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三章
3-95 本当に棄権をしないのですか?
しおりを挟む昼食は、何でも屋、エーアトベーベン兄弟、テロペア、ルースの一家でのものになった。今日はビュッフェ式ではなく、頼んだものを各々消化するシステムの店だ。
ちなみにアリアさんは、ついに「何が食べたい?」とテロペアに確認されて席取り要因としてテーブルに置いて行かれた後、食べたいとリクエストしたものも含まれたプレートを目の前に置かれ、「ひどい……」と絶望顔で見ていた。全然非常識な量ではないどころか、比較的ボリュームが少ないものなんだから、しっかり食べて貰いたい。
「次はいよいよ決勝戦ッスね! 頑張ッスよ」
「うん。折角だから、勝って来い」
「お、おう」
食事をしながら次の試合の激励を受ける。ベルはカンナさんに吹っ飛ばされた件が効いているのか、ちょっと「いてて」と言っていた。
あんなに瞬殺だと、やっぱりちょっと痛むよなぁ。ベルは結構無理をするイメージだし、ちゃんと休んで欲しい。
オレとしては、アリアさんにはご飯を食べる、ベルには休む、所長には片付ける、シアには迷ったら立ち止まる、を覚えて貰いたい。
「こんにちは」
オレがこんな事を思いながら、鶏肉をいい感じに焼いた食べ物を食べる。途中、ツークフォーゲルに『ともぐい』と言いながら突かれるのを阻止していると、ジギタリスがやってきた。表通りから見えたのだろうか?
「先ほどの試合では本当に申し訳ありませんでした。午後もよろしくお願い致します」
ジギタリスは深々と頭を下げる。オレ達、別にこいつには怒ってないんだよな……。
全員「大丈夫」的な事を口々に返すと、彼は幾分表情を柔らかくした。
柔らかくって言ったって、普段から表情筋が死んでいるくらい無表情だから、なんとなく印象、程度のものなんだけれども。
「何か調査に進展はありましたか?」
ディオンが尋ねると、ジギタリスは困ったように首を横に振った。調べていないわけではないのだろうが、そう簡単に情報を得られる相手でもない、って事かな。
「ま、しょんなにすぐに調査が上手くいくなら、今頃捕まえられてりゅはじゅだし」
「……不甲斐ない結果で申し訳ありません」
「大丈夫大丈夫。おれ、全然期待してにゃかったし」
ひ、酷い!
テロペアは、アリアさんに優しく時に強引に食事を取らせるのとほとんど同じテンションで、ジギタリスに返した。これ、悪意あるよな!?
「……あいつらが何か仕掛けてくるとしたら、決勝戦か閉会式だと思います」
「おれも思うー」
「そうですよね」
悪意をスルーしつつ続けたものの、テロペアがまさかの同意。なんか含みがあるんだよなあ。
「私達も十分気を付けますが、皆さんも用心して下さい」
「お、おう!」
今度はテロペアを阻止すべく、オレは手を上げた。ついでに、見ていたルースも「了解ッス」と言いながら手を上げる。
「ところで」
ジギタリスはオレと、エーアトベーベン兄弟をじっと見た。
「本当に棄権をしないのですか? 事が事だけに、出来れば棄権して頂きたいのですが」
「申し訳ないですが、何度聞かれても棄権する気はありません」
「オレも! このまま出る!」
「僕もだよ。兄さん達と決めた事だし、ここまで来られたのに棄権だなんてもったいない事も出来ないしね。それに、このタイミングでこのチームが棄権したら、まだ残っている観客達に精術師が逃げたと思われるんじゃないかい? それは避けて通りたいんだ。まぁ、一番の理由は、兄さんが行くところには絶対についていきたいっていう部分なんだけど!」
「この調子だし、僕達もこのまま付き合うよ」
ディオン、オレ、ラナの返答を聞いた後に、所長がいい感じにまとめる。ジギタリスは閉口し、しばし沈黙が流れた。
「つーか、一応オレからも聞くんスけど、マジで棄権ナシでいいんスか? そもそも、死を刻む悪魔だけじゃなく、オレの代わりのあのカラーっていうのも、なんか危ない気がするんスけど。クルト達が棄権させられそうな攻撃とかしてきそうッスし、大丈夫かなー、みたいな」
ルースが口を挟むも、オレ達の意見は変わらない。
「まじで棄権しちゃほうがいいよ。絶対決勝戦で出てくゆと思うし、しょれに……」
テロペアも口を開いたかと思うと、暫し沈黙する。な、何? 何考えてるんだ?
「テロペア?」
ベルが名前を呼ぶと、ハッとしたような顔をしてからこっちをじっと見てくる。
「……お前等は精術師だけのチームだ。死を刻む悪魔が出たら、昨日の状況を見るに精霊達には頼れないと思え」
低い声で、ビジネス噛み噛みを封じ、テロペアがこちらに向けた視線を鋭い物へと変えた。
「それは、昨日、精霊がいなくなってたからか?」
「ああ」
「でも、あれがシュヴェルツェの仕業だろう?」
オレが聞き返すと、テロペアは舌打ちをする。怖いんだけど。
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