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女児霊といっしょに。~学校の七不思議~
第三章:異なる理 7
しおりを挟む窓から差し込む夕日。
六年生達が騒いでいる声。
間違いない、奥部小の校舎だ。
「いやいや、安心している場合じゃないな」
謎の穴に奇っ怪な世界。七不思議にはない、それどころか怪異業界でも聞いたことのない現象。急いでそのことを報告しなくてはいけない。
……そういえば、教材庫にオレを誘い込んだ人形娘の霊はどこへ行ったのだろうか。あれっきり姿を見せていない。まぁ、またそのうち現れるだろう。
オレは足早に可児校長の元へと向かった。
「失礼しまーす……って、え?」
校長室に入ると、そこには可児校長の他になな、それと母さんもいた。全員神妙な面持ちでソファーに座っていた。
母さん達は今日は一日ショッピングを楽しんでくると言っていたのに……と思ったが、ななは見慣れない服を身に纏っているあたり、その用事は済んだのだろう。
「随分早かったじゃん。似合っているぞ、その服」
カラフルな星が散りばめられたパーカーとミニスカート。髪も丸い飾りの付いたヘアゴムでツインテールになっている。いつもロングヘアーと白ワンピースだけだったから新鮮、可愛さも数割増しだ。
しかし、本人は何故かご機嫌斜めな様子だ。
買い物先で何かあったのだろうか。
「おいおい、どうしたんだよ」
「どうしたのじゃないよ!駆郎にぃのバカバカバカ!」
突然。ぶわりと舞い上がったななはオレに覆い被さって押し倒すと、拳を何度も振り下ろす。ぽかぽか、という擬音が似合うような弱々しいグーパンチだが、ななは本気で殴っているようだ。
「ちょっ、……待て!痛……くはないけど、何――ぐべっ」
顎にアッパー、クリーンヒット。これは効いた。
「だーっ!もう、何なんだよ!」
ななを払いのけて、跳ね起きる。
事態がさっぱり飲み込めない。殴られるようなことをしたか、言ったか?オシャレコーデを褒めてやっただけだろ?一体全体どういうことだよ、オイ。
「母さん、ななはどうしてあんなに怒っているんだ?」
事情を知っているであろう母さんに助け船を求めるが――その母さんは俯いていてその表情が見えない。
怒っている?違う、これは――
ぱしんっ。
母さんの平手打ちが、オレの頬を弾いた。
じんじんと叩かれたところが熱を帯びる。
呆気にとられ、思考停止。そんなオレを母さんはぎゅっと、力強く抱きしめた。
「か、母さん!?恥ずかしいだろ、ちょっとっ!」
ひっぱたいて今度はハグ!?
母さんまでどうしたんだよ、何があったんだ本当に。
「うぅ……っ、無事でよかった……。もう、心配したんだから!」
オレの肩に、温かい水滴が落ちