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第9話 神子展覧会 最終商品説明会 宣言 ②
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『シャル。貴女神には、わたくしが知りうる限りの御力を与えました』
神霊様の御言葉は、タップリ充満した神威の大気を大きく揺さぶり、
神威の詰まった突風が、辺りを台風の渦にように、強烈に吹き荒れる。
(ゼルト隊長、ハーティアです。このままじゃ、神威風に巻き込まれます)
(よし、一旦距離をとって連隊を立て直せ)
(立て直したら上空から捉えた映像をこっちにもっと回せ)
(後、上空のありとあらゆる方角から捉え続けろ)
指揮官専用神鏡球内では、ゼノバランスが様々な映像を瞬時に見極めながら、
編集した映像を上司に神送信して、さらに部下にも指示を出していたが、
不意に上空に、気になる何かが横切ったような気がして、神眼を使いよく眺めてみると、
青々とした上空に空一杯に、埋め尽くされるように蠢いている無神の神晶石が、
神威突風にどんどん包み込まれていくのが、見えてしまった。
「神晶石は、神威風ぐらい、神威防御ユニットで防げるはずだが・・」
「どういうことだ」
ゼノバランスは、疑問に思ったことを独り言で吐き出した。
包み込まれた空一杯に広がる神晶石の群れは、虹色の軍勢のように押し寄せ、
水晶神宮殿一体を大きく包み込み、蠢くように群がっている。
きらびやかで華やかで美しい光の洪水、まさに絢爛華麗な光の洪水に
押し流されるように乱れ踊る虹色軍勢が、水晶神宮殿をさらに大きく包み込んでいく。
「こりゃ神的予算かけ過ぎじゃ、神威を馬鹿みたいに使いよって、神威の無駄遣いじゃ」
「もっとこうシンプルに出来んもんかの」
コバルトリス=リュオーラ端折ってコバちゃんはこの光景に駄目だしする。
勿論リスラシアとお手々とお手々は固く結ばれていた。
きっと草葉の陰でマリちゃんは泣いていることだろう。
「あら、私はいい余興だと思うわよ」
「とても幻想的だわ。子シャルちゃんにお別れの流星雨を見せてあげるなんて素敵じゃない」
「親シャルちゃんもなかなか粋な余興考えたと思うんだけど」
魅惑的な笑みを浮かべコバちゃんと寄り添い次第に絡み付いてくる。
コバちゃんは、鼻の下を伸ばしながらリスラシアとの話し合いを楽しんでいた。
虹色軍勢でもある神晶石の蠢く軍勢は一斉に空間に虹色に輝く神糸を放出していく。
この現象は、神晶石に内蔵されている神人工知能の危険予報値の値が、
限界値を突破し必ず危険が起こると予測された為、その危険区域を完全隔離し、
他の空域に影響を及ばせないよう、神糸で覆われた結界を作ろうとして起こる現象であった。
数限りない7色に輝く細い神糸が、大空を編み込んでいくように、虹色の巨大な繭を仕立てあげていった。
現場監督神ゼノバランスの脳裏世界では、呟きが流星雨のように溢れ流れ続けていた。
ーどうも、神晶石の意思がおかしいぞ。
ー動きが蟻の軍団みたいに集まってきやがる。
ー安全局は、一体全体何がしたいんだ。
ーいや、そんだけ危険な予兆があるってことか。
ーこりゃーかなり前からヤベー御力篭った神威振りまいて準備してたんじゃねーのか。
ーすげー密度の濃い神威渦巻いてんぞ。
ーどんだけ、暇してんだよ。もっとやること見つけろよ。
ーおいおい、もうそろそろよー止まってくんれーか。
ー撮してる俺らにも疑惑の眼がきたらどうすんだよ。
ー撮ってる俺らの方にも、とばっちり来んじゃねーのか。
ー後で捕まるとかぜってー勘弁だぜ。
ー俺ら、安全局ににらまれると仕事やりにくくなんだよ。
ーわかんだろ。いや、わかるわけねーわな。
ーなんで上は、独占単独放映契約なんて結ぶかね。
ー俺ら安全局に狙い撃ちされるぞ。
ーへたなもん流れちまうと俺ら下っ端は、上から首切り落とされんだよ。
ーだからやめてくれよな。
ー頼むぞ。たく、まためんどくせー職探しなんて俺は嫌だからな。
