15 / 228
一章
1-15 迷子の救世主、ルトだよ!
しおりを挟む
オレに纏わりついていた精霊達に頼んでシアを探していると、どうして急にいなくなったのかという真相だけは分かった。
どうやらオレ達が話し合っている最中に後ろをドーナツの移動販売が通り過ぎて行ったらしい。そして、甘いもの大好きなシアは我を忘れて追いかけて行ってしまった、という事だ。
そう言えば村について調べた時に、この辺一帯で売り歩いている移動販売のドーナツは美味しいという話を目にした。おそらく、今回引っかかった移動販売のドーナツはこれだろう。美味しい香りに誘われるスウィーツマイスター・シアも、例外なく食いついたのは仕方がない。
が、お前の迷子はドーナツほど甘くないんだから、大人しく「後で一緒に」行けばよかったのではないかとも考えたが、探している内に原因は自分にもあった気がしてきた。
オレが汽車の中で走馬灯を見ていた理由は甘いもので、ドーナツも甘いからだ。あとから「欲しい!」と言われても、きっとオレは近付く事すら拒否していただろう。
だから、オレも悪い。悪かった。
「でも、その後の足取りがつかめないってどういうことだよ!」
人の行き交う道の真ん中で、オレは吠える。やらずにはいられなかった。
『クルト、みつけた』
そんなオレの耳元で、精霊が語りかける。
『いりくんだほうにはいって、おとこといちゃいちゃしてるぞ』
「嘘だろ!?」
男と入り組んだ所でイチャイチャ!?
『とにかくついてこいよ』
今は精霊に従うしかない。オレは精霊の後を追う。
村の中のメインストリートから外れ、入り組んだ方へと進んでいくと、今度は別の精霊に『こっちだ』と案内された。こうやって、何体かの精霊に導かれるまま進み、気が付くと藪の中だ。
「マジかよ……」
オレはここにシアがいる事を信じる事が出来なかった。出来なかったが、結果としては精霊を信じてよかったと思った。
「あ、ルトだー!」
ピンクのリュックサックに、動くたびに揺れる胸。小柄な体躯に、幼い顔立ちと言動。まごう事なくシアだった。その彼女が、30代前半くらいの杖をついているオッサンに、片手を繋がれて藪の中に居たのである。
杖はついてるけど、若そうだし、足も不自由そうに見えないが……ファッションかな。
でもファッションステッキはどうでも良い。それよりも問題はシアだ。
「お・ま・え・は! 何をしてるんだー!」
「ぴゃー! ごめんなさい!」
ズカズカと近付くと、オレは思いっきりシアの頭を上から下へと押した。背の低い事を気にしているシアへのお仕置きは、きっとこれが一番効くだろう。
「縮む! 縮んじゃう! ルトよりもちっちゃくなるー!」
「オレは最初からお前よりでかいわ!」
さりげなく失礼な事言いやがって!
オッサンは、気が付くとシアの手を離していた。離してなくたって、別にオッサンに縮め攻撃をするつもりは無かったのだが。
「で、誰だ? こいつ」
「迷子仲間だよぉ」
シアの頭を押さえるのを止めて、隣のオッサンが誰なのかを尋ねるとまさかの答えが返ってきた。
「え、えぇと、私は迷子仲間のブッドレア・ドナートと言うのだが、君は……」
「迷子の救世主、ルトだよ!」
「変な二つ名付けるな! オレはツークフォーゲル。クルト・ツークフォーゲルだ」
しかも、迷子仲間であることを認めるのか。
「そうか。ではクルトくんに頼みたいのだがね」
「な、何だよ」
年上に頼まれごととなると、もしかしたら難しい事かもしれない。
難しい事だったらはっきり断ろう。断るのも勇気!
「大通りまで案内して貰えないだろうか」
うわぁ、オッサン涙目じゃねーか!
