544 / 744
連載
627、貴族街の家具屋さん
しおりを挟む気を取り直して二人で街を歩く。
他には家具屋さんとかないのかな。
「そういえばヴィルさんちのヴィデロさんの部屋にあるすっごく高級そうな家具は、セィ城下街の家具屋さんで買ったって言ってた様な……なんて名前だったっけ」
前にヴィルさんが教えてくれた情報を思い出そうと首を捻ると、ヴィデロさんがハッとこっちを見た。
「それは『ロウラー』という名前じゃなかったか? 俺が昔住んでいた館の家具も、いつでもそこで注文していたはずだ。母のお気に入りの家具職人の工房だから、きっと兄の情報源も母だと思う。場所は貴族街だけど……行ってみるか?」
「あ、その名前聞き覚えあるからきっとそこだ! ……行ってもいいの?」
ヴィデロさんを見上げると、ヴィデロさんはフッと笑って頷いた。
「マックが気にするようなことは何もないから大丈夫。館に顔を出していた職人か誰かがいれば、俺のことも覚えているかもしれないから、最高のソファを頼めるかもしれない。そうだったらラッキーだろ」
「ラッキーって、ヴィデロさん」
もし、昔のことをあまり思い出したくないなら、他の所にしようかと思ったけれど、それを言う前にヴィデロさんに釘指されちゃった。
しかも屈託のない笑顔が眩しい。嬉しい。好き。
「じゃあいこっか」
ヴィデロさんと手を繋いで、その場でセィ城下街のモントさんの所に跳ぶ。モントさんの所からだと表の城下街と貴族街のどっちにも行けるから本当に場所を借りれるのはありがたい。
農園に姿を現すと、モントさんが農園で何かの種を蒔いていた。
すぐに俺たちの姿に気付いて、よ、と手を上げる。
「いつもながらいきなりだな。あの鐘を鳴らさねえお客はマックくらいだぜ。そっちの兄ちゃんも。いらっしゃい。なんか買ってくか?」
俺とヴィデロさんで並んで挨拶すると、モントさんは元気そうだな、とヴィデロさんの背中をバンバン叩いた。モントさんの腕もすごく太いから、俺がそれをされたらきっと吹っ飛ぶよ。ヴィデロさんは笑顔で微動だにしないけど。
ついでだからと俺はしこたま素材をお買い上げして、モントさんの農園から貴族街に入っていった。
ヴィデロさんの案内の元、家具屋さんに進んでいく。
道を歩いているのは見回りの騎士くらいで、門の外と違って人通りはほぼない。時たま馬車が通るけれど、それだけ。ヴィデロさんが言うには、もう少しすれば、学校に通う子供たちがガヤガヤと通るらしい。
豪華な館と広い庭、そして、閑散とした広い通りを二人で歩き、しばらく行くと、貴族街の店が集まる一画に出た。どれも高級そうな物ばかりを置いた店で、値札は通りから見る限り付いていない。ものすごく大きくて手の込んだ装飾の置時計なんて、いくらするのか想像もつかない。
思わず足を止めてガラス張りの店内を見ていると、ヴィデロさんが「欲しいのか?」と俺の視線を追って置時計を見ながら訊いてきた。
「いらないよ。あれを工房においても浮きまくるじゃん。いくらなのかなってちょっと気になっただけ」
「値段か。あのくらいの細工の時計は、確か2千万ガルくらいだった気がする。物によってはかなり上下するが、あれほどの装飾は安くはないな」
「ふわぁ……なんていうか、桁が違うね」
こっちで買い物をすると、俺の目が飛び出るほどの貯金なんて一瞬でなくなりそうだ。貴族街怖い。
ここに住んでる人たちは、どうやって金策とかしてるんだろう。貴族って大変だなあ。
店に入ってみるか訊かれたので、俺はぶんぶん首を横に振った。何かを壊しちゃったら賠償だけで貯金が底をつきそうなんだもん。怖い。
俺の呟きはヴィデロさんに聞こえたらしく、苦笑された。
その時計が売っていた店の三軒隣に、俺たちの目当ての家具屋さんがあった。
ぶら下がった看板には『家具ロウラー』という文字と、ベッドの絵が彫り込まれていた。
店のドアはしっかりと閉まっていて、場所も相まってとても敷居が高く感じる。
恐る恐るドアベルを鳴らすと、中からピシッとした店員さんがドアを開けてくれた。
「いらっしゃいませ。どうぞお入りくださいませ」
すごく丁寧に応対されて、これが貴族の店か、と戦慄していると、ヴィデロさんを見た店員さんが目を見開いた。ヴィデロさんも、その人を見て、笑顔で頭を下げた。
「あなた様は、もしや……オルランド卿の御子息様ではございませんか?」
「憶えていて下さったんですね。ありがとうございます。あの時は大変お世話になりました」
「憶えていますとも。こちらこそ、その節は当店の家具を愛用していただきありがとうございます」
店員さんはゆっくりと頭を下げて、しみじみとヴィデロさんに視線を向けた。
「とてもご立派になられましたね。オルランド様が亡くなられたこと、お悔やみ申し上げます」
黙祷する様に、店員さんが胸に手を当てて目を閉じる。
少しすると店員さんは姿勢を正し、笑顔を浮かべた。
