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連載
574、ヴィデロさんとクラッシュの絆
「ヴィデロ、俺もアルさんたちが魔大陸に行くとき、一緒に行けることになった」
クラッシュは、ヴィデロさんに言葉を濁すことも飾ることもせずまっすぐ伝えた。
ヴィデロさんは聞いた瞬間、驚いたような顔をしたけれど、でも、一つ息を吐くと「そうか」と口に出した。
「とはいえ、ずっといることは出来ないらしいから、ちょくちょく帰ってくるとは思うけどね」
「でも、行けるだけの魔力があるのは凄いな。でも、ずっといられないってことは、もし何らかの原因でこっちに帰って来れないときは……」
ヴィデロさんは少しだけ眉間にしわを寄せて、クラッシュをじっと見た。
その視線に射抜かれて、クラッシュが肩を竦める。
「まあ、その時は仕方ないだろうね。でも、ちゃんとヴィデロの代わりにマックが無茶なことをしないか見張ってるから安心して俺たちの留守を守っててくれない?」
クラッシュの言葉に、俺はハッとした。
もしかして、クラッシュは魔物化することも含めて覚悟してるってこと、なのかな。
セイジさんとかエミリさんを助けたい、っていうのがもともとの考えだったってのもあるけど、もしかして、ヴィデロさんが行けないから、その代わりに自分が俺を守るとか、そんなことを思ってたりしない?
「クラッシュ」
俺が口に出した声は、ちょっとだけキツくなってしまった。
「もし、俺を守ろうと思ってるなら、絶対にやめてね。絶対に」
「誰も守るなんて言ってないじゃん。マックが無茶をやらかさないようにするストッパーだってば」
俺の言葉に、クラッシュは肩をすくめた。
でも、ほんと俺たちプレイヤーを庇うのだけはやめて欲しい。俺たちは死に戻り出来るけど、クラッシュは出来ないんだから。なんだかんだでクラッシュはそういうのやりそうなんだよな。根はすごくいい人だから。根は。商魂はたくましいし、たまにぼったくろうとするけど。
これはあれかな。もし魔大陸に行くとなったら、辺境辺りにヨシュー師匠に待機していてもらって、クラッシュがこっちに戻ってきた時に毎回魔法をかけて貰うしかないかも。
もしかしたら俺がはぐれるかもしれない。もしかしたらMPが切れてるかもしれない。もしかしたら、思う以上に向こうの魔素が強くてクラッシュに時間がないかもしれない。最悪のことを想定しようとすると、次々出てくるのが嫌になる。
やっぱりいっそ連れて行かない方がいいんじゃないかな、なんて思わずにいられない。
「ほらマック、眉間にしわが寄ってるよ。そんな顔を可愛いとか思うの、ヴィデロだけだからやめようよ。マックがなんと言おうと俺はついてくからね。だめだと思ったらちゃんと言うし、逃げるからさ」
「ほんとに? ホントに逃げる? 俺がもし後ろにいたとしても絶対に逃げてね。絶対だよ。もし俺が死に戻りしてクラッシュと離れたらなんて思ったら、おちおち魔大陸の素材を見ることも出来なそうだよ」
「ここに来て素材! さすがマック」
わかったわかったと軽くうなずくクラッシュは本当にわかってるのかな、事の大変さを。
「まあ……皆がいるなら大丈夫なのか……無茶だけはするなよ。ずっとは無理ってことは、クラッシュも魔素に侵されるってことだろ。もし、胸のあたりが苦しくなって、好戦的になったらその時点ですでにヤバい状態だから、そうなる前に何か対策をとれよ。あれは……かなり自分を抑えるのが辛いから」
「ああ、うん。そのことなんだけど。最初は皆とじゃなくて、ヴィルと二人で行ってくるから」
サラっとクラッシュが答えた瞬間、ヴィデロさんはすごく怖い顔になった。その顔もワイルドで好き。じゃなくて。
「あのクソ兄貴……」
あ、もしかしてヴィルさんがクラッシュを唆したと思ったのかな。
即ヴィルさんの所に乗り込みそうな勢いのヴィデロさんを、クラッシュが笑いながら止めた。
