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5 従騎士クロム、散る
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「それで? ティニアス様の新しい従騎士ってのは、変態なのか?」
「変態ではありません」
ナルセウスはクロムに向かって、無表情で答える。
クロムは精悍な顔立ちをしているが、腹黒い雰囲気が感じ取れる。空気を読めないナルセウスだが、魔力察知に長けているので、悪意があるのかどうかはすぐにわかる。
ナルセウスは腐っても勇者。女でも勇者。だからまともな訓練しない農民娘でも、最初からチートだ。
「私はナルセウスと申します。クロム様、若輩者ですが、今後ともよろしくお願いいたします」
ナルセウスは、ティニアスが見守る執務室で、お願いしますとだけ言った。プライドが高いのか、先輩でも頭は下げていない。
「ふーん。顔は合格点だが、剣の腕は立つのか? 皇帝には警備兵が常に守っているが、俺らも剣をぶら下げている以上、皇帝の剣とならなければならない。お前、どのくらい強いのか、俺と勝負しようぜ」
クロムはニヤニヤと笑っている。ナルセウスが気に入らないのか、それとも何か別の思惑があるのか分からない。ただ、クロムはナルセウスをいじめたがっている。それは何となくナルセウスも察した。
「おいクロム。何を考えている。まだナルセウスは仕事をよく分かっていない。初日に怪我でもされたら今後に響く。やめておけ」
暗殺者を余裕で倒すナルセウス。強さは認めているが、クロムの強さはさらに上をいく。皇帝のティニアスは、クロムが魔剣士の資格を持っていることを知っている。
「どうする? 俺が怖いか? 優男」
クロムはティニアスの制止も聞かず、ナルセウスを挑発する。
「良いッスよ。勝負しましょう」
「なに? 良いッスよ?」
「間違えました。良いですよ。稽古しましょう」
つい素が出てしまうが、ナルセウスはすぐに言い直した。
「度胸があるじゃねぇか。ティニアス様、少しこいつに気合いを入れてやりますよ」
ティニアスは言うことを聞かないクロムを見て、「はぁ」とため息をつく。ナルセウスが来てから、一気に問題が発生する。
「一つ聞くが、ナルセウス。お前は何か戦闘職の資格を持っているのか?」
このまま試合をさせるのはまずい。クロムの魔剣士と釣り合いが取れる、戦闘職を持っているか聞いてみる。
「戦闘職? えぇと。何でしたか? それは」
「一般では、スキルと呼んでいるぞ。その年でスキルを知らんのか?」
「あぁ! スキルのことですか?」
ナルセウスは農民娘の為、帝都に来るまでスキルのことは知らなかった。村にスキル鑑定士がいなかったからだ。
「持ってますよ! 履歴書に書きました!」
「なに? 履歴書?」
ティニアスは履歴書を見返す。見過ごした項目があったようだ。所持スキルの欄を見ると、「魔槍士」の資格があった。読みにくく、汚い字で、書いてあった。
「ほぅ。魔槍か」
ティニアスはナルセウスの強さが、槍と魔法であることを知る。
「大丈夫か? クロムは強いぞ。初日から無理をすることはない」
優しく問いかけるが、ナルセウスは違った。
「大丈夫です。こう見えてもそれなりに強いですから」
ナルセウスは絶壁の胸を張る。
「わかった。お前の強さは俺も見ておきたい。クロムほど強ければ、お前に与える仕事の内容も変わってくるからな。訓練場での試合を許可する。俺も行くので、少し待て」
「はっ! ありがとうございます!」
クロムは元気よく返事をするが、不敵な笑いを浮かべている。クロムは内心、こう思っていた。
どんな奴かしらねぇが、計画を邪魔されるわけにはいかねぇ。ナルセウスだかって男女を排除する。
クロムは剣の柄を握ると、訓練場に向かった。
◆◆◆
訓練場には、多くの兵士が日々の訓練をしていた。
剣での稽古。弓での的当て。集団魔法の訓練。
数百人以上の兵士や騎士が、戦争の為に訓練をしている。ここは第一訓練場で、貴族の人間が多く集まる訓練場だった。
新米の従騎士が試合をすると聞き、ギャラリーが多く集まってくる。賭け事まで初めて、訓練場は無法地帯とかす。リーダーらしき騎士が賭け事はするなと叫んでいるが、誰も言うことを聞かない。統制がとれていないことから、ここの騎士や兵士たちは練度がかなり低いと思われる。
訓練場には円形のステージがあり、クロムはその上に登ると、叫んだ。
「いいか! 俺の獲物は剣でいい! ハンデとして、お前は槍で戦え!」
剣と槍では、槍の方が強い。時と場合によるが、間合いが長い槍は、剣よりも有利だ。
「いいんですか? 死んでも知りませんよ?」
「ほざけ! お前では相手にならんよ! では、ティニアス様! 合図を!」
ティニアスは少し離れた高い場所にいて、二人を見ていた。物見小屋のような場所だ。
「良いだろう! 二人とも、武器を構えろ!」
クロムは訓練用の木剣を握り、ナルセウスは木槍を握る。刃はないが、当たり所が悪ければ死ぬ。プロテクトアーマーという訓練用の鎧は着ているが、魔法を使えばどうなるか分からない。
「では、始め!」
ティニアスの合図とともに、クロムが突っ込んだ。棒立ちのナルセウスへ、一気に詰め寄る。
「間合いの内に入れば、槍は使えねぇ!」
猛突進するクロム。その速度はかなり早い。二人の距離は15メートル以上離れていたが、一気に間合いが詰まる。
「お前が槍を振るう前に、剣を叩きこむ!」
身体魔法を使い、移動速度を加速させる。ナルセウスに向かって、弾丸のように突っ込んでいくクロム。
ナルセウスは突っ込んでくるクロムに向かって一言。やれやれと言った感じで、こう言った。
「その程度?」
「何?」
ナルセウスは槍を横なぎに振るった。目にもとまらぬ速度で、ただ横に、槍を振った。
あまりの速度と質量をもった魔力で、槍の切っ先からは、衝撃波が発生。槍からはソニックブームが放たれる。ナルセウスに一直線に突っ込んでいったクロムは、当然風の衝撃波を避けられず、吹き飛んで行く。
クロムはそのまま円形のステージから放り出されると、100メートル以上はゴロゴロと転がっていき、弓の的に激突して止まった。クロムはあちこち骨折して血だらけ。プロテクトアーマーは粉々に砕け、白目をむいて気絶していた。
集まっているギャラリーや、ティニアスはその光景を見て、唖然とする。皆、言葉が出ない。
「え?」
ティニアスはナルセウスの異常な強さに、驚愕した。人間を超えている強さだ。
「う、ウソだろう? 人間離れしたその強さ。ま、まさか。勇者様?」
ティニアスはナルセウスを見て、そう言った。
「変態ではありません」
ナルセウスはクロムに向かって、無表情で答える。
クロムは精悍な顔立ちをしているが、腹黒い雰囲気が感じ取れる。空気を読めないナルセウスだが、魔力察知に長けているので、悪意があるのかどうかはすぐにわかる。
ナルセウスは腐っても勇者。女でも勇者。だからまともな訓練しない農民娘でも、最初からチートだ。
「私はナルセウスと申します。クロム様、若輩者ですが、今後ともよろしくお願いいたします」
ナルセウスは、ティニアスが見守る執務室で、お願いしますとだけ言った。プライドが高いのか、先輩でも頭は下げていない。
「ふーん。顔は合格点だが、剣の腕は立つのか? 皇帝には警備兵が常に守っているが、俺らも剣をぶら下げている以上、皇帝の剣とならなければならない。お前、どのくらい強いのか、俺と勝負しようぜ」
クロムはニヤニヤと笑っている。ナルセウスが気に入らないのか、それとも何か別の思惑があるのか分からない。ただ、クロムはナルセウスをいじめたがっている。それは何となくナルセウスも察した。
「おいクロム。何を考えている。まだナルセウスは仕事をよく分かっていない。初日に怪我でもされたら今後に響く。やめておけ」
暗殺者を余裕で倒すナルセウス。強さは認めているが、クロムの強さはさらに上をいく。皇帝のティニアスは、クロムが魔剣士の資格を持っていることを知っている。
「どうする? 俺が怖いか? 優男」
クロムはティニアスの制止も聞かず、ナルセウスを挑発する。
「良いッスよ。勝負しましょう」
「なに? 良いッスよ?」
「間違えました。良いですよ。稽古しましょう」
つい素が出てしまうが、ナルセウスはすぐに言い直した。
「度胸があるじゃねぇか。ティニアス様、少しこいつに気合いを入れてやりますよ」
ティニアスは言うことを聞かないクロムを見て、「はぁ」とため息をつく。ナルセウスが来てから、一気に問題が発生する。
「一つ聞くが、ナルセウス。お前は何か戦闘職の資格を持っているのか?」