「失礼いたしました。とても敬愛しておりましたので……。本日は、何をお買い求めでございますか?」
心なしか、店員さんの視線は最初よりもヴィデロさんを見る目が優しい気がした。店員さん、もう初老と言っていいくらいの歳に見えるんだけど、なんていうか、視線が孫を見る目のようなそんな感じがする。気のせいかな。一瞬でヴィデロさんがわかったってことは、本当に親密な付き合いをしていた家具屋さんってことだよね。
小さい頃のヴィデロさんとか、この人はマメに見てたってことか、いいなあ。羨ましいなあ。小さいヴィデロさん、きっと絶対天使だよ。天使に決まってるよ。
一人悶えていると、ヴィデロさんは少しだけ周りを見回しながら、口を開いた。
「座り心地のいいソファーがないかと探しに来たんです」
「ソファー、でございますね。こちらです」
店員さんはヴィデロさんの言葉に頷いて、店の奥に案内してくれた。
そこには、シンプルだけど上品そうな家具が並べられていた。
「ここにあるだけの物になってしまうのですが、もしお気に入りの物が見つかったのでしたら、声をおかけください」
お好きに触れて見てください、とにこやかに勧められて、俺とヴィデロさんはお言葉に甘えてソファーの置いてある場所まで行った。
そこには6点ほどソファーが置いてあった。一つ一つ座ってみる。
「どうだマック。どれがいい?」
「うーん……」
ポスンと腰を下ろしてみて、沈みすぎるソファーにダメだしする。次に座ったソファーは、寝転がりたいのに長さが足りない。三つめは、見た目が高価すぎて工房に置いたら確実に浮いちゃう。形的には寝転がれるし背もたれの高さも弾力も好みなのに。他のもどうにも気に入らなくて、唸る。
「これがいいんだけど、流石に金メッキの足に赤のベルベット系生地ってちょっと工房には派手過ぎるよね……」
「確かにな」
「すっごく豪華な館の部屋とかには違和感ないんだろうけど……」
ヴィデロさんも想像したらしく、確かに合わないなと笑った。
そして、店員さんを呼んで、この椅子で違う色で受注できないかと訊いてくれた。もちろん、ここにもお値段は書かれていない。高いのはわかってる。
「受注でございますか……申し訳ありません。ただいま、家具に使われる綿毛や羽根が不足しておりまして、もちろん受注も承りますが、正直いつになるのかお答えできかねます」
「中身が……それは、どうしてと訊いてもいいですか?」
「もちろんでございます。私共の工房、そして、一流と言われている家具の工房では、『羊鳥シープバード』と言われている魔物の素材を原料にして家具を製作しております。その魔物はここセィ城下街とセッテの街の間にそびえる森が主な生息地なのですが、最近その魔物の素材が、冒険者ギルドに納品されなくなってしまいまして。ギルドに問い合わせたところ、職員の方が確認してくださいましたが、魔物自体は一定数いるとの事。買い取り額が低いのかと、他の工房主様たちとの話し合いの元、少しだけ報奨金を上げて掲載したのですが、やはり納品してもらえなくなっておりまして、なかなか素材が集まらず、どこの工房でも手詰まりになっております」
「成程……」
「人任せには出来ないと、仕事が減った分我々の力で集めてはいるのですが、流石に数人では効率も悪く……申し訳ありません」
「他の工房でも同じ……ということですか」
「はい。他の素材を使っている工房はその限りではないのですが、私共は素材にこだわっておりまして。これだけは譲れないのです」
俺とヴィデロさんは、揃って溜め息を呑み込んだ。
素材がないって、一大事じゃないか。
だってここ、素材のランクが命的なところあるし。
「それじゃあ……頼めないですね。素材を持ち込んでも……」
「申し訳ありません。だめでもともとで、長期で待っていて下さるお客様もおられます。素材を持ち込んだから作ってくれ、と言われて頷くことは、私共には出来かねます」
「わかりました。ありがとうございました」
ヴィデロさんは頷いて、俺に視線を向けて来た。
「ここにある物を買っていくか?」
そっと俺に訊いてきたので、俺は首を横に振った。せっかく高い買い物するのに、妥協するのは嫌じゃん。気に入った物を置きたいよね。
俺の気持ちが伝わったのか、ヴィデロさんは店員さんに頭を下げると、行こうかと俺を促した。店員さんも気を悪くするわけでもなく、最後まで申し訳なさそうにしながら、俺たちを見送ってくれた。
それにしても、素材かあ。
「どこかには、自分たちで集めた素材を持ち込めばソファーを作ってくれるって場所あるのかな」
どう思う? とヴィデロさんを見上げると、ヴィデロさんは肩を揺らした。
「今日はまだ時間があるから、魔物狩りデートに変更しようか」
素材を集めよう、とヴィデロさんは俺にウインクした。そのウインクに、俺は胸を打ち抜かれた。好き。
2,401
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。