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1章
1-22 その残党の場所を割り出した。これから一気に叩く
しおりを挟むナスタチウムさんの元へ行って戻ると、また書類が増えていた。だがそれもなんとかクリアし、少し遅くなったが帰れる運びとなる。
「じゃ、僕たちもそろそろお暇しようか」
「そうですね。お疲れ様でしたー!」
ネモフィラ様は定時で帰したが、そのあともリリウムさんとライリーさんが手伝ってくれていた。こうして、終わるまでずっと、この執務室にいてくれたのだ。
途中ライリーさんが精霊を通じてウィリアムさんに呼ばれたり、二人の追加の仕事を持ってきて、俺の手伝いと並行しながらこなしたりもしていたが、二人の貢献度はかなり高いといえるだろう。
というよりも、俺はナスタチウムさんとその他諸々の処理でいっぱいいっぱいになっていたわけだが、ナスタチウムさんの仕事量とは比べ物にならないほど大量の仕事と、俺の手伝いを両立させてしまったこの二人の能力は、計り知れない。いや、二人だけではない。
本来はこの二人がいる前提での仕事の穴を、俺が見えないところで塞いでいたであろうカサブランカ様とウィリアムさんの能力もおかしい。
「お二人とも、本当にありがとうございます」
「いやいや、自分たち、ものすっごくお仕事が出来るんで、大丈夫ですよー。ねー、リリウムさん!」
「そうそう。僕たち、優秀だから」
自画自賛ではなく、本当に優秀なのだから閉口するしかない。
「ジギタリス、来い」
唐突に執務室の扉が開き、掛けられた言葉は状況を理解するにはあまりにも言葉少な。かろうじて相手がバンクシアさんだと理解すると、すぐに「はい」と返事をしていた。
「何かあったんですか?」
すぐに踵を返しそうになっていたバンクシアさんを止めたのは、俺ではない。リリウムさんだった。
余裕綽綽と言った表情が主である彼の目が、強い意志を持っているものに変わっていた。緊急事態であることは想像に易く、状況によっては自らも動いたほうがいいのか、という問いにすら聞こえた。
「死を刻む悪魔信仰の集団相手に大捕り物をしたのは知っているな?」
「ええ、存じていますよ」
「その残党の場所を割り出した。これから一気に叩く」
なるほど、これは緊急事態だ。
クレソンさんの想像通り、俺も捕り物に参加することになっているらしい。
いや、俺だけではないだろう。荒事に慣れている――あるいは慣れようとしている職員は駆り出され、一人残らず殲滅する事を求められている。
生け捕りに出来ればそれでもいいが、難しそう――あるいは不必要であると判断されれば、国民の安全の為にも、不穏分子は間引いておかなければならない。
これもまた、就職管理局の魔法精術課の現場に出る人間に求められる部分だ。
ナスタチウムさん……もとい、ナチのように、内勤専属の者もいるが、外に出て荒事の解決を求められる者もいる。俺やバンクシアさんはまさにそれに該当し、今日はこれから大捕り物をすることになる。
「ジス君、頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」
俺だけかよ。バンクシアさんなんか、多分指揮を執るんだから、そっちのほうがよっぽど頑張れ、じゃないのだろうか。
「事後処理の関係でそちらに少々手間を掛けさせる事になるかもしれない」
「わかりましたー。心しておきます」
バンクシアさんとリリウムさんは少しだけ会話を続けた。
「行くぞ、ジギタリス。集まったら資料を配る。出発までに全て頭に叩き込め」
「はい」
気を引き締めなくては。
そこに人の命が、かかっているのだから。
バンクシアさんについていくと、既に何人もの管理官が集まっていた。
基本的に、外では三人一チームとして行動する俺たちは、全部で七チーム集められていたらしい。
配布された資料には潜伏場所や、敵の特徴が書かれている。全て覚えなければ。誰にも迷惑をかけないよう。何よりも、国民と自らの身を守るために。
集められたメンバーの中に、同期のカンナ・プレトリウスさんがいたが、彼女は資料を覚えない。もとい、覚えられない。
敵か味方かは相手の目を見て判断し、的確に倒せる実力の持ち主だ。能力を戦いに特化させているようで、普段の資料作りなどは軒並み出来ないのだが、こういった時には役に立つ。
「揃ったか」
真剣に資料を読む面々の前に姿を現したのは、魔法精術課のトップにして、この国の第二王位継承者。クレマチス・ドライツェーン・アウフシュナイター様だ。
「これより、死を刻む悪魔を信仰する不穏分子、模倣の悪魔の殲滅にあたってもらう」
従者であるモルセラさんを引き連れ、腹から出した声で視線を集める。
「先の捕り物により、既に何名かの管理官が負傷しているが、彼らをこのまま野放しには出来ない」
バンクシアさんもその一人。屈強かつ腕の立つ彼がケガをした案件だ。かなり難しい戦いになるだろう。
「国民の生活を守る為にも、諸君らには、ここで食い止めて欲しい」
不穏分子はそのままにしておいてはいけない。
「悪しき者の犠牲のなきよう、気を引き締めてあたってくれ」
水際で全てを止めねば。
「私は諸君らが、必ず勝利を収め、人々への平和をもたらしてくれる事を期待している。……いや、してくれると信じている!」
クレマチス様の激励に、その場にいる全員が「はい!」と、大きな声で返事をした。
***
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