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2022年8月
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2022年 8月
「あ、もしもし、茗?明日どうやって行く?」
夜遅くにユヅから電話がかかってきた。明日企画されている同窓会についての連絡だった。
「電車~。17時44分着の電車で行くよ」茗は答える。
「了解―。わたしも同じ電車乗るから一緒に行こう。
ねー、卒業してからまだ半年も経ってないのに変な感じだよね。小山は同窓会だ~って言っていたけど、実感湧かないわ」
卒業してから ユヅは茗と違って順調に大学に入学し、やりたいことを見つけて取り組んでいる。会う頻度は高校生だった時と比べて格段に落ちたが、それでも月に一度は会う仲のままだった。
「うん。登校しなくなっただけであんまり変わってないからね。私も実感湧かないわ」
茗は電話の設定をスピーカーに変えた。勉強机の上を片付け、明日の準備をするためである。
「あ、ねー茗?この間ね、大学でびっくりなことがあったんだよ。なんだと思う?」
しばらく茗は考えてから答えた。
「さぁ?ユヅは滅多なことで驚かないから、思いつかないや」
「近藤がさ、同じ大学だった」
「え!?」
驚きの情報だった。思わず茗は大きな声を出して、口を両手で塞いでいた。また、感情の起伏があまりないユヅが驚いたのもうなづけた。
「違う学部…ってことだよね?」
茗が聞くと、電話の奥からパリと音がした。ユヅはポテトチップスを食べているようだ。
「うん、もち。向こうは経済学部だって。オンライン授業多くて知らなかったんだけど、同じ大学だったわ」
ユヅは文学部だ。一方の近藤は経済学部。
「私も勉強頑張らないとな…。同窓会参加するけど、こう見えて浪人生だもん」
「気にしてんの?」
「まぁね。正直次受かるかわからないし、私だけ大学生になれなかったらどうしよう」
母にもあまり話したことのない悩みをユヅに打ち明けて、対してスッキリしなかった心を抱えながら、茗は無理に笑い声を上げた。
「もし受かんなかったら、仕事探さなきゃね。二年目の浪人はできないし…」
あえて茗は明るくしようと努める。
「明日、同窓会の前に会わない?思いっきり話聞くよ」
ユヅが言った。茗はユヅのこう言った性格が好きだった。
「賛成」
***
「あ、葉月と麻倉じゃん?」
懐かしい声が背後からして、二人が同時に振り返るとそこには近藤がいた。目尻の下がる笑顔は半年前からなにも変わっていない。しかし変わったのは少し髪が伸びたことくらいか、野球少年の面影はもうすでに無くなっていた。
「久しぶり~」と茗。
「先週ぶり~」とユヅが返した。
「おっす。ふたりは相変わらず仲良いね。卒業後もよく会ってるの?」近藤が言った。
「うん」
「少なくともひと月に一回は会うようにしてる」茗がうなづく傍、ユヅが言った。
同窓会という名の集まりは穏やかに始まり、近況報告を元同級生同士でし合った。茗のほかにも浪人生がちらほらおり、また、不参加の生徒の近況も聞くこともできた。
「瀬尾さんはね、今日来てないんだ。あの子今東大目指して浪人してんの…」
「葉月と近藤は同じ大学なんだっけ?オレ、佐藤さんと一緒…」
「え!舟木さん、あの大学にストレート合格してたの?すごっ!」
横長に広い席の端々から声が聞こえる。まるで小さな社会の中にいるようだった。騒がしい音が茗の耳の周りで魚のように踊っているようだった。
茗は口数少なく人の話を聞くことに努めていたが、一方隣に座っているユヅは全ての人の質問にハキハキと答えていた。まるで聖徳太子のようだ。
「よっす。麻倉の志望校ってどこ?あ、もし答えたくなかったら良いよ。ちょっと興味本位で聞いただけだから」
いつの間にか隣の席に移動してきた近藤が、茗の横にソフトドリンクと唐揚げの小皿を持っていて言った。
「〇〇大学だよ」
「え!結構偏差値高いところ狙っているんだね。学部は?」
「文学部かな」
「葉月と一緒だ」
「学科は違うと思うけどね…」
「葉月は比較芸術って言っていたな」
「〇〇大学には比較芸術学科ないから、複合芸術学科に進もうと思ってる」
「良いじゃん。頑張って!受験終わったら遊びに行こうな。約束!」
近藤はいい奴だ。少し話していて茗はそう思った。コミュニケーション能力に優れていて、相手の懐に入ってしまう話し方ができる。そして、深くは干渉しないしゃべり方。茗は素直に近藤を羨ましく思った。
