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435、オランさんの状態
しおりを挟むヒイロさんはありったけのジャムを買って、大満足の顔で村に戻ってきた。
その間、俺は輪廻と神殿に行くとどうなるのか、後で詳しく教えてくれるように約束していた。
ヒイロさんと共に村に着いた俺は、途中でユイルと他の獣人の子供たちを発見して、一緒に村の中を歩いた。
歩いたというか、子供たちが俺によじ登ってきたので、喜んで抱っこして肩に乗せて歩いた俺。可愛い。
皆ふわふわドーナツを気に入ってくれたみたいで、また作ってきてね、と約束させられた。そして、その約束の契約報酬として、ドングリのような木の実をたくさんもらってしまった。大事にするね。
「あ、おとうしゃんだ」
ユイルが指さした方向で、ケインさんがヴィデロさんの友達の獣人さんと何か話をしていた。
ユイルの声が聞こえたのか、耳をピクッと動かして、こっちに視線を向ける。
「ユイルー。皆でマックに遊んでもらってたのかー。どれ、父ちゃんが抱っこしてやろう」
「僕おにいちゃんに抱っこしてもらうのしゅき」
無邪気にそう答えたユイルに、ケインさんが「父ちゃんの方が好きだよね? ね?」と必死で訊いていて、相変わらずの溺愛振りに苦笑が洩れる。
「おおケイン。いいところにいたな」
「ヒイロもいたのか。出歩いてるなんて珍しいな」
「ちょっとマックと人族の所に行ってたんだ。それでな、ケインに頼みたいことがあるんだ」
「いやだ」
ヒイロさんが何かを言い出す前に、ケインさんはすっぱりと断った。
でもな、いやだ、たのむ、いやだを繰り返す二人に呆れていると、ユイルが「おとうしゃんヒイロおじちゃんのこと嫌いなの……?」とちょっと悲しそうな顔になった。
「いやいやいや、ユイル? 父ちゃんはヒイロのことは嫌いじゃねえよ。でもな。ヒイロはいつでも面倒事を父ちゃんに押し付けてくるからな、油断ならねえっていうか……」
「おじちゃん、お願いがあるんだって。なんできいてあげないの? おじちゃんかわいそうだよ」
しゅんとしたユイルに、ケインさんが「だからそうじゃなくてね」としどろもどろで説明している。けれど、ユイルにはちょっと難しかったらしい。ヒイロさんが口元に手を当ててほくそえんでるのにも気づかずに、ケインさんがユイルに必死でヒイロさんを嫌いじゃないけど、と繰り返していた。
「いいんだ、ユイル……お前の父ちゃんは迷惑ばっかり掛ける俺を嫌ってて当然なんだ……」
ヒイロさんもわざとらしくしゅんとすると、ユイルは俺の腕からヒイロさんの肩に飛び乗って、頭を小さな手でなでなでした。
「おとうしゃん……」
二人並んでウルウルした目をケインさんに向けると、ケインさんはううう、と唸った後、「わかったよ! 話を聞けばいいんだろ!?」と喚いていた。ご愁傷様です。
あああ、こっそりとヒイロさんが悪い笑顔を浮かべてるよ。
「で、何をすればいいんだ」
「ちょっと人族の農園に行って、用意された倉庫か箱に拡張と時間停止と保存の魔法陣を描いてきてくれればいいんだ」
「あ、なんだそんだけか」
ヒイロさんの言葉にケインさんはすごくホッとした顔をした。嫌がるほどの内容じゃなかった、なんて言ってるけど、2人ともものすっごいこと言ってるから。それで倉庫かデカい箱を用意しろって言ってたわけか……獣人さんたちの考えることって、いちいち規模が違うよ。
「その魔法陣魔法、簡単なんですか? 重さ軽減と空間拡張の魔法陣を教えて欲しいんですけど」
「あれ? マック知らねえの? 別にいいけど。ヴィデロのカバンに描く気か?」
「もちろんです!」
真顔で頷くと、ケインさんはこともなげに俺がたすき掛けにぶら下げてるカバンに魔法陣魔法を飛ばした。
すると、カバンの裏側に小さく魔法陣が描かれる。
そして、すごいことが起こった。
インベントリが拡張されている。そしてカバン自体に入れてたはずの瓶の重さがなくなった。
「え、ほんとに? いまので?」
カバンを開いて中を見てみると、インベントリに入れてないポーション類がちゃんと中に納まっている。でも重さが全くなくなっていた。
魔法陣魔法を見てみると、重力無視、空間拡張、ついでに頑丈という文字が入っていた。空間拡張って、インベントリだけじゃなくて、このカバン自体も広くなったってことかな。
俺はワクワクしながら、持っているハイパーポーションをたんまり取り出してみた。そして、カバンの方にしまっていく。
入れてるのに、入れてる感じがしない。そしてカバンを覗き込むと、ちゃんと瓶がごそっと入ってるはずなのに、外見は全く変化していない。挙句の果てに、結構重いはずの重量が全くない。何だこりゃ。
なんだかんだで、インベントリ2枠分、数にして198個のハイパーポーションを普通にカバンにしまい込むことに成功した。もちろん、インベントリから取り出したハイパーポーションはインベントリ内にはない。すげえ!