迷子仲間っていう事は、オッサンが迷子になり、近くにいたシアに声を掛けた。で、自信満々のシアに連れられてうっかり奥へ奥へと入り込み、気が付いた時にはどうにもならなくなっていたのだろう。全部オレの想像だけど。
でも、難しい事じゃなくて安心した。
「勿論」
オレは頷くと、シアの手を握って「こっち」と案内を始めた。
正確には、ツークフォーゲルの案内に従って大通りへと向かう。
ちなみにシアの手を握った事に下心はない。こいつは一人でふらふらいなくなってしまうから、こうでもしないとオレが心配なのだ。決して、手が小さいとか、柔らかいとか、そんなよこしまな事を考えている訳ではない。
女の子の手っていう感じで可愛いとか、全く、全然、これっぽっちも思っていない。
『クルトもいちゃいちゃしてるー』
「してねーよ」
メインストリートが近くなるにしたがって、オレの周りに精霊が増えてきた。
これは、シアを探しに行っていた精霊がオレの近くに戻って来ているからだ。
『してるよー。だって、てとてをぎゅーっとしているじゃないか』
「こ、これはそんなんじゃねーし。こいつの手を確保してるだけだし」
そう、別に他意はない。手を繋がないと不安っていうだけで、別にイチャイチャが目的じゃないんだ。
『でもネメシア、さっきもブッドレアといちゃいちゃしてたし』
「それ、手を繋いでいただなんじゃないのか?」
『ドーナツもいっしょにたべてた』
「イチャイチャじゃねーよ! それ、二人で迷子になって途中で休憩挟んでおやつ食べてただけだよ!」
精霊のイチャイチャのハードル低い!
「ルト、いきなりどうしたの? ていうか、何であたしがおやつ食べたの知ってるの!?」
「あー、だからぁ、精霊がさぁ」
「いるの? どこどこ?」
不思議そうにしていたシアに答えると、彼女はきょろきょろとあたりを見回した。
お前には見えないだろう、と言ってやりたかったが、存在を信じてくれるのは純粋に嬉しくて、結局それについては触れない事にする。
「あ、あぁ、そうか。君は精術師だったのだね」
「そう、だけど」
こう、知らない人に精術師って確認されると思わず身構えてしまう。
「おいでー、ツークフォーゲル」
「う、うわぁぁぁ!」
オレが身構えた横で、シアが呑気に精霊を呼ぶと、彼女は瞬く間に精霊まみれになってしまった。この場ではオレにしか見えないのだが、シアの姿が見えなくなるほど、もっちゃりと精霊がくっついている。
「精術師となると、私達には分からない世界が見えているようだね。今、何があったのか見えないのが残念だ」
「いや、見えたらビビると思うぞ」
オレは一度立ち止まって、シアの顔にまで張り付きまくった精霊を少しだけ掃う。
「どうなってた?」
「精霊になってた」
「精霊さんって、どんな姿してるの?」
シアは小首を傾げてオレに尋ねた。と、同時に、彼女に纏わりついた精霊まで一緒になって首を傾げる。好かれてるなぁ。
「鳥、かな。こんくらいの」
オレは掌をシアに見せる。
「なるほど。ルトの手くらいの鳥さんなんだね。いいなぁ、可愛いだろうなぁ。あたしにも見えたらいいんだけどなー」
シアは心底羨ましそうにした。確かに、こいつみたいなヤツに見えていたら、精霊も嬉しいんだろうな。
『これだから、ネメシアすき』
「お、おう」
精霊に返事をして、オッサンが付いてきているかどうかの確認をしながら再び歩きはじめる。
「あ、ドナさんちゃんとついてきてる?」
「勿論、ついて行っているよ」
「いや、お前、ドナさんて。ブッドレアさん? だっけ? とにかく、あんたもそれでいいのか?」
シアが後方を確認したときに放った愛称に、オレは思わずオッサンに聞いてしまった。うっかりずっとタメ口できてしまっていたオレが言うのもなんだが、結構失礼なのではないかと心配になったのだ。
「構わないよ。彼女のように可愛らしい人に新しいニックネームをつけられるというのは、むしろ嬉しくもあるくらいだ」
変な人。
「実は、私はヒュムネで教師をしていてね。こういう子も多いのだよ」
「あぁ、慣れてるっていう意味か。よかったなシア。小さい子扱いされて」
「小さくないよ! 立派なレディだよ!」
頬を膨らませるシアは、どこからどう見ても立派なお子様だった。レディに見えるのは、膨らませた頬よりも遥かに大きく成長している巨乳だけ。
つーかオッサン、街の名前からして、第二の先生かよ。エリートじゃん。
正式名称、国立魔法科所属第二学園。シアの第一には劣るが、充分に都会で人口の多い街にある大きな学校だ。田舎の小さい分校出身のオレには、なんか凄いっていう想像しか出来ないが。
「あー! やっと見つけたよブレア!」
オレがシアを眺めている内に、唐突に声がかかって顔を上げた。すると、そこには恐ろしい生物がいた。
なんか分かんないけど、水色のチェックのぶわーっとした服の下に、スケスケの見るからにヤバいシャツを着こんでいるヤツ。あと、ズボンが燃える様なデザインで、常人には理解の出来ないファッションセンスだ。
金髪とか碧眼とか12枚とか、本来であれば最初に視覚情報として入ってくる物がどうでもよくなるくらい、凄い。
一度見てしまったら悪夢に登場しそうな、人として認識出来なくなるようなヤツである。
「この僕が探してあげていた事を感謝するべきだよ、君は」
その凄い服のヤツが、オレ達の方へと近付いて来る。
「ルト、あの人……何?」
「何だろうな? 虫かな?」
「あー、虫かぁ」
シアが納得したように首を縦に振った。
「聞こえてるんだけど? 全く、僕の崇高なファッションを理解出来ない凡人はこれだから」
「なんだと! オレが凡人だと!?」
「ルト落ち着いて。あれを理解するくらいなら凡人でオッケーだよ。コケコッコーだよ」
「誰が鳥頭だ!」
「そんな事言ってないよぉ」
しまった。あの服の前で脳みそが揺さぶられてしまっている。
もっと冷静になって物事を見……見たくねーわ。あいつ自体を。
「ドナさんの知り合い?」
「違う、と否定したい所だけど、残念ながら知り合いなのだよ。私の甥で、サフランと言ってね。この村には、彼と一緒に花を探してきてほしいと知人に頼まれて来たのだよ」
「まったく、君は地味な服を着すぎ! 探すのに苦労したよ。僕の伯父なら伯父らしく、もっときらびやかで美しい格好をするべきだね」
このオッサンがあんな服を着る……。あ、想像しなきゃよかった。頭が痛い!
「彼は、12枚なものでね。その、ちょっとアレなんだ」
「あぁ、アレだな」
「アレだね」
「もっと褒め称えてくれても構わないよ」
誰も褒め称えてなどいないが、本人が満足ならそれでいいか。関わりたくないし。
「そういう訳で、ここまで案内して貰えて助かったよ。機会があれば、また」
「うん、またね!」
「お、おう。迷子にならないようにな」
オッサンはオレ達に挨拶すると、物凄い服の、サフランとかいうヤツの元へと向かった。
そして、どこかに歩き出す。オレ達はそれを見送ってからスティア達と合流するために、精霊に頼んで居場所を探してもらって、そちらの方へと歩き出したのだった。
どうやらオレ達が話し合っている最中に後ろをドーナツの移動販売が通り過ぎて行ったらしい。そして、甘いもの大好きなシアは我を忘れて追いかけて行ってしまった、という事だ。
そう言えば村について調べた時に、この辺一帯で売り歩いている移動販売のドーナツは美味しいという話を目にした。おそらく、今回引っかかった移動販売のドーナツはこれだろう。美味しい香りに誘われるスウィーツマイスター・シアも、例外なく食いついたのは仕方がない。
が、お前の迷子はドーナツほど甘くないんだから、大人しく「後で一緒に」行けばよかったのではないかとも考えたが、探している内に原因は自分にもあった気がしてきた。
オレが汽車の中で走馬灯を見ていた理由は甘いもので、ドーナツも甘いからだ。あとから「欲しい!」と言われても、きっとオレは近付く事すら拒否していただろう。
だから、オレも悪い。悪かった。
「でも、その後の足取りがつかめないってどういうことだよ!」
人の行き交う道の真ん中で、オレは吠える。やらずにはいられなかった。
『クルト、みつけた』
そんなオレの耳元で、精霊が語りかける。
『いりくんだほうにはいって、おとこといちゃいちゃしてるぞ』
「嘘だろ!?」
男と入り組んだ所でイチャイチャ!?
『とにかくついてこいよ』
今は精霊に従うしかない。オレは精霊の後を追う。
村の中のメインストリートから外れ、入り組んだ方へと進んでいくと、今度は別の精霊に『こっちだ』と案内された。こうやって、何体かの精霊に導かれるまま進み、気が付くと藪の中だ。
「マジかよ……」
オレはここにシアがいる事を信じる事が出来なかった。出来なかったが、結果としては精霊を信じてよかったと思った。
「あ、ルトだー!」
ピンクのリュックサックに、動くたびに揺れる胸。小柄な体躯に、幼い顔立ちと言動。まごう事なくシアだった。その彼女が、30代前半くらいの杖をついているオッサンに、片手を繋がれて藪の中に居たのである。
杖はついてるけど、若そうだし、足も不自由そうに見えないが……ファッションかな。
でもファッションステッキはどうでも良い。それよりも問題はシアだ。
「お・ま・え・は! 何をしてるんだー!」
「ぴゃー! ごめんなさい!」
ズカズカと近付くと、オレは思いっきりシアの頭を上から下へと押した。背の低い事を気にしているシアへのお仕置きは、きっとこれが一番効くだろう。
「縮む! 縮んじゃう! ルトよりもちっちゃくなるー!」
「オレは最初からお前よりでかいわ!」
さりげなく失礼な事言いやがって!