「あのさ、一昨年かな。2025年の話してたじゃん。覚えてる?」
「あ!都市伝説な。地震か、大きな津波か隕石落下が7月5日にあるかもしれないって言われてるんだよ。完全に偶然なんだけど、いろんな人がその日にちを言及してんだって」
「そういうの好きなんだね」
「好きっていうか、実際わかっていれば犠牲者は少ないだろ?ただの都市伝説って片付けないで、想定して準備しておくのは悪いことじゃないと思って。それに、知ってる?特定の人はその日を境に日本人はもっと頑張ろうって言って団結するビジョンも見えたんだってさ」
近藤が言っていることはめぐが言っていることと似ている部分があった。
「仮にね、もし本当に大災害とか津波とか明日をもしれぬことになったら近藤はどうするの?」
「んー。まぁあんまり死にたくはないよな。これからやりたいことはたくさんあるし。本当に災害が起こるならなるべく回避する。周りの人間と助け合えば乗り越えられると思うんだよね。パンデミックもそうだったでしょ?」
「なるほどね…」
「起こる起こらないは別として、この都市伝説が言いたいのは、つまり、備えあれば憂いなし、ってことだね」
***
『茗は大丈夫だよ。頑張っている人に頑張れって言うのは良くないって言うけど、みんな応援してる。先月茗と会った時、私はほっとしたよ。会うだけでほっとする人が私にとって茗なんだ。だから茗、何かあったら言ってね。今日みたいに話聞くし、会うよ。泣きたくなったら一緒にいる。全部受け入れるよ』
夜、ベッドの中でユヅの言葉を思い出しながら、「自分はもっと精神的に強いって思ってたのにな…」と思う。親友の言葉にこれほど助けられたことはなかった。
枕に頭を埋めながら茗は来年の自分の姿を思い描いてみた。キャンパス内をトートバッグを肩にかけながら悠々と歩くのだ。思い切りメイクをして、バイトもして、人生の夏休みを目一杯楽しむのだ。飲み会にも参加するかもしれない。課題が終わらなくて徹夜もするかもしれない。でも、きっと楽しいに違いないのだ。
しかし、想像を膨らませば膨らませるほど、その背景は土砂降りの雨になってしまう。その雨の中、不合格と書かれたA4の紙に目を落として茗が泣いているのだ。
不安を抱えたまま彼女は眠りについた。明日から再び勉強づけの毎日が始まる。
「あ、もしもし、茗?明日どうやって行く?」
夜遅くにユヅから電話がかかってきた。明日企画されている同窓会についての連絡だった。
「電車~。17時44分着の電車で行くよ」茗は答える。
「了解―。わたしも同じ電車乗るから一緒に行こう。
ねー、卒業してからまだ半年も経ってないのに変な感じだよね。小山は同窓会だ~って言っていたけど、実感湧かないわ」
卒業してから ユヅは茗と違って順調に大学に入学し、やりたいことを見つけて取り組んでいる。会う頻度は高校生だった時と比べて格段に落ちたが、それでも月に一度は会う仲のままだった。
「うん。登校しなくなっただけであんまり変わってないからね。私も実感湧かないわ」
茗は電話の設定をスピーカーに変えた。勉強机の上を片付け、明日の準備をするためである。
「あ、ねー茗?この間ね、大学でびっくりなことがあったんだよ。なんだと思う?」
しばらく茗は考えてから答えた。
「さぁ?ユヅは滅多なことで驚かないから、思いつかないや」
「近藤がさ、同じ大学だった」
「え!?」
驚きの情報だった。思わず茗は大きな声を出して、口を両手で塞いでいた。また、感情の起伏があまりないユヅが驚いたのもうなづけた。
「違う学部…ってことだよね?」
茗が聞くと、電話の奥からパリと音がした。ユヅはポテトチップスを食べているようだ。
「うん、もち。向こうは経済学部だって。オンライン授業多くて知らなかったんだけど、同じ大学だったわ」
ユヅは文学部だ。一方の近藤は経済学部。
「私も勉強頑張らないとな…。同窓会参加するけど、こう見えて浪人生だもん」
「気にしてんの?」
「まぁね。正直次受かるかわからないし、私だけ大学生になれなかったらどうしよう」
母にもあまり話したことのない悩みをユヅに打ち明けて、対してスッキリしなかった心を抱えながら、茗は無理に笑い声を上げた。
「もし受かんなかったら、仕事探さなきゃね。二年目の浪人はできないし…」
あえて茗は明るくしようと努める。
「明日、同窓会の前に会わない?思いっきり話聞くよ」
ユヅが言った。茗はユヅのこう言った性格が好きだった。
「賛成」
***
「あ、葉月と麻倉じゃん?」
懐かしい声が背後からして、二人が同時に振り返るとそこには近藤がいた。目尻の下がる笑顔は半年前からなにも変わっていない。しかし変わったのは少し髪が伸びたことくらいか、野球少年の面影はもうすでに無くなっていた。
「久しぶり~」と茗。
「先週ぶり~」とユヅが返した。
「おっす。ふたりは相変わらず仲良いね。卒業後もよく会ってるの?」近藤が言った。
「うん」
「少なくともひと月に一回は会うようにしてる」茗がうなづく傍、ユヅが言った。
同窓会という名の集まりは穏やかに始まり、近況報告を元同級生同士でし合った。茗のほかにも浪人生がちらほらおり、また、不参加の生徒の近況も聞くこともできた。
「瀬尾さんはね、今日来てないんだ。あの子今東大目指して浪人してんの…」
「葉月と近藤は同じ大学なんだっけ?オレ、佐藤さんと一緒…」
「え!舟木さん、あの大学にストレート合格してたの?すごっ!」
横長に広い席の端々から声が聞こえる。まるで小さな社会の中にいるようだった。騒がしい音が茗の耳の周りで魚のように踊っているようだった。
茗は口数少なく人の話を聞くことに努めていたが、一方隣に座っているユヅは全ての人の質問にハキハキと答えていた。まるで聖徳太子のようだ。
「よっす。麻倉の志望校ってどこ?あ、もし答えたくなかったら良いよ。ちょっと興味本位で聞いただけだから」
いつの間にか隣の席に移動してきた近藤が、茗の横にソフトドリンクと唐揚げの小皿を持っていて言った。
「〇〇大学だよ」
「え!結構偏差値高いところ狙っているんだね。学部は?」
「文学部かな」
「葉月と一緒だ」
「学科は違うと思うけどね…」
「葉月は比較芸術って言っていたな」
「〇〇大学には比較芸術学科ないから、複合芸術学科に進もうと思ってる」
「良いじゃん。頑張って!受験終わったら遊びに行こうな。約束!」
近藤はいい奴だ。少し話していて茗はそう思った。コミュニケーション能力に優れていて、相手の懐に入ってしまう話し方ができる。そして、深くは干渉しないしゃべり方。茗は素直に近藤を羨ましく思った。
「あのさ、一昨年かな。2025年の話してたじゃん。覚えてる?」
「あ!都市伝説な。地震か、大きな津波か隕石落下が7月5日にあるかもしれないって言われてるんだよ。完全に偶然なんだけど、いろんな人がその日にちを言及してんだって」
「そういうの好きなんだね」
「好きっていうか、実際わかっていれば犠牲者は少ないだろ?ただの都市伝説って片付けないで、想定して準備しておくのは悪いことじゃないと思って。それに、知ってる?特定の人はその日を境に日本人はもっと頑張ろうって言って団結するビジョンも見えたんだってさ」
近藤が言っていることはめぐが言っていることと似ている部分があった。
「仮にね、もし本当に大災害とか津波とか明日をもしれぬことになったら近藤はどうするの?」
「んー。まぁあんまり死にたくはないよな。これからやりたいことはたくさんあるし。本当に災害が起こるならなるべく回避する。周りの人間と助け合えば乗り越えられると思うんだよね。パンデミックもそうだったでしょ?」
「なるほどね…」
「起こる起こらないは別として、この都市伝説が言いたいのは、つまり、備えあれば憂いなし、ってことだね」
***
『茗は大丈夫だよ。頑張っている人に頑張れって言うのは良くないって言うけど、みんな応援してる。先月茗と会った時、私はほっとしたよ。会うだけでほっとする人が私にとって茗なんだ。だから茗、何かあったら言ってね。今日みたいに話聞くし、会うよ。泣きたくなったら一緒にいる。全部受け入れるよ』
夜、ベッドの中でユヅの言葉を思い出しながら、「自分はもっと精神的に強いって思ってたのにな…」と思う。親友の言葉にこれほど助けられたことはなかった。
枕に頭を埋めながら茗は来年の自分の姿を思い描いてみた。キャンパス内をトートバッグを肩にかけながら悠々と歩くのだ。思い切りメイクをして、バイトもして、人生の夏休みを目一杯楽しむのだ。飲み会にも参加するかもしれない。課題が終わらなくて徹夜もするかもしれない。でも、きっと楽しいに違いないのだ。
しかし、想像を膨らませば膨らませるほど、その背景は土砂降りの雨になってしまう。その雨の中、不合格と書かれたA4の紙に目を落として茗が泣いているのだ。
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