28 / 44
逃亡と追跡
「マズい……マズいぞ、これは……」
ヘアルスト王国の一角。
友である商人が構える居に、ユリスとアマリスが潜伏していた。
ファーバーやデュッセルの予想通り、二人は逃げたのだった。
誕生祭に出かけるために適当に書いた書類。それに対して、あまりに多くの商人や貴族から非難の書状が届いた。
ここまで大事になるとはユリスも思っておらず、彼は混迷の極みにある。
「大丈夫よ、ユリス様! 何とかなるわ!」
「何とかなるって……どうにもならないから、こうやって隠れてるんだろう? ああ……金もないし……」
三週間前の誕生祭で、ほとんどの所持金はアマリスに貢いでしまった。
今は目深にフードを被って逃げているが、警備の目が厳しくなれば外に出ることは敵わなくなるだろう。
アマリスの実家に逃げることも考えたが、当然そこも警備が敷かれているはず。
ほとぼりが冷めるまでここで匿ってもらうしかない。
窮屈な部屋の中、アマリスは不満を漏らす。
「でも、王族が作った書類に文句を言うのはおかしいんじゃないかしら? 間違いがあったとしても、それを指摘するのは不敬というものよ!」
「そ、そうだよな……わざわざ俺が書類を作ってやったのに、やれ桁が違うだの、やれ間違いが多すぎるだの……」
今まで、彼の政務はすべてシャンフレックが消化してきた。
その手腕が完璧だったために、周囲の者はみなユリスが完璧に政務のできる人間だと勘違いしていたのだ。シャンフレックは自分がユリスの代行で仕事をしていることを、明かしていなかった。
「ダメだ……やっぱりシャンフレックの手助けが必要だ。アマリス、一緒にフェアシュヴィンデ家に来てくれるか? あいつと何とか交渉して、仕事を請けてもらうしかない」
「えー……」
アマリスは乗り気ではなかった。
せっかく堂々と婚約破棄させて王子を手に入れたのに、あの公爵令嬢に頭を下げるのは納得できない。何か他の手はないものか。
「シャンフレック様は新たな婚約者がいるのでしょう? 無闇に会いにいくのはよろしくないのでは?」
ユリスはシャンフレックの婚約者が教皇だと明かしてはいない。
ただ、彼女に新たな婚約者が出来たとだけ説明していた。
「ま、まぁそうだけど……他に解決手段が見つからなくてな……」
今後の政務を円滑にするだけなら、新たに人を雇えばいい。
だが、今回逃げた件について庇ってくれそうなのは、シャンフレックくらいしか思いつかなかった。
「わかったわ。でも元婚約者に会ったからといって、私への愛が薄れたりしませんよね?」
「も、もちろん! 俺の真実の愛は、君一人だけに注ぐものだ! さあ、行こう!」
ユリスとアマリスは隠れ家を抜け出し、警備が緩いうちにフェアシュヴィンデ領へ向かった。
***
一方、デュッセルは弟の捜索に動き出していた。
「さて。フェアリュクト、君の意見を仰ぎたい」
いつも通り傍に控えている護衛に尋ねる。
フェアリュクトはしばし考えてから答えた。
「……ユリス王子が頼りにする人物といえば?」
「あまり弟の人間関係は把握していないが……普段から夜会で遊んでいる貴族は多くいる。彼らを総当たりするのは骨が折れるな。とはいえ、誰の協力もなしにユリスが隠れられているとは思えない。考え得るところとしては、ウンターガング家あたりか?」
ユリスの逃亡を庇い立てすることは、王家への反逆にもなり得る。
そんなリスクを貴族が取るだろうか。
フェアリュクトは逃亡先についてより深く考察。
「おそらく貴族連中はユリスを庇い立てしないだろう。アマリス男爵令嬢の実家も探ってみたが、二人は来ていないようだったな。ならば……あの馬鹿王子の性格を考えるに。フェアシュヴィンデ家に行った方がいいかもしれんな」
「フェアシュヴィンデ家に? まさかシャンフレック嬢をまだ頼りにすると?」
「普通、自分から婚約破棄した相手に頼ることはないだろう。だがあの王子には常識が通用しない。まだ自分がシャルに好かれているとでも勘違いしていそうだ。万が一シャルに何かあれば、俺が叩き斬ってやる」
剣呑な雰囲気を放つフェアリュクトを前に、デュッセルは苦笑いした。
しかし彼の言も一理ある。
公爵令嬢の庇い立てがあれば、今回の一件もどうにかなると考えている可能性もある。
それがユリスだった。
「とりあえず、フェアシュヴィンデ家も警戒させておこう。フェアリュクト、君はどうする? 今回は私のもとを離れて単独行動してくれても構わないが」
「……考えさせてくれ」
妹がとにかく心配だ。
だが、何度も護衛の任を放棄して領地に帰るわけにもいかない。
フェアリュクトは複雑な心持で俯いた。
ヘアルスト王国の一角。
友である商人が構える居に、ユリスとアマリスが潜伏していた。
ファーバーやデュッセルの予想通り、二人は逃げたのだった。