ゼノバランスの命令にしたがって、体制を立て直した神鏡球連隊が、神晶石の大群がつくりだした虹色の巨大な繭を撮し続ける。
その光景は、はなやかな虹色光の糸を放つ神晶石等が虹色の巨大な繭思うままに振る舞う光輝く世界であった。
「神霊ちゃん。今度は安全局と喧嘩でもすんのかね。俺ら巻き込むのは勘弁しろよな」
現場監督神ゼノバランスの脳裏で流れていた呟きがこぼれおち、思わず口から呟きが飛び出てしまった。
『わたくしの与えた御力を正しく使えば、下界に永遠の安寧を実現できると確信しています』
神霊様のお言葉が鍵となり、大空を覆い尽くした神威の扉が開錠され、開かれていく。
神威の扉からは、邪悪な色に染まった大量の神威の洪水が、濁流のように空から垂直に落ち、
7色の輝きを放つ繭に、大量に直接降り注いだ。
邪悪な神威は、虹繭をコーティングするかのように、覆いかぶさってきた。
危険を察知した神晶石軍勢が、さらに大量の群衆を引き連れて集まってくる。
邪悪な神威と、神晶石軍勢の争いが、まさに始まろうとしていたが、
何故か争いが始まる前に、神晶石軍勢のほとんどが、邪悪な神威に飲み込まれていった。
何者をも服従させる圧倒的な邪悪な神の意思の力が、激流のように辺り一帯を飲み込んでいく。
『わたくしは本日この場において【転神の儀】を貴女神に執り行おうと考えています』
会場は、喜びを叫んで表現する貴神等で溢れた。
「「うおー」」「「きたー」」「「まってたぜー」」
「「きゃー」」「「いやっほー」」「「きゃー」」
「「いえーい」」「「よっしゃー」」「「キタキタキター」」
「絶対シャルちゃん、もらうわよー」
「渡すもんかー」「シャルちゃんもう少しの辛抱よ」
「シャルちゃんと夜の営みしちゃうもんね」
「シャルちゃんを俺色に染めてやるぜ」
「駄目よ、私の子猫ちゃんにするのよ」
神霊様の御言葉がこだますると会場は拍手喝采に包まれ、まさに喝采の坩堝と化した。
転神の儀とは、下級神人を神子として下界に転属させ未来永劫、
神の道具としての役割を強制的に与える儀式、または神の地位を剥奪する儀式である。
神霊様は、シャルを本気で下界追放すると宣言を行った。
宣言された方のシャルは全く無反応で、うんともすんとも動かない。
シャルの周りで見守っていた貴神等は、疑問に思った。
なぜ、何も反論しない。なぜ、動かない。なぜ、放心している。
神講堂内の至る場所から、叫び声が上がりだした。
「あれ、シャルちゃん、動いていないよ」
「うそ、固まってるわよ」
「瞬きもしないわ」
「えっ真っ直ぐ立ってるだけだから、気づかなかったわ」
「シャルちゃんお人形さんになったの」
「おいおい、責任神、出てきて説明しろよ」
「俺等に人形売りつける気かよ」
「シャルちゃん、動いて、優しくするからさ」
「お姉ちゃんが、買って慰めるから動いてほしいなー」
周囲にざわめきが広がっていく。
「お母様、シャルちゃんになにしたんですか」
「おねがいします。シャルちゃんを元にもどしてください」
神子候補生エマメルダは、神威圧に神体が押しつぶされても、なお諦めない。
寝転んだまま姿勢をシャルに向けて、見えない神霊様に問いかける。
「ぶひっ綺麗ぶひっ凄いぶひっ眩しいぶひっ御心が洗われるぶひっ」
エマメルダを取り囲んで鑑賞していた貴神等は、必死にお願いする姿にいつしか眼を見開いて見守っていた。
何処からともなく、声が沸き立つ。
「神人形にして、いいなりにするのか。神の風上にも置けん奴だ」
「塵神なんかほっとけよ。今はシャルちゃんだろ」
「シャルちゃんの様子を調べてみるぞ」
「ちょっとまってろ。シャルちゃん、御免な」
「少しだけ御心見せてもらうよ」
シャルの様子がおかしいと1柱の神がシャルに向かって【神思思考探査】の御力を使うが、
巨大水晶岩に神障壁が瞬時に展開され、御力を遮断した。
「あっ駄目だ。さすが塵神だ。対策施してやがる」
巨大水晶岩は超高級商品。その値段に見合った能力を備えている。
貴神等は、協力して事態の打開をはかる為、声を掛け合う。
「おい、御力に自身ある貴神等、集まれ」
