7ガツ5カのアナタ

海棠エマ(水無月出版)

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2020年6月

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 2020年 6月

 世界を襲った未知のウィルスになんとなく慣れてきた頃。高校は時間差登校と称してクラスをふたつに分けて、生徒に登校を促していた。麻倉茗(あさくらめい)は高校から近い場所に住んでいたので、朝一番に登校して、早めの昼食、そしてその後1時間だけ授業を受けて帰宅、と言うスケジュールをこなしていた。

 「ねー、麻倉!」

 昼休みもあと数分で終わるという頃、クラスで一番お調子者の男子生徒が声を上げた。彼の名前は近藤。下の名前は残念ながら知らない。しかし、近藤が野球部に所属しているのは知っていた。昨年の夏休み、それはまだ未知のウィルスの存在なんか知られる前の話であり、夏が夏色をしていた時のことだった。茗が夏休みに教室へ足を運んでいた時だった。グラウンドの方から青春の音と表される、カキーンという清々しい音が響いた。3階の窓からふと外を見ると、野球部員たちが汗を流しているのが見え、その中に近藤もいた。
 近藤とは一年の時から同じクラスで、彼は坊主頭の青年だった。笑顔が中学生みたいだなと思ったから、印象に強く残っている同級生だったのだ。彼は笑うと目尻が下がるのだ。小説でそういう表現を知っていたが、実際に目尻を下げてニコニコする人を見たことがなかった茗にとって、近藤の笑顔は印象深かった。目尻を下げる笑顔を向ける一方で、彼は授業中にメガネをかける。そのメガネをかけた姿と笑顔の間に大きな違いがあり、その違いが余計に気になる要素の一つだった。

 「ん、茗、呼んでるで、あっち…」

 茗がよく一緒に昼食を食べていたユヅが茗に向かって顎で近藤の方をさした。彼女は今まさに大きなサンドウィッチを頬張ろうとしていた。カツの入った美味しそうな一品だ。高校生のお昼ご飯には勿体無いほど贅沢に見える。

 「なー、麻倉、これどう思う?」

 
 
 茗が近藤から見せられたのは、スマホの横画面だった。黒い画面と血糊のようなフォントというごくシンプルだが、インパクトのある画面、そのいかにも見てる人の恐怖心を煽るような画面に、茗はあまり良い気分はしなかった。画面の中心には再生マークがあったので、それが動画であると容易に想像できた。
 「なにそれ?」茗が聞くと、近藤が話し始める。
 「俺、こういうの好きなんだよね。知ってた?」
 「いや、知らない」
 「じゃなくて…この話知ってる?」近藤が気まずそうな態度に変わる。
 「いや、両方とも知らんかった…。なに?それ」
 茗が聞いて近藤が説明するために口を開こうとすると、次の授業の先生がガラガラと扉を開けて入ってきた。
 「はい、授業を始めます。みんな着席して…」
 強制的にふたりの会話は中断された。
 「後でな…」
 近藤が携帯を指しながら、口をぱくぱくして言ったのが見えたので、茗はそれにコクンとうなずいた。
 
 ***

 その後忘れてしまったのか、近藤から話が来ることはなかった。
 「あれ、なんだったんだろ?」と茗は突然つぶやいた、
 「ん?なんて?」ユヅが耳を傾ける体勢をとる。茗と比べてだいたい数センチ背の低い彼女は、日に焼けた茶色い髪が特徴的だ。ふわふわしていて、定期的に触りたくなる髪質である。
 「今日の昼休みさ、近藤から聞き損ねた話、あれなんだったんだろうね?」
 「あー、なんか話しかけられてたね。あの画面なにが書いてあったの?」
 「2025年7月5日になんかやばいことが起こる。あなたはどう生き残る?みたいな。そんな内容だった」
 「2025年ってことは私たち…順当にいけば大学4年か…。で、やばいことってなに?」
 ユヅは好奇心旺盛だ。広く浅く興味を持ち、豆知識や雑学が多く彼女の頭を支配しているかのようだった。
 「さぁ?私はそれが知りたい」
  そこで二人は調べることにした。駅のプラットフォームの真ん中で頭を寄せ合って、ユヅのスマホを覗き込む。あたりは騒音で満ちていて、2人の間だけ時間が止まったような感覚がする。

 《2025年7月5日 なにがおこる?》

 ユヅのフリック入力は相当早い。音を出す設定にしているためか、その効果音は子どもが無造作に作る音楽に似ていた。
 そこで茗は、ユヅのスマホが変わっていることに気づいた。ミントグリーンの柔らかいフォルムのスマホだった。カメラレンズが2つも付いている。カバーなしの剥き出しの箱はユヅの手の中に器用に収まっていた。
 「変えた?機種」
 「うん、お父さんが変えるからって言って一緒に契約してくれたの。ほら、ホームボタンがないの。画面が大きいから、映画観やすいんだ」
 「いいな、私も変えたい。私の一番サイズが小さい機種だよ」茗は自身の携帯に目を落とす。
 ユヅは新しいスマホを茗に見せて、眩しいくらいの笑顔を見せてくれた。彼女の趣味のひとつに映画鑑賞というものがある。
「最近映画館行けないから、配信サービス使い始めたの。画面大きくて良いんだ」
 話が逸れた。ふたりはスマホの画面に顔を戻して2025年の情報をみはじめた。
 「んー、この漫画家がこの日になんかあるって言っているみたいだね。タツキ…リョウさん?が夢で見たことと関係あるみたい…。この日に大災難が起こるって。近藤の言ってたことは、都市伝説だね」
 「こう言うのが好きって話していたから…つまり都市伝説が好きなのか」
「そうなんじゃない?」
 
 蝉の声が聞こえ始めて、ホームにこだまする。彼らの声は夏の到来を、皆に教えてくれていた。
 ウィルスが充満しても夏は来る。去年と同じように、今年もまた夏が来るのだ。高校生2回目の夏の到来である。
  
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