17 / 25
17 ステージ3
しおりを挟む
合気道の道場が終わると、すっかり日も暮れていて、夜になっていた。
玲は武尊から、一人で暗いところを歩くなと言われている。たしかに、家の近くにまで不良たちが網を張っているとなっては、今の玲は危険すぎる。
玲にとって、日本の安全神話は完全に崩壊しているが、どうしようか悩む。いちいちタクシーを呼んでいたのでは、お金が持たない。武尊の小遣いだって決まっているし、貯金だって限界がある。
玲は仕方なく一人で帰ることにしたら、亜里沙が送っていくかと言ってくれた。
女に送られる男がいてたまるかと、玲はすぐに断る。では、中学三年生の神木斗真ならどうかと思ったが、斗真は近所と言っても、家が反対方向だ。亜里沙の道場からだと、帰り道が違う。
玲はため息をついて、スリッパのようになったローファーを履いた。「じゃぁな」と亜里沙に挨拶して、道場の玄関を出ると、武尊が待っていた。
「よ、よぉ。迎えに来たぜ」
武尊は恥ずかしそうに、玲を見ていった。
「え? 武尊、お前、今日はバイトだろ?」
「いや、バイトは終わったよ」
「終わったって、まだ七時だぞ? 武尊のバイトって、九時くらいまでかかったろ?」
「今日はたまたまだよ。だから、そんなことは気にすんなよ」
武尊は頭を掻いて恥ずかしそうにしている。
玲には言わなかったが、玲が道場に通う火曜日と金曜日は、バイトが早く終わるように調整してもらっていた。わざわざバイト先に掛け合って、時間を調整してもらったのだ。
「俺のことはいいから、はやく帰ろうぜ」
苦笑する武尊。びっくりする玲。その二人を見ている、亜里沙と巌。そして斗真。
「ねぇ、亜里沙姉ちゃん。あの人、武尊兄ちゃんだよね?」
「そうだね。武尊だね。斗真も久しぶりに会うんじゃない?」
「そうだけど。武尊兄ちゃん、玲兄ちゃんを迎えに来たように見えるけど?」
「あっははは。そ、それは違うんじゃない? たまたま帰りが一緒になったのよ」
亜里沙はごまかすが、武尊と玲は見つめ合って顔を赤くしている。斗真から見たら、二人はデキているように見えて、かなり気持ち悪い。いくら玲が女体化してきているとはいえ、まだまだ男の体だ。もともと身長が180センチを超えている玲は、TS病にかかっても体は大きい。服装も学ランの玲は、まだ女の子には見えないのだ。
「なんだか、玲兄ちゃん、おかしくない?」
「だ、大丈夫よ。斗真が気にすることじゃないわ」
「そうかなぁ」
昔の玲を知っているだけに、今の玲がおかしく見えて仕方ない斗真。かなり違和感を覚えたので、斗真は玲のことが気になって仕方なかった。
「それじゃ、亜里沙ちゃん、俺たちは帰るよ」
「あぁ、またな」
玲と武尊は手を振って道場を後にする。二人を見ていた斗真は、なんだか腑に落ちなかった。
★★★
武尊と玲は、道場を後にして、一緒に帰った。
特に喋ることはなかったので、二人並んでテクテクと歩く。歩いている時、武尊は玲の横顔をチラチラと見た。玲の横顔を見ながら、武尊は思った。
玲、本当に女になっちまうのか? まだ間に合うんじゃねぇのか? 本当に薬はないのか?
武尊は女になっていく玲を、黙ってみていられなかった。
玲とは小さいころからずっと一緒だった。これからもずっと腐れ縁でいるものだと思っていた。それが、できなくなるのだ。玲がどこかの女と結婚することは予想できても、嫁に行くことは予想できなかった。
親友が病気に負けて女になる。その現状に、指をくわえて見ているしかできない武尊は、複雑な心境だった。
二人は無言で歩き続けていると、玲が急に立ち止まった。
「あ? どうした? 何かあったのか?」
立ちどまり、黙った玲に武尊は近づく。玲の顔を見ると、真っ青になっている。
「おい。なにかあったのか? なんか言ってくれ」
青ざめて黙り込む玲に、武尊は心配になる。
「武尊。近くのコンビニによってくれ」
「コンビニ?」
「あぁコンビニだ」
武尊は玲の行動が理解できない。普通にコンビニへ行こうと言えばいい。コンビニくらい、いつも寄っている。なんで黙り込む必要があるのか? そう思ったが、玲は言った。
「股の間から血が出たみたいだ」
「え!?」
武尊は玲の股間を見る。すると、制服が黒く染みになっている。
「ついにステージ3になってしまった。しかも、こんな時間に」
玲は自分の血を見て気絶寸前だった。すでに何回か血尿を出しているが、今回は新しく出来た、女性器の方から出血しようだった。
「お、おい! 大丈夫なのか!?」
股から血を流す親友を見て、武尊もパニック。不思議な踊りを踊って、非常にみっともない。
「きゅ、救急車か!?」
「ち、違う! コンビニに寄れ! そこで生理用品を買う!」
玲も自分で言って恥ずかしくなるが、来るべき時が来たのだった。