「御力合わせて、もう一度試してみるぞ」
「よし、俺にもやらせろ」「俺も」「私も」
「儂もやるぞ」「なら私もやるわ」
「みんな、御力合わせろ、いくぞーそれっ」
今度は10神程の神等が御力を合わせて【神思思考探査】をシャルに向かって使うが・・・
「駄目だ。なんて強い神障壁だ」
「これ、最高神ランクの障壁だぞ」
「なんて大層な物を用意してやがんだ」
「これ、私達じゃ、無理じゃないかな」
超高額商品の巨大水晶岩の神障壁に阻まれた。
超高額御銭金額の前には御力の強い貴神等も、歯が立たなかったようだ。
周囲のざわめきはより広がっていった。やはり何かおかしいと・・・
神霊様もシャルが無反応なのはおかしいと考えたが、後光のお仲間が何かしたのではと結論を出していて、
私がやったんじゃないと言いたいが、今は宣言の真っ最中で他の問には、答えられない。
神威圧によって、死んだようにうずくまっている神子候補生達もエマメルダを見習い、必死に声を張り上げた。
「こいつは俺たちをだましたんだ。俺たちの仲間を返せ」
「マリちゃんを返して、私達に謝って」
「シャルまでだましたのか。もう止めてくれ。シャルを開放してやってくれ」
「シャルちゃんを人形みたいにして、どうするのよ。答えて、お母さん」
会場のあちこちから神霊様を非難する発言が聞こえ始めると、さらに会場に騒々しいざわめきがひろがっていった。
神霊様は、私じゃないと答えたいが今は宣言の真っ最中なので無理であった。
(ゼルト隊長、ジャスターです。会場全体が神威放流の中にどっぷり使ってます」
(1隊、2隊共に中にいるのですが、その神威が神鏡球の神工知能に干渉してます」
(神威遮断ユニットは展開してんだろ)
(展開してますが、神威を完全に遮断出来てません)
(一旦距離を取って((駄目だ。取り続けろ。))・・了解)
ゼノバランスは部下神の発言を妨げ、自神の言葉を明確に伝えた。
(ここは、俺らしか、映像撮影できる奴はいねえんだ)
(例え機体の神工知能が乗っ取られてもあきらめんな)
(最悪機体捨てちまってもいいから、自神達の足使って確実に撮せ)
士気が下がっている部下神達を鼓舞させるように煽るゼノバランス。
そんな中、神威の放流は水晶神宮殿内の全ての神鏡球・神晶石《グランダイト》を巻き込んでいく。
神晶石《グランダイト》は拠点防衛、補修、救助、警戒監視を任務とした神速の超小型神兵器だ。
当然、神威に贖う装置、神威防御ユニットが標準装備されていたが、装置は機動していなかった。
装置が働かないように命令が事前に全て書き換えられていた。
この事態から察せられるのは、おそらく何者かが事前に大規模な工作を行い、その破壊工作が大成功したということだろう。
その結果、荒れ狂う神威は次々と神晶石《グランダイト》・神鏡球を【不正侵入神能改竄】していった。
『荒ぶる世界にあまねく救済を与える為にわたくしの御力におなりなさい』
(隊長、神工知能乗っ取られました。言うこと聞きません)
(どんな状況だ)
(会場に溢れてる神威を遮断した映像が自動で基地局に転送してます)
こりゃ、上と協議して、今後の対応の一任取り付けねーとな。
こいつら、このまま遊ばせとくのも、もったいねーし、なんか仕事与えとくか。
(ノスタール。お前が何神か選んで一緒に打ち込まれた病気の特効薬を作成、早く作って全機体に注射しろ)
(残りは機体を自動運転、お前らは機体から降りて御力で撮して直接基地局へ送信しろ)
(上空の1隊は、遠くから神殿撮して基地局送信しろ。お前らは神殿に近づくなよ)
(俺は一旦上のお偉いさんの対応を仰ぐ。結論が出たら改めて支持する)
(それまで今言った命令に従ってろ)
(((((((了解))))))))
ゼノバランスは、上位神の指示を仰ぐ為、上級神『サーク=アルフジャイラ』
の神念話回線を開いた。
命令を書き換えられた神鏡球群は、神威カットした偽造映像を各地に流した。
命令を書き換えられた神晶石《グランダイト》群は、神威防御シールドを展開する。
【天神界】の各地の四次元映像は一瞬画像が乱れた、
