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異世界探索の始まり
4話 初の闘いで土下座をする
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ドアを開けて見渡してみた。
目の前には家々が並んでる。しかし、家の間の空間が歪んでいて、それぞれがぜんぜん違う雰囲気を醸(かも)し出している。
一応、通り自体は昨日までとベースは同じなのだが、家やその周囲が完全に変貌していた。
例えば、斜め向かいにある家はヤクザの親分が住んでいるセキュリティー万全の立派な家だったはずなんだが.......
今では、どこかの遺跡のような荒れ果てた状態で、ぽつん、ぽつんと壁らしきものが部分部分を囲ってる。
中心にある家も尖った木がつらなって構成されている、見るにたえないものだった。もとは鉄筋コンクリートだったはずだが。
また、この家の周囲の植物も何かを攻撃するようにトゲトゲしいものになっていた。
その一方、見るだけで気持ちが高揚するような美しい家がある。
屋根は太陽の光を反射する海のように輝いていて、家の表面はつやのある陶器のような光沢を感じる。
庭に敷かれている砂利はそれぞれが輝きを持ち、ブルーとグレーの宝石が丁度よく混ざったような配色になっている。
ていうか、この家、庭なんてあったっけ?
ここの家主はシングルマザーのお母さんで6歳ぐらいの男の子と住んでいたはず。
お世辞にもキレイと言えない、外壁にも多数のシミがついていた、古びた外観だったと思う。
でも、そのお母さん、すごい苦労をしてきて、まさに情に厚い人格者という感じだった。
僕もよくご飯の差し入れを頂いていた。
なぜかというと、僕はそのお母さんの息子さんと公園でよく遊んでた。そのつながりである。
(公園で子供と遊ぶのが趣味で、よく休日には子供達と公園で鬼ごっこなどをしていた)
もしかして、この家はそのお母さん、あるいは、男の子の精神の反映なのだろうか?
さっきのヤクザの家も、親分やあるいは、よくその家に出入りする部下達の精神の反映なのか?
家と家の間の空間は水族館の分厚いアクリルを通して見るように、どこか湾曲して見える。
うぷっ、酔いそう....
ドアを出て、自分の家の外観を見てみた。
もはやアパートですらない。教会のような荘厳な建物である。ほかの住人はどこにいったんだ!?
屋根が美しい赤で宝石のように光っている。
壁の外観がパール色と他に少量の金の混じったような色であり、光輝のようなものを放っていた。
しばし呆気にとられて見ていたが、とりあえず、家の裏にある大きな公園に来てみた。
そして、ベンチに座って何もしないようにする。
公園までは徒歩1分。それだけの道なのに、すでにありえない発見があった。
まず、道を行く途中にすれ違った一人の女性。
露出の多い服を来た30代前半ぐらいの女性なのだが、なぜか、しわしわな老婆がダブって見えた。
いや、むしろ、老婆の姿のほうが存在感がある。
精神が外見に反映された結果なのだろうか?
ただ、30代前半ぐらいの女性の表情は機嫌よさそうな表情なのだが、老婆のような姿の女性は悲しそうな表情をしてた。
何だかすごく可哀そうな感じがする。
《彼女は外見への過度な執着により傲慢になってしまったため、外見への執着を取るために”本人にとって許しがたい外見”を必要としています。
この先の人生の中で、執着をとりされば真実の姿も美しいものになるでしょう。
老婆の姿のほうが実体であり、実体は、自我(じが)が外見への執着を捨てきれないことを悲しんでいます。》
うお!!また謎の声が聴こえた。
これは女神様だろうか?
《いえ、私はあの方には遠く及ばない一人の人間です。この度、あなたのガイド役をかってでた者です。
いつかお会いする時まで正体については伏せたいと思います》
思っただけなのに返事があった。
心も読まれている....ちょっと恥ずかしい。
《恥ずかしいことはありません。心を読んでいる事実を明かしてもいいほどに、あなたの心は澄んでいるということです。
それは過去の人生による進歩の賜物(たまもの)でしょう。》
思うのだが、女神様もこの謎の声も僕を買いかぶりすぎじゃないだろうか?
