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窮地
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アルージエに救出されたシャンフレック。
彼女はユリスたちを退け、牢から脱走していった。
「これは……大変なことになった! アマリス、今すぐシャンフレックを追うぞ!」
「えっ……い、嫌よ! あんな奇跡を使う教皇を追いかけるなんて……」
二人が足踏みしていると、何か鈍い音が地上から響いた。
大勢の足音……だろうか。
よく聞いてみると、鋼の打ち合う音も聞こえてくる。
ユリスは耳を澄まし、怪訝な表情を浮かべた。
「なんだ? 地上で何が起こってるんだ?」
「たぶんバンディトの一団よ。ゲリセンが雇ってる山賊団で……たぶん事を隠せなくなったから、山賊を動員したんじゃないかしら?」
「なっ……!? バンディトの山賊といったら、超凶悪で有名な賊じゃないか!」
ユリスはゲリセンが山賊を雇用していることを知らなかった。
一方、アマリスは知っていた。
それどころか、彼女の実家である男爵家も山賊と談合しているのだ。
音を聞く限り、かなりの大人数が地上で走り回っている。
ユリスは顔を蒼白にして後退った。
「あ、兄上やシャンフレックは無事なのか? それに教皇聖下の身に何かあったら……ヘアルストはルカロに潰されてしまうぞ!」
「大丈夫よ。ゲリセンほどの大商人なら、事故に見せかけた隠蔽は得意よ。今までも大貴族を何度も始末して事故に偽装してきたもの」
あまりに堂々と殺人を推奨するアマリスに、ユリスは恐怖してしまう。
ユリスも馬鹿なりに兄を敬う心は持っていた。
ゆえに、この状況はあまりに想定外。
彼はあまりに大規模な事態に放心して座り込んだ。
***
牢屋からひそかに抜け出したシャンフレックは、外の光景に一驚した。
大勢の騎士団と神殿騎士が敷地内に入り込み、謎の一団と交戦している。
一団は服装を見るに正規部隊ではないだろう。
「これは……何が起こっているの!?」
「ウンターガング家の私兵が暴れているのだろう。おそらく、デュッセル王子が戦いを起こしたな。あの王子のことだから、心配は無用かもしれないが……無事であるように祈ろう」
自分ひとりのせいで、ここまで大事になってしまったのか。
シャンフレックは起こってしまった争いに立ち尽くす。
そんな彼女の心情を察したアルージエ。
彼は言い聞かせるように語る。
「この騒動は、たしかにきみを救出するという名目もあった。しかし、ユリス王子とアマリス嬢の追跡、また山賊を要する大商家の啓発の側面もある。ウンターガング家と王家の争いが起こるのは必然であっただろう。問題は、この争いがヘアルスト崩壊の原因になるかどうかだが」
啓示が示した危機。
それは恐らく、デュッセルとユリスの王子たちが命を失う可能性だ。
仮に王族が暗殺されれば、大規模な戦争になることは避けられない。
ウンターガング家は帝国とも関わりがある以上、国内の問題だけでは済まされないのだ。
「……そうね。今は家に帰ることを考えましょう。お父様とお母様も心配しているわ」
眼下に広がる戦火を見据え、一人でも多くの兵が無事であるようにシャンフレックは祈った。
アルージエは彼女手を引いて駆け出す。
「行こう。連中の狙いはデュッセル王子とシャンフレックだ。見つかるわけにはいかない」
身を屈めて二人は疾走する。
大勢力の山賊を擁しているとは言っても、正規の騎士団には程遠い。
時間が経てば趨勢はデュッセルの騎士団に傾くかと思われるが……
「シャンフレック、下がれ!」
アルージエが咄嗟に手を引き、シャンフレックを後方に庇う。
山賊の一団が前に躍り出た。
「その姿……シャンフレック・フェアシュヴィンデだな!?」
「標的が見つかるとはツイてるぜ!」
混戦の最中、アルージエとシャンフレックは孤立している。
数名の山賊を相手に、騎士なしで応戦するのは危険すぎる。
「逃げるわよ、アルージエ」
「……可能ならばそうしたいところだがな」
シャンフレックは後方に引き返すことを推奨。
しかし、アルージエには見えないモノが見えていた。
奇跡による千里眼。
後方からもさらに大規模な敵勢力が迫っていることを見据えていたのだ。
護身用のレイピアを抜いたアルージエは賊に相対する。
「退け。デュッセル第一王子率いる兵団に勝ち目があると思っているのか?」
アルージエの忠告を受けた賊は喉を愉快そうに鳴らした。
どうやら脅しは通用しないらしい。
「クククッ……勝てるさ。ここが王都に近い場所なら負けていただろうけどな。過程がどうあろうが、デュッセル王子が亡き者になれば……次はユリス王子が玉座に座ることになる! そうすればゲリセンの旦那の地位も上がって、俺らもさらにデカくなれる!」
「──なるほど。それがウンターガング家の企みか。教皇である僕の前で述べた事実は、奇跡によりいつでも明らかにすることができる」
証拠は得た。