だが、すぐに映像は復旧し、そのまま何事もなかったかのように放映されていく。
世界は【不正侵入神能改竄】を暇神達が面白半分に繰り返す世の中な為、
ほとんどの神等は、またハックされたのかっとつぶやく程度でまったく気にもしなかった。
一部の良識ある神等は不穏な異変に気づき注意深く映像を解析していく。
シャルちゃんハッチャケさせ隊の神等は
映像の乱れから計画の1段階成功したことを確信し祝杯をあげてはっちゃけていた。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
ここはシャルリアの脳裏世界。またの名をシャルちゃん世界
先程まで遊んでいた景色と全く違う空間になっている。
ここは、シャルちゃん世界のおっかい議事堂の中。
そこには、学びの者が大勢詰めかけて受講出来るほど収納数を備えた舞台ホールがあった。
最下層舞台には、議事進行の長テーブルが並び、その向い合わせには、
楕円階段式の各階段床面に沿って長机や傍聴席が設置してあリ、
舞台ホールから見渡すと箱が積み重なったようにも見える。
舞台中央にはシャルリア本神がちょこんと議長席に座っていた。
向かい合った傍聴席には、500柱の幼いシャルリアが頭を振ったり、
立ち上がってお尻を振ったり、机の上を駆け巡ったり、
万歳したり、机の上に落書きしたり、探検してたり、
ここでも鬼ごっこしてたりと忙しなく、燥いでいる。
先程遊んでいた鬼ごっこは、シャルリアの圧勝。全員もれなくこの講堂に軟禁されてしまった。
今から始まるのは、恒例の「お母さん対策協議会」略して「おっかい」がおっかい議事堂内大おっかい会議場で開催されようとしていた。
(じゃあ、みんな準備いいかな。んじゃ、おっかい。はーじめーるよー) ゴンゴンゴン
儀礼槌の音が脳裏世界に鳴り響いた。
ー((((((わーい))))))
ーもっと鬼ごっこしたかった。
ー楽しかった、また遊んでね。
ーぺったん子にまた負けちゃったー
ー激鬼 乙
(んじゃーまず最初にみんなに見てもらたい映像があるからみてね)
(先程お母さんが喋った言葉とその時の映像だよ)
(んじゃ再生。ポチッとな)
大型水晶版が一瞬の間に舞台奥壁に創造設置、水晶版に映像が映りだし上映が始まった。
映像では、母さんが空中に漂い、背後で後光さんがピカピカ光らせている。
お母さんは、両手を上げて万歳。後光さんは、後ろで発光電飾大見本市絶賛開催中
『わたくしは本日この場において【転神の儀】を貴女神に執り行おうと考えています』
(ポチッとな)映像が消えた。
ーお母さん。きもいわ。
ーお母さんと一緒にばんざーい。
ー後光さんピカピカ眩しいよ。
ーお母さん達は絶対、神号機に乗って御神船誘導してるのが天職だと思うわ。
ーそっちのお仕事のほうがお給料いいみたいだよ。
ー今度お母さんに転職進めようよ。
ー上手く行けば、食卓に並ぶお皿が一品増えるかも
(みんな、今日のお母さんの態度って変だよね。何か解るかな?)
ーまた御力に神格のっとられたんじゃないの。
ーでも、それだともっとはっちゃけるわ。
ーたしかに変よね。いつも、もっとビクビクしてるもの。
ー今までと違う御力に神格を乗っ取られたとか。
ーわかんないでしゅ。
ー誰かに神格操作されてるとか。
ー新しい神格植えつけられてるなんてどうかなー
ーお母さん。お家で寝てるんじゃないの。
ー別神だもん。あれ。もしかして、誰かに捕まってるとかね。
:
:
:
幼いシャルリア達は色々意見を述べあったが、
なかなかこれといった答えに巡り会えなかった。
そもそも何も物的証拠がない。
推論だけ語り合っても確証には、全く程遠かった。
(お母さん、いつから変わったか、はっきり覚えてる子いるかな?)
ーここ最近大空見上げるのよく見てたよ。
ーそうだね。後光さんにも辛くあたってたわ。
ー最近よくお母さんの仕事部屋によく篭ってるよね。
ー前は、書類仕事お父さんにやらせてたよね。
ーやっぱ別神だよ。
ー別神だったらお父さん、多分気づくわよ。
(じゃあさー、これからどうしたらいいのかな?)