確かに悪いことをしてないけども、それほど良いことをしてきたわけでもないと思う。
世の中には慈善団体に多額の寄付をしたり、発展途上国や危険地域の第一線で人を助けている人間もいるのだ。
それに比べて、どうして、僕のような人間にそこまで評価をつけられるのだろう。
《買いかぶりじゃないか、と思えるその精神こそが力をつけてきた証です。
今は詳しいことはお伝えできませんが、あなたは結果的に大きな善行を成し遂げています。
また、この先の道のりの中で、あなた自身の真の正体を思い出すことになるでしょう。
私はそのために時折、ガイド役としてあなたと通信をさせて頂いてます》
真の正体か..........。
ちなみに、さっき女性の実体が見えたのだが、僕にも実体があるのだろう。
まあ、鏡をみても以前と同じ顔が映っていたから、僕が見ているのはあくまでも自我ということになる。
謎の声の話しからすると、自我と実体は考えていることが違うようだ。
僕の実体は僕のことをどう考えているのだろうか?
《・・・・・・・》
そこはノーコメントなのか!!
なんかよく分からないが意味深な黙秘である。
そういえば、肉体の死の瞬間に、ローブの輩が実体を攫いにくると言っていた。そして、実体により戦うとも。
であれば、肉体の死と共に僕は実体視点に大きく思考が切り替わるということになるのか。
楽しみなような、少し怖いような。
《その点に関しては、少し違うと思います。実体への切り替わりは生前から行われます。肉体の死を迎えたところですぐに実体視点に切り替わらないことが多いでしょう。その後、成長するにつれ徐々に実体へと視点が近づいていきます。
例えば、先ほどの女性であれば、今、もし命を落とせば若い姿のままです。
外見への執着に対して疑問に思うことなく、次の世界へ転生することになるでしょう。
さらに、あなたの場合では、過酷な試練であるこの世界において実体に近い視点で生きることに成功されていたので、肉体の死を迎えても大きな視点の変化は無いかもしれません。》
色々教えてくれて本当にありがとう。
何だか複雑で理解しがたいが、今、考えても仕方がないことが多いな。
ただ、今の話の内容に「転生」という用語が出てきた。
いままでの出来事を考えれば、転生が無いことのほうが不思議だから、あまり驚かないが。
て.....腕時計を見たらすでに午後4時じゃないか。
時間感覚が何だかおかしいぞ。
これも精神世界が作用しているのだろうか。
肉体の死までにあと3時間しかない。
あれ、そういえば、朝も昼も食事をしてないのにお腹が空かない。
もしかして、精神が肉体を飲み込む度合いが高まったのだろうか。
《その通りと言えます。実体が肉体への支配力を高めたため、本日の肉体の死まで不要な食欲は抑えられているのでしょう》
そうなのか。
どうやら身の回りの観察についてはガイドのお陰もあり、これで十分な感じがする。あとの時間は引き続き、家で何もしないことにあてるか。
家で死を待つ。
その言葉はいかにも暗雲に満ちたものだが、僕の心は新たな世界への扉が開かれることへの期待感が大きかった。
ちなみに家に帰る道中に気が付いた。さっきまで見えていた家と家の間の空間の歪みが無くなっているのだ。
実体による視点が強まり、真実の世界に慣れてきたからなのだろうか。
到着すると、家のドアも茶色がベースでパール色の細工が彫られた美しいものに変わっていた。
・・・・・
広すぎる部屋に置かれた重厚な椅子に座り、何もしないようにする。
今両腕を置いているのは、テレビに出てくる社長室においてあるような机だ。
当然、昨日までの部屋にはこんなもの無いし、置く場所すらもない。
こんな不思議空間にいるのに、まだ肉体を持ちながらこの世に属しているというのだから、本当に不思議である。
しかし、こうやって部屋を見渡すと少し違和感も感じる。
家具の間隔が広すぎないか??
