これは報われない恋だ。

朝陽天満

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381、聖短剣使用中限定の聖魔法

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「ここら辺は少し前にも来たけど、何もなかったよな?」



 改めて勇者の地図を覗き込んで、雄太が首を捻る。

 他の人たちも頷いてるってことは、とうとう雄太たちも壁のこっち常連になってるってことか。

 ヴィルさんは何がある、とは一切言わなかったからな。気になる、とだけ。



「でも前も気になるっていうだけであの神殿を見つけたから、絶対に何かありそうなんだけどね」

「ああ。あんなでもあの勘だけは馬鹿にできないからな」

「ヴィデロさん……あんなでもって」



 一応はヴィルさんを認めてはいるんだねヴィデロさん。ヴィルさんにしてみればヴィデロさんを滅茶苦茶甘やかしたくてしょうがなさそうなんだけど。温度差が凄い。



「マックの感知では何も感じないのか?」

「うーん、いまいち……ヴィルさん程感知能力が凄いわけじゃないから」

「じゃあ、他のスキルを使ってみるとか」

「高橋たちは何かを発見するようなスキルあったりする?」

「俺は罠感知なら」



 ブレイブが手を上げて、罠感知スキルを発動する。

 そして、首を捻る。



「何かある気がするけど、俺の罠感知スキルのレベルでは太刀打ちできない」

「発見できないってこと?」

「ああ。マックは何かないか?」



 索敵、感知、鑑定眼、色々持ってはいるけれど。

 とりあえず片っ端から使ってみよう。

 とスキルを発動する。

 感知は、何かある、かなあ? って感じで、よくわからない状態。何もないわけではないと思う。

 次は探索スキル。なんか向こうの木の一本が何かに引っかかった。



「鑑定眼」



 さっき引っかかった木を鑑定眼で調べてみる。



『チプレサス:辺境の魔素の濃い場所で育つ樹木。その土地に生えている木ととてもよく似た姿に成長する。栄養分に魔素を多分に含んでいることで、葉にはとても濃厚な魔素が溜まっていると言われている。別名『妖精の巣』とも呼ばれており……』



 そこから先の文字は文字化けに近い状態で読めなかった。まだ鑑定眼のレベルが低いからかな。もしヒイロさんを連れてきたら、この木がどんなものなのかわかるのかな。

 それにしても魔素を多分に含んでる木ってすごいなあ。細い葉は何かの素材になるかな。魔素を含んでるっていうからなるかも。採取できるかな。

 その木に近付いていって葉に手を伸ばす。



「なんだ? その木が怪しいのか?」



 雄太も面白そうな顔をして近付いてくる。

 そして俺より先に葉に手を触れた瞬間、葉がザワリと波打った。



「いた! この葉、勝手に刺さってきやがった!」

「え?!」



 雄太の言葉で思わず手を引っ込める。

 でもそんな葉なら余計に欲しいかも。

 俺はいつもは使ってない採取用グローブを取り出すと、手に填めた。ただ単に器用さが+2されるだけっていう代物だけど、刺されたときの保護になるだろ。って雄太、鎧で覆われた手、どうやって刺されたんだろう。

 そっと手を伸ばして、葉を掴む。



「別に刺されないけど」



 今度は木がざわめくこともなかった。

 そして、普通に採取できた『チプレサスの葉』。

 他の木も採取かな、なんて何気なく隣の木を鑑定してみると。



『コニフェール:どんな地にも育つ樹木。同種が数十種類ある。濃い魔素にも負けることがないので、辺境ではだいたいがコニフェール種の樹木。針のような葉の先に一定時期だけ実る小さな果実は食べることが出来る。状態:魔素過多』



 思わず「は?」と声を出してしまう。あれ、待って。同じ木だと思ってたのに全然違う。

 俺の声に、皆の注目が集まる。



「この木とこの木、全然種類が違うみたい。今高橋を攻撃した木は『妖精の巣』とか呼ばれてる『チプレサス』で、隣の木が普通の木だって」

「『妖精の巣』だと……?」



 俺が説明すると、勇者が反応した。



「もしそれが本当なら、ここに魔素溜まりのデカいのが多発するのが納得できる」



 勇者がそう言って剣を構えた。

 それってどういうことだろう。魔素が多いからそれが魔素溜まりになるとかそういうことかな。

 皆が首を捻っていると、勇者は剣を構えたまま俺たちに説明してくれた。



「昔俺の仲間だった賢者に教えて貰ったことがあるんだがな、『妖精の巣』という植物は魔素溜まりを作る木なんだそうだ。魔素がたんまり内包されてるから、それが洩れて魔素溜まりになる。そして、それを知らず放置していると、普通にできる魔素溜まりとは全く規模の違う魔素溜まりが出来るそうだ。だから見つけたらその木を伐採しとかないとヤバいってこった」



