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138、獣人にとって尻尾はウイークポイントだそうです
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必死で立ち直っていると、クラッシュが新しい樽の蛇口からカップに酒を注いだ。
「クラッシュ、飲みすぎ注意」
「まだ二杯目だよ。大丈夫。それよりジャル・ガーさん、セイジさんのことなんですけど」
クラッシュはさらにセイジさんのことを追求する気満々みたいだった。
そうだよな。あれだけ仲が良くて、まるで家族みたいな関係だもんな。心配だよな。
「どうしてあの人は歳をとらないんですか? そのことによって身体に弊害は出ないんでしょうか」
『本人には訊かないのか?』
「自分が賢者だってことを隠してる人に訊けると思うんですか? それにあの人は、自分の苦痛は絶対に口に出さない人です」
『まあ、そんなやつだよな。でもよ、本人から直接じゃなくて俺からそういう大事なことを訊いてハーフエルフの兄ちゃんは平気なのか?』
「平気っていうか……ただ、心配なだけです。母にとっても俺にとっても、俺の育ての親たちにとってもとても大事な人なんです。少しでも力になりたくて」
目を伏せたクラッシュに、ジャル・ガーさんは少しの間視線を向けていたが、ふー、と息を吐くと『あー……』と天を仰いだ。
何かを考えているらしいジャル・ガーさんは、しばらく天を仰いだまま唸っていた。
『今の姿を見てねえから何とも言えねえが、昔俺が賢者に助言したことをほんとにしたとしたら、多分力を手に入れた代償で姿がそのままなんだろうと思う』
「助言……?」
『あいつは女を助けたくて、満身創痍の状態でここに来たんだ。ほぼ死にかけでな。エルフの仲間に助言を貰ったとかで』
「仲間のエルフ……もしかして、母さん……?」
『そいつは俺はわからねえが、昔は俺ら獣人は世界の知恵を司る、とか言われてたからなぁ。まあ僻地に引っ越さにゃならなくなったのはちょいと揉めたからなんだが。あ、エルフたちは今も懇意にしてるぞ? まあ、エルフも人族の地を去った種族だからアレだけどな』
一旦言葉を止めると、ジャル・ガーさんはもう一樽を拳の一撃で開けた。
それをガッと掴んでまた美味しそうに呷った。
そして、また酒を頭から振りかけた。
『ま、要するにその方法を知らないかと。俺は知ってたから教えた。だが、知ってはいるが力を授けることは出来なかったんだ。ただし、人にない力を与えることの出来るやつを知ってたから、そいつを教えただけだ。その後あいつはここに来てねえから、よくわからねえな。俺の目端が利くのは、ここの祭壇の間くらいなもんなんだ。わりいな、はっきりしたことを言えなくてよ』
申し訳なさそうに眉間に皺を寄せるジャル・ガーさんに、クラッシュが「いえ、ありがとうございました」と頭を下げた。腑に落ちない顔をしてるのはきっと、セイジさんの現状がやっぱりわからないからなんだろうな。身体は大丈夫なのかとか、きっと本人に訊いても「大丈夫だって」の一言で終わりになるだろうし。
俺は手を伸ばして、クラッシュの頭を撫でた。
撫でるなよ、と文句を言われるかと思っていたけど、その予想は覆され、クラッシュは「マック」と抱き着いてきた。
うん、やっぱりクラッシュは今酔っ払ってるよ。酒、弱かったんだ。クラッシュの背中をポンポンしながら、俺はそっとクラッシュの手からカップを取り上げた。
俺たちの姿を微笑ましそうに見ていたジャル・ガーさんは、樽を手に酒をグビっと飲んだ。
口の脇から零れる酒で、足元の石化が解けていく。あれはどういう原理なんだろう。
『っぷはぁ、うめえなあ』
至福の表情で口元の酒を拭う。乾き始めて石化しそうになっていた腕が、それでまた元のモフ毛に戻る。
「その石の身体って、呪いか何かなんですか?」
その変化が気になってそう問いかけると、ジャル・ガーさんは『ん?』と自分の身体を見下ろした。
『呪いとはちょっと違うんだけどな、まあ似たようなもんか。石化する間はな、意識はあるしここら辺は見えるんだが、歳を重ねることがなくなって老いて朽ち果てずに見張りを続けることが出来るんだ』