誕生祭に出かけるために適当に書いた書類。それに対して、あまりに多くの商人や貴族から非難の書状が届いた。
ここまで大事になるとはユリスも思っておらず、彼は混迷の極みにある。
「大丈夫よ、ユリス様! 何とかなるわ!」
「何とかなるって……どうにもならないから、こうやって隠れてるんだろう? ああ……金もないし……」
三週間前の誕生祭で、ほとんどの所持金はアマリスに貢いでしまった。
今は目深にフードを被って逃げているが、警備の目が厳しくなれば外に出ることは敵わなくなるだろう。
アマリスの実家に逃げることも考えたが、当然そこも警備が敷かれているはず。
ほとぼりが冷めるまでここで匿ってもらうしかない。
窮屈な部屋の中、アマリスは不満を漏らす。
「でも、王族が作った書類に文句を言うのはおかしいんじゃないかしら? 間違いがあったとしても、それを指摘するのは不敬というものよ!」
「そ、そうだよな……わざわざ俺が書類を作ってやったのに、やれ桁が違うだの、やれ間違いが多すぎるだの……」
今まで、彼の政務はすべてシャンフレックが消化してきた。
その手腕が完璧だったために、周囲の者はみなユリスが完璧に政務のできる人間だと勘違いしていたのだ。シャンフレックは自分がユリスの代行で仕事をしていることを、明かしていなかった。
「ダメだ……やっぱりシャンフレックの手助けが必要だ。アマリス、一緒にフェアシュヴィンデ家に来てくれるか? あいつと何とか交渉して、仕事を請けてもらうしかない」
「えー……」
アマリスは乗り気ではなかった。
せっかく堂々と婚約破棄させて王子を手に入れたのに、あの公爵令嬢に頭を下げるのは納得できない。何か他の手はないものか。
「シャンフレック様は新たな婚約者がいるのでしょう? 無闇に会いにいくのはよろしくないのでは?」
ユリスはシャンフレックの婚約者が教皇だと明かしてはいない。
ただ、彼女に新たな婚約者が出来たとだけ説明していた。
「ま、まぁそうだけど……他に解決手段が見つからなくてな……」
今後の政務を円滑にするだけなら、新たに人を雇えばいい。
だが、今回逃げた件について庇ってくれそうなのは、シャンフレックくらいしか思いつかなかった。
「わかったわ。でも元婚約者に会ったからといって、私への愛が薄れたりしませんよね?」
「も、もちろん! 俺の真実の愛は、君一人だけに注ぐものだ! さあ、行こう!」
ユリスとアマリスは隠れ家を抜け出し、警備が緩いうちにフェアシュヴィンデ領へ向かった。
***
一方、デュッセルは弟の捜索に動き出していた。
「さて。フェアリュクト、君の意見を仰ぎたい」
いつも通り傍に控えている護衛に尋ねる。
フェアリュクトはしばし考えてから答えた。
「……ユリス王子が頼りにする人物といえば?」
「あまり弟の人間関係は把握していないが……普段から夜会で遊んでいる貴族は多くいる。彼らを総当たりするのは骨が折れるな。とはいえ、誰の協力もなしにユリスが隠れられているとは思えない。考え得るところとしては、ウンターガング家あたりか?」
ユリスの逃亡を庇い立てすることは、王家への反逆にもなり得る。
そんなリスクを貴族が取るだろうか。
フェアリュクトは逃亡先についてより深く考察。
「おそらく貴族連中はユリスを庇い立てしないだろう。アマリス男爵令嬢の実家も探ってみたが、二人は来ていないようだったな。ならば……あの馬鹿王子の性格を考えるに。フェアシュヴィンデ家に行った方がいいかもしれんな」
「フェアシュヴィンデ家に? まさかシャンフレック嬢をまだ頼りにすると?」
「普通、自分から婚約破棄した相手に頼ることはないだろう。だがあの王子には常識が通用しない。まだ自分がシャルに好かれているとでも勘違いしていそうだ。万が一シャルに何かあれば、俺が叩き斬ってやる」
剣呑な雰囲気を放つフェアリュクトを前に、デュッセルは苦笑いした。
しかし彼の言も一理ある。
公爵令嬢の庇い立てがあれば、今回の一件もどうにかなると考えている可能性もある。
それがユリスだった。
「とりあえず、フェアシュヴィンデ家も警戒させておこう。フェアリュクト、君はどうする? 今回は私のもとを離れて単独行動してくれても構わないが」
「……考えさせてくれ」
妹がとにかく心配だ。
だが、何度も護衛の任を放棄して領地に帰るわけにもいかない。
フェアリュクトは複雑な心持で俯いた。
あなたにおすすめの小説
【完結】その令嬢は可憐で清楚な深窓令嬢ではない
まりぃべる
恋愛
王都から少し離れた伯爵領地に住む、アウロラ=フランソンは領地の特産物である馬を領民と共に育てている。
一つ上の兄スティーグは学友から、妹を紹介しろと言われるが毎回断っていた。そしてその事を、寮から帰ってくる度に確認される。
貴族で伯爵家の娘であるアウロラは、そのうちいつかはどこかの家柄の男性と結婚をしなければならないのだと漠然と思っている。ワガママが許されるのなら、自分の好きな乗馬は止めたくなかったし結婚はしたくなかったけれども。