玲は武尊から、一人で暗いところを歩くなと言われている。たしかに、家の近くにまで不良たちが網を張っているとなっては、今の玲は危険すぎる。
玲にとって、日本の安全神話は完全に崩壊しているが、どうしようか悩む。いちいちタクシーを呼んでいたのでは、お金が持たない。武尊の小遣いだって決まっているし、貯金だって限界がある。
玲は仕方なく一人で帰ることにしたら、亜里沙が送っていくかと言ってくれた。
女に送られる男がいてたまるかと、玲はすぐに断る。では、中学三年生の神木斗真ならどうかと思ったが、斗真は近所と言っても、家が反対方向だ。亜里沙の道場からだと、帰り道が違う。
玲はため息をついて、スリッパのようになったローファーを履いた。「じゃぁな」と亜里沙に挨拶して、道場の玄関を出ると、武尊が待っていた。
「よ、よぉ。迎えに来たぜ」
武尊は恥ずかしそうに、玲を見ていった。
「え? 武尊、お前、今日はバイトだろ?」
「いや、バイトは終わったよ」
「終わったって、まだ七時だぞ? 武尊のバイトって、九時くらいまでかかったろ?」
「今日はたまたまだよ。だから、そんなことは気にすんなよ」
武尊は頭を掻いて恥ずかしそうにしている。
玲には言わなかったが、玲が道場に通う火曜日と金曜日は、バイトが早く終わるように調整してもらっていた。わざわざバイト先に掛け合って、時間を調整してもらったのだ。
「俺のことはいいから、はやく帰ろうぜ」
苦笑する武尊。びっくりする玲。その二人を見ている、亜里沙と巌。そして斗真。
「ねぇ、亜里沙姉ちゃん。あの人、武尊兄ちゃんだよね?」
「そうだね。武尊だね。斗真も久しぶりに会うんじゃない?」
「そうだけど。武尊兄ちゃん、玲兄ちゃんを迎えに来たように見えるけど?」
「あっははは。そ、それは違うんじゃない? たまたま帰りが一緒になったのよ」
亜里沙はごまかすが、武尊と玲は見つめ合って顔を赤くしている。斗真から見たら、二人はデキているように見えて、かなり気持ち悪い。いくら玲が女体化してきているとはいえ、まだまだ男の体だ。もともと身長が180センチを超えている玲は、TS病にかかっても体は大きい。服装も学ランの玲は、まだ女の子には見えないのだ。
「なんだか、玲兄ちゃん、おかしくない?」
「だ、大丈夫よ。斗真が気にすることじゃないわ」
「そうかなぁ」
昔の玲を知っているだけに、今の玲がおかしく見えて仕方ない斗真。かなり違和感を覚えたので、斗真は玲のことが気になって仕方なかった。
「それじゃ、亜里沙ちゃん、俺たちは帰るよ」
「あぁ、またな」
玲と武尊は手を振って道場を後にする。二人を見ていた斗真は、なんだか腑に落ちなかった。
★★★
武尊と玲は、道場を後にして、一緒に帰った。
特に喋ることはなかったので、二人並んでテクテクと歩く。歩いている時、武尊は玲の横顔をチラチラと見た。玲の横顔を見ながら、武尊は思った。
玲、本当に女になっちまうのか? まだ間に合うんじゃねぇのか? 本当に薬はないのか?
武尊は女になっていく玲を、黙ってみていられなかった。
玲とは小さいころからずっと一緒だった。これからもずっと腐れ縁でいるものだと思っていた。それが、できなくなるのだ。玲がどこかの女と結婚することは予想できても、嫁に行くことは予想できなかった。
親友が病気に負けて女になる。その現状に、指をくわえて見ているしかできない武尊は、複雑な心境だった。
二人は無言で歩き続けていると、玲が急に立ち止まった。
「あ? どうした? 何かあったのか?」
立ちどまり、黙った玲に武尊は近づく。玲の顔を見ると、真っ青になっている。
「おい。なにかあったのか? なんか言ってくれ」
青ざめて黙り込む玲に、武尊は心配になる。
「武尊。近くのコンビニによってくれ」
「コンビニ?」
「あぁコンビニだ」
武尊は玲の行動が理解できない。普通にコンビニへ行こうと言えばいい。コンビニくらい、いつも寄っている。なんで黙り込む必要があるのか? そう思ったが、玲は言った。
「股の間から血が出たみたいだ」
「え!?」
武尊は玲の股間を見る。すると、制服が黒く染みになっている。
「ついにステージ3になってしまった。しかも、こんな時間に」
玲は自分の血を見て気絶寸前だった。すでに何回か血尿を出しているが、今回は新しく出来た、女性器の方から出血しようだった。
「お、おい! 大丈夫なのか!?」
股から血を流す親友を見て、武尊もパニック。不思議な踊りを踊って、非常にみっともない。
「きゅ、救急車か!?」
「ち、違う! コンビニに寄れ! そこで生理用品を買う!」
玲も自分で言って恥ずかしくなるが、来るべき時が来たのだった。
14
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる