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協力者
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ミレイユがテオドールの依頼を受けてから数日後。
王都の一角に居を構える薬屋では。
「まったく……またミレイユは休みかい!?」
店長のシュゼットが怒号を張り上げる。
ここしばらくミレイユは欠勤続きだ。
彼女に調合させていた薬の在庫も切れてきて、思うように商品が売れない。
店を少ない労働力で切り盛りし、ミレイユにばかり調薬を任せていた裏目が出た。
シュゼットが嘆息していると店の裏手から声が上がった。
「ねえ、お母さーん! この薬、なんか効果がないんだけど?」
「はぁ……何回教えたらわかるんだい、アンタは」
娘のロゼールはまたもや調薬に失敗したようだ。
これではまともに薬を作れない。
ロゼールは黒ずんだ液体を見て、面倒くさそうに舌打ちした。
「あいつ……ミレイユが休んでるのが悪いんじゃない! あいつが休まなければ、あたしだってこんな苦労しなくて済むのにさ……」
「たしかにねぇ。あたしらに仕事を押しつけるなんて、ミレイユは恩を仇で返す気かい? せっかく働ける場所を用意してやったって言うのに」
母子はミレイユに対する罵言をひたすらに吐く。
彼女たちはミレイユに働く場を用意してやったと、高慢な考えを抱いていた。
◇◇◇◇
一方ミレイユは。
「うーん……?」
王都の繁華街にある薬師のギルドで研究を続けていた。
テオドールからもらった金貨のおかげで、研究費用には事欠かない。
しかしどこから着手すればいいものか悩んでいた。
「おや……ミレイユさん。最近はよくギルドに来ていますね」
不意に声がかかり、ミレイユは顔を上げる。
視線の先には老年の男性がいた。
熟練の薬師として名高い王都の有名人。
名をアントナンという。
「アントナンさん、おはようございます。今、とある薬を発明しようとしていて……」
「なるほど。未知の可能性に挑むのは喜ばしいことですね。そういえば……ミレイユさんが働かているお店は大丈夫でしょうか?」
「今はこちらの方が優先なので。あの職場で働いていたら、託された薬の開発が遅れてしまいます」
あの過酷すぎる職場ではテオドールの命を果たせない。
別の場所で働いていたら、猫になる薬の発明ももっと早まっていただろう。
それに、雀の涙程度しかもらえない職場で働く意味もない。
テオドールから充分すぎるほどの研究資金をもらったのだから。
「ところでミレイユさんは、どういう薬の開発を?」
「ええと……レクサリア病の治療薬、なんですけど……」
ミレイユは気後れした様子で言った。
レクサリア病と聞いた瞬間、アントナンの顔が驚きに染まる。
「なんと……!」
「や、やっぱり無理難題でしょうか。私なんかにできるとは思えなくて……」
レクサリア病は多くの人が頭を悩ませている難病。
そう簡単に治療薬ができたら苦労しない。
どう着手したらいいのかわからず、悲嘆に暮れるミレイユ。
そんな彼女にアントナンは優しく声をかけた。
「そんなことはありませんよ。薬師の役目とは、不可能を可能にして人々を救うこと。たしかにレクサリア病の治療薬は発明されていませんが……だからこそ、挑む価値がある。それが現実となったとき、とても多くの人が救われるのですから」
アントナンが名を馳せたのは、かつて新たな治療薬を発明したからだ。
難病に罹った家族を救うために彼は薬師の道を志した。
そして……今、ミレイユも高き壁に立ち向かおうとしている。
そんな彼女の姿勢にアントナンは懐かしいものを覚えた。
「私も手を貸しましょうか。一人ではできることも限られるでしょう?」
「え、よろしいのですか……? アントナンさんは忙しいのでは……」
「いえいえ。余生の中で、少しでも人の役に立てる機会があるのなら。ぜひとも協力させてください」
これは予想外の展開だ。
アントナンほど経験豊富で有名な薬師に手を貸してもらえれば、研究がかなり進むはず。
記憶をたどり、アントナンはレクサリア病について思い出す。
「レクサリア病……意識に障害が生じ、末期には植物状態になってしまう病ですね。発生したのはたしか四十年ほど前からでしたか……」
「はい。でも、原因は明らかになってないんですよね」
「ええ。私の知り合いにかけ合い、レクサリア病に関する文献を集めてみましょうか」
「助かります……! どうしても資料が見つからなくて、行き詰まっていたので」
病や歴史に関する文献は、平民では滅多に閲覧できない。
そういった文献は大抵貴族が保有しているからだ。
猫になって貴族街へ忍び込んでも、本を読むことなどできないし……。
アントナンならば貴族や学者の知り合いも多く、情報を多く集められることだろう。
希望が見えてきた。
