37 / 53
第二章
36、見つけてしまった……
たしかな手ごたえを感じながら、試験用紙を教師に渡した。
多分大丈夫。一応埋めた。
「では、結果は明日、滞在先にお届けいたします」
「よろしくお願いいたします」
監督の教師に挨拶をすると、私は晴れ晴れとした気持ちで外に出た。
よし。夕方まではまだ時間がある。
街に行こう。
乗って来た馬車は、試験中ずっと待っていてくれたので、下りた場所に急ぐ。
馬車に近付くと、トレフ君ではない方の御者、バールさん(29)は、手を振って迎えてくれた。
「お疲れ様です。どうでした、試験は」
「多分大丈夫だと思うんですが、後はなるようになるです!」
「おおぅ……頼もしいですね、ローズ嬢。んじゃ、これから宿へ?」
「街にお願いしたいです。本屋に!」
「了解しました。さ、乗って下さい」
バールさんは私に手を貸してくれて、私が乗ったのを見ると、しっかりとドアを閉めて、御者台に座った。
静かに馬車が走り出す。
すっかり学園の試験を頭から消し去って、全力で楽しむことにした。
結構栄えている町並みを堪能していると、ゆっくりと馬車が止まった。
ドアが開いて、パールさんが顔を出す。
「本屋に着きましたよ」
「ありがとうございます」
お礼を言ってわくわくしながらパールさんに手を借りて馬車を降りる。
すると、目の前にはお目当ての本屋があった。
行ってらっしゃいと手を振られ、手を振り返して早速本屋のドアを開けのぞき込むと、店の中には、大きな本棚が所狭しと並んでいた。
店の中自体がそれほど大きくないからこそ、圧巻だった。
「うわぁ……」
思わず感嘆の声を上げてしまう。
その声に反応したのか、奥から人がひょこっと顔を出した。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
その人を見た瞬間に思ったのが、若いな、だった。
ちょっと跳ねた髪の毛と、人好きのする笑顔がとてもわんこっぽく。
私の中で何かの警鐘が鳴った。
「……たくさん本がありますね」
「うちは蔵書量だけは他の古書店に負けないですよ!」
問いに答えずそう返せば、私の言葉ににぱっと満面の笑みを浮かべた。
悪い人じゃないどころか、いい人っぽいのにこの危機感は何だろう、と思って、そっと鑑定を使ってみた。
『リュビ
職業:本屋の店員(アルバイト) カロッツ王立高等学園生一年(攻略中)
レベル:12
スタミナ:83%
体力:245
魔力:58
知力:69
防御:104
俊敏:168
運:45
スキル:怪力 身体強化 格闘 スルー
平民枠で王立高等学園に通っている。学費を稼ぐため本屋でバイト。ただいまヒロインに迫られているけれど持ち前の鈍感さで全く気付いていない
♡♡♡♡♡』
鑑定結果を見て、変な声を出すところだった。
待って。こっちの学園でも乙女ゲーム進行中なの?
こんな攻略対象者知らないけれど。私のやったことない乙女ゲームだったらお手上げ。
っていうか、これは試験を頑張って、その後学園に通わない方向で行かないと巻き込まれるのでは……?
冷や汗を垂らしながらそっと店員から視線を逸らす。
すると、店員は「届かないときは声をかけてね-」とちゃんと空気を読んで引っ込んでくれた。
そしてふと気付く。スキル『スルー』。
「……スルースキルか」
なるほど、狙っている女の子相手にはこれほど強力なスキルはないないね。
うんうんうなずきながら、ただ狭い棚の間を歩く。
本に目を向けても、いつものわくわくよりもまたやっかいごとがあるのかなという不安が心を占めていて、楽しさも半減してしまう。
あーあ、ここにはドッケン氏の本がないかを探しに来たのに……
ドッケン氏……
溜息を吐いて顔を上げた瞬間目に飛び込んできたのは、鮮やかな青い色の背表紙。
「あーーーー!」
思わず大声を出してしまって、慌てて口を押さえるも、攻略対象店員さんが焦ったように飛び出してきた。
「何々⁉ どうしたの!? 大丈夫?」
バタンとドアの音もして、外からバールさんも店に飛び込んで来たので、私の奇声は外まで丸聞こえだったことが判明した。
はぁ、恥ずかしすぎるし迷惑すぎる……
でもでも、これがあるんだから奇声は仕方ない、仕方ない。
「ごめんなさい。何でもないの。ただ、すっ……ごく欲しい本があって」
「あ、なぁんだ。よかった。本がなだれてきて怪我でもしたのかと……よく店長には本置きすぎって言ってるんだけどね」
「本当にごめんなさい。バールさんも、心配かけてごめんなさい」
「いや、ローズ嬢が無事ならいいんだけど、あれだけの大声出すほど欲しい本ってなんなんだ?」
興味津々という体でバールさんが近づいて来たので、早速鮮やかな青の背表紙に手を伸ばした。
本棚から本を取り出すと、愛してやまないドッケン氏の『セルゲン国旅行記』の表紙が出てきた。
学園の図書館では愛読書としていたこの本。絶対に自分でも所持したいと思っていたのだ。
ここで売っているというのはもう運命では?
