精術師と魔法使い

二ノ宮明季

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三章

3-98 なんか、感じ、悪い?

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「作戦、という程のものでもないけど」

 昼食後、決勝戦までもう少し。オレ達が控室へと向かう途中で、ディオンが口を開いた。

「今回は全員が武器と魔陣符を持とう。シュヴェルツェ達が出た時に、対抗手段が何もないのはさすがに不安だからね」

 今回に関しては、確かにシュヴェルツェへの対抗手段は多いほうがいい。
 オレ達が頷くのを確認してから、控室に入る。


 控室は、なぜかギスギスしていた。
 既にジギタリスのチームがいるのは、まぁいい。けれどもチームそのものの雰囲気が悪くてたまらないのだ。
 ジギタリスのチームは既に全員武器を持っており、ジギタリスは大会が始まってから初めて二本持っている。

「あ、二本」

 思わず口にすると、彼は「武器の事ですか」と返した。

「事が事だけに、私ももう手加減とは言ってはいられません。先ほど同様、最初から本気で行かせて頂きます」

 いつもよりも、声が少し固い。やはりシュヴェルツェや死を刻む悪魔ツェーレントイフェルが出るとなると、ジギタリスでも緊張するのか。
 ただ、理由はどうあれ、二本使うジギタリスとの試合は楽しみだ。
 オレは、不謹慎にもワクワクして「望むところだ!」と返事をする。

「こちらは最初から貴方達相手に手加減なんて出来ませんからね。もちろん全力で行かせて貰います」

 ディオンがオレに続くと、ジギタリスは頷いた。

「試合ではよろしくお願いします。まあ、出来れば棄権して頂きたかったのですが」

 ……? なんか、感じ、悪い?

「駄目ですよぉ。一般人にあたっちゃあ。そりゃあ、棄権してくれたほうが楽だったんですけどぉ」

 えっと、なんか、急に刺々しいな? 得体のしれない人までこちらに対してツンツンしていて、なんか、こっちも気分が悪くなってくる。

「痛いのは嫌なのでぇ、出来れば無抵抗でとっとと負けて欲しいですぅ」
「し、知らねぇよ! 得体のしれない人に無抵抗でいろって言われたって、絶対抵抗してやるんだからな!」
「得体のしれない人、ですかぁ?」
「お前だよ!」

 ビシっと指差せば、そいつは「僕でしたかぁ」と呟く。この場で一番得体がしれないのは、誰が見たってお前だっつーの。

「僕はぁ、ゼラニウム・ドライ・ティーメですよぉ。あ、でもぉ、名乗らなくて結構ですよぉ。知ってますからぁ」

 名乗ったのに名乗らせない! なんだこいつ!
 腹立たしく思いながらも、「精術師の習慣だから」と前置きして、オレ達は名乗った。
 これによって更に空気が悪くなったところで、今度はカラーの舌打ちが聞こえる。

「お前、舌打ちしてるけど、さっきうちの妹にした仕打ちは忘れてないんだからな!」
「うるせー! 弱いなら弱いでこんな大会に出てきてんじゃねえよ!」
 なんっ……は? はぁぁぁぁ? こいつ、あの現場を見ておいてこんな事言うか?
「つうか、昨日のは何だよ! 大会に出るくらいなんだから、あんなクズ共本当はどうとでも出来るんだろ! 弱いフリしやがって!」
「なんだと! 何も知らないくせに!」

 昔虐められてたトラウマがあるから動けなかったのも理解出来ないのか!

「精術師も、魔法使いも、コネを持ってる奴も、俺は全部大っ嫌いなんだよ! 自分達は贔屓されて、特別扱いで、俺の事見下しやがって!」
「誰がお前の事なんか見下すか!」

 腹立つ! なんだこいつ!

「喧嘩は止めて下さい。どちらも失格にしますよ」

 この場にいた管理官が止めに入ったが、それも気に入らない。絡んできたカラーはともかく、なんでオレまで失格なんだよ!

「クルト、ここは抑えて」

 しかしオレを止めたのは、ディオンだった。彼もイラついてはいるようで、眉間に皺を寄せている。
 ラナに至っては「これだから管理官は好きじゃないんだ」とブツブツ言いながら、ジギタリスのチームと、スタッフ、両方をぐるりと睨みつけた。

「とりあえず、武器と魔陣符を貰おう」
「……おう」
「兄さんがそう言うなら、仕方ないね。持っていないとどうにもならないし、とりあえずは飲み込んであげるよ」

 ギスギスとした空気の中、オレ達は武器と魔陣符を受け取る。

「間もなく試合開始時間です」

 スタッフの声を合図に、オレ達は試合会場へと向かう。
 昼に会った時のジギタリスは普通だったのに。なんで急にこんなに突っかかるんだ。
 ムカムカイライラしたまま会場へ向かい、両者武器を構えて睨み合う。そして、審判の「始め」の合図で、オレ達の戦いは幕を開けた。

 合図とほぼ同時にオレが飛び出すと、カラーも同時に飛び出してきて、模造剣を振るう。お互いの模造剣がぶつかり、本物の金属の剣ではないにしても、ギシッと嫌な音を響かせた。
 力と力が正面からぶつかり合い、悔しいがオレが押される。
 シンプルに力だけの勝負で負けているのか、はたまたカラーの方が体格が良くて背が高いため、上からかけられる力にオレが屈しているからなのか。どちらなのかはよくわからないし、なんならあまり分かりたくないが、とにかくオレの足は踏ん張っているのに砂埃を上げながらじりじりと後退している。
 オレが必死にカラーの攻撃を受けていると、ジギタリスはディオンへと向かっていた。こちらの大将をとっとと叩くつもりなのだろう。

「――この場に大きな揺れを」

 ディオンは呪文を唱えていた。最後の一節を唱え終えると、会場全体が大きく揺れ、うっかりオレはバランスを崩す。ついでにカラーもバランスを崩してきたが、オレは何とかぺっちゃんこにされないように、転びそうになっているカラーから逃れた。
 バランスを崩したのはジギタリスも同様で、そこにラナが突っ込む。が、ここで動いたのは得体のしれない人……もとい、ゼラニウムさんだ。
 ゼラニウムさんは魔陣符を発動させ、礫がラナに向かう。必死にゼッケンを守って、失格にはならなかったものの、顔や腕に礫が当たって痛そうだ。
 とりあえず、こういう時は体制を立て直す!

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