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昔の話 (※はR-18)
誘拐 #3
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「これでも食べてな。嫌いじゃないと良いんだが」
つぶっていた目を開けると、男の手のひらが差し出され、その上には包み紙にくるまったお菓子があった。
「え...?」
「私たちが好きな食べ物さ。チョコレートボンボン。子供にはちと酒臭いかねえ」
......殴られるんじゃなかったのか。シアンは目を丸くして男の顔を見た。表情は仏頂面で、愛想のかけらもない。...さっきは転んだシアンを見て笑ってたはずなのに。実は不器用なのかもしれない。だが転ばせてしまった申し訳なさか、子供を怖がらせたことへの謝罪か、そういうものを感じさせる。
「......オレを、殴るんじゃなかったの?」
まだ警戒しているシアンに、男はナハハと笑った。
「そんなことして私たちに何の得があるかね。大切な身体を傷つけちゃいかんよ」
「ちょっと兄貴、商品にそこまで教えなくても......」
今まで黙っていた弟分が口を挟む。慌てる様子に、シアンの顔がまた曇る。
「大切な............商品?」
2人の男はハッとして固まる。兄貴分の方がぎろりと相方を睨み、黙らせる。そのちょっと冷たい表情に、やっぱりこの人は悪い人なのかも、とさらにシアンの顔が暗くなる。......と、
「商品。......まぁそうなんだ。私たちはただの誘拐犯だから」
背中の翼が不安に下がる。
「私たちは金がなくて。君をお金持ちの家に渡す代わりに、金を受け取っているのさ」
「兄貴ぃ...」
これ以上言っては。そういう目だ。
「いいんだ。......君を欲しがる好事家はたくさんいる。その方たちに渡すのに、傷つけてはいけないんだ」
「お金持ちの、ペット?」
泣きそうな目でシアンは言った。しかし男はいやいやと首を振って続ける。
「私たちは、家畜同然の扱いをするような客には渡さんよ。然るべき養育をしてくれるところに渡すさ」
「そっか......」
本当におそるおそる、手を伸ばして、男の手の上のお菓子を取った。
「......そういやさっき君が言ってた、兄上に...ってのは何だったんだよ?」
弟分が自分の分のチョコレートボンボンの包みを剥がしながら聞いた。さっきは喋る相方を止めようとしていたが、気になることについては躊躇がないらしい。
「......」
「言いたくないか」
「あの場所から離れたら、逃げたってことになるから......」
「お仕置きされるのか?」
シアンはこっくりと頷いた。さっき転んだときに打った膝をさすりつつ、その場に三角座りになった。シアン自身も不思議なほど落ち着いていて、なぜか逃げることも諦めている。弟分が声を上げた。
「お仕置きも何も、こんなチビにどんなことするってんだよ」
「チビじゃない。もうすぐ9歳」
「9!?5つくらいだと思ったぜ」
シアンは考えた。お金で売られるんだとしても、兄たちの側を離れられるんだったら。毎週ああいう事をされるのも終わり。もしかしたらとても大切に育てて貰えるかも。それなら、このまま売られても良いのではないかと。
この2人の男たちも、誘拐をするほど残忍なようでいて、シアンが嫌がることをしない。人間であるはずなのにシアンのことを奇異な物を見る目でみることをしない。さっきから......捕まったときからシアンがかたくなに脱ごうとしないコートの下の翼を、見せてくれと迫るような態度もない。
「おじさんたち、すき」
気づくと自然に、その言葉が出ていた。ついさっき商品だと呼ばれたことには変わりないのに。
「おいおい、そう言って金持ちの家行ってそいつのこと信用するなよ?......それからお前の兄もだ」
「その前におれたちだけどな、あっはっは!」
「私たちは根っからの悪人さ。信用するならきちんと考えてからにしたほうがいい」
よく笑う、甘いものが好きな、愉快な悪人たち。こっちの方がいいような気がした。
「とりあえずババ抜きでもするか?こいつ、2人ゲームじゃちっとも私に勝てないんだ」
兄貴分がトランプの広げられた作業台を指さす。シアンはぱっと顔を明るくして、大きく頷いた。
*
「......分かったか?」
「...ああ。この辺りからあっち方向に向かった筈だ。シアンの気配がずっと続いてる」
「よし。容赦はするな」
「言われなくても」
つぶっていた目を開けると、男の手のひらが差し出され、その上には包み紙にくるまったお菓子があった。
「え...?」
「私たちが好きな食べ物さ。チョコレートボンボン。子供にはちと酒臭いかねえ」
......殴られるんじゃなかったのか。シアンは目を丸くして男の顔を見た。表情は仏頂面で、愛想のかけらもない。...さっきは転んだシアンを見て笑ってたはずなのに。実は不器用なのかもしれない。だが転ばせてしまった申し訳なさか、子供を怖がらせたことへの謝罪か、そういうものを感じさせる。
「......オレを、殴るんじゃなかったの?」
まだ警戒しているシアンに、男はナハハと笑った。
「そんなことして私たちに何の得があるかね。大切な身体を傷つけちゃいかんよ」
「ちょっと兄貴、商品にそこまで教えなくても......」
今まで黙っていた弟分が口を挟む。慌てる様子に、シアンの顔がまた曇る。
「大切な............商品?」
2人の男はハッとして固まる。兄貴分の方がぎろりと相方を睨み、黙らせる。そのちょっと冷たい表情に、やっぱりこの人は悪い人なのかも、とさらにシアンの顔が暗くなる。......と、
「商品。......まぁそうなんだ。私たちはただの誘拐犯だから」
背中の翼が不安に下がる。
「私たちは金がなくて。君をお金持ちの家に渡す代わりに、金を受け取っているのさ」
「兄貴ぃ...」
これ以上言っては。そういう目だ。
「いいんだ。......君を欲しがる好事家はたくさんいる。その方たちに渡すのに、傷つけてはいけないんだ」
「お金持ちの、ペット?」
泣きそうな目でシアンは言った。しかし男はいやいやと首を振って続ける。
「私たちは、家畜同然の扱いをするような客には渡さんよ。然るべき養育をしてくれるところに渡すさ」
「そっか......」
本当におそるおそる、手を伸ばして、男の手の上のお菓子を取った。
「......そういやさっき君が言ってた、兄上に...ってのは何だったんだよ?」
弟分が自分の分のチョコレートボンボンの包みを剥がしながら聞いた。さっきは喋る相方を止めようとしていたが、気になることについては躊躇がないらしい。
「......」
「言いたくないか」
「あの場所から離れたら、逃げたってことになるから......」
「お仕置きされるのか?」
シアンはこっくりと頷いた。さっき転んだときに打った膝をさすりつつ、その場に三角座りになった。シアン自身も不思議なほど落ち着いていて、なぜか逃げることも諦めている。弟分が声を上げた。
「お仕置きも何も、こんなチビにどんなことするってんだよ」
「チビじゃない。もうすぐ9歳」
「9!?5つくらいだと思ったぜ」
シアンは考えた。お金で売られるんだとしても、兄たちの側を離れられるんだったら。毎週ああいう事をされるのも終わり。もしかしたらとても大切に育てて貰えるかも。それなら、このまま売られても良いのではないかと。
この2人の男たちも、誘拐をするほど残忍なようでいて、シアンが嫌がることをしない。人間であるはずなのにシアンのことを奇異な物を見る目でみることをしない。さっきから......捕まったときからシアンがかたくなに脱ごうとしないコートの下の翼を、見せてくれと迫るような態度もない。
「おじさんたち、すき」
気づくと自然に、その言葉が出ていた。ついさっき商品だと呼ばれたことには変わりないのに。
「おいおい、そう言って金持ちの家行ってそいつのこと信用するなよ?......それからお前の兄もだ」
「その前におれたちだけどな、あっはっは!」
「私たちは根っからの悪人さ。信用するならきちんと考えてからにしたほうがいい」
よく笑う、甘いものが好きな、愉快な悪人たち。こっちの方がいいような気がした。
「とりあえずババ抜きでもするか?こいつ、2人ゲームじゃちっとも私に勝てないんだ」
兄貴分がトランプの広げられた作業台を指さす。シアンはぱっと顔を明るくして、大きく頷いた。
*
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「よし。容赦はするな」
「言われなくても」
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