上 下
12 / 27

第0012撃「メタ氏、舌を挿れられそうになる!!」の巻

しおりを挟む
1989年の7月下旬。
小生は放課後いつものように、
我らが基地、写真部へ寄りました。
部室である暗室には冷房は通っておらず、
2機のミニ扇風機ががんばってフル稼動しています。
〈自叙伝第0007撃〉で書いたように、
男性器を模写した紙を部室に何枚も吊るしていたことのある、
二歳年上の3年の下田先輩(仮名)と二人きりでした。

「夢野、ちょっとそこ座って」と、
下田はポテチを食べながら指示してきました。
部室内には木製の箱のような、
背もたれのない小さな椅子が幾つか置いてあります。
「みみの穴、舐めさせて」と突然下田が言ってきました。
正直なところ、小生は耳を舐められるのがイヤというより、
耳掃除を怠っていたので、
舐められることでマズい味でもされたら、
「夢野は汚い」とキモがられることを恐れ、
なかなかそこの椅子に腰かけることを渋っていました。

そうこうしているうちに時間が経ち、
「おつかれさんでーす」と悪友の多坂(仮名)が、
ドアを開けて陽気に入ってきました。
「おお、多坂エエとこに入ってきた、
ちょっとそこ座り!」
らんと眼を輝かせた下田が多坂に命じました。

多坂は訳もわからず言いなりになって椅子に座ると、
下田が多坂の片方のみみの穴に尖らせた舌を挿れました。
「ひゃー!」と多坂のやつが悲鳴をあげます。
多坂はほんとうに嫌がっているのか、
迂闊にも悦んだりすると「ヘンタイ」と思われかねないので、
いちおう嫌がっている表情をしているのだろうか。

そこへ黒人ジャズシンガーのような顔の渡瀬部長(仮名)が、
部室に入ってきました。
「下田ぁー!ナニしとるんや!
多坂に変なことするなー!」
多坂は魔性の女の餌食になっているところを、
渡瀬部長の一喝で阻止されたのでした。

そんな下田先輩はある日、
彼女の同級生の不良男子に性的乱暴をされたのか、
倒れこむように部室に亡命してきたことがありました。
まもなく不良男子がやってきて、
ドンドンッというより、
ガンガンと激しくドアを暴打してきました。
ドアには簡易ながらも鍵をかけてあります。
小生たち数名の写真部員は、
台風が過ぎ去るのを待つように、
ひたすらおとなしくしていました。

1学期の終業式、
明日からは待ちに待った夏休みだ!
写真部での挨拶を終えて、
いったん3階へあがり、
冷房ですこしひんやりした廊下を、
小生はひとりで1階へ降りようとしていました。
人気のない廊下で一人の女子生徒とすれ違いました。

元橋ゆきみちゃん(仮名)でした。
ゆきみちゃんと二人きりの廊下。
「夢野ー」
ゆきみちゃんが小生を上の名前で呼びかけたことに、
ショックを受けました。

2歳の頃からお互いに下の名前で呼び合っていた想い出は、
いったいなんだったのだろう……。
小生はがっくりと肩を落としながら家路をたどりました。
線路沿いの自販機で、
チェリオの500mLのでかい缶ジュースを買う。
ぐびぐび…、といっきに喉に流しこみました。

夜、テレビの歌番組で心にしみいる曲を知りました。
松任谷由実の「anniversary」。
早速、シングルのカセットテープを
翌日商店街のレコード店へ買いに走るのでした。

Spotifyで聴く https://open.spotify.com/track/21Mhxw8PyEiiMqz3DhdpWQ?si=UgpkgBI6TnCEyYju05u5HQ
YouTubeで聴くhttps://youtu.be/hIOuyyiCh8g 
しおりを挟む

処理中です...