「石部分に触ると呪われるっていうのとはまた別の物なんですか?」
『それは、この石化から派生する魔力零れみたいなもんだな。ただ、人族には悪影響しか出ない方向のだから呪いになるんだ。エルフが触っても獣人が触っても呪われねえぞ』
あっけらかんと言われたけど、昔、獣人に対して人族がどれだけひどい扱いをしたのか、それだけでなんか想像できる気がする。
「じゃあ、ジャル・ガーさんに触って呪われた人たちも、酒を掛けると呪いは解けるんですか?」
『普通の酒じゃ無理だが、酒にひと手間掛けりゃ呪いは解けるぞ。っつうか、呪いを解く物普通にあるだろ?』
「いえ、教会に行かないと呪いは解けないらしいです。俺はまだ呪われたことないんで何とも言えないんですけど。でも呪いを解くアイテムを作ってみたくて」
『俺らがまだ人族と暮らしてたときは、隣の家の親父とかも普通に呪いを解いていたけどな。今は呪い自体も珍しいのか? 前は触っただけでやべえ物とか色々巷に溢れてたんだが。……ああ、アレか。強欲王が全部持ってっちまったのか』
うわ、また知らないワードが出てきた。強欲王って。
……でも、あれ。
そんな風に呼ばれそうな人物の話、読んだことがある気がする。
「そうだ、初代魔王……」
クラッシュと古代魔道語を勉強してる時に本に書いてあった話だ。
昔は魔物の大陸も人が住んでいたって。じゃあ、そこでジャル・ガーさんも普通の生活をしていたってことか。隣の親父とかって、すごくフレンドリーな村とかそういうのしか想像できない。
『まあ、それは終わったことよ。呪いだよな。俺のもそうだし、多分他の呪いも似たようなもんだな。普通に簡単に呪いは解けるはずだぜ。酒と、祈りをささげた水と、状態異常を治すやつだったかな。俺らはそういうもんいらなかったから忘れた』
う、すごいヒントを貰ってしまった。
しかも三種類しか使わないって、もしかしてほんとに呪いを解くのって簡単なのかな。
あ、でも教会でその薬を作ってたら、既存のレシピでアウトか。
どうしよう。
一回呪われて教会に行ってみたい。
俺はキュアポーションを取り出すと、それをクラッシュに渡した。
酔いが治るかはわからないけど、あれも一応状態異常だしな。
クラッシュは「これもお酒? ありがとう」と受け取って、それを呷った。違うから。酒じゃないから。
心の中で突っ込んでいると、キュアポーションを飲み終えたクラッシュの顔が、ふにゃっとしたものから、いつもの表情に戻っていった。あ、やっぱり酔っ払いだったか。
「クラッシュ、酔いは醒めたか?」
「え、俺、酔ってた?」
「たぶん高確率で酔ってた」
クラッシュの問いにしっかりと頷くと、クラッシュは少しだけ視線を巡らせてから、ちょっとだけ顔を赤くした。酒では顔色全然変わらなかったのに。
「た、確かに素面じゃなかった、かも。ごめん抱き着いて」
「気にしてない。それよりクラッシュ。俺、呪われてもいい?」
クラッシュがいるのはすごくよかった。だって後のことまかせられるから。
そう思って真顔で訊くと、クラッシュとジャル・ガーさんが目を剥いた。
「はぁ⁈」
『はぁ⁈』
二人が綺麗にハモる。イントネーションまで一緒だったよ。「何言ってんだ」的なニュアンスで。
でもさ、もし教会でその簡単に呪いが解けるアイテムを使ってたりしたら、また違う方向で宰相のクエストを始められるから。
一回は試してみたい。教会での解呪。
「だって教会がどうやって呪いを解くのか知るのには、自分で経験するのが一番じゃん」
俺の言葉に、クラッシュががっくりと項垂れた。
「そうだけどさ……」
「呪いを解いてもらった人を探すより、そっちの方が手っ取り早いし。今日は丁度クラッシュが来てくれてるから、教会まで跳んでくれるかなって。ダメなら日を改めるけど」
「日を改めて一人で来るってのは絶対に俺とヴィデロの心臓に悪いからやめて。ほんと、好奇心で付いてきたけど、心の底から付いてきてよかったって思うよ。感謝しろよマック」
「もちろん。一生恩に着るよ」
一生とか重いからいらないよ、と逆に顔を顰められて、思わず笑う。持つべきものは友達だよ。