例えば、クローゼットと他のタンスとの距離がやけに遠いのだが。
一か所にまとめた方が使いやすいだろうに。
《あなたの大らかすぎる性質がその環境に反映されています》
まじかい。そんな所まで反映されるのかい。
文字を書くとき、文字と文字の間が空くのは心が広いとかいう筆跡鑑定と、似たようなものだろうか。
そんな事をつらつら考えていると、ついに7時になってしまった。
あー。死んだと同時に黒いローブの輩が襲ってくるとか...どんな悪夢だよ。
ん、胸の奥が何かつまった感じがする。ついに来たか!!心臓麻痺。
痛み耐性のお陰か痛みは無いが、ぐえ、、、何か強烈な胃もたれが心臓に来てる感じだ...
しだいに意識が闇に吸い込まれていった。
・・・・・・・
気が付いたら、浜辺であぐらをかいて座っていた。
なんだあれ!!
海の向こうに見える山、宇宙まで届いてるのかってぐらい高いぞ。
ああ、あの山はエベルローライトか。
んん??右端の空には光る島のようなものが浮かんでいる。
あれはシルバークレスか。
「だいぶ長かったけど、あいつは元気かな....」と無意識につぶやいた。
って、おい!!なんで目の前にある不思議なものの名前を当たり前のように知ってるんだ。
「おい」
これは自我ではなく、実体が知ってることなのだろうか。
謎の声さんは、さほど思考は変わらないでしょうと言っていたが、案外変わってるっぽいぞ。
おっ!ということは、今、この体は実体のものかもしれない。
鏡を見てみたいな。
「おい!!」
後ろから乱暴さを形にしたような声が聴こえる。
振り返ると憂鬱の元がそこにいた。
紫の髪、狡猾そうな顔、金の刺繍のされた黒いローブ。
撃退しなければいけない輩である。
「テメー、何でこんな所まで来れたんだ?」
えっ?何でって、気が付いたらここにいたんだが。
「ええと、何でかちょっと分からなくて、、、、」
相手を刺激しないように低姿勢に徹する。
「まー、いいや。場所については想定外だったが、予定通り連れて帰ればいいこった。
ここの住人達が集まってくるなら分が悪いが、テメー1人だけなら簡単だ。手っ取り早くやっちまうか!!」
と、言い終わると同時に、魔法陣が相手の目の前に広がり..............え?.......そこから巨大な火球が飛んできた!!!
人間と同じぐらいの大きさじゃねえか。めちゃくちゃ熱そう!
ぎゃーっ!
と思ったら、なんか知らないけど、水の極太ビーム?のようなものに貫かれ火球が爆散したイメージが脳裏をよぎった。
それと同時に、斜め背後の海から水の極太ビームが発射されたらしく火球は貫かれ、水しぶきをあげて爆散した。
「っ!!!!」
輩は何やら驚いた様子である。というか、僕も驚いたが。
「魔法陣を発生させずに魔法を使うだと!!そんなバカげた話が。
そんなのまるで...........いや、そんなわけがない!」
何やら輩にとって受け入れがたい何かがあるらしい。
輩が軽く手を上げると、空中に魔法陣が現れ大剣がゆっくり現れた。
大剣なのだが刀身を見ると、日本刀のような物騒な切れ味を感じる。
それこそ人間を楽に真っ二つにできそうな.....
こわっ!!
と思った途端、相手の体に砂が巻き付き、岩のように固まるイメージが脳裏をよぎった。
同時に、相手の足元から砂が襲い掛かり....顔と片手の大剣だけを出した岩の蓑虫みたいになった。
「ぐぅ..バカなーっ!!」
身動きができないらしい。
正直、僕は闘いたくない。
できるだけ平和にこの場をおさめたいんだ。
闘いで根本的に解決できることなど無いと信じている。
きっと相手にも何か理由があり、このように襲ってきているのだと思う。
怖い上司がいて、強引にこんなことをさせられているのかもしれないのだ。
怪しい不動産の電話営業だって、そんなことやりたくないけどやるしかない理由が相手にはあるんだ。
「ええと、きっとあなたにも色々な事情があるのだと思います。
こうやって襲われるのも、もしかしたら、何か僕に原因があるのかもしれません。
申し訳ございませんが、今回はどうか、お引き取りを願えないでしょうか。
この通りです」
土下座をした。
輩は僕の言葉を聴くと、こんなこと言うなんて信じられないといった顔で唖然としているようだ。あるいは、土下座文化があるのかどうか不明なので、変なポーズを見て唖然としてるのかもしれない。
ただ、何となくだが相手の戦意を削ぐことができた気がしたので、岩蓑虫状態を解こうと思った。
あれ?でも、この岩蓑虫って僕に解けるのか?
あ、近くで解くのはやっぱり怖いや。
怖いので離れてから蓑虫状態を解こうと思ったら、どういうわけか、すでに相手から数メートル離れていた。
さっきもイメージをしたらその通りになったので、岩蓑虫が解けるイメージをすればいいんじゃないかな。
おお、すぐ解け始めた。
輩は岩蓑虫で圧迫されていた片手を開いたり、握ったりをして、動くかを確かめた後、「ちっ!!」と舌打ちして去っていた。
前と同じように魔法陣が足元に現れ、それが光ると同時に消えていった。
あ、そういえば、明海ちゃんを連れていったのはあの輩だ。
そのことについて聴いておけば良かったな。
...............んん?
何だろう。
かすかに僕を呼ぶ声が聴こえる。
声の方へと目をむけると、輩が去って静かになった海岸を向こうから走ってくる人がいる。
え.............あれは!そんな.....ウソだろ?
だいぶ若くて美人で生前と顔も違うのだが、紛れもなく亡くなった母親だと直感する。
「おかえりなさい!あなたに会えるのを待っていました!!」
目の前には家々が並んでる。しかし、家の間の空間が歪んでいて、それぞれがぜんぜん違う雰囲気を醸(かも)し出している。
一応、通り自体は昨日までとベースは同じなのだが、家やその周囲が完全に変貌していた。
例えば、斜め向かいにある家はヤクザの親分が住んでいるセキュリティー万全の立派な家だったはずなんだが.......
今では、どこかの遺跡のような荒れ果てた状態で、ぽつん、ぽつんと壁らしきものが部分部分を囲ってる。
中心にある家も尖った木がつらなって構成されている、見るにたえないものだった。もとは鉄筋コンクリートだったはずだが。
また、この家の周囲の植物も何かを攻撃するようにトゲトゲしいものになっていた。
その一方、見るだけで気持ちが高揚するような美しい家がある。
屋根は太陽の光を反射する海のように輝いていて、家の表面はつやのある陶器のような光沢を感じる。
庭に敷かれている砂利はそれぞれが輝きを持ち、ブルーとグレーの宝石が丁度よく混ざったような配色になっている。
ていうか、この家、庭なんてあったっけ?
ここの家主はシングルマザーのお母さんで6歳ぐらいの男の子と住んでいたはず。
お世辞にもキレイと言えない、外壁にも多数のシミがついていた、古びた外観だったと思う。
でも、そのお母さん、すごい苦労をしてきて、まさに情に厚い人格者という感じだった。
僕もよくご飯の差し入れを頂いていた。
なぜかというと、僕はそのお母さんの息子さんと公園でよく遊んでた。そのつながりである。
(公園で子供と遊ぶのが趣味で、よく休日には子供達と公園で鬼ごっこなどをしていた)
もしかして、この家はそのお母さん、あるいは、男の子の精神の反映なのだろうか?
さっきのヤクザの家も、親分やあるいは、よくその家に出入りする部下達の精神の反映なのか?
