女児霊といっしょに。シリーズ

黒糖はるる

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女児霊といっしょに。~学校の七不思議~

第一章:夕暮れの忘れ物 12

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 友子ちゃんとの接触は無事(?)終わった。ガールズ霊トークが少々長かったせいで夜になりそうだが、走ればまだ間に合いそうだ。

「どこに行くのー?どんどん家から離れていってるけど」

 走るオレの後ろをふわふわとなながついてくる。小学生が涼しい顔でほぼ併走している異様な光景だが、霊だしそもそも普通の人には見えていないから気にすることではないか。

「ちょいと調べ物に行くんだよ、図書館に」

 そう、目的地は晩出市立図書館だ。
 蔵書数は周辺の図書館では最大。児童書から新書、洋書に郷土資料まで何でも揃っている。市内で販売されている新聞もほぼ全て保管されているおかげで、対霊処の仕事絡みの事件や事故の調査でよく利用している。

「図書館かー。駆郎にぃの漫画みたいなのはあるの?」
「流石に漫画はないぞ。まぁ偉人の漫画とかはあるかもな」
「じゃあ、ななはその漫画読んでていい?」
「閉館ぎりぎりだから無理だな」
「えー」
「そもそもポルターガイストで読んでたら司書さんびっくりするだろ」

 霊現象がよく起こる街だから騒動になることはないが、説明と後始末をするのが面倒だからやめてもらいたい。
 だが、何をしでかすか分からない奴を横に連れているよりはその辺で漫画を読んでいてもらった方がマシかも、なんて考えている間に図書館に着いていた。
 閉館までまだ三十分以上ある。これだけ時間があれば調べ物に支障は問題なしだ。

「さっきの漫画の件だけどさ、読んでいいぞ」
「え、いいの!?ポルっちゃうよ!?」
「好きにしろ。でもちゃんと自分で片付けろよ」
「わーい、駆郎にぃサンキューベリーマッチ!」

 大はしゃぎで飛び回るななが自動ドアをすり抜け、入館していく。
 後で怒られるかもしれないなぁ、なんて内心思いながらも、オレはななの後を追って自動ドアを潜った。

「まったく……もう少し早く来られないんですか?こっちだって忙しいんですけど」

 カウンターにて、眼鏡越しに鋭い目つきでオレをにらむ司書――震名ふるなあおいさん。対霊処の関係で書物を探してもらったり取り寄せてくれたりと、オカルト関係を担当してくれている。仕事が山積みでもそれらを後回しにしてオレ達念導者の案件を最優先してくれる。












「忙しいのは重々承知です。でもどうしても急ぎで調べたいんです」
「仕方ないですね。で、今日は何を?」
「二十五年前の七月九日頃の新聞が見たいんです」

 友子ちゃんが事故に遭ったと言っていた日付だ。彼女の記憶が正しいのか確かめることと、解決に役立つヒントがないかどうかを調べるためだ。

「そう。前後一週間分持ってくるわ。一社だけでいいわね?」
「はい。お願いします」
「それじゃ、行ってくるわ」

 事務的な態度で震名さんは保管庫に消えていった。
 もう少し笑顔があれば可愛く見えるのに。それに年中長袖にロングスカートを着るのをやめてみたらきっと魅力的だろうに、なんてセクハラオヤジのようなことを考えている間に震名さんが戻ってきた。
 ばさり、と二週間分の新聞がカウンターに置かれる。
 相変わらず仕事が早い。

「これでいい?」
「ええ、ありがとうございます」
「今度はもっと早く来てほしいわ」

 やはり震名さんの態度は冷たい。優秀なのにこういうところがもったいない。美人なのに本当にもったいない。
 オレは新聞を受け取り、椅子に腰掛けて読み始める。
 ぱらぱら、と。見出しだけを目で追う。
 奥部小、女児、事故、土倉友子。関連する単語がないか探していると、すぐに目当ての記事が見つかった。
 七月十日付の朝刊。見出しは「奥部小に通う女児、事故死」。清々すがすがしい程直球の文章だ。事故が起きたのは昨日、つまり九日の夕方で下校途中にトラックに撥ねられた。事故直後は息があったが、その後病院に搬送されたが間に合わず死亡した模様。そして被害者の名前は土倉友子さん六歳。
 友子ちゃんの証言と全て一致していた。
 事故の原因は信号のない交差点から飛び出したこと。トラックは急ブレーキを掛けたが間に合わずぶつかってしまったようだ。恐らくキーホルダーを探しに戻ろうと走っていたのだろう。
 他には当時の校長や担任教師に対するインタビューが掲載されており、「物静かだが真面目な子だった」とか「友達思いの子でした」などと書かれていたが、解決の糸口になりそうなことは記述されてなかった。