 その説明で、俺とヴィデロさんは顔を見合わせた。

 それってもしかして、東の果てにも『妖精の巣』があったのかな。生えてる木はこれとは違う気がするけど。

 ああ、もしかして周りの木と同じような姿に成長するってあったから、そのせいで見分けがつかなかったのか。それよりも気になるのが、文字化けして読めなかった説明文字。もっとレベル上げないと読めないのかな。すっごく知りたいのに。それにこれ、素材になるみたいだし。

 俺は手に持った針葉樹のような葉を見下ろした。

 どう見ても素材。鑑定眼で見ると『辺境付近に生える木の葉の形をしている。魔素が濃いので調薬に使うと魔力の伸びがいい。状態:新鮮』ってなってるから、絶対に素材。もしかして、幹とか根っことかも素材になったりして。

 勇者が切り刻んだら分けてもらおう。



 勇者が気合いと共に木を一閃する。

 ゆっくりと倒れた木は、大きな音を立てて地面に倒れた。すぐに鑑定眼を使うと、やっぱり素材だった。



「これ、このまま貰ってもいいですか?」

「『妖精の巣』をか?」

「はい。全体素材なんですこの木。全部の葉と幹。根っこはわからないですけど」



 倒れた木を指さしてそう教えると、勇者は「好きにしろよ」と剣を鞘にしまった。

 ユイがひょこっと覗き込んで、切り株になった木を指さしながら、「根っこも欲しいなら掘り返そうか?」と訊いてくる。

 そんなことできるの? もしかしてスコップとか持ってる? と首を傾げると、ユイは呪文を唱え始めた。そして杖を振りかざした瞬間、地面がモコモコモコと持ち上がっていき、盛り上がった土と共に木の根っこが地面から排出された。



「最近レベル上げたんだ。土魔法。アースクエイクとかすっごく強いんだよ」



 無邪気にそんなことを言うけど、地震を起こせるなんて神に近い所業だよユイ。腕を上げたね。雄太がもしよそ見をしたらそれを使って地面に身体を埋めるといいよ。そんなことはまずありえないけど。

 でも、気になったのが、根っこの先。黒ずんでるよ。

 そして根っこに何かが絡んでいた。

 黒ずみの根源はそれらしい。

 見ると、出た。アレだ。



「『禍物の知核』発見……」



 根っこに絡まっていたのは、『禍物の知核』だった。

 うん、嫌な気を放ってる。



「ヴィデロさん、これ、アレだよね……」

「アレだな。ってことは、やっぱり東にも『妖精の巣』があったってことか」

「伐採に行かないと、またあんな魔素溜まりが出来るってことだよね……」

「だな」



 根っこを二人で覗き込んで頷き合う。もう一度コースト村の森に行って、木を探さないとまたあそこらへんが危なくなるってことだよね。



「何だこれ」



 ブレイブが手を伸ばそうとしたので、慌てて「触っちゃダメ!」と止める。ディスペルハイポーションは持ってるから大丈夫は大丈夫なんだけどね。



「それを触ると複合呪いに掛かるから、触らないでね」



 注意してからディスペルハイポーションを取り出してヴィデロさんにお願いします、と渡すと、ヴィデロさんが「なあマック」と木の根っこに絡まった『禍物の知核』を見下ろした。



「これ、聖剣で何とかできないのか?」



 言われて気付く。聖短剣の餌になるかな。



「でもこれを浄化するのって『最上級聖魔法』だけだよ」

「やってみる価値はあるんじゃないか?」

「うん。一応」



 俺が腰からルミエールダガールーチェを引き抜いた。

 それを手に持って、ステータス欄を開く。そして魔法の所を選んで、俺が唯一使える「サークルレクイエム」を選んだ。まだ一度も使ったことない聖魔法。

 これってどのくらいのレベルの魔法なのかな。

 一応保険としてドイリーを腕に巻いて、MPが回復してるか見る。よし、大丈夫。



『この世界を見守る最上の神よ』



 魔法を開くと現れる呪文を、剣を構えつつ唱え始める。 

 俺の声に呼応するように、聖短剣がキィン……と鳴り始めた。



『その気高き聖なる神気でこの禍なる気を包みこみ給え。円状鎮魂歌サークルレクイエム』



 唱え終わった瞬間ググっと一気にMPが減った。MP枯渇の眩暈がくらりとする中、手の中の聖短剣から柔らかい光がぶわっと溢れた。

 呪文名の通り、円状に光が広がり、地面から何か黒いものが浮き上がっては光に消えていく。それは根っこの『禍物の知核』も例外じゃなく。

 黒く渦を巻いていた石の中から、もやもやっとした黒い何かが出てきて、光にかき消された。

 すぅ……と静かに消えていく光。それと共に聖短剣も共鳴を止め、静かになった。



 
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