「俺が言いだしたんだよ。転移が使えて魔大陸に行ける人ってことで。先に一回行って、その魔素に侵されるのがどんな状態か見てみたいんだ。だから止めないで。見逃して。見逃してくれたら、魔力測定の魔道具を持つ人を敢えて教えてくれなかったことをチャラにするから。二人ともヴィデロのお母さんが魔道具技師だって、知ってて敢えて言わなかったでしょ。俺の魔力がどんなかを調べさせないために」
「当たり前だ。俺もマックもクラッシュには行って欲しくなかったからな」
「でも俺は行きたい。待つのはやだ。待って後悔するくらいなら、付いて行きたいんだ……って、足手まといになりそうだったら諦めて尻尾を巻いて逃げて来るけどね」
「一瞬で逃げていいよ。むしろ逃げて」
逃げることを推奨する俺に、クラッシュは声を出して笑った。
そんなことをしたら、ここまでことを大事にした意味ないじゃんって。いいんだよ。クラッシュが無事なのが一番なんだから。
「だからヴィデロはドーンとトレを守ってて。俺の大事な店がある故郷なんだから。その代わりマックの尻拭いは任せて」
待ってて、と言わない辺り、クラッシュはヴィデロさんのことがわかってるなって、ちょっとだけ嫉妬する。俺はガンガン待っててと言ってヴィデロさんを悲しませちゃったから。
言い方一つなんだよな。って反省する。
ヴィデロさんは険しかった顔をフッと綻ばせて、右手の拳を出した。
それにクラッシュがこつんと拳を当てる。
「俺も、クラッシュを見習って前に進むことにしたから」
「そっか。よかった。応援する」
「でもいくらクラッシュでも、マックの尻を見るのは許可しないから、拭うな」
「そんなことを真顔で言うあたり、ヴィデロも砕けて来たよね」
拳を当てたまま、2人はお互いを見て笑い合った。
っていうかその会話、本人の目の前で言わないでほしかった。
ヴィデロさん、冗談にしては笑えないよ……ははは、はぁ。
学校から帰って来てすぐさまログインした俺は、辺境に跳ぶためにインベントリ内をチェックしようと寝室からキッチンに移動した。
すると、仕事のはずのヴィデロさんが軽装備に身を固めて、腰に剣を下げているところだった。
「あれ、ヴィデロさん。今日は早いね」
「おかえりマック。今日だろ、クラッシュがあいつと魔大陸に行く日。いてもたってもいられなくて、早めに切り上げて来たんだ。俺も連れて行ってくれないか、辺境」
「いいよ。クラッシュが出てくるのは、一応辺境の壁の向こう辺りだから、壁の所で待機なんだ。勇者もいるよ。もし魔物も一緒に転移させちゃったときのために」
「恐ろしい想定をしているな……段々と止めればよかったと後悔してきた」
それは常々俺も思ってるからね。
インベントリに蘇生薬とポーション類がたんまり入ってることをチェックして、更に色々詰め込んで、ヴィデロさんの手を取る。
いつもながらかっこいい手。硬い剣ダコがヴィデロさんの手、って感じがする。
ついつい手を持ち上げてその硬い皮膚にチュッとキスをすると、ヴィデロさんがお返しとばかりに身を屈めて俺の頬にチュッとキスをした。
恋人繋ぎで手を繋いで、辺境の壁の所に跳ぶ。
クラッシュが帰ってくるのがわかるかもしれないから、と壁の上に登ると、そこには既に勇者が来ていた。
そして、横には雄太たちと『白金の獅子』たちも。
「お待たせしました」
後ろから声をかけると、勇者が振り返って、軽く手を上げた。
「まだクラッシュは戻ってきていないぞ。墓地で見送ってから戻るまでの時間しか経ってないが」
「そうなんですか」
雄太は俺と同じ時間に帰ったはずだから、ログイン間もないはずだよね。ってことは、ユイたちもそんなものかな。勇者、クラッシュを見送った後、自分の足でここまで戻ってきたってことかな。
数時間くらいってところか。クラッシュはどれくらいで限界になるんだろう。さすがにすぐに魔物化するってことはないだろうけど、ちょっと心配。
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