28 / 149
女児霊といっしょに。~学校の七不思議~
幕間:天宮駆郎の日常
しおりを挟むゴトゴトと、乱雑に積まれた段ボールをどけていく音が響く。
天宮家の物置にて、駆郎が魔窟と化した中で作業をしている音だ。
自分の念導札のストックを作ろうとして用紙を探しているのだ。
「ふ~、やっと見つかったぞ」
埃まみれになった箱、その中に念導札用の紙――泉我紙が入っている。
はずだった。
箱を開けると中身はほぼ空っぽ。品切れ目前だった。
「母さ~ん、泉我紙ないんだけど」
「あ、そういえばこの前沢山使っちゃったんだよねぇ、えへ」
「えへ、じゃないから。注文はもうしたの?」
「忘れてた。まだしてないからお願いね~」
「そんなトイレットペーパー追加しといてみたいなノリで言われても……。一応泉我紙業者に聞いてみるけど、なくなる前に注文しないといざって時に作れなくて困るからね?」
「まぁ、駆郎ったらしっかり者の主婦みたい!」
「母さんはもうちょっと生活力をつけてくれ」
駆郎は頭を抱えながら受話器を手に取り、業者へと連絡を取る。幸い在庫があったので急ぎで送ってくれるそうだ。
駆郎は普段からいい加減なこのはに振り回され、その度溜息をついている。毎度のことでもう慣れてはいるが、頭痛がするのは変わらない。
しかし、こんなダメダメに見える母親であるが念導者としては超一流。それは駆郎も知っているし、当然彼にとっての目標であり越えるべき壁なのだ。
凡才である駆郎にとって、このはは雲の上のような存在。
小さい頃から“このは”の息子として見られてきた駆郎は親族や他の念導者達から「何故偉大な母親からこんな凡才が産まれたのか」「一般人とのハーフは間違いだった」などと、陰口をたたかれ哀れみの視線を浴びてきた。
子供心に理不尽な扱いに憤りを感じていたが、その怒りの矛先は蔑む者達に向くことはなかった。対等に接してくれる同年代の念導者達がいてくれたこともあるが、何より「だったら母さん以上の念導者になってやる」とポジティブだったからだ。
もちろん、最初からそんな前向きでいられる訳もなく悩んで藻掻き苦しむこともあったが、故に今の駆郎があるのだ。
草木も眠る丑三つ時。
ななは眠っている。別室のこのはも爆睡しているのを確認すると、駆郎はそっとリビングまで降りる。
音を立てずに扉を閉めて、音が漏れないようにする。これで二人にばれることはないだろうと安心した駆郎は、持ち出した物をテーブルの上に並べていく。無論大きな音がしないよう、細心の注意を払って。
二人に隠してやりたかったこと、それは――自主練習。修行と言った方が正確だろうか。要するに念導者として当然のことだ。
夜に一人隠れて、と言ったら下世話な話だと思われても仕方ない。もちろんそれもあるがそちらの用事は修行の後の予定だ。秘蔵本もついでに持ってきている。
そもそも修行なら隠れてしなくても良いのでは、という意見もありそうだが駆郎にとって修行――特に自主的に行うというのは他人から見られたくないことなのだ。練習なんて泥臭く暑苦しい、努力や根性なんて言葉に恥ずかしさを覚える、斜に構えたいタイプの人間なのだ。何より「馬鹿にされてきた奴らを見返すために一人努力をしてきました」なんて胸を張りたくない、というプライドがある。誰もそこまで駆郎のことを見ていないのだが、やはり人の目が気になるお年頃なのである。
無音の中で瞑想し、念導札に念を練り込み、念導杖を使った型の確認。色々とトレーニングをしているうちに次第に空は白んでいき、その頃には駆郎はぐっすり眠ってしまっていた。
「…………あれ?」
むくりと体を起こすと、毛布が掛けられていた。
いつの間に寝てしまったのか、誰が毛布を掛けてくれたのか、駆郎はぼんやりと考えていた。
が、テーブル……秘蔵本の上に置かれたメモを見て一気に眠気が吹っ飛んだ。
『駆郎へ
頑張るのもいいけど、風邪をひかないように気をつけてね
本の娘より可愛くて綺麗なママより
追伸、ななちゃんに見つからないようにね』
「ノォォォッ……ウオォォォウオォォォォォォォォッ!!!」
この日、駆郎は秘蔵本を完全封印することを誓ったのだった。
ご愁傷様。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
なお、スピンオフもございます。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる