎこちなく首をすくめながら微笑む。シアンの緊張を表すように、翼がふわふわと揺れた。
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その様子を......シアンたちが店の奥で採寸している様子を、窓の外から盗み見ている人影があった。影は2つ......こそこそと動きはぎこちなく、なにかを企んでいるように見える。
「あれにしやすか?」
「ああ。あの翼......売れば絶対に高く売れる。まだ小さいし、隙を見て動こう」
「了解」
彼らの話し声は誰にも気づかれていない。シアンの兄にも、店員にも......
ふと、視線か何かの気配を感じたらしいシアンが振り向いた。窓の外の通りが見える。誰もいない......
気のせいか、とすぐに窓に背を向けた。
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