オッサンは、気が付くとシアの手を離していた。離してなくたって、別にオッサンに縮め攻撃をするつもりは無かったのだが。
「で、誰だ? こいつ」
「迷子仲間だよぉ」
シアの頭を押さえるのを止めて、隣のオッサンが誰なのかを尋ねるとまさかの答えが返ってきた。
「え、えぇと、私は迷子仲間のブッドレア・ドナートと言うのだが、君は……」
「迷子の救世主、ルトだよ!」
「変な二つ名付けるな! オレはツークフォーゲル。クルト・ツークフォーゲルだ」
しかも、迷子仲間であることを認めるのか。
「そうか。ではクルトくんに頼みたいのだがね」
「な、何だよ」
年上に頼まれごととなると、もしかしたら難しい事かもしれない。
難しい事だったらはっきり断ろう。断るのも勇気!
「大通りまで案内して貰えないだろうか」
うわぁ、オッサン涙目じゃねーか!
迷子仲間っていう事は、オッサンが迷子になり、近くにいたシアに声を掛けた。で、自信満々のシアに連れられてうっかり奥へ奥へと入り込み、気が付いた時にはどうにもならなくなっていたのだろう。全部オレの想像だけど。
でも、難しい事じゃなくて安心した。
「勿論」
オレは頷くと、シアの手を握って「こっち」と案内を始めた。
正確には、ツークフォーゲルの案内に従って大通りへと向かう。
ちなみにシアの手を握った事に下心はない。こいつは一人でふらふらいなくなってしまうから、こうでもしないとオレが心配なのだ。決して、手が小さいとか、柔らかいとか、そんなよこしまな事を考えている訳ではない。
女の子の手っていう感じで可愛いとか、全く、全然、これっぽっちも思っていない。
『クルトもいちゃいちゃしてるー』
「してねーよ」
メインストリートが近くなるにしたがって、オレの周りに精霊が増えてきた。
これは、シアを探しに行っていた精霊がオレの近くに戻って来ているからだ。
『してるよー。だって、てとてをぎゅーっとしているじゃないか』
「こ、これはそんなんじゃねーし。こいつの手を確保してるだけだし」
そう、別に他意はない。手を繋がないと不安っていうだけで、別にイチャイチャが目的じゃないんだ。
『でもネメシア、さっきもブッドレアといちゃいちゃしてたし』
「それ、手を繋いでいただなんじゃないのか?」
『ドーナツもいっしょにたべてた』
「イチャイチャじゃねーよ! それ、二人で迷子になって途中で休憩挟んでおやつ食べてただけだよ!」
精霊のイチャイチャのハードル低い!
