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第二章
46、悪役令嬢対策
文化祭は私がちゃんと参加しないといけない学校行事である。実力試験の方がまだ楽だと思う。
次の日には、学園から勇者たちの予定確認の連絡があり、ギルドに指名依頼が出された。
流石公爵令嬢。仕事が早い。
「指名依頼の料金、Aランク魔物を倒した値段の十倍くらいなんだけど……」
色々と動いてくれたアレックス殿下が、げんなりした顔で指名依頼書を開いた。
皆でそれを囲んで、眉をしかめる。
「公爵令嬢で、第一王子の婚約者だろ。これ俺が王族じゃなかったら断れないヤツじゃないか? やり方がえげつない」
アレックス殿下がふーっと重い溜息を吐く。
そういえば私、彼女の情報出したっけ? 全然出してない気がする。
個人情報だけど、流石にねえ。
「彼女を鑑定したんですけど、その結果を聞きたいですか?」
私の言葉に、四人は即座に頷いた。
「彼女は、称号が『悪役令嬢』となってました。勇者を使うことで第一王子から第二王子への婚約者の乗り換えをしたいそうです。流石悪役令嬢の考えることですね」
「悪役令嬢?」
「まあ、それはちょっといただけませんわね……」
「婚約者乗り換えとか、常識がないのか」
「ってか、あの女ヤベえヤツだったのか……」
四人ともさらに険しい顔つきになった。むしろザッシュ様は柱の陰から見ていたマリーウェル様を知っているから、うわぁ、という顔になっている。
「俺たちをどうやって使う気なのかは、ローズ嬢は鑑定で読み取れなかったのか?」
「そうですね。わからないですが、想像できるのは、自身の婚約者である第一王子を追い落として、そのまま第二王子を王太子二することで自分の立ち位置をそのままに婚約者だけ変更……とか?」
「うわあ、さらにえげつな……」
ザッシュ様はすっかりドン引きである。まあねえ。私もかなりドン引きだったからねえ。今の発言は私の単なる想像でしかないけれど、全力で外れていて欲しい。
「この国の第一王子はかなりいい奴だよ。性格は悪くないし、人当たりもいい。民からも慕われていて、よく街でばったり会うよ。街の様子を自分の目で見たいんだって言って。ただ、側妃様の第一子なのが満場一致にならない理由ってだけかな。第二王子は王妃の第一子だな。この国は生まれ順で継承位が高くなるから、第一王子が継承権第一位だったはず」
「うわアレックス殿下流石。くわしい」
「流石に少しは交流があるからね。第二王子も、自分が王位に就こうとなんて思ってないみたいだし」
「じゃあもしかして、この公爵令嬢が上手くいってる王宮内部をかき回そうとしている感じなのか……これは断った方がいいかもしれないな。グロリア嬢がここの王宮のゴタゴタに巻き込まれるのはダメだ」
シーマ様がうーんと唸りながら依頼書を指でトントンと叩く。
「でも悪役令嬢っていうのが気になるな。悪役令嬢って響きからしてよくないし」
そっか。こっちでは悪役令嬢って言う言葉が馴染みないんだ。
そうだよね、性格悪いご令嬢だって悪役令嬢とは言わないもんね。
「悪役令嬢というのは、高位貴族のご令嬢によくある、ご自分の意思を通すためなら悪いことも悪いと思わず、しばしば問題を起こすご令嬢のことです。そしてご自分は悪いことをしたとは微塵も思っておらず、高位貴族の私が一番正しい、と思っているような方です。多分、大雑把に説明しますと……」
ヒロインちゃんを邪魔するご令嬢のとこです、と説明することはできず、それっぽくふわっと説明すると、全員がちゃんと納得してくれた。殿下などは腕を組んで「どこにでもいるんだなあそういうご令嬢」と苦笑している。うちの国にもいるしね。グロリア様のような天使は高位貴族にはなかなかいないと思う。
「だったら、ありもしない罪を第一王子に突きつけて婚約を破棄、第二王子に乗り換えるとかも普通にやりそうだな」
「こわっ」
ザッシュ様が腕をさすって一言呟く。私もまったく同じ気持ちだった。
