指先の小説

あああい

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元旦

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 彩美がカーテンを開け朝日を部屋に入れる。
 眩しい。
 「直人、初日の出にはちょっと遅いけど何か祈りなよ。」
 彩美は手を合わせて何か呟いている。
 元日だからといって昨日と今日の朝日に違いなど無い。世の中の何もかもが同じだ。ただ人間が勝手に線引きしただけの事で意識のもんだいだ。直人は彩美の仕草に滑稽とまでは言わないまでも共感は出来なかった。
 彩美と直人は大学の三年生で直人のアパートに転がり込んで来てから一年と三ヶ月になる。
二回目の正月を迎えたのだが前回もこんなだったかと直人は記憶を探っても何も出て来ない。
それよりも彩美は昨日と違うのだろうか。元旦は一つの節目ではあるがそれによって何かが変わるとは直人は微塵も思っていない。
 直人は来年の今日は一人で迎えるだろうと漠然と思いながら狭い部屋を見渡した。
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