これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
298 / 744
連載

381、聖短剣使用中限定の聖魔法

しおりを挟む
「ここら辺は少し前にも来たけど、何もなかったよな?」



 改めて勇者の地図を覗き込んで、雄太が首を捻る。

 他の人たちも頷いてるってことは、とうとう雄太たちも壁のこっち常連になってるってことか。

 ヴィルさんは何がある、とは一切言わなかったからな。気になる、とだけ。



「でも前も気になるっていうだけであの神殿を見つけたから、絶対に何かありそうなんだけどね」

「ああ。あんなでもあの勘だけは馬鹿にできないからな」

「ヴィデロさん……あんなでもって」



 一応はヴィルさんを認めてはいるんだねヴィデロさん。ヴィルさんにしてみればヴィデロさんを滅茶苦茶甘やかしたくてしょうがなさそうなんだけど。温度差が凄い。



「マックの感知では何も感じないのか?」

「うーん、いまいち……ヴィルさん程感知能力が凄いわけじゃないから」

「じゃあ、他のスキルを使ってみるとか」

「高橋たちは何かを発見するようなスキルあったりする?」

「俺は罠感知なら」



 ブレイブが手を上げて、罠感知スキルを発動する。

 そして、首を捻る。



「何かある気がするけど、俺の罠感知スキルのレベルでは太刀打ちできない」

「発見できないってこと?」

「ああ。マックは何かないか?」



 索敵、感知、鑑定眼、色々持ってはいるけれど。

 とりあえず片っ端から使ってみよう。

 とスキルを発動する。

 感知は、何かある、かなあ? って感じで、よくわからない状態。何もないわけではないと思う。

 次は探索スキル。なんか向こうの木の一本が何かに引っかかった。



「鑑定眼」



 さっき引っかかった木を鑑定眼で調べてみる。



『チプレサス:辺境の魔素の濃い場所で育つ樹木。その土地に生えている木ととてもよく似た姿に成長する。栄養分に魔素を多分に含んでいることで、葉にはとても濃厚な魔素が溜まっていると言われている。別名『妖精の巣』とも呼ばれており……』



 そこから先の文字は文字化けに近い状態で読めなかった。まだ鑑定眼のレベルが低いからかな。もしヒイロさんを連れてきたら、この木がどんなものなのかわかるのかな。

 それにしても魔素を多分に含んでる木ってすごいなあ。細い葉は何かの素材になるかな。魔素を含んでるっていうからなるかも。採取できるかな。

 その木に近付いていって葉に手を伸ばす。



「なんだ? その木が怪しいのか?」



 雄太も面白そうな顔をして近付いてくる。

 そして俺より先に葉に手を触れた瞬間、葉がザワリと波打った。



「いた! この葉、勝手に刺さってきやがった!」

「え?!」



 雄太の言葉で思わず手を引っ込める。

 でもそんな葉なら余計に欲しいかも。

 俺はいつもは使ってない採取用グローブを取り出すと、手に填めた。ただ単に器用さが+2されるだけっていう代物だけど、刺されたときの保護になるだろ。って雄太、鎧で覆われた手、どうやって刺されたんだろう。

 そっと手を伸ばして、葉を掴む。



「別に刺されないけど」



 今度は木がざわめくこともなかった。

 そして、普通に採取できた『チプレサスの葉』。

 他の木も採取かな、なんて何気なく隣の木を鑑定してみると。



『コニフェール:どんな地にも育つ樹木。同種が数十種類ある。濃い魔素にも負けることがないので、辺境ではだいたいがコニフェール種の樹木。針のような葉の先に一定時期だけ実る小さな果実は食べることが出来る。状態:魔素過多』



 思わず「は?」と声を出してしまう。あれ、待って。同じ木だと思ってたのに全然違う。

 俺の声に、皆の注目が集まる。



「この木とこの木、全然種類が違うみたい。今高橋を攻撃した木は『妖精の巣』とか呼ばれてる『チプレサス』で、隣の木が普通の木だって」

「『妖精の巣』だと……?」



 俺が説明すると、勇者が反応した。



「もしそれが本当なら、ここに魔素溜まりのデカいのが多発するのが納得できる」



 勇者がそう言って剣を構えた。

 それってどういうことだろう。魔素が多いからそれが魔素溜まりになるとかそういうことかな。

 皆が首を捻っていると、勇者は剣を構えたまま俺たちに説明してくれた。



「昔俺の仲間だった賢者に教えて貰ったことがあるんだがな、『妖精の巣』という植物は魔素溜まりを作る木なんだそうだ。魔素がたんまり内包されてるから、それが洩れて魔素溜まりになる。そして、それを知らず放置していると、普通にできる魔素溜まりとは全く規模の違う魔素溜まりが出来るそうだ。だから見つけたらその木を伐採しとかないとヤバいってこった」