このまま試合をさせるのはまずい。クロムの魔剣士と釣り合いが取れる、戦闘職を持っているか聞いてみる。
「戦闘職? えぇと。何でしたか? それは」
「一般では、スキルと呼んでいるぞ。その年でスキルを知らんのか?」
「あぁ! スキルのことですか?」
ナルセウスは農民娘の為、帝都に来るまでスキルのことは知らなかった。村にスキル鑑定士がいなかったからだ。
「持ってますよ! 履歴書に書きました!」
「なに? 履歴書?」
ティニアスは履歴書を見返す。見過ごした項目があったようだ。所持スキルの欄を見ると、「魔槍士」の資格があった。読みにくく、汚い字で、書いてあった。
「ほぅ。魔槍か」
ティニアスはナルセウスの強さが、槍と魔法であることを知る。
「大丈夫か? クロムは強いぞ。初日から無理をすることはない」
優しく問いかけるが、ナルセウスは違った。
「大丈夫です。こう見えてもそれなりに強いですから」
ナルセウスは絶壁の胸を張る。
「わかった。お前の強さは俺も見ておきたい。クロムほど強ければ、お前に与える仕事の内容も変わってくるからな。訓練場での試合を許可する。俺も行くので、少し待て」
「はっ! ありがとうございます!」
クロムは元気よく返事をするが、不敵な笑いを浮かべている。クロムは内心、こう思っていた。
どんな奴かしらねぇが、計画を邪魔されるわけにはいかねぇ。ナルセウスだかって男女を排除する。
クロムは剣の柄を握ると、訓練場に向かった。
◆◆◆
訓練場には、多くの兵士が日々の訓練をしていた。
剣での稽古。弓での的当て。集団魔法の訓練。
数百人以上の兵士や騎士が、戦争の為に訓練をしている。ここは第一訓練場で、貴族の人間が多く集まる訓練場だった。
新米の従騎士が試合をすると聞き、ギャラリーが多く集まってくる。賭け事まで初めて、訓練場は無法地帯とかす。リーダーらしき騎士が賭け事はするなと叫んでいるが、誰も言うことを聞かない。統制がとれていないことから、ここの騎士や兵士たちは練度がかなり低いと思われる。
訓練場には円形のステージがあり、クロムはその上に登ると、叫んだ。
「いいか! 俺の獲物は剣でいい! ハンデとして、お前は槍で戦え!」
剣と槍では、槍の方が強い。時と場合によるが、間合いが長い槍は、剣よりも有利だ。
「いいんですか? 死んでも知りませんよ?」
「ほざけ! お前では相手にならんよ! では、ティニアス様! 合図を!」
ティニアスは少し離れた高い場所にいて、二人を見ていた。物見小屋のような場所だ。
「良いだろう! 二人とも、武器を構えろ!」
クロムは訓練用の木剣を握り、ナルセウスは木槍を握る。刃はないが、当たり所が悪ければ死ぬ。プロテクトアーマーという訓練用の鎧は着ているが、魔法を使えばどうなるか分からない。
「では、始め!」
ティニアスの合図とともに、クロムが突っ込んだ。棒立ちのナルセウスへ、一気に詰め寄る。
「間合いの内に入れば、槍は使えねぇ!」
猛突進するクロム。その速度はかなり早い。二人の距離は15メートル以上離れていたが、一気に間合いが詰まる。
「お前が槍を振るう前に、剣を叩きこむ!」
身体魔法を使い、移動速度を加速させる。ナルセウスに向かって、弾丸のように突っ込んでいくクロム。
ナルセウスは突っ込んでくるクロムに向かって一言。やれやれと言った感じで、こう言った。
「その程度?」
「何?」
ナルセウスは槍を横なぎに振るった。目にもとまらぬ速度で、ただ横に、槍を振った。
あまりの速度と質量をもった魔力で、槍の切っ先からは、衝撃波が発生。槍からはソニックブームが放たれる。ナルセウスに一直線に突っ込んでいったクロムは、当然風の衝撃波を避けられず、吹き飛んで行く。
クロムはそのまま円形のステージから放り出されると、100メートル以上はゴロゴロと転がっていき、弓の的に激突して止まった。クロムはあちこち骨折して血だらけ。プロテクトアーマーは粉々に砕け、白目をむいて気絶していた。
集まっているギャラリーや、ティニアスはその光景を見て、唖然とする。皆、言葉が出ない。
「え?」
ティニアスはナルセウスの異常な強さに、驚愕した。人間を超えている強さだ。
「う、ウソだろう? 人間離れしたその強さ。ま、まさか。勇者様?」
ティニアスはナルセウスを見て、そう言った。
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