「ルト、いきなりどうしたの? ていうか、何であたしがおやつ食べたの知ってるの!?」
「あー、だからぁ、精霊がさぁ」
「いるの? どこどこ?」
不思議そうにしていたシアに答えると、彼女はきょろきょろとあたりを見回した。
お前には見えないだろう、と言ってやりたかったが、存在を信じてくれるのは純粋に嬉しくて、結局それについては触れない事にする。
「あ、あぁ、そうか。君は精術師だったのだね」
「そう、だけど」
こう、知らない人に精術師って確認されると思わず身構えてしまう。
「おいでー、ツークフォーゲル」
「う、うわぁぁぁ!」
オレが身構えた横で、シアが呑気に精霊を呼ぶと、彼女は瞬く間に精霊まみれになってしまった。この場ではオレにしか見えないのだが、シアの姿が見えなくなるほど、もっちゃりと精霊がくっついている。
「精術師となると、私達には分からない世界が見えているようだね。今、何があったのか見えないのが残念だ」
「いや、見えたらビビると思うぞ」
オレは一度立ち止まって、シアの顔にまで張り付きまくった精霊を少しだけ掃う。
「どうなってた?」
「精霊になってた」
「精霊さんって、どんな姿してるの?」
シアは小首を傾げてオレに尋ねた。と、同時に、彼女に纏わりついた精霊まで一緒になって首を傾げる。好かれてるなぁ。
「鳥、かな。こんくらいの」
オレは掌をシアに見せる。
「なるほど。ルトの手くらいの鳥さんなんだね。いいなぁ、可愛いだろうなぁ。あたしにも見えたらいいんだけどなー」
シアは心底羨ましそうにした。確かに、こいつみたいなヤツに見えていたら、精霊も嬉しいんだろうな。
『これだから、ネメシアすき』
「お、おう」
精霊に返事をして、オッサンが付いてきているかどうかの確認をしながら再び歩きはじめる。
「あ、ドナさんちゃんとついてきてる?」
「勿論、ついて行っているよ」
「いや、お前、ドナさんて。ブッドレアさん? だっけ? とにかく、あんたもそれでいいのか?」
シアが後方を確認したときに放った愛称に、オレは思わずオッサンに聞いてしまった。うっかりずっとタメ口できてしまっていたオレが言うのもなんだが、結構失礼なのではないかと心配になったのだ。
「構わないよ。彼女のように可愛らしい人に新しいニックネームをつけられるというのは、むしろ嬉しくもあるくらいだ」
変な人。
「実は、私はヒュムネで教師をしていてね。こういう子も多いのだよ」
「あぁ、慣れてるっていう意味か。よかったなシア。小さい子扱いされて」
「小さくないよ! 立派なレディだよ!」
頬を膨らませるシアは、どこからどう見ても立派なお子様だった。レディに見えるのは、膨らませた頬よりも遥かに大きく成長している巨乳だけ。
つーかオッサン、街の名前からして、第二の先生かよ。エリートじゃん。
正式名称、国立魔法科所属第二学園。シアの第一には劣るが、充分に都会で人口の多い街にある大きな学校だ。田舎の小さい分校出身のオレには、なんか凄いっていう想像しか出来ないが。
「あー! やっと見つけたよブレア!」
オレがシアを眺めている内に、唐突に声がかかって顔を上げた。すると、そこには恐ろしい生物がいた。
なんか分かんないけど、水色のチェックのぶわーっとした服の下に、スケスケの見るからにヤバいシャツを着こんでいるヤツ。あと、ズボンが燃える様なデザインで、常人には理解の出来ないファッションセンスだ。
金髪とか碧眼とか12枚とか、本来であれば最初に視覚情報として入ってくる物がどうでもよくなるくらい、凄い。
一度見てしまったら悪夢に登場しそうな、人として認識出来なくなるようなヤツである。
「この僕が探してあげていた事を感謝するべきだよ、君は」
その凄い服のヤツが、オレ達の方へと近付いて来る。
「ルト、あの人……何?」
「何だろうな? 虫かな?」
「あー、虫かぁ」
シアが納得したように首を縦に振った。
「聞こえてるんだけど? 全く、僕の崇高なファッションを理解出来ない凡人はこれだから」
「なんだと! オレが凡人だと!?」
「ルト落ち着いて。あれを理解するくらいなら凡人でオッケーだよ。コケコッコーだよ」
「誰が鳥頭だ!」
「そんな事言ってないよぉ」
しまった。あの服の前で脳みそが揺さぶられてしまっている。
もっと冷静になって物事を見……見たくねーわ。あいつ自体を。
「ドナさんの知り合い?」
「違う、と否定したい所だけど、残念ながら知り合いなのだよ。私の甥で、サフランと言ってね。この村には、彼と一緒に花を探してきてほしいと知人に頼まれて来たのだよ」
「まったく、君は地味な服を着すぎ! 探すのに苦労したよ。僕の伯父なら伯父らしく、もっときらびやかで美しい格好をするべきだね」
このオッサンがあんな服を着る……。あ、想像しなきゃよかった。頭が痛い!
「彼は、12枚なものでね。その、ちょっとアレなんだ」
「あぁ、アレだな」
「アレだね」
「もっと褒め称えてくれても構わないよ」
誰も褒め称えてなどいないが、本人が満足ならそれでいいか。関わりたくないし。
「そういう訳で、ここまで案内して貰えて助かったよ。機会があれば、また」
「うん、またね!」
「お、おう。迷子にならないようにな」
オッサンはオレ達に挨拶すると、物凄い服の、サフランとかいうヤツの元へと向かった。
そして、どこかに歩き出す。オレ達はそれを見送ってからスティア達と合流するために、精霊に頼んで居場所を探してもらって、そちらの方へと歩き出したのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
21
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる