それでは今から可愛い悪魔の話をします

モウキンルイ

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本編

毒と薬

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「シルフ、最近悪夢でも見るの?」

「......いや」

 珍しく目を逸らしたシルフはなんだかいつになく儚くて、このまま消えてしまいそうだった。




「はい、じゃあこれ3日分。......でも、良いんですか?この薬を飲んでしまうと、他から魔力を得る必要がなくなって......」

 他から......ずいぶん濁してるけど、シルフの唾液にはたくさん魔力が含まれてるから、オレはそれをもらってる。血を飲ませて......キスをして。

「いいの。だってそんな毎日毎日、あいつに血をあげたりなんてしたら、オレ血がなくなって干からびちゃうよ」

「......そんなことはないと思いますが」

 まあ確かにそう頻繁では慢性的に貧血になりますね、なんてジェシカは言った。
 小瓶に入った透明な液。3日分の薬。3日分。3日おきにシルフに血を飲んでもらって、その間の日はこれを飲む。魔力が回復するんだってさ。すごいね。シルフの唾に含まれてるのより、ずっと量は少ないんだろうけど。それでも、ないよりはマシ。
 なんだか昔より、魔力が減るペースが早くなっているんだ。理由はとりあえず......魔力をたくさん使う任務に出ることが増えたから、そう思うようにしてる。

「試しに飲んでみてもいい?」

「いいですよ。あんまり魔力が減っていないのなら、もったいないと思いますけど」

「ん、いいよ」

 お金の心配はそこまでしてない。
 オレはぐいっと一気に飲むつもりで、小瓶を傾けた。ずっと昔にこの動作を何度も繰り返した気がするけど、これはただただものすごく苦いだけだ。舌先に付いただけなのに、すごくビリビリする。

 パシンッ!

__ガシャーン!

 え?瓶は手から消えていて、床で粉々になっていた。まだほとんど残っていた液体がじわじわと床の板材に染み込んでいく。遅れて、今のが誰の手によってはたき落とされたのか、気づいた。ジェシカがぎょっとして見ている。急に診療所に入ってきたのは、シルフだった。

「ど......どうしたの?」

 シルフは顔を真っ青にして、見たことないくらい表情を凍りつかせていた。怯えている、そう思った。

「大丈夫?シル......」

 瓶のかけらとこぼれた薬を避けて、歩いてきたシルフがオレの頬を手で包む。具合を確認するように。オレが生きているか、確かめるように。

「ごめん。いきなり入ってきて。瓶割って」

「え......ううん。それより、お前の方こそ平気じゃないじゃん」

「ちょっとどうかしてた......シアン、すまん今だけは」

「いいよ」

 突然のことだけど、珍しくオレに頼ろうとしてくれたシルフを抱きしめる。シルフが落ち着くように、ちょっと高い位置にある頭を撫でる。よしよし、オレの腕に抱かれてていいよ。

「............あの」

 ジェシカがじっとりとこちらを見ていた。オレたちと薬__無惨にも床に散らばっている__を交互に見て、明らかにちょっと......怒っている。

「ごめんジェシカ!あああとでまた来る!」

 オレはシルフを抱えて診療所を飛び出した。




「俺は最後の......人間最後のときのことをあんまり憶えてない。だけど、今......」

 さっきの瓶を見て、身体が反応したのだという。

「わからない、どうして瓶なのか。だが」

「いいよ、嫌なら話さなくても」

「兄やスカーレットには、毒で死んだと聞かされた。そういう瓶に入っていたのかもしれない」

 その表情はいつになく弱々しかった。シルフは......オレがこの薬を飲もうとした途端に反応したが、もしかして......自分で、毒薬を飲んだのだろうか。自殺するようには思えない、と本人がいる目の前で思うのは滑稽なことだが、どうしてもそう思う。
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