『おいおい止めねえのかよハーフエルフの兄ちゃん』
「止めて聞くなら止めますけど」
『……俺の呪いはランダムで、どんな呪いがかかるかわからねえぞ? いいのか?』
「呪われた瞬間教会に跳ぶので、一瞬で命を落とすのでない限り、俺が何とかします」
クラッシュがきっぱりとそう返す。うわ、男前。クラッシュかっこいい。
『一瞬で命を落とすってのはないと思うが……』
ふぅ、と深い溜め息を吐くジャル・ガーさんは、樽の中に残っていた酒を一気に呷り、どんと空の樽を石畳に置いた。そして、足元にあったアクセサリー類を、ものすっごい不満顔で持ち上げて、唸りながらもう一度身に着けた。
『この『稀代の英雄』っての、そのうち消す、ぜってー消す……』
本気で嫌そうなその声音に、クラッシュと二人で思わず笑う。
酒はなくなったから、またそのうち石化しちゃうんだよな、ジャル・ガーさん。
また酒を持って遊びに来よう。今度はヴィデロさんと一緒に。三人で来るのもまた楽しそうだ。
『出来る限り易しい呪いであることを祈る。俺も何の呪いが掛かるのかさっぱりわからねえから』
「ありがとうございます。あ、尻尾が固まりかけてる。最後に、尻尾を撫でてもいいですか?」
『し、尻尾?! 尻尾はダメだ、そりゃあ、あれだ、番同士じゃねえと、撫でるとかそういうの、ダメなやつだ。発情しちまうから尻尾はやめてくれ! 発情したまま石化とか、俺は変態石像になっちまう……!』
あ、そういうのあるんですね。ごめんなさいもう尻尾触りたいとか言いません。
顔を赤くしてしどろもどろに説明するジャル・ガーさんに、思わずごめんなさいと頭を下げる。
さすがに息子さんを硬くした石像じゃ、恥ずかしいなんてもんじゃないよな。話題にはなりそうだけど。
「じゃあ、もう一度握手を」
だんだんと足元から石化していってるジャル・ガーさんに手を差し出す。手はまだ石化してないんだけど。
俺が差し出した手を見て、ジャル・ガーさんは少しだけ口元を持ち上げた。
爪の尖った、毛におおわれた大きな手で、俺の手のひらを包み込む。肉球はなくて、普通の人の手の甲に毛が生えてるようなジャル・ガーさんの手は、撫でるように俺の手を触り、握り、そして、指を絡めた。
「クラッシュ、飲みすぎ注意」
「まだ二杯目だよ。大丈夫。それよりジャル・ガーさん、セイジさんのことなんですけど」
クラッシュはさらにセイジさんのことを追求する気満々みたいだった。
そうだよな。あれだけ仲が良くて、まるで家族みたいな関係だもんな。心配だよな。
「どうしてあの人は歳をとらないんですか? そのことによって身体に弊害は出ないんでしょうか」
『本人には訊かないのか?』
「自分が賢者だってことを隠してる人に訊けると思うんですか? それにあの人は、自分の苦痛は絶対に口に出さない人です」
『まあ、そんなやつだよな。でもよ、本人から直接じゃなくて俺からそういう大事なことを訊いてハーフエルフの兄ちゃんは平気なのか?』
「平気っていうか……ただ、心配なだけです。母にとっても俺にとっても、俺の育ての親たちにとってもとても大事な人なんです。少しでも力になりたくて」
目を伏せたクラッシュに、ジャル・ガーさんは少しの間視線を向けていたが、ふー、と息を吐くと『あー……』と天を仰いだ。
何かを考えているらしいジャル・ガーさんは、しばらく天を仰いだまま唸っていた。
『今の姿を見てねえから何とも言えねえが、昔俺が賢者に助言したことをほんとにしたとしたら、多分力を手に入れた代償で姿がそのままなんだろうと思う』
「助言……?」
『あいつは女を助けたくて、満身創痍の状態でここに来たんだ。ほぼ死にかけでな。エルフの仲間に助言を貰ったとかで』
「仲間のエルフ……もしかして、母さん……?」
『そいつは俺はわからねえが、昔は俺ら獣人は世界の知恵を司る、とか言われてたからなぁ。まあ僻地に引っ越さにゃならなくなったのはちょいと揉めたからなんだが。あ、エルフたちは今も懇意にしてるぞ? まあ、エルフも人族の地を去った種族だからアレだけどな』
一旦言葉を止めると、ジャル・ガーさんはもう一樽を拳の一撃で開けた。
それをガッと掴んでまた美味しそうに呷った。
