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妖精界の騒乱
21話 荒川恵美の覚醒
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「こんな変な所であんたと会うなんてね.....あんたも、死んだのかい?」
お母さんはボサボサの長い髪を撫でつつ、ぶっきらぼうに言った。
さっきまで頑張って素直に気持ちを出したけど、会話できるようになるとやっぱり憎たらしい。
「うん。多分、そう。お母さんはこの世界で何をしてたの?」
「何って、ずっと喘息で苦しかったから病院に通ってるんだよ。ただそれだけだ。何度、あの執刀医の奴に切り刻まれたか分かりゃしない!」
え!!以前からもずっとあの執刀医に切り刻まれてたの?
花柄のワンピースが酷く汚れているだけで、お母さんの体に傷がついているようには見えないけど。
「手術されるのが嫌なら行かなきゃいいじゃない!?」
「病気なんて病院いかないと治らないだろう?だから、病院に行くだけさ。」
会話していると、何かがおかしい。
あれだけ酷い事をされながらも、お母さんはまだ病院に行くと言い張っている。
「さっきも言ったように、アースで作られた自我の習慣をパーゲトルで続ける人間は多いです。精神そのままの真相界では自分の誤った観念に中々気が付くことはできません。特に、自身の誤りに気付く習慣の無い人間ではね」
モロゾフは母の目を気にせず言い放った。
しかし、お母さんは眉の片方を訝し気につり上げただけで、何も聴こえてない風だった。なぜか、モロゾフの事を居て、居ないようなものだと思っているのかも。
「このように、自分の価値観にそぐわない言葉は聞き流してしまいます。人の意見を聴く習慣の無い人間は真相界においては盲目と同じことでしょう。」
と、肩を竦めながら軽蔑した目をお母さんに向ける。
何か腹が立ってきた。
「ちょっと!!お母さんを悪く言わないでくれる!?お母さんだって色々大変だったのよ。私がひねくれてしまったように、お母さんにも何か理由があると思うの!」
モロゾフが、おお、怖い怖い、とでも言いそうなおどけた顔をする。
それにしても、なぜか嬉しそうだ。
「では、お母さんの幼少期について見てみますか?リーディング魔法で可能だと思いますよ」
あー分かったわよ。見てやるわよ!!
私は鼻息を荒くしながら、お母さんにリーディング魔法をかけた。
お母さんの足元に魔法陣が広がる。
しかし、お母さんは魔法陣に気が付いていない様子だ。どうやら、お母さんの価値観では魔法という概念も入ってこないのね。
私の脳裏に映像が浮かぶ。
子供の頃のお母さんかしら。5歳ぐらいのお母さんが一人で遊んでる。お母さんのお母さん、私から見るとお婆ちゃんね。確か、お婆ちゃんはお母さんを産んですぐに離婚をしたはず。
お婆ちゃんはお母さんの事をほったらかしにして遊びに行くみたい。寂しそうに後ろから見送るお母さんが見える。あれ、お母さんが自分で料理をしはじめた。しかも、一人で火を使ってる!目玉焼きを作ろうとしてたけど、積み木で遊びに行っちゃった。ああ!フライパンに置きっぱなしの長箸が燃え始めた!それは、上にあるタオルに燃え移り、あっという間に火が燃え広がっていく。
燃え盛る台所を見て、お母さんは外へと逃げ出した。全焼した家が見え、次に、お婆ちゃんがお母さんを張り倒しているのが見える。。。それ以降、お婆ちゃんに「馬鹿なあんたなんか私の子じゃない」と、一方的に敵意を向けられた幼少期のお母さんは、離婚した父の元に行く。
そこで映像は終わった。
お母さん......私、お母さんの過去のこと知らなかったよ。知ろうともしなかった。
すると、補足するように脳裏に言葉が流れ始めた。
《荒川恵梨香は母親から放置され寂しかった経験から、娘に対してはできるだけ関わろうとしていたようです。しかし、過去の自分の不注意による罪悪感から、娘は自分のような不注意を犯さないよう育てようとする意図により過剰に口煩くなったのでしょう》
私は、独り言で何かぶつぶつ言っている母を見ながら.......
