女児霊といっしょに。シリーズ

黒糖はるる

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女児霊といっしょに。~学校の七不思議~

幕間:天宮駆郎の日常

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 ゴトゴトと、乱雑に積まれた段ボールをどけていく音が響く。
 天宮家の物置にて、駆郎が魔窟まくつと化した中で作業をしている音だ。
 自分の念導札のストックを作ろうとして用紙を探しているのだ。

「ふ~、やっと見つかったぞ」

 埃まみれになった箱、その中に念導札用の紙――泉我紙せんがしが入っている。
 はずだった。
 箱を開けると中身はほぼ空っぽ。品切れ目前だった。

「母さ~ん、泉我紙ないんだけど」
「あ、そういえばこの前沢山使っちゃったんだよねぇ、えへ」
「えへ、じゃないから。注文はもうしたの?」
「忘れてた。まだしてないからお願いね~」
「そんなトイレットペーパー追加しといてみたいなノリで言われても……。一応泉我紙業者に聞いてみるけど、なくなる前に注文しないといざって時に作れなくて困るからね?」
「まぁ、駆郎ったらしっかり者の主婦みたい!」
「母さんはもうちょっと生活力をつけてくれ」

 駆郎は頭を抱えながら受話器を手に取り、業者へと連絡を取る。幸い在庫があったので急ぎで送ってくれるそうだ。

 駆郎は普段からいい加減なこのはに振り回され、その度溜息をついている。毎度のことでもう慣れてはいるが、頭痛がするのは変わらない。
 しかし、こんなダメダメに見える母親であるが念導者としては超一流。それは駆郎も知っているし、当然彼にとっての目標であり越えるべき壁なのだ。
 凡才である駆郎にとって、このはは雲の上のような存在。
 小さい頃から“このは”の息子として見られてきた駆郎は親族や他の念導者達から「何故偉大な母親からこんな凡才が産まれたのか」「一般人とのハーフは間違いだった」などと、陰口をたたかれ哀れみの視線を浴びてきた。
 子供心に理不尽な扱いに憤りを感じていたが、その怒りの矛先はさげすむ者達に向くことはなかった。対等に接してくれる同年代の念導者達がいてくれたこともあるが、何より「だったら母さん以上の念導者になってやる」とポジティブだったからだ。
 もちろん、最初からそんな前向きでいられる訳もなく悩んで藻掻もがき苦しむこともあったが、故に今の駆郎があるのだ。



 草木も眠る丑三うしみつ時。
 ななは眠っている。別室のこのはも爆睡しているのを確認すると、駆郎はそっとリビングまで降りる。
 音を立てずに扉を閉めて、音が漏れないようにする。これで二人にばれることはないだろうと安心した駆郎は、持ち出した物をテーブルの上に並べていく。無論大きな音がしないよう、細心の注意を払って。
 二人に隠してやりたかったこと、それは――自主練習。修行と言った方が正確だろうか。要するに念導者として当然のことだ。
 夜に一人隠れて、と言ったら下世話な話だと思われても仕方ない。もちろんそれもあるがそちらの用事は修行の後の予定だ。秘蔵本もついでに持ってきている。
 そもそも修行なら隠れてしなくても良いのでは、という意見もありそうだが駆郎にとって修行――特に自主的に行うというのは他人から見られたくないことなのだ。練習なんて泥臭く暑苦しい、努力や根性なんて言葉に恥ずかしさを覚える、斜に構えたいタイプの人間なのだ。何より「馬鹿ばかにされてきた奴らを見返すために一人努力をしてきました」なんて胸を張りたくない、というプライドがある。誰もそこまで駆郎のことを見ていないのだが、やはり人の目が気になるお年頃なのである。

 無音の中で瞑想めいそうし、念導札に念を練り込み、念導杖を使った型の確認。色々とトレーニングをしているうちに次第に空は白んでいき、その頃には駆郎はぐっすり眠ってしまっていた。

「…………あれ?」

 むくりと体を起こすと、毛布が掛けられていた。
 いつの間に寝てしまったのか、誰が毛布を掛けてくれたのか、駆郎はぼんやりと考えていた。
 が、テーブル……秘蔵本の上に置かれたメモを見て一気に眠気が吹っ飛んだ。

『駆郎へ 
 頑張るのもいいけど、風邪をひかないように気をつけてね 
                本の娘より可愛くて綺麗なママより  
 
             追伸、ななちゃんに見つからないようにね』

「ノォォォッ……ウオォォォウオォォォォォォォォッ!!!」

 この日、駆郎は秘蔵本を完全封印することを誓ったのだった。
 ご愁傷様。
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