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挨拶
レオネはロトロを発つ前、多忙な予定の合間を見計らってラヴェンタを訪れた。
「まじか! ついに年貢の納め時ってやつか!」
レオネから結婚の報告を受けてカルロは大げさに声を上げた。
「そんな今まで悪い事してたように言わないでくれよ」
「いーや! 俺のような平凡な男からすると、お前はいつも良い女を喰い放題でとっとと結婚してくれって気分だったね!」
カルロにもそう言われ自分がいかに女性に対して不誠実であったか改めて痛感する。苦笑いするレオネにカルロはギョロ目を見開いて当然の質問をしてきた。
「で、相手は誰なんだよ?」
「それがまだちょっと言えないんだ。でももうサルヴィに移る事にはなるから今日は挨拶だけでもと思ってさ」
「貴族様も色々あるんだな。んで相手は、男? 女? 未亡人?」
「あはは、だから言えないんだって」
「でも、なんか嬉しそうだな。少なからず嫌な相手では無かったのか」
鋭い指摘にドキッとしたが、誰にも言えないでいるこの心内を少し話したくなった。
「実は少し前から気になっていた人からの話だったんだ。だから実は凄く舞い上がってる」
照れながらそう言うとカルロは驚いた顔をしつつ悪態をついた。
「なんだよその腑抜けた顔は! お前のそんな顔初めて見たぞ! ケッ! 独身の時は散々遊んでおいて、さらに意中の人と結婚とかうまく行き過ぎだろ! 腹立つなぁ~っ」
口は悪いが祝福してくれている事が伝わってきてレオネはより嬉しくなった。
カルロの店を後にして通りを歩いていた時だった。
「ブ、ブランディーニさん!」
急に後ろから呼び止められてレオネは足を止め振り向いた。後ろから息を切らしながら誰か走ってくる。
「ブ、ブランディーニさん、お久しぶりです」
男は酸素を求めながらもなんとか言葉を発している。ボサボサ髪の小さい男だった。
「えっと……」
(誰だっけなぁ……)
男が顔を上げた。茶色の髪を後ろで束ねているが顔に髪がかかっていてよくわからない。だがその陰気な印象でレオネはなんとなく思い出した。
「あー、海亀亭で……」
以前海亀亭で話しかけられたことがあった気がする。いつだったか、何を話したかもよく覚えてないが。
「はい! 覚えていてくれたんですね!」
男は実に嬉しそうに言ってくる。
(覚えていたうちに入るのかな……)
「最近、み、店に来ないからどうしたのかな、と思ってました……」
男は猫背をさらに丸めてオロオロしながら言う。目も泳いでいる。
「ちょっと忙しくてね」
「あ、あの! これから一緒に飲みませんか?」
男が思い切ったように誘ってきた。
「あー……すまないが、もう帰るんだ」
レオネが断ると男は「そうですか……」と肩を落とした。
レオネは少し話をして思い出してきた。
以前娼婦二人を連れてレオネも一緒に飲もうと誘ってきた男だ。今回こそはレオネも含めて女性と遊びたいのかもしれない。だが、それだと余計に今のレオネは付き合ってはやれない。この男、人と話すのが苦手な気質のように見える。それでも勇気をだして誘ってきていることは感じ取れ、レオネは若干の申し訳なさを感じた。「ごめんね」と優しく苦笑いを返し、少し迷いつつ言葉を選んで伝えた。
「君さ……髪を切ったほうが魅力的になると思うよ。ダラダラ伸ばしている私が言うのも何だけどさ。君の場合は短いほうが良いと思う」
男は驚いたように固まり、そして髪の間からでもわかるくらい赤くなった。
「き、切ります……」
「ああ、きっと魅力的になるよ」
レオネはそう言って男の肩を軽く二回叩き、「じゃ」と言ってその場を立ち去った。男はレオネに叩かれた肩に手を当て、その姿をいつまでも見送っていた。
「まじか! ついに年貢の納め時ってやつか!」
レオネから結婚の報告を受けてカルロは大げさに声を上げた。
「そんな今まで悪い事してたように言わないでくれよ」
「いーや! 俺のような平凡な男からすると、お前はいつも良い女を喰い放題でとっとと結婚してくれって気分だったね!」
カルロにもそう言われ自分がいかに女性に対して不誠実であったか改めて痛感する。苦笑いするレオネにカルロはギョロ目を見開いて当然の質問をしてきた。
「で、相手は誰なんだよ?」
「それがまだちょっと言えないんだ。でももうサルヴィに移る事にはなるから今日は挨拶だけでもと思ってさ」
「貴族様も色々あるんだな。んで相手は、男? 女? 未亡人?」
「あはは、だから言えないんだって」
「でも、なんか嬉しそうだな。少なからず嫌な相手では無かったのか」
鋭い指摘にドキッとしたが、誰にも言えないでいるこの心内を少し話したくなった。
「実は少し前から気になっていた人からの話だったんだ。だから実は凄く舞い上がってる」
照れながらそう言うとカルロは驚いた顔をしつつ悪態をついた。
「なんだよその腑抜けた顔は! お前のそんな顔初めて見たぞ! ケッ! 独身の時は散々遊んでおいて、さらに意中の人と結婚とかうまく行き過ぎだろ! 腹立つなぁ~っ」
口は悪いが祝福してくれている事が伝わってきてレオネはより嬉しくなった。
カルロの店を後にして通りを歩いていた時だった。
「ブ、ブランディーニさん!」
急に後ろから呼び止められてレオネは足を止め振り向いた。後ろから息を切らしながら誰か走ってくる。
「ブ、ブランディーニさん、お久しぶりです」
男は酸素を求めながらもなんとか言葉を発している。ボサボサ髪の小さい男だった。
「えっと……」
(誰だっけなぁ……)
男が顔を上げた。茶色の髪を後ろで束ねているが顔に髪がかかっていてよくわからない。だがその陰気な印象でレオネはなんとなく思い出した。
「あー、海亀亭で……」
以前海亀亭で話しかけられたことがあった気がする。いつだったか、何を話したかもよく覚えてないが。
「はい! 覚えていてくれたんですね!」
男は実に嬉しそうに言ってくる。
(覚えていたうちに入るのかな……)
「最近、み、店に来ないからどうしたのかな、と思ってました……」
男は猫背をさらに丸めてオロオロしながら言う。目も泳いでいる。
「ちょっと忙しくてね」
「あ、あの! これから一緒に飲みませんか?」
男が思い切ったように誘ってきた。
「あー……すまないが、もう帰るんだ」
レオネが断ると男は「そうですか……」と肩を落とした。
レオネは少し話をして思い出してきた。
以前娼婦二人を連れてレオネも一緒に飲もうと誘ってきた男だ。今回こそはレオネも含めて女性と遊びたいのかもしれない。だが、それだと余計に今のレオネは付き合ってはやれない。この男、人と話すのが苦手な気質のように見える。それでも勇気をだして誘ってきていることは感じ取れ、レオネは若干の申し訳なさを感じた。「ごめんね」と優しく苦笑いを返し、少し迷いつつ言葉を選んで伝えた。
「君さ……髪を切ったほうが魅力的になると思うよ。ダラダラ伸ばしている私が言うのも何だけどさ。君の場合は短いほうが良いと思う」
男は驚いたように固まり、そして髪の間からでもわかるくらい赤くなった。
「き、切ります……」
「ああ、きっと魅力的になるよ」
レオネはそう言って男の肩を軽く二回叩き、「じゃ」と言ってその場を立ち去った。男はレオネに叩かれた肩に手を当て、その姿をいつまでも見送っていた。
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