 その説明で、俺とヴィデロさんは顔を見合わせた。

 それってもしかして、東の果てにも『妖精の巣』があったのかな。生えてる木はこれとは違う気がするけど。

 ああ、もしかして周りの木と同じような姿に成長するってあったから、そのせいで見分けがつかなかったのか。それよりも気になるのが、文字化けして読めなかった説明文字。もっとレベル上げないと読めないのかな。すっごく知りたいのに。それにこれ、素材になるみたいだし。

 俺は手に持った針葉樹のような葉を見下ろした。

 どう見ても素材。鑑定眼で見ると『辺境付近に生える木の葉の形をしている。魔素が濃いので調薬に使うと魔力の伸びがいい。状態:新鮮』ってなってるから、絶対に素材。もしかして、幹とか根っことかも素材になったりして。

 勇者が切り刻んだら分けてもらおう。



 勇者が気合いと共に木を一閃する。

 ゆっくりと倒れた木は、大きな音を立てて地面に倒れた。すぐに鑑定眼を使うと、やっぱり素材だった。



「これ、このまま貰ってもいいですか?」

「『妖精の巣』をか?」

「はい。全体素材なんですこの木。全部の葉と幹。根っこはわからないですけど」



 倒れた木を指さしてそう教えると、勇者は「好きにしろよ」と剣を鞘にしまった。

 ユイがひょこっと覗き込んで、切り株になった木を指さしながら、「根っこも欲しいなら掘り返そうか?」と訊いてくる。

 そんなことできるの? もしかしてスコップとか持ってる? と首を傾げると、ユイは呪文を唱え始めた。そして杖を振りかざした瞬間、地面がモコモコモコと持ち上がっていき、盛り上がった土と共に木の根っこが地面から排出された。



「最近レベル上げたんだ。土魔法。アースクエイクとかすっごく強いんだよ」



 無邪気にそんなことを言うけど、地震を起こせるなんて神に近い所業だよユイ。腕を上げたね。雄太がもしよそ見をしたらそれを使って地面に身体を埋めるといいよ。そんなことはまずありえないけど。

 でも、気になったのが、根っこの先。黒ずんでるよ。

 そして根っこに何かが絡んでいた。

 黒ずみの根源はそれらしい。

 見ると、出た。アレだ。



「『禍物の知核』発見……」



 根っこに絡まっていたのは、『禍物の知核』だった。

 うん、嫌な気を放ってる。



「ヴィデロさん、これ、アレだよね……」

「アレだな。ってことは、やっぱり東にも『妖精の巣』があったってことか」

「伐採に行かないと、またあんな魔素溜まりが出来るってことだよね……」

「だな」



 根っこを二人で覗き込んで頷き合う。もう一度コースト村の森に行って、木を探さないとまたあそこらへんが危なくなるってことだよね。



「何だこれ」



 ブレイブが手を伸ばそうとしたので、慌てて「触っちゃダメ!」と止める。ディスペルハイポーションは持ってるから大丈夫は大丈夫なんだけどね。



「それを触ると複合呪いに掛かるから、触らないでね」



 注意してからディスペルハイポーションを取り出してヴィデロさんにお願いします、と渡すと、ヴィデロさんが「なあマック」と木の根っこに絡まった『禍物の知核』を見下ろした。



「これ、聖剣で何とかできないのか?」



 言われて気付く。聖短剣の餌になるかな。



「でもこれを浄化するのって『最上級聖魔法』だけだよ」

「やってみる価値はあるんじゃないか?」

「うん。一応」



 俺が腰からルミエールダガールーチェを引き抜いた。

 それを手に持って、ステータス欄を開く。そして魔法の所を選んで、俺が唯一使える「サークルレクイエム」を選んだ。まだ一度も使ったことない聖魔法。

 これってどのくらいのレベルの魔法なのかな。

 一応保険としてドイリーを腕に巻いて、MPが回復してるか見る。よし、大丈夫。



『この世界を見守る最上の神よ』



 魔法を開くと現れる呪文を、剣を構えつつ唱え始める。 

 俺の声に呼応するように、聖短剣がキィン……と鳴り始めた。



『その気高き聖なる神気でこの禍なる気を包みこみ給え。円状鎮魂歌サークルレクイエム』



 唱え終わった瞬間ググっと一気にMPが減った。MP枯渇の眩暈がくらりとする中、手の中の聖短剣から柔らかい光がぶわっと溢れた。

 呪文名の通り、円状に光が広がり、地面から何か黒いものが浮き上がっては光に消えていく。それは根っこの『禍物の知核』も例外じゃなく。

 黒く渦を巻いていた石の中から、もやもやっとした黒い何かが出てきて、光にかき消された。

 すぅ……と静かに消えていく光。それと共に聖短剣も共鳴を止め、静かになった。



 
しおりを挟む
感想 535

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! できるかぎり毎日? お話の予告と皆の裏話? のあがるインスタとYouTube インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】この契約に愛なんてないはずだった

なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。 そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。 数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。 身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。 生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。 これはただの契約のはずだった。 愛なんて、最初からあるわけがなかった。 けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。 ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。 これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!

めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。 目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。 二度と同じ運命はたどりたくない。 家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。 だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。