それで、依頼はどうするんだろう。私としては、婚約破棄の道具にして欲しくないから断って欲しいところなんだけど。
溜め息を呑み込んでいると、殿下が「うん、決めた」と頷いた。
「とりあえずこの依頼は受けよう。ローズ嬢に矛先が行きそうで怖いからね」
「殿下? 私は別に大丈夫ですよ? 来月から隣国に行く予定ですし! セルゲン国に行けるというご褒美があれば、私は何の問題もありません!」
ぐっと拳を握りしめて主張すると、殿下は「ダメだろ」と苦笑した。
「ローズ嬢は立場こそ一人だけ留学生だけど、もう俺たちの仲間なんだからな。むしろ一番中心」
「本当に。ローズ嬢のおかげで僕はグロリア嬢とこ、こ、婚約者になれたくらいだし」
「一緒に菓子巡りしたいし」
「私のドジを完璧にフォローしてくださるのは、ローズ様しかいませんわ」
四人にまくし立てるように詰め寄られて、私はタジタジしながらも胸に温かいものがこみ上げてきた。
仲間、ちょっと嬉しい。勇者仲間……そういえば私も勇者だった。忘れてた……。
現実を一気に思い出し、私は遠い目をしたのだった。
「皆様、聞いて下さいまし。勇者様がたからお返事をいただきました」
次の日のホームルーム。マリーウェル様はキラキラした目で皆に依頼書を掲げて見せた。
殿下が早速返事をしたからだ。
けれど、受けるための条件が付いている。それをどんな風に発表するのか、どんな話し合いが持たれるのかを教えてくれと殿下からは頼まれている。なので、私は今回勇者のスパイだ。
「勇者様がたからは、色よいお返事をいただいております。つきましては、詳しく内容を決めていこうと思いますので、先生、お時間をいただいてもよろしいでしょうか」
「まあ、一限はここだ。好きに使いなさい」
先生の答えを当然のように受け止め、マリーウェル嬢はコツコツと机の間を歩き、教卓に立った。
仕切る気満々だった。まるでクラス委員長のようだ。
「勇者様がたからは、学園祭にお越しいただけるという返答をいただきました。私の家の力を持ってすれば、このように、マーランド様に頼まなくても勇者様がたは動いて下さるということですわ」
フッと笑いそうになって、そっと口元を押さえる。
得意げな顔でこっちを見ているマリーウェル嬢は、すっかり私にロックオンした悪役令嬢だった。それはもう見事なほどに。
ヒロインの狙いはリュビさんで、多分この流れだと第一王子ルートじゃないから本来であればマリーウェル嬢は悪役令嬢ではなくモブだったと思うんだけど。
私がヒロインってこと? ライバルの次はヒロインの立ち位置? 間違えない? 流石にもう少しヒロインだったら外見を見て欲しい。私はモブがお似合いだし、モブが大好きなのですが。
クラス内は、勇者が来るということで浮足立ったようにざわざわしている。
「俺、目の前で剣技がみたいな。勇者さまってくらいだから強いんだろう?」
「私、勇者様へ聞きたいことがたくさんあるんですの。お好きなものとか、お好きな女性像とか……」
「うちのお茶会に呼んでもなかなかお忙しいらしく、いつならお暇なのかを聞きたいですわ」
「クラブに臨時顧問として来てくれるよう頼みたい」
皆思い思いの発言をしているけれど、マリーウェル嬢がパンパンと手を叩いたことによって、クラスが一瞬にして静まった。
「貴重なご意見ありがとうございます。まず皆様に伝えなければならないことがあります。勇者様がたは、ここに来て下さる条件として、『精霊に関する資料や知識など、情報があるのなら』と提案してきました」
静かだったクラス内は、またしてもざわめきが広がった。
皆が顔を見合わせて、精霊、と呟いている。
そっと一番前の席の女生徒が手を上げた。
「あの、風の精霊様の話をお伝えしてはいかがでしょうか……」
言葉の途中から、マリーウェル嬢にぎろりと睨まれ、女生徒の言葉尻が消えていく。
ふん、と鼻を鳴らしたマル――ウェル様は、眉をハの字にして口角を上げた。これぞまさに悪役、という表情だった。
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