涙が頬をつたっていた。
お母さんも苦しかったんだね。
元を辿っていくと、誰もきっと悪くないんだ。
きっと、お婆ちゃんも何か事情があってお母さんに対して、ああいう仕打ちをしてしまったんだと思う。
「.......お母さんの事.....分かってあげられなくて、本当にごめん」
と言い、お母さんを後ろから強く抱きしめた。
その瞬間、お母さんと私の体が眩しい光を放ち始めた。
あれ、お母さんの姿が少し変わったような。
ボサボサだった黒い髪の毛も艶が出て、茶色が煌めく綺麗なストレートになってる。
お母さんがこちらを振り返った。
「恵美ちゃん、今まで本当にごめんね。恵美ちゃんの優しい気持ち、すごく伝わってきた。」
お母さんの顔から険がとれて、優しい顔つきになってる!
ただ、明らかにお母さんの顔じゃない。どういうことなんだろう?
と、思った瞬間、なぜか知らないけど、目の前の女性が誰なのか分かった。
お母さんだけど、お母さんじゃない存在。
「マルシャ.....」
私の過去の記憶にある、懐かしい名前を呟いた。
それは昔、私が実体として上層の真相界に住んでいた頃の友人だ。
「ユリアナ、久しぶりに会えて嬉しいっ!!」
そう、私は荒川恵美であり、ユリアナだ。
ボブカットはそのままに自分の髪が、輝くサファイアのような髪色になっているのが分かった。
私は実体の目覚めにより、ことの事情を理解した。
マルシャは私の過酷な試練のために、母親、荒川恵梨香としてアースに転生してくれていたのだ。もちろん、マルシャにも精神の進歩のためにそうしなければいけない事情があった。
そして、荒川恵梨香としての試練は荒川恵美による、”真の意味での許し”によって終わりを迎える。そして、荒川恵美としての試練も荒川恵梨香に対する許しで終わりを迎える。
それが今起こった事である。
「恵梨香に酷い事言われてる時、恵美ちゃんの辛い顔を見るのは本当に辛かった。実体の私が何を言っても恵梨香は聞き入れないし、もう後、数百年以上は元に戻れないと思ってたわ。本当に嬉しい!」
「そうね!ただ、ご存じの通り、これは私のお陰というわけじゃないんだ。
そこにいるストラウスのお陰なの。なぜか知らないけど、今はモロゾフっていう悪魔のフリをしているみたいだけど......」
「お久しぶりですね。ユリアナ、マルシャ。
感動の再会の所、水を差すようで心苦しいのですが......
私は天使や神々に闘いを挑むためにあなた達を目覚めさせました。」
「うえっっ!!?」
「えっ!?」
私とマルシャは驚きの声を発した。
お母さんはボサボサの長い髪を撫でつつ、ぶっきらぼうに言った。
さっきまで頑張って素直に気持ちを出したけど、会話できるようになるとやっぱり憎たらしい。
「うん。多分、そう。お母さんはこの世界で何をしてたの?」
「何って、ずっと喘息で苦しかったから病院に通ってるんだよ。ただそれだけだ。何度、あの執刀医の奴に切り刻まれたか分かりゃしない!」
え!!以前からもずっとあの執刀医に切り刻まれてたの?
花柄のワンピースが酷く汚れているだけで、お母さんの体に傷がついているようには見えないけど。
「手術されるのが嫌なら行かなきゃいいじゃない!?」
「病気なんて病院いかないと治らないだろう?だから、病院に行くだけさ。」
会話していると、何かがおかしい。
あれだけ酷い事をされながらも、お母さんはまだ病院に行くと言い張っている。
「さっきも言ったように、アースで作られた自我の習慣をパーゲトルで続ける人間は多いです。精神そのままの真相界では自分の誤った観念に中々気が付くことはできません。特に、自身の誤りに気付く習慣の無い人間ではね」
モロゾフは母の目を気にせず言い放った。
しかし、お母さんは眉の片方を訝し気につり上げただけで、何も聴こえてない風だった。なぜか、モロゾフの事を居て、居ないようなものだと思っているのかも。
「このように、自分の価値観にそぐわない言葉は聞き流してしまいます。人の意見を聴く習慣の無い人間は真相界においては盲目と同じことでしょう。」
と、肩を竦めながら軽蔑した目をお母さんに向ける。
何か腹が立ってきた。
「ちょっと!!お母さんを悪く言わないでくれる!?お母さんだって色々大変だったのよ。私がひねくれてしまったように、お母さんにも何か理由があると思うの!」
モロゾフが、おお、怖い怖い、とでも言いそうなおどけた顔をする。
それにしても、なぜか嬉しそうだ。
「では、お母さんの幼少期について見てみますか?リーディング魔法で可能だと思いますよ」
あー分かったわよ。見てやるわよ!!