家と家の間の空間は水族館の分厚いアクリルを通して見るように、どこか湾曲して見える。
うぷっ、酔いそう....
ドアを出て、自分の家の外観を見てみた。
もはやアパートですらない。教会のような荘厳な建物である。ほかの住人はどこにいったんだ!?
屋根が美しい赤で宝石のように光っている。
壁の外観がパール色と他に少量の金の混じったような色であり、光輝のようなものを放っていた。
しばし呆気にとられて見ていたが、とりあえず、家の裏にある大きな公園に来てみた。
そして、ベンチに座って何もしないようにする。
公園までは徒歩1分。それだけの道なのに、すでにありえない発見があった。
まず、道を行く途中にすれ違った一人の女性。
露出の多い服を来た30代前半ぐらいの女性なのだが、なぜか、しわしわな老婆がダブって見えた。
いや、むしろ、老婆の姿のほうが存在感がある。
精神が外見に反映された結果なのだろうか?
ただ、30代前半ぐらいの女性の表情は機嫌よさそうな表情なのだが、老婆のような姿の女性は悲しそうな表情をしてた。
何だかすごく可哀そうな感じがする。
《彼女は外見への過度な執着により傲慢になってしまったため、外見への執着を取るために”本人にとって許しがたい外見”を必要としています。
この先の人生の中で、執着をとりされば真実の姿も美しいものになるでしょう。
老婆の姿のほうが実体であり、実体は、自我(じが)が外見への執着を捨てきれないことを悲しんでいます。》
うお!!また謎の声が聴こえた。
これは女神様だろうか?
《いえ、私はあの方には遠く及ばない一人の人間です。この度、あなたのガイド役をかってでた者です。
いつかお会いする時まで正体については伏せたいと思います》
思っただけなのに返事があった。
心も読まれている....ちょっと恥ずかしい。
《恥ずかしいことはありません。心を読んでいる事実を明かしてもいいほどに、あなたの心は澄んでいるということです。
それは過去の人生による進歩の賜物(たまもの)でしょう。》
思うのだが、女神様もこの謎の声も僕を買いかぶりすぎじゃないだろうか?
確かに悪いことをしてないけども、それほど良いことをしてきたわけでもないと思う。
世の中には慈善団体に多額の寄付をしたり、発展途上国や危険地域の第一線で人を助けている人間もいるのだ。
それに比べて、どうして、僕のような人間にそこまで評価をつけられるのだろう。
《買いかぶりじゃないか、と思えるその精神こそが力をつけてきた証です。
今は詳しいことはお伝えできませんが、あなたは結果的に大きな善行を成し遂げています。
また、この先の道のりの中で、あなた自身の真の正体を思い出すことになるでしょう。
私はそのために時折、ガイド役としてあなたと通信をさせて頂いてます》
真の正体か..........。
ちなみに、さっき女性の実体が見えたのだが、僕にも実体があるのだろう。
まあ、鏡をみても以前と同じ顔が映っていたから、僕が見ているのはあくまでも自我ということになる。
謎の声の話しからすると、自我と実体は考えていることが違うようだ。
僕の実体は僕のことをどう考えているのだろうか?
《・・・・・・・》
そこはノーコメントなのか!!
なんかよく分からないが意味深な黙秘である。
そういえば、肉体の死の瞬間に、ローブの輩が実体を攫いにくると言っていた。そして、実体により戦うとも。
であれば、肉体の死と共に僕は実体視点に大きく思考が切り替わるということになるのか。
楽しみなような、少し怖いような。
《その点に関しては、少し違うと思います。実体への切り替わりは生前から行われます。肉体の死を迎えたところですぐに実体視点に切り替わらないことが多いでしょう。その後、成長するにつれ徐々に実体へと視点が近づいていきます。
例えば、先ほどの女性であれば、今、もし命を落とせば若い姿のままです。
外見への執着に対して疑問に思うことなく、次の世界へ転生することになるでしょう。
さらに、あなたの場合では、過酷な試練であるこの世界において実体に近い視点で生きることに成功されていたので、肉体の死を迎えても大きな視点の変化は無いかもしれません。》
色々教えてくれて本当にありがとう。
何だか複雑で理解しがたいが、今、考えても仕方がないことが多いな。
ただ、今の話の内容に「転生」という用語が出てきた。
いままでの出来事を考えれば、転生が無いことのほうが不思議だから、あまり驚かないが。
て.....腕時計を見たらすでに午後4時じゃないか。
時間感覚が何だかおかしいぞ。
これも精神世界が作用しているのだろうか。
肉体の死までにあと3時間しかない。
あれ、そういえば、朝も昼も食事をしてないのにお腹が空かない。
もしかして、精神が肉体を飲み込む度合いが高まったのだろうか。
《その通りと言えます。実体が肉体への支配力を高めたため、本日の肉体の死まで不要な食欲は抑えられているのでしょう》
そうなのか。
どうやら身の回りの観察についてはガイドのお陰もあり、これで十分な感じがする。あとの時間は引き続き、家で何もしないことにあてるか。
家で死を待つ。
その言葉はいかにも暗雲に満ちたものだが、僕の心は新たな世界への扉が開かれることへの期待感が大きかった。
ちなみに家に帰る道中に気が付いた。さっきまで見えていた家と家の間の空間の歪みが無くなっているのだ。
実体による視点が強まり、真実の世界に慣れてきたからなのだろうか。
到着すると、家のドアも茶色がベースでパール色の細工が彫られた美しいものに変わっていた。
・・・・・
広すぎる部屋に置かれた重厚な椅子に座り、何もしないようにする。
今両腕を置いているのは、テレビに出てくる社長室においてあるような机だ。
当然、昨日までの部屋にはこんなもの無いし、置く場所すらもない。
こんな不思議空間にいるのに、まだ肉体を持ちながらこの世に属しているというのだから、本当に不思議である。
しかし、こうやって部屋を見渡すと少し違和感も感じる。
家具の間隔が広すぎないか??
例えば、クローゼットと他のタンスとの距離がやけに遠いのだが。
一か所にまとめた方が使いやすいだろうに。
《あなたの大らかすぎる性質がその環境に反映されています》
まじかい。そんな所まで反映されるのかい。
文字を書くとき、文字と文字の間が空くのは心が広いとかいう筆跡鑑定と、似たようなものだろうか。
そんな事をつらつら考えていると、ついに7時になってしまった。
あー。死んだと同時に黒いローブの輩が襲ってくるとか...どんな悪夢だよ。
ん、胸の奥が何かつまった感じがする。ついに来たか!!心臓麻痺。
痛み耐性のお陰か痛みは無いが、ぐえ、、、何か強烈な胃もたれが心臓に来てる感じだ...
しだいに意識が闇に吸い込まれていった。
・・・・・・・
気が付いたら、浜辺であぐらをかいて座っていた。
なんだあれ!!
海の向こうに見える山、宇宙まで届いてるのかってぐらい高いぞ。
ああ、あの山はエベルローライトか。
んん??右端の空には光る島のようなものが浮かんでいる。
あれはシルバークレスか。
「だいぶ長かったけど、あいつは元気かな....」と無意識につぶやいた。
って、おい!!なんで目の前にある不思議なものの名前を当たり前のように知ってるんだ。
「おい」
これは自我ではなく、実体が知ってることなのだろうか。
謎の声さんは、さほど思考は変わらないでしょうと言っていたが、案外変わってるっぽいぞ。
おっ!ということは、今、この体は実体のものかもしれない。
鏡を見てみたいな。
「おい!!」
後ろから乱暴さを形にしたような声が聴こえる。
振り返ると憂鬱の元がそこにいた。
紫の髪、狡猾そうな顔、金の刺繍のされた黒いローブ。
撃退しなければいけない輩である。
「テメー、何でこんな所まで来れたんだ?」
えっ?何でって、気が付いたらここにいたんだが。
「ええと、何でかちょっと分からなくて、、、、」
相手を刺激しないように低姿勢に徹する。
「まー、いいや。場所については想定外だったが、予定通り連れて帰ればいいこった。
ここの住人達が集まってくるなら分が悪いが、テメー1人だけなら簡単だ。手っ取り早くやっちまうか!!」
と、言い終わると同時に、魔法陣が相手の目の前に広がり..............え?.......そこから巨大な火球が飛んできた!!!
人間と同じぐらいの大きさじゃねえか。めちゃくちゃ熱そう!
ぎゃーっ!
と思ったら、なんか知らないけど、水の極太ビーム?のようなものに貫かれ火球が爆散したイメージが脳裏をよぎった。
それと同時に、斜め背後の海から水の極太ビームが発射されたらしく火球は貫かれ、水しぶきをあげて爆散した。
「っ!!!!」
輩は何やら驚いた様子である。というか、僕も驚いたが。
「魔法陣を発生させずに魔法を使うだと!!そんなバカげた話が。
そんなのまるで...........いや、そんなわけがない!」
何やら輩にとって受け入れがたい何かがあるらしい。
輩が軽く手を上げると、空中に魔法陣が現れ大剣がゆっくり現れた。
大剣なのだが刀身を見ると、日本刀のような物騒な切れ味を感じる。
それこそ人間を楽に真っ二つにできそうな.....
こわっ!!
と思った途端、相手の体に砂が巻き付き、岩のように固まるイメージが脳裏をよぎった。
同時に、相手の足元から砂が襲い掛かり....顔と片手の大剣だけを出した岩の蓑虫みたいになった。
「ぐぅ..バカなーっ!!」
身動きができないらしい。
正直、僕は闘いたくない。
できるだけ平和にこの場をおさめたいんだ。
闘いで根本的に解決できることなど無いと信じている。
きっと相手にも何か理由があり、このように襲ってきているのだと思う。
怖い上司がいて、強引にこんなことをさせられているのかもしれないのだ。
怪しい不動産の電話営業だって、そんなことやりたくないけどやるしかない理由が相手にはあるんだ。
「ええと、きっとあなたにも色々な事情があるのだと思います。
こうやって襲われるのも、もしかしたら、何か僕に原因があるのかもしれません。
申し訳ございませんが、今回はどうか、お引き取りを願えないでしょうか。
この通りです」
土下座をした。
輩は僕の言葉を聴くと、こんなこと言うなんて信じられないといった顔で唖然としているようだ。あるいは、土下座文化があるのかどうか不明なので、変なポーズを見て唖然としてるのかもしれない。
ただ、何となくだが相手の戦意を削ぐことができた気がしたので、岩蓑虫状態を解こうと思った。
あれ?でも、この岩蓑虫って僕に解けるのか?
あ、近くで解くのはやっぱり怖いや。
怖いので離れてから蓑虫状態を解こうと思ったら、どういうわけか、すでに相手から数メートル離れていた。
さっきもイメージをしたらその通りになったので、岩蓑虫が解けるイメージをすればいいんじゃないかな。
おお、すぐ解け始めた。
輩は岩蓑虫で圧迫されていた片手を開いたり、握ったりをして、動くかを確かめた後、「ちっ!!」と舌打ちして去っていた。
前と同じように魔法陣が足元に現れ、それが光ると同時に消えていった。
あ、そういえば、明海ちゃんを連れていったのはあの輩だ。
そのことについて聴いておけば良かったな。
...............んん?
何だろう。
かすかに僕を呼ぶ声が聴こえる。
声の方へと目をむけると、輩が去って静かになった海岸を向こうから走ってくる人がいる。
え.............あれは!そんな.....ウソだろ?
だいぶ若くて美人で生前と顔も違うのだが、紛れもなく亡くなった母親だと直感する。
「おかえりなさい!あなたに会えるのを待っていました!!」
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長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
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