そして、また酒を頭から振りかけた。
『ま、要するにその方法を知らないかと。俺は知ってたから教えた。だが、知ってはいるが力を授けることは出来なかったんだ。ただし、人にない力を与えることの出来るやつを知ってたから、そいつを教えただけだ。その後あいつはここに来てねえから、よくわからねえな。俺の目端が利くのは、ここの祭壇の間くらいなもんなんだ。わりいな、はっきりしたことを言えなくてよ』
申し訳なさそうに眉間に皺を寄せるジャル・ガーさんに、クラッシュが「いえ、ありがとうございました」と頭を下げた。腑に落ちない顔をしてるのはきっと、セイジさんの現状がやっぱりわからないからなんだろうな。身体は大丈夫なのかとか、きっと本人に訊いても「大丈夫だって」の一言で終わりになるだろうし。
俺は手を伸ばして、クラッシュの頭を撫でた。
撫でるなよ、と文句を言われるかと思っていたけど、その予想は覆され、クラッシュは「マック」と抱き着いてきた。
うん、やっぱりクラッシュは今酔っ払ってるよ。酒、弱かったんだ。クラッシュの背中をポンポンしながら、俺はそっとクラッシュの手からカップを取り上げた。
俺たちの姿を微笑ましそうに見ていたジャル・ガーさんは、樽を手に酒をグビっと飲んだ。
口の脇から零れる酒で、足元の石化が解けていく。あれはどういう原理なんだろう。
『っぷはぁ、うめえなあ』
至福の表情で口元の酒を拭う。乾き始めて石化しそうになっていた腕が、それでまた元のモフ毛に戻る。
「その石の身体って、呪いか何かなんですか?」
その変化が気になってそう問いかけると、ジャル・ガーさんは『ん?』と自分の身体を見下ろした。
『呪いとはちょっと違うんだけどな、まあ似たようなもんか。石化する間はな、意識はあるしここら辺は見えるんだが、歳を重ねることがなくなって老いて朽ち果てずに見張りを続けることが出来るんだ』
「石部分に触ると呪われるっていうのとはまた別の物なんですか?」
『それは、この石化から派生する魔力零れみたいなもんだな。ただ、人族には悪影響しか出ない方向のだから呪いになるんだ。エルフが触っても獣人が触っても呪われねえぞ』
あっけらかんと言われたけど、昔、獣人に対して人族がどれだけひどい扱いをしたのか、それだけでなんか想像できる気がする。
「じゃあ、ジャル・ガーさんに触って呪われた人たちも、酒を掛けると呪いは解けるんですか?」
『普通の酒じゃ無理だが、酒にひと手間掛けりゃ呪いは解けるぞ。っつうか、呪いを解く物普通にあるだろ?』
「いえ、教会に行かないと呪いは解けないらしいです。俺はまだ呪われたことないんで何とも言えないんですけど。でも呪いを解くアイテムを作ってみたくて」
『俺らがまだ人族と暮らしてたときは、隣の家の親父とかも普通に呪いを解いていたけどな。今は呪い自体も珍しいのか? 前は触っただけでやべえ物とか色々巷に溢れてたんだが。……ああ、アレか。強欲王が全部持ってっちまったのか』
うわ、また知らないワードが出てきた。強欲王って。
……でも、あれ。
そんな風に呼ばれそうな人物の話、読んだことがある気がする。
「そうだ、初代魔王……」
クラッシュと古代魔道語を勉強してる時に本に書いてあった話だ。
昔は魔物の大陸も人が住んでいたって。じゃあ、そこでジャル・ガーさんも普通の生活をしていたってことか。隣の親父とかって、すごくフレンドリーな村とかそういうのしか想像できない。
『まあ、それは終わったことよ。呪いだよな。俺のもそうだし、多分他の呪いも似たようなもんだな。普通に簡単に呪いは解けるはずだぜ。酒と、祈りをささげた水と、状態異常を治すやつだったかな。俺らはそういうもんいらなかったから忘れた』
う、すごいヒントを貰ってしまった。
しかも三種類しか使わないって、もしかしてほんとに呪いを解くのって簡単なのかな。
あ、でも教会でその薬を作ってたら、既存のレシピでアウトか。
どうしよう。
一回呪われて教会に行ってみたい。
俺はキュアポーションを取り出すと、それをクラッシュに渡した。
酔いが治るかはわからないけど、あれも一応状態異常だしな。
クラッシュは「これもお酒? ありがとう」と受け取って、それを呷った。違うから。酒じゃないから。