私は鼻息を荒くしながら、お母さんにリーディング魔法をかけた。
お母さんの足元に魔法陣が広がる。
しかし、お母さんは魔法陣に気が付いていない様子だ。どうやら、お母さんの価値観では魔法という概念も入ってこないのね。
私の脳裏に映像が浮かぶ。
子供の頃のお母さんかしら。5歳ぐらいのお母さんが一人で遊んでる。お母さんのお母さん、私から見るとお婆ちゃんね。確か、お婆ちゃんはお母さんを産んですぐに離婚をしたはず。
お婆ちゃんはお母さんの事をほったらかしにして遊びに行くみたい。寂しそうに後ろから見送るお母さんが見える。あれ、お母さんが自分で料理をしはじめた。しかも、一人で火を使ってる!目玉焼きを作ろうとしてたけど、積み木で遊びに行っちゃった。ああ!フライパンに置きっぱなしの長箸が燃え始めた!それは、上にあるタオルに燃え移り、あっという間に火が燃え広がっていく。
燃え盛る台所を見て、お母さんは外へと逃げ出した。全焼した家が見え、次に、お婆ちゃんがお母さんを張り倒しているのが見える。。。それ以降、お婆ちゃんに「馬鹿なあんたなんか私の子じゃない」と、一方的に敵意を向けられた幼少期のお母さんは、離婚した父の元に行く。
そこで映像は終わった。
お母さん......私、お母さんの過去のこと知らなかったよ。知ろうともしなかった。
すると、補足するように脳裏に言葉が流れ始めた。
《荒川恵梨香は母親から放置され寂しかった経験から、娘に対してはできるだけ関わろうとしていたようです。しかし、過去の自分の不注意による罪悪感から、娘は自分のような不注意を犯さないよう育てようとする意図により過剰に口煩くなったのでしょう》
私は、独り言で何かぶつぶつ言っている母を見ながら.......
涙が頬をつたっていた。
お母さんも苦しかったんだね。
元を辿っていくと、誰もきっと悪くないんだ。
きっと、お婆ちゃんも何か事情があってお母さんに対して、ああいう仕打ちをしてしまったんだと思う。
「.......お母さんの事.....分かってあげられなくて、本当にごめん」
と言い、お母さんを後ろから強く抱きしめた。
その瞬間、お母さんと私の体が眩しい光を放ち始めた。
あれ、お母さんの姿が少し変わったような。
ボサボサだった黒い髪の毛も艶が出て、茶色が煌めく綺麗なストレートになってる。
お母さんがこちらを振り返った。
「恵美ちゃん、今まで本当にごめんね。恵美ちゃんの優しい気持ち、すごく伝わってきた。」
お母さんの顔から険がとれて、優しい顔つきになってる!
ただ、明らかにお母さんの顔じゃない。どういうことなんだろう?
と、思った瞬間、なぜか知らないけど、目の前の女性が誰なのか分かった。
お母さんだけど、お母さんじゃない存在。
「マルシャ.....」
私の過去の記憶にある、懐かしい名前を呟いた。
それは昔、私が実体として上層の真相界に住んでいた頃の友人だ。
「ユリアナ、久しぶりに会えて嬉しいっ!!」
そう、私は荒川恵美であり、ユリアナだ。
ボブカットはそのままに自分の髪が、輝くサファイアのような髪色になっているのが分かった。
私は実体の目覚めにより、ことの事情を理解した。
マルシャは私の過酷な試練のために、母親、荒川恵梨香としてアースに転生してくれていたのだ。もちろん、マルシャにも精神の進歩のためにそうしなければいけない事情があった。
そして、荒川恵梨香としての試練は荒川恵美による、”真の意味での許し”によって終わりを迎える。そして、荒川恵美としての試練も荒川恵梨香に対する許しで終わりを迎える。
それが今起こった事である。
「恵梨香に酷い事言われてる時、恵美ちゃんの辛い顔を見るのは本当に辛かった。実体の私が何を言っても恵梨香は聞き入れないし、もう後、数百年以上は元に戻れないと思ってたわ。本当に嬉しい!」
「そうね!ただ、ご存じの通り、これは私のお陰というわけじゃないんだ。
そこにいるストラウスのお陰なの。なぜか知らないけど、今はモロゾフっていう悪魔のフリをしているみたいだけど......」
「お久しぶりですね。ユリアナ、マルシャ。
感動の再会の所、水を差すようで心苦しいのですが......
私は天使や神々に闘いを挑むためにあなた達を目覚めさせました。」
「うえっっ!!?」
「えっ!?」
私とマルシャは驚きの声を発した。
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