賊の言葉により、後ほどアルージエの奇跡で証言を復元することができる。
残る問題はただ一つ。
この窮地をいかにして切り抜けるか。
彼女はユリスたちを退け、牢から脱走していった。
「これは……大変なことになった! アマリス、今すぐシャンフレックを追うぞ!」
「えっ……い、嫌よ! あんな奇跡を使う教皇を追いかけるなんて……」
二人が足踏みしていると、何か鈍い音が地上から響いた。
大勢の足音……だろうか。
よく聞いてみると、鋼の打ち合う音も聞こえてくる。
ユリスは耳を澄まし、怪訝な表情を浮かべた。
「なんだ? 地上で何が起こってるんだ?」
「たぶんバンディトの一団よ。ゲリセンが雇ってる山賊団で……たぶん事を隠せなくなったから、山賊を動員したんじゃないかしら?」
「なっ……!? バンディトの山賊といったら、超凶悪で有名な賊じゃないか!」
ユリスはゲリセンが山賊を雇用していることを知らなかった。
一方、アマリスは知っていた。
それどころか、彼女の実家である男爵家も山賊と談合しているのだ。
音を聞く限り、かなりの大人数が地上で走り回っている。
ユリスは顔を蒼白にして後退った。
「あ、兄上やシャンフレックは無事なのか? それに教皇聖下の身に何かあったら……ヘアルストはルカロに潰されてしまうぞ!」
「大丈夫よ。ゲリセンほどの大商人なら、事故に見せかけた隠蔽は得意よ。今までも大貴族を何度も始末して事故に偽装してきたもの」
あまりに堂々と殺人を推奨するアマリスに、ユリスは恐怖してしまう。
ユリスも馬鹿なりに兄を敬う心は持っていた。
ゆえに、この状況はあまりに想定外。
彼はあまりに大規模な事態に放心して座り込んだ。
***
牢屋からひそかに抜け出したシャンフレックは、外の光景に一驚した。
大勢の騎士団と神殿騎士が敷地内に入り込み、謎の一団と交戦している。
一団は服装を見るに正規部隊ではないだろう。
「これは……何が起こっているの!?」
「ウンターガング家の私兵が暴れているのだろう。おそらく、デュッセル王子が戦いを起こしたな。あの王子のことだから、心配は無用かもしれないが……無事であるように祈ろう」
自分ひとりのせいで、ここまで大事になってしまったのか。
シャンフレックは起こってしまった争いに立ち尽くす。
そんな彼女の心情を察したアルージエ。
彼は言い聞かせるように語る。
「この騒動は、たしかにきみを救出するという名目もあった。しかし、ユリス王子とアマリス嬢の追跡、また山賊を要する大商家の啓発の側面もある。ウンターガング家と王家の争いが起こるのは必然であっただろう。問題は、この争いがヘアルスト崩壊の原因になるかどうかだが」
啓示が示した危機。
それは恐らく、デュッセルとユリスの王子たちが命を失う可能性だ。
仮に王族が暗殺されれば、大規模な戦争になることは避けられない。
ウンターガング家は帝国とも関わりがある以上、国内の問題だけでは済まされないのだ。
「……そうね。今は家に帰ることを考えましょう。お父様とお母様も心配しているわ」
眼下に広がる戦火を見据え、一人でも多くの兵が無事であるようにシャンフレックは祈った。
アルージエは彼女手を引いて駆け出す。
「行こう。連中の狙いはデュッセル王子とシャンフレックだ。見つかるわけにはいかない」
身を屈めて二人は疾走する。
大勢力の山賊を擁しているとは言っても、正規の騎士団には程遠い。
時間が経てば趨勢はデュッセルの騎士団に傾くかと思われるが……
「シャンフレック、下がれ!」
アルージエが咄嗟に手を引き、シャンフレックを後方に庇う。
山賊の一団が前に躍り出た。
「その姿……シャンフレック・フェアシュヴィンデだな!?」
「標的が見つかるとはツイてるぜ!」
混戦の最中、アルージエとシャンフレックは孤立している。
数名の山賊を相手に、騎士なしで応戦するのは危険すぎる。
「逃げるわよ、アルージエ」
「……可能ならばそうしたいところだがな」
シャンフレックは後方に引き返すことを推奨。
しかし、アルージエには見えないモノが見えていた。
奇跡による千里眼。
後方からもさらに大規模な敵勢力が迫っていることを見据えていたのだ。
護身用のレイピアを抜いたアルージエは賊に相対する。
「退け。デュッセル第一王子率いる兵団に勝ち目があると思っているのか?」
アルージエの忠告を受けた賊は喉を愉快そうに鳴らした。
どうやら脅しは通用しないらしい。
「クククッ……勝てるさ。ここが王都に近い場所なら負けていただろうけどな。過程がどうあろうが、デュッセル王子が亡き者になれば……次はユリス王子が玉座に座ることになる! そうすればゲリセンの旦那の地位も上がって、俺らもさらにデカくなれる!」
「──なるほど。それがウンターガング家の企みか。教皇である僕の前で述べた事実は、奇跡によりいつでも明らかにすることができる」
証拠は得た。
賊の言葉により、後ほどアルージエの奇跡で証言を復元することができる。
残る問題はただ一つ。
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