心の中で突っ込んでいると、キュアポーションを飲み終えたクラッシュの顔が、ふにゃっとしたものから、いつもの表情に戻っていった。あ、やっぱり酔っ払いだったか。
「クラッシュ、酔いは醒めたか?」
「え、俺、酔ってた?」
「たぶん高確率で酔ってた」
クラッシュの問いにしっかりと頷くと、クラッシュは少しだけ視線を巡らせてから、ちょっとだけ顔を赤くした。酒では顔色全然変わらなかったのに。
「た、確かに素面じゃなかった、かも。ごめん抱き着いて」
「気にしてない。それよりクラッシュ。俺、呪われてもいい?」
クラッシュがいるのはすごくよかった。だって後のことまかせられるから。
そう思って真顔で訊くと、クラッシュとジャル・ガーさんが目を剥いた。
「はぁ⁈」
『はぁ⁈』
二人が綺麗にハモる。イントネーションまで一緒だったよ。「何言ってんだ」的なニュアンスで。
でもさ、もし教会でその簡単に呪いが解けるアイテムを使ってたりしたら、また違う方向で宰相のクエストを始められるから。
一回は試してみたい。教会での解呪。
「だって教会がどうやって呪いを解くのか知るのには、自分で経験するのが一番じゃん」
俺の言葉に、クラッシュががっくりと項垂れた。
「そうだけどさ……」
「呪いを解いてもらった人を探すより、そっちの方が手っ取り早いし。今日は丁度クラッシュが来てくれてるから、教会まで跳んでくれるかなって。ダメなら日を改めるけど」
「日を改めて一人で来るってのは絶対に俺とヴィデロの心臓に悪いからやめて。ほんと、好奇心で付いてきたけど、心の底から付いてきてよかったって思うよ。感謝しろよマック」
「もちろん。一生恩に着るよ」
一生とか重いからいらないよ、と逆に顔を顰められて、思わず笑う。持つべきものは友達だよ。
『おいおい止めねえのかよハーフエルフの兄ちゃん』
「止めて聞くなら止めますけど」
『……俺の呪いはランダムで、どんな呪いがかかるかわからねえぞ? いいのか?』
「呪われた瞬間教会に跳ぶので、一瞬で命を落とすのでない限り、俺が何とかします」
クラッシュがきっぱりとそう返す。うわ、男前。クラッシュかっこいい。
『一瞬で命を落とすってのはないと思うが……』
ふぅ、と深い溜め息を吐くジャル・ガーさんは、樽の中に残っていた酒を一気に呷り、どんと空の樽を石畳に置いた。そして、足元にあったアクセサリー類を、ものすっごい不満顔で持ち上げて、唸りながらもう一度身に着けた。
『この『稀代の英雄』っての、そのうち消す、ぜってー消す……』
本気で嫌そうなその声音に、クラッシュと二人で思わず笑う。
酒はなくなったから、またそのうち石化しちゃうんだよな、ジャル・ガーさん。
また酒を持って遊びに来よう。今度はヴィデロさんと一緒に。三人で来るのもまた楽しそうだ。
『出来る限り易しい呪いであることを祈る。俺も何の呪いが掛かるのかさっぱりわからねえから』
「ありがとうございます。あ、尻尾が固まりかけてる。最後に、尻尾を撫でてもいいですか?」
『し、尻尾?! 尻尾はダメだ、そりゃあ、あれだ、番同士じゃねえと、撫でるとかそういうの、ダメなやつだ。発情しちまうから尻尾はやめてくれ! 発情したまま石化とか、俺は変態石像になっちまう……!』
あ、そういうのあるんですね。ごめんなさいもう尻尾触りたいとか言いません。
顔を赤くしてしどろもどろに説明するジャル・ガーさんに、思わずごめんなさいと頭を下げる。
さすがに息子さんを硬くした石像じゃ、恥ずかしいなんてもんじゃないよな。話題にはなりそうだけど。
「じゃあ、もう一度握手を」
だんだんと足元から石化していってるジャル・ガーさんに手を差し出す。手はまだ石化してないんだけど。
俺が差し出した手を見て、ジャル・ガーさんは少しだけ口元を持ち上げた。
爪の尖った、毛におおわれた大きな手で、俺の手のひらを包み込む。肉球はなくて、普通の人の手の甲に毛が生えてるようなジャル・ガーさんの手は、撫でるように俺の手を触り、握り、そして、指を絡めた。
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