「事故死か……。そういえばこの年って“魔の年”って呼ばれていたわね」

 ぬるっと、突然震名さんが割り込んできた。

「どこかで聞いた気がするんですけど、何でしたっけ?」
「この年って良くないことが続いたでしょ。対霊処なら知ってるはずよね?まさかその程度のことも知らないの?」
「う…。そういえば母さんが話してくれたな……」

 いつも通りの口の悪さだがおかげで思い出した。母さん、あと可児校長(当時は教頭だったが)がことあるごとにこの件を口にしていた。

 奥部小学校は立地の都合上怪異が集まりやすく、事故や事件が度々起こる。ただ大抵の場合大事に至る前に解決する。どんなに悪くても犠牲者は一名以内に抑えられていた。しかし二十五年前は事故と事件が頻繁に起き、結果児童が一名死亡、一名行方不明になったのだ。二名以上の犠牲者が出るのは奥部小が開校して以来初めてのことで、それが理由で“魔の年”と呼ばれるようになった。
 その死亡した子が土倉友子ちゃんだったのか。

「ところで、アレはあなたが連れてきたの?」
「はい?アレとは……?」
「そこで本が飛んでるのよ」

 震名さんが指さす先で、児童書が羽ばたいている。正確に言うとなながポルターガイストで本を読んでいるだけなのだが、震名さんにはなな本体が見えていない。

「驚かないんですか?」
「お宅らの担当をしているとよくあることよ」

 慣れっこか。
 まぁ、怒られなかったから良かった良かった。

「迷惑だからアレ、何とかしてくれる?」
「申し訳ないです。まだあいつも子供なもんで……はは」

 愛想笑いで誤魔化し、ななの元へ向かおうとして――

「ちょっと待って」

 ――震名さんに呼び止められた。

「アレはあなたの知り合いなの?で、子供?」
「知り合いというか、まぁ、相棒みたいなもんです。最近奥部小で出会った女の子の霊でななって言う子なんですけど――」
「ぶほふぇっ!」

 形容しがたい音がした。

 音の発生源は間違いなく震名さんからだ。
 右手で鼻と口を押さえ、左手で腹を抱えている。
 体はマナーモードで小刻みに震えている。

「え……、笑ってます?」
「ひぇっ?だっ、だって……ひふぅ、あひょひょっ」

 駄目だ、完全にツボに入っていて謎言語を話し始めた。
 顔が真っ赤になって、ひーひー呼吸が辛そうだ。
 他の司書の方々や利用者は困惑しているようでこちらに いぶかしんだ視線を送っている。

「オレ、面白いこと言いましたか?」
「言っひぇ、言ったじゃにゃい…れすかっ!おんにゃ、のこ連れて……しかも女子じっ児童の事件、調べっ…てるって……」
「それのどこが――」
「だって、それ……しょ、小児性愛っ……ひーっひぃっ苦しっ、お腹痛いぃぃっ!おひょひょひょひょひょひょひょ」

 そこから先はもはや言語とは到底思えないような奇声のオンパレードで、震名さんは炒められ中のしめじになって床でのたうち回っていた。

 震名さんが他の司書に担架で運ばれるまで、そう時間はかからなかった。
 震名さんのツボは毎度のことながら全然分からない。そしてここでもロリコン扱いされるオレって何なんだ。ロリコンと罵られて死んでいった紳士の霊に呪われているのか?
 仕方ないじゃないか。今回の仕事が小学校関係で、偶然ななに出会ってしまったんだから。ちびっ子とは嫌でも関わらないといけないし、自然とそういう事故や事件を調べないと解決出来ないんだから。
 仕事が終わる頃には全知全能のロリコン神なんて二つ名がついてそうだ。
 いかん、冗談に聞こえない。

「ねぇねぇ、ショーニセーアイって何?」

 なながシャツを引っ張っているが、答える気が起きなかった。
 答えたところで、いじりのネタが増えるだけだろ。

 しつこいようだが、オレはロリコンじゃないぞ。断じて。
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