「これください。他にこの方の本はないですか。あればあるだけ欲しいんですけど。あ、お金はマリウス王国のマーランド伯爵に請求をお願いします。払い渋ったらノア・マーランド宛てにお願いいたします」
「お買い上げありがとうございます! 待ってね、その著者の本を探すから」
「お願いします」
店員が本棚を探し始め、バールさんまで「ドッケンドッケン……と」と言いながら探し始めたので、自分でもドッケン氏の本がないか視線を動かす。
彼の旅行記の背表紙はどれも目が奪われるほどに鮮やかな色合いなので、わかりやすいはず、なんだけど。
セルゲン国以外のドッケン氏の本は残念ながら見つからなかった。一冊だけなら手持ちで買えるからとお金を払うと、店員が眉尻を下げて謝ってきた。
「ほんとごめんね。蔵書量は負けないなんて豪語したのに……」
「いいえ。こういうものはめぐりあわせなので、きっと今はセルゲン国のものしか必要ではないということなんだと思います」
「そっか。それ、いいね。俺もそう思うことにしよ」
私の言葉に店員さんはわんこのような笑顔を取り戻し、買った本を手際よく包んでくれた。
「また来てね。店長に『ドッケンミュドラー』の本があったら仕入れてって言っとくから」
「ありがとうございます。そこまで言われたらまた来ないといけないですね」
お互い手を振って、店を後にする。邪魔にならない場所に馬車を移動していてくれたバールさんと共に馬車に戻った私は、いそいそと乗り込んで、ドアを閉めてもらった瞬間鞄を抱きしめた。
大本命のセルゲン国の本が手に入り、気分は最高。
ちょっと気になるワードはあったけれど、学園編入試験に受かろうが学園にあまり通わない私には関係ない。
あの攻略中店員はいいわんこ……ではなく、いい人だったし、さすが顔もよかったけれど、私との関係は店員と客、ただそれだけ。
「んふふ、いい日だったわ」
語尾にハートマークがつきそうなほどルンルン気分でホテルに帰った私は、すでに用事を終わらせて待っていてくれた皆に囲まれた。
「どうだった……と聞くまでもない顔つきだな」
「本当に。ローズ様すごく嬉しそう」
「そう、そうなんですよーもう本当にうれしくて!」
じゃじゃーん、と言いそうになりながら、鞄からセルゲン国旅行記を取り出し、お披露目する。
「今日この街の本屋さんでドッケン氏の本を手に入れてしまったのです! これはもう、快挙です!」
私の言葉に、皆は一瞬訳が分からないという顔になって、その後苦笑に変わった。
「試験の出来が良かったとかそういうんじゃないんだな」
「僕たちが心配していたのは、今日の編入試験だったんだが……」
「あ、そっちはまあいい感じだったとは思います」
ぐっとこぶしを握れば、アレックス殿下が笑い始めた。
「心配するだけ無駄だった」
「ほら、ローズ様は肝が据わっておりますから」
「違いない」
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
この優しさには絶対に裏がある!~激甘待遇に転生幼女は混乱中~
たちばな立花
ファンタジー
処刑された魔女が目を覚ますと、敵国の王女レティシアに逆行転生していた。
しかも自分は――愛され王女!?
前世とは違う扱いに戸惑うレティシア。
「この人たちが私に優しくするのは絶対に何か裏があるはず!」
いつも優しい両親や兄。
戸惑いながらも、心は少しずつ溶けていく。
これは罠? それとも本物の“家族の愛”?
愛を知らないレティシアは、家族の無償の愛に翻弄されながらも成長していく。
疑り深い転生幼女が、初めて“幸せ”と出会う――
じんわり心あたたまる、愛されファンタジー。
他サイトでも掲載しています。
ざまぁされるための努力とかしたくない
こうやさい
ファンタジー
ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。
けどなんか環境違いすぎるんだけど?
例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。
作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。
中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。
……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。
倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。
でも、ヒロイン(転生者)がひどい!
彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉
シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり!
私は私の望むままに生きます!!
本編+番外編3作で、40000文字くらいです。
⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。