両親は好きにすればいいと思っていたが、父親の知り合いから結婚の打診が来て、まずは会うだけならと受けてしまった。
アウロラは、『仕方ない…いい人だといいなぁ』と思いながら会い、中身を知ろうとまずは友人から始めようと出掛ける事になるのだが、なかなか話も噛み合わないし価値観も違うため会話も出来ない。
そんな姿を見てか相手からは清楚だなんだと言われていたが、相手がある女性を助けた事で「僕達別れよう」と一方的に言われることになった。
あまりの事に驚くが、アウロラもまたある男性と出会い、そして幸せになるお話。
☆★
・まりぃべるの世界観です。現実とは常識も考え方も似ているところもあれば、全く違う場合もあります。単語や言葉も、現実世界とは意味や表現が若干違うものもあります。
・人名、地名など現実世界と似たもしくは同じようではありますが全く関係ありません。
・王道とは違う、まりぃべるの世界観です。それを分かった上で、暇つぶしにでも楽しんでもらえるととても嬉しいです。
・書き終えています。順次投稿します。
「愛があれば十分だ」と私を捨てた婚約者へ――では、その婚約破棄の条件から確認いたしましょう
師走
恋愛
伯爵令嬢リディア・エーヴェルは、貴族たちの婚約や離縁、持参金や相続に関わる条件調整を陰でまとめてきた実務家だった。
だがある夜会で、婚約者である王太子側近ユリウス・グランツから「君は条件ばかりで冷たい。愛があれば契約などいらない」と一方的に婚約破棄されてしまう。
静かに婚約破棄を受理したリディアは、その場で持参金返還、贈与品、名誉回復の文言など必要事項の確認を始めるが、誰もその意味を理解しない。
けれど彼女が婚約から外れた直後から、王都では縁談、婚約、離縁の調整が次々と滞り始める。今まで多くの案件を陰でまとめていたのは、ほかでもないリディアだったのだ。
そんな中、法務局の裁定官補佐セオドア・ヴァレントから、王女ヘレナの婚姻条件を見直してほしいと依頼が舞い込む。
北方大公家との政略結婚。けれど提示された条件は、婚姻ではなく人質の引き渡しに等しいものだった。
「条件は愛の代わりではありません。ですが、愛が壊れたときに人を守ることはできます」
傷つきながらも再び交渉の場に立つリディアは、王女の未来を守るため、そして自分自身の人生を取り戻すため、契約と誠意を武器に王都最大の婚姻交渉へ挑む。
一方、自分を支えていたものの大きさに気づいた元婚約者は、今更になって復縁を望み始めるが――。
小説家になろう様でも掲載中
魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~
糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」
「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」
第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。
皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する!
規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
【完結】冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~
夢喰るか
恋愛
名門貴族フォンティーヌ家の長女エリアナは、継母と美しい義妹リリアーナに虐げられ、自分の価値を見失っていた。ある日、「悪魔公爵」と恐れられるアレクシス・ヴァルモントとの縁談が持ち込まれる。厄介者を押し付けたい家族の思惑により、エリアナは北の城へ嫁ぐことに。
灰色だった薔薇が、愛によって真紅に咲く物語。
【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」
婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からなくなっていました。
婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2022/02/15 小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位
2022/02/12 完結
2021/11/30 小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位
2021/11/29 アルファポリス HOT2位
2021/12/03 カクヨム 恋愛(週間)6位