インベントリが使えなくても、これでたんまり持ち歩けるってことか! すげえ!
「ケインさん! すごいです! さすがケインさん! 魔法陣魔法の腕、世界一なんじゃないですか!?」
「誉めても何も出ねえよ」
俺が感動を興奮したままケインさんに伝えると、ケインさんはそんなことを言いながらもまんざらでもないような顔で照れていた。
「おとうしゃん世界一? しゅごいね! おとうしゃんしゅごい!」
「ユイルーありがとう。父ちゃんユイルにそう言ってもらえて嬉しいよ」
ユイルの一生懸命な拍手に、ケインさんはでれっと締まりない顔つきになった。
でも本当に世界一なんじゃないだろうか。なんかケインさんが出来ないことってなさそうな気がしてきた。
教えて貰ってばっかりじゃダメなので、俺はお礼にメイレのジャムの瓶をケインさんに渡した。この実、ユイルが好きだから。ケインさんはユイルが喜ぶことが一番嬉しいんじゃないかなって気がするし。
「おとうしゃん、それ、おいしそうね」
「おう、マック、ありがとな。これ、ユイルの大好きなやつだ」
「こっちこそありがとうございます」
「でもってヒイロ、対価は?」
「お前んとこのかみさん最近咳してるだろ。シックポーション3日分くらいやるよ」
「お、サンキュ」
ヒイロさんとケインさんの間でも取引が成立したらしい。
ヒイロさんはケインさんの奥さんのためにシックポーションを9本渡していた。
「いつ行けばいい? 場所を教えてくれ」
「セィ城下街ってところの農園だ。あと、セッテ街の農園にお祝いをやろうと思う。あそこの果実はアレだ、マックがずっとこっちに送ってくれた美味い奴だからな。農園主が結婚するらしい」
「お祝いなあ。お祝いに倉庫に時間停止を掛ければいいのか?」
「それそれ」
頼むな、とヒイロさんに肩をポンとされて、ケインさんが頷いた。ユイルにおとうしゃんかっこいいと褒められてご機嫌そうだ。
それにしてもヒイロさん。全部人任せで結局ヒイロさんは頼んだだけで終わってるよお礼。ちゃっかりしてるけど、憎めないのがヒイロさんなんだよなあ。
ついでにオランさんの手の状態を見に行くことにすると、ヒイロさんも「そろそろ薬の時間だ」と後をついて来た。
ヒイロさん特製スタミナポーションで回復させるらしい。
オランさんの家にお邪魔すると、そこには数人の獣人さんとベッドに寝かされたオランさんがいた。
「マックか。うちの者たちはどうだ。馴染んでいるか」
「ヴィデロさんと同じ職場に働きだしたので、馴染んでるなんてもんじゃないです。ずっと前からいたような顔をしてますよ」
「それは頼もしいな。待っていろ。今茶を……」
「それは俺が出すから、オラン様は寝てろって」
「腕治らなかったらどうするんだよ。安静だろ」
ベッドから起き上がろうとするオランさんを、周りの獣人さんたちが押しとどめてサッとキッチンに向かってしまう。
オランさんは困り果てたような顔をしながらも、諦めて背もたれに背を預けた。
すごい、これは絶対に安静出来るってことだ。もしかしてこの人たちは皆ずっとオランさんの世話をしてるのかな。
「そろそろ身体が鈍りそうなんだが……マック、すまないがこの手の鑑定をしてみてくれないか? こうやって俺は毎日ベッドに縛り付けられているんだ……。そろそろ治っているんじゃないか?」
まるで懇願するように頼んでくるオランさんに頷いて、鑑定眼を使ってみる。
『獣人の長の仮腕:失った腕を霊薬で補っている状態 本来の腕生成率83% スタミナ減少により生成スピードが落ちている 霊薬の摂取推奨』
鑑定眼でわかったことを伝えると、ヒイロさんがロウさんにもらった『細胞補正剤』の瓶を俺に見せてきた。その瓶は中身がすっかりなくなっていた。
「これがなくなっちゃったから生成スピードが落ちてるみたいですね。錬金釜は持ってきたから、作って帰りますね。長老様にレシピは貰ってるので」
素材もちゃんとあるから、今からでも作ることが出来るんだ。
そう言うと、ヒイロさんはおお! と目を輝かせた。
「頼むよマック。もちろん俺が助手をするからな! グルグルが辛い時は言ってくれ。そして魔力がなくなりそうな時も!」
ヒイロさんの楽しそうな声が聞こえた瞬間、ピロンとクエストの音が鳴り響いた。
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