ー鬼ごっこしよっ。
ー運を天に任せるのよ。
ー踊っちゃえ。
ー笑っちゃえー。
ー泣いちゃえー。
ー怒っちゃいーや。
ー祈るのよ。さあ早く一緒に祈るのよ。
ーそろそろお家に帰ろうよ。
ーメグちゃんが何とかしてくれるよ。
ー私達がお母さん助けないでどうするのよ。
ーお母さん助けたら晩神饌物が肉汁沢山特製ハンバーグになるかもよ。
ー(((((食べたーーい)))))
ーさぁみんな肉汁沢山特製ハンバーグの為にお母さん助けるわよ。
ー(((((えいえいおー))))))
『おっかい』は、肉汁沢山特製ハンバーグの議題が今後真剣に討論される事になる。
どう、お母さんに頼んで作ってもらうか、どれだけ作ってもらうか、
神豚か神牛どちらがいいか、ソースは何味がいいか、
いなくなった子達の分はどう皆で取り分けるのか、副菜は何がいいのか、
どうすれば毎日作って貰えるのかなど、様々な緊急案件が討議されてく。
現実世界では、シャルリアを助けようと声が出始めたのだが、
もしこの光景を知ることが出来たならば、彼神らはどうしただろうか。
彼神らは知る由もない協議が今も無駄に行われている。
神霊様の御言葉は、タップリ充満した神威の大気を大きく揺さぶり、
神威の詰まった突風が、辺りを台風の渦にように、強烈に吹き荒れる。
(ゼルト隊長、ハーティアです。このままじゃ、神威風に巻き込まれます)
(よし、一旦距離をとって連隊を立て直せ)
(立て直したら上空から捉えた映像をこっちにもっと回せ)
(後、上空のありとあらゆる方角から捉え続けろ)
指揮官専用神鏡球内では、ゼノバランスが様々な映像を瞬時に見極めながら、
編集した映像を上司に神送信して、さらに部下にも指示を出していたが、
不意に上空に、気になる何かが横切ったような気がして、神眼を使いよく眺めてみると、
青々とした上空に空一杯に、埋め尽くされるように蠢いている無神の神晶石が、
神威突風にどんどん包み込まれていくのが、見えてしまった。
「神晶石は、神威風ぐらい、神威防御ユニットで防げるはずだが・・」
「どういうことだ」
ゼノバランスは、疑問に思ったことを独り言で吐き出した。
包み込まれた空一杯に広がる神晶石の群れは、虹色の軍勢のように押し寄せ、
水晶神宮殿一体を大きく包み込み、蠢くように群がっている。
きらびやかで華やかで美しい光の洪水、まさに絢爛華麗な光の洪水に
押し流されるように乱れ踊る虹色軍勢が、水晶神宮殿をさらに大きく包み込んでいく。
「こりゃ神的予算かけ過ぎじゃ、神威を馬鹿みたいに使いよって、神威の無駄遣いじゃ」
「もっとこうシンプルに出来んもんかの」
コバルトリス=リュオーラ端折ってコバちゃんはこの光景に駄目だしする。
勿論リスラシアとお手々とお手々は固く結ばれていた。
きっと草葉の陰でマリちゃんは泣いていることだろう。
「あら、私はいい余興だと思うわよ」
「とても幻想的だわ。子シャルちゃんにお別れの流星雨を見せてあげるなんて素敵じゃない」
「親シャルちゃんもなかなか粋な余興考えたと思うんだけど」
魅惑的な笑みを浮かべコバちゃんと寄り添い次第に絡み付いてくる。
コバちゃんは、鼻の下を伸ばしながらリスラシアとの話し合いを楽しんでいた。
虹色軍勢でもある神晶石の蠢く軍勢は一斉に空間に虹色に輝く神糸を放出していく。
この現象は、神晶石に内蔵されている神人工知能の危険予報値の値が、
限界値を突破し必ず危険が起こると予測された為、その危険区域を完全隔離し、
他の空域に影響を及ばせないよう、神糸で覆われた結界を作ろうとして起こる現象であった。
数限りない7色に輝く細い神糸が、大空を編み込んでいくように、虹色の巨大な繭を仕立てあげていった。
現場監督神ゼノバランスの脳裏世界では、呟きが流星雨のように溢れ流れ続けていた。
ーどうも、神晶石の意思がおかしいぞ。
ー動きが蟻の軍団みたいに集まってきやがる。
ー安全局は、一体全体何がしたいんだ。
ーいや、そんだけ危険な予兆があるってことか。
ーこりゃーかなり前からヤベー御力篭った神威振りまいて準備してたんじゃねーのか。
ーすげー密度の濃い神威渦巻いてんぞ。
ーどんだけ、暇してんだよ。もっとやること見つけろよ。
ーおいおい、もうそろそろよー止まってくんれーか。
ー撮してる俺らにも疑惑の眼がきたらどうすんだよ。
ー撮ってる俺らの方にも、とばっちり来んじゃねーのか。
ー後で捕まるとかぜってー勘弁だぜ。
ー俺ら、安全局ににらまれると仕事やりにくくなんだよ。
ーわかんだろ。いや、わかるわけねーわな。
ーなんで上は、独占単独放映契約なんて結ぶかね。
ー俺ら安全局に狙い撃ちされるぞ。
ーへたなもん流れちまうと俺ら下っ端は、上から首切り落とされんだよ。
ーだからやめてくれよな。
ー頼むぞ。たく、まためんどくせー職探しなんて俺は嫌だからな。
ゼノバランスの命令にしたがって、体制を立て直した神鏡球連隊が、神晶石の大群がつくりだした虹色の巨大な繭を撮し続ける。
その光景は、はなやかな虹色光の糸を放つ神晶石等が虹色の巨大な繭思うままに振る舞う光輝く世界であった。
「神霊ちゃん。今度は安全局と喧嘩でもすんのかね。俺ら巻き込むのは勘弁しろよな」
現場監督神ゼノバランスの脳裏で流れていた呟きがこぼれおち、思わず口から呟きが飛び出てしまった。
『わたくしの与えた御力を正しく使えば、下界に永遠の安寧を実現できると確信しています』
神霊様のお言葉が鍵となり、大空を覆い尽くした神威の扉が開錠され、開かれていく。
神威の扉からは、邪悪な色に染まった大量の神威の洪水が、濁流のように空から垂直に落ち、
7色の輝きを放つ繭に、大量に直接降り注いだ。
邪悪な神威は、虹繭をコーティングするかのように、覆いかぶさってきた。
危険を察知した神晶石軍勢が、さらに大量の群衆を引き連れて集まってくる。
邪悪な神威と、神晶石軍勢の争いが、まさに始まろうとしていたが、
何故か争いが始まる前に、神晶石軍勢のほとんどが、邪悪な神威に飲み込まれていった。
何者をも服従させる圧倒的な邪悪な神の意思の力が、激流のように辺り一帯を飲み込んでいく。
『わたくしは本日この場において【転神の儀】を貴女神に執り行おうと考えています』
会場は、喜びを叫んで表現する貴神等で溢れた。
「「うおー」」「「きたー」」「「まってたぜー」」
「「きゃー」」「「いやっほー」」「「きゃー」」
「「いえーい」」「「よっしゃー」」「「キタキタキター」」
「絶対シャルちゃん、もらうわよー」
「渡すもんかー」「シャルちゃんもう少しの辛抱よ」
「シャルちゃんと夜の営みしちゃうもんね」
「シャルちゃんを俺色に染めてやるぜ」
「駄目よ、私の子猫ちゃんにするのよ」
神霊様の御言葉がこだますると会場は拍手喝采に包まれ、まさに喝采の坩堝と化した。
転神の儀とは、下級神人を神子として下界に転属させ未来永劫、
神の道具としての役割を強制的に与える儀式、または神の地位を剥奪する儀式である。
神霊様は、シャルを本気で下界追放すると宣言を行った。
宣言された方のシャルは全く無反応で、うんともすんとも動かない。
シャルの周りで見守っていた貴神等は、疑問に思った。
なぜ、何も反論しない。なぜ、動かない。なぜ、放心している。
神講堂内の至る場所から、叫び声が上がりだした。
「あれ、シャルちゃん、動いていないよ」
「うそ、固まってるわよ」
「瞬きもしないわ」
「えっ真っ直ぐ立ってるだけだから、気づかなかったわ」
「シャルちゃんお人形さんになったの」
「おいおい、責任神、出てきて説明しろよ」
「俺等に人形売りつける気かよ」
「シャルちゃん、動いて、優しくするからさ」
「お姉ちゃんが、買って慰めるから動いてほしいなー」
周囲にざわめきが広がっていく。
「お母様、シャルちゃんになにしたんですか」
「おねがいします。シャルちゃんを元にもどしてください」
神子候補生エマメルダは、神威圧に神体が押しつぶされても、なお諦めない。
寝転んだまま姿勢をシャルに向けて、見えない神霊様に問いかける。
「ぶひっ綺麗ぶひっ凄いぶひっ眩しいぶひっ御心が洗われるぶひっ」
エマメルダを取り囲んで鑑賞していた貴神等は、必死にお願いする姿にいつしか眼を見開いて見守っていた。
何処からともなく、声が沸き立つ。
「神人形にして、いいなりにするのか。神の風上にも置けん奴だ」
「塵神なんかほっとけよ。今はシャルちゃんだろ」
「シャルちゃんの様子を調べてみるぞ」
「ちょっとまってろ。シャルちゃん、御免な」
「少しだけ御心見せてもらうよ」
シャルの様子がおかしいと1柱の神がシャルに向かって【神思思考探査】の御力を使うが、
巨大水晶岩に神障壁が瞬時に展開され、御力を遮断した。
「あっ駄目だ。さすが塵神だ。対策施してやがる」
巨大水晶岩は超高級商品。その値段に見合った能力を備えている。
貴神等は、協力して事態の打開をはかる為、声を掛け合う。
「おい、御力に自身ある貴神等、集まれ」
「御力合わせて、もう一度試してみるぞ」
「よし、俺にもやらせろ」「俺も」「私も」
「儂もやるぞ」「なら私もやるわ」
「みんな、御力合わせろ、いくぞーそれっ」
今度は10神程の神等が御力を合わせて【神思思考探査】をシャルに向かって使うが・・・