これはテオドールに良い報告ができるかもしれない。
そう思い、ミレイユは口元をほころばせた。
王都の一角に居を構える薬屋では。
「まったく……またミレイユは休みかい!?」
店長のシュゼットが怒号を張り上げる。
ここしばらくミレイユは欠勤続きだ。
彼女に調合させていた薬の在庫も切れてきて、思うように商品が売れない。
店を少ない労働力で切り盛りし、ミレイユにばかり調薬を任せていた裏目が出た。
シュゼットが嘆息していると店の裏手から声が上がった。
「ねえ、お母さーん! この薬、なんか効果がないんだけど?」
「はぁ……何回教えたらわかるんだい、アンタは」
娘のロゼールはまたもや調薬に失敗したようだ。
これではまともに薬を作れない。
ロゼールは黒ずんだ液体を見て、面倒くさそうに舌打ちした。
「あいつ……ミレイユが休んでるのが悪いんじゃない! あいつが休まなければ、あたしだってこんな苦労しなくて済むのにさ……」
「たしかにねぇ。あたしらに仕事を押しつけるなんて、ミレイユは恩を仇で返す気かい? せっかく働ける場所を用意してやったって言うのに」
母子はミレイユに対する罵言をひたすらに吐く。
彼女たちはミレイユに働く場を用意してやったと、高慢な考えを抱いていた。
◇◇◇◇
一方ミレイユは。
「うーん……?」
王都の繁華街にある薬師のギルドで研究を続けていた。
テオドールからもらった金貨のおかげで、研究費用には事欠かない。
しかしどこから着手すればいいものか悩んでいた。
「おや……ミレイユさん。最近はよくギルドに来ていますね」
不意に声がかかり、ミレイユは顔を上げる。
視線の先には老年の男性がいた。
熟練の薬師として名高い王都の有名人。
名をアントナンという。
「アントナンさん、おはようございます。今、とある薬を発明しようとしていて……」
「なるほど。未知の可能性に挑むのは喜ばしいことですね。そういえば……ミレイユさんが働かているお店は大丈夫でしょうか?」
「今はこちらの方が優先なので。あの職場で働いていたら、託された薬の開発が遅れてしまいます」
あの過酷すぎる職場ではテオドールの命を果たせない。
別の場所で働いていたら、猫になる薬の発明ももっと早まっていただろう。
それに、雀の涙程度しかもらえない職場で働く意味もない。
テオドールから充分すぎるほどの研究資金をもらったのだから。
「ところでミレイユさんは、どういう薬の開発を?」
「ええと……レクサリア病の治療薬、なんですけど……」
ミレイユは気後れした様子で言った。
レクサリア病と聞いた瞬間、アントナンの顔が驚きに染まる。
「なんと……!」
「や、やっぱり無理難題でしょうか。私なんかにできるとは思えなくて……」
レクサリア病は多くの人が頭を悩ませている難病。
そう簡単に治療薬ができたら苦労しない。
どう着手したらいいのかわからず、悲嘆に暮れるミレイユ。
そんな彼女にアントナンは優しく声をかけた。
「そんなことはありませんよ。薬師の役目とは、不可能を可能にして人々を救うこと。たしかにレクサリア病の治療薬は発明されていませんが……だからこそ、挑む価値がある。それが現実となったとき、とても多くの人が救われるのですから」
アントナンが名を馳せたのは、かつて新たな治療薬を発明したからだ。
難病に罹った家族を救うために彼は薬師の道を志した。
そして……今、ミレイユも高き壁に立ち向かおうとしている。
そんな彼女の姿勢にアントナンは懐かしいものを覚えた。
「私も手を貸しましょうか。一人ではできることも限られるでしょう?」
「え、よろしいのですか……? アントナンさんは忙しいのでは……」
「いえいえ。余生の中で、少しでも人の役に立てる機会があるのなら。ぜひとも協力させてください」
これは予想外の展開だ。
アントナンほど経験豊富で有名な薬師に手を貸してもらえれば、研究がかなり進むはず。
記憶をたどり、アントナンはレクサリア病について思い出す。
「レクサリア病……意識に障害が生じ、末期には植物状態になってしまう病ですね。発生したのはたしか四十年ほど前からでしたか……」
「はい。でも、原因は明らかになってないんですよね」
「ええ。私の知り合いにかけ合い、レクサリア病に関する文献を集めてみましょうか」
「助かります……! どうしても資料が見つからなくて、行き詰まっていたので」
病や歴史に関する文献は、平民では滅多に閲覧できない。
そういった文献は大抵貴族が保有しているからだ。
猫になって貴族街へ忍び込んでも、本を読むことなどできないし……。
アントナンならば貴族や学者の知り合いも多く、情報を多く集められることだろう。
希望が見えてきた。
これはテオドールに良い報告ができるかもしれない。
そう思い、ミレイユは口元をほころばせた。
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