「駄目だ。なんて強い神障壁だ」
「これ、最高神ランクの障壁だぞ」
「なんて大層な物を用意してやがんだ」
「これ、私達じゃ、無理じゃないかな」
超高額商品の巨大水晶岩の神障壁に阻まれた。
超高額御銭金額の前には御力の強い貴神等も、歯が立たなかったようだ。
周囲のざわめきはより広がっていった。やはり何かおかしいと・・・
神霊様もシャルが無反応なのはおかしいと考えたが、後光のお仲間が何かしたのではと結論を出していて、
私がやったんじゃないと言いたいが、今は宣言の真っ最中で他の問には、答えられない。
神威圧によって、死んだようにうずくまっている神子候補生達もエマメルダを見習い、必死に声を張り上げた。
「こいつは俺たちをだましたんだ。俺たちの仲間を返せ」
「マリちゃんを返して、私達に謝って」
「シャルまでだましたのか。もう止めてくれ。シャルを開放してやってくれ」
「シャルちゃんを人形みたいにして、どうするのよ。答えて、お母さん」
会場のあちこちから神霊様を非難する発言が聞こえ始めると、さらに会場に騒々しいざわめきがひろがっていった。
神霊様は、私じゃないと答えたいが今は宣言の真っ最中なので無理であった。
(ゼルト隊長、ジャスターです。会場全体が神威放流の中にどっぷり使ってます」
(1隊、2隊共に中にいるのですが、その神威が神鏡球の神工知能に干渉してます」
(神威遮断ユニットは展開してんだろ)
(展開してますが、神威を完全に遮断出来てません)
(一旦距離を取って((駄目だ。取り続けろ。))・・了解)
ゼノバランスは部下神の発言を妨げ、自神の言葉を明確に伝えた。
(ここは、俺らしか、映像撮影できる奴はいねえんだ)
(例え機体の神工知能が乗っ取られてもあきらめんな)
(最悪機体捨てちまってもいいから、自神達の足使って確実に撮せ)
士気が下がっている部下神達を鼓舞させるように煽るゼノバランス。
そんな中、神威の放流は水晶神宮殿内の全ての神鏡球・神晶石《グランダイト》を巻き込んでいく。
神晶石《グランダイト》は拠点防衛、補修、救助、警戒監視を任務とした神速の超小型神兵器だ。
当然、神威に贖う装置、神威防御ユニットが標準装備されていたが、装置は機動していなかった。
装置が働かないように命令が事前に全て書き換えられていた。
この事態から察せられるのは、おそらく何者かが事前に大規模な工作を行い、その破壊工作が大成功したということだろう。
その結果、荒れ狂う神威は次々と神晶石《グランダイト》・神鏡球を【不正侵入神能改竄】していった。
『荒ぶる世界にあまねく救済を与える為にわたくしの御力におなりなさい』
(隊長、神工知能乗っ取られました。言うこと聞きません)
(どんな状況だ)
(会場に溢れてる神威を遮断した映像が自動で基地局に転送してます)
こりゃ、上と協議して、今後の対応の一任取り付けねーとな。
こいつら、このまま遊ばせとくのも、もったいねーし、なんか仕事与えとくか。
(ノスタール。お前が何神か選んで一緒に打ち込まれた病気の特効薬を作成、早く作って全機体に注射しろ)
(残りは機体を自動運転、お前らは機体から降りて御力で撮して直接基地局へ送信しろ)
(上空の1隊は、遠くから神殿撮して基地局送信しろ。お前らは神殿に近づくなよ)
(俺は一旦上のお偉いさんの対応を仰ぐ。結論が出たら改めて支持する)
(それまで今言った命令に従ってろ)
(((((((了解))))))))
ゼノバランスは、上位神の指示を仰ぐ為、上級神『サーク=アルフジャイラ』
の神念話回線を開いた。
命令を書き換えられた神鏡球群は、神威カットした偽造映像を各地に流した。
命令を書き換えられた神晶石《グランダイト》群は、神威防御シールドを展開する。
【天神界】の各地の四次元映像は一瞬画像が乱れた、
だが、すぐに映像は復旧し、そのまま何事もなかったかのように放映されていく。
世界は【不正侵入神能改竄】を暇神達が面白半分に繰り返す世の中な為、
ほとんどの神等は、またハックされたのかっとつぶやく程度でまったく気にもしなかった。
一部の良識ある神等は不穏な異変に気づき注意深く映像を解析していく。
シャルちゃんハッチャケさせ隊の神等は
映像の乱れから計画の1段階成功したことを確信し祝杯をあげてはっちゃけていた。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
ここはシャルリアの脳裏世界。またの名をシャルちゃん世界
先程まで遊んでいた景色と全く違う空間になっている。
ここは、シャルちゃん世界のおっかい議事堂の中。
そこには、学びの者が大勢詰めかけて受講出来るほど収納数を備えた舞台ホールがあった。
最下層舞台には、議事進行の長テーブルが並び、その向い合わせには、
楕円階段式の各階段床面に沿って長机や傍聴席が設置してあリ、
舞台ホールから見渡すと箱が積み重なったようにも見える。
舞台中央にはシャルリア本神がちょこんと議長席に座っていた。
向かい合った傍聴席には、500柱の幼いシャルリアが頭を振ったり、
立ち上がってお尻を振ったり、机の上を駆け巡ったり、
万歳したり、机の上に落書きしたり、探検してたり、
ここでも鬼ごっこしてたりと忙しなく、燥いでいる。
先程遊んでいた鬼ごっこは、シャルリアの圧勝。全員もれなくこの講堂に軟禁されてしまった。
今から始まるのは、恒例の「お母さん対策協議会」略して「おっかい」がおっかい議事堂内大おっかい会議場で開催されようとしていた。
(じゃあ、みんな準備いいかな。んじゃ、おっかい。はーじめーるよー) ゴンゴンゴン
儀礼槌の音が脳裏世界に鳴り響いた。
ー((((((わーい))))))
ーもっと鬼ごっこしたかった。
ー楽しかった、また遊んでね。
ーぺったん子にまた負けちゃったー
ー激鬼 乙
(んじゃーまず最初にみんなに見てもらたい映像があるからみてね)
(先程お母さんが喋った言葉とその時の映像だよ)
(んじゃ再生。ポチッとな)
大型水晶版が一瞬の間に舞台奥壁に創造設置、水晶版に映像が映りだし上映が始まった。
映像では、母さんが空中に漂い、背後で後光さんがピカピカ光らせている。
お母さんは、両手を上げて万歳。後光さんは、後ろで発光電飾大見本市絶賛開催中
『わたくしは本日この場において【転神の儀】を貴女神に執り行おうと考えています』
(ポチッとな)映像が消えた。
ーお母さん。きもいわ。
ーお母さんと一緒にばんざーい。
ー後光さんピカピカ眩しいよ。
ーお母さん達は絶対、神号機に乗って御神船誘導してるのが天職だと思うわ。
ーそっちのお仕事のほうがお給料いいみたいだよ。
ー今度お母さんに転職進めようよ。
ー上手く行けば、食卓に並ぶお皿が一品増えるかも
(みんな、今日のお母さんの態度って変だよね。何か解るかな?)
ーまた御力に神格のっとられたんじゃないの。
ーでも、それだともっとはっちゃけるわ。
ーたしかに変よね。いつも、もっとビクビクしてるもの。
ー今までと違う御力に神格を乗っ取られたとか。
ーわかんないでしゅ。
ー誰かに神格操作されてるとか。
ー新しい神格植えつけられてるなんてどうかなー
ーお母さん。お家で寝てるんじゃないの。
ー別神だもん。あれ。もしかして、誰かに捕まってるとかね。
:
:
:
幼いシャルリア達は色々意見を述べあったが、
なかなかこれといった答えに巡り会えなかった。
そもそも何も物的証拠がない。
推論だけ語り合っても確証には、全く程遠かった。
(お母さん、いつから変わったか、はっきり覚えてる子いるかな?)
ーここ最近大空見上げるのよく見てたよ。
ーそうだね。後光さんにも辛くあたってたわ。
ー最近よくお母さんの仕事部屋によく篭ってるよね。
ー前は、書類仕事お父さんにやらせてたよね。
ーやっぱ別神だよ。
ー別神だったらお父さん、多分気づくわよ。
(じゃあさー、これからどうしたらいいのかな?)
ー鬼ごっこしよっ。
ー運を天に任せるのよ。
ー踊っちゃえ。
ー笑っちゃえー。
ー泣いちゃえー。
ー怒っちゃいーや。
ー祈るのよ。さあ早く一緒に祈るのよ。
ーそろそろお家に帰ろうよ。
ーメグちゃんが何とかしてくれるよ。
ー私達がお母さん助けないでどうするのよ。
ーお母さん助けたら晩神饌物が肉汁沢山特製ハンバーグになるかもよ。
ー(((((食べたーーい)))))
ーさぁみんな肉汁沢山特製ハンバーグの為にお母さん助けるわよ。
ー(((((えいえいおー))))))
『おっかい』は、肉汁沢山特製ハンバーグの議題が今後真剣に討論される事になる。
どう、お母さんに頼んで作ってもらうか、どれだけ作ってもらうか、
神豚か神牛どちらがいいか、ソースは何味がいいか、
いなくなった子達の分はどう皆で取り分けるのか、副菜は何がいいのか、
どうすれば毎日作って貰えるのかなど、様々な緊急案件が討議されてく。
現実世界では、シャルリアを助けようと声が出始めたのだが、
もしこの光景を知ることが出来たならば、彼神らはどうしただろうか。
彼神らは知る由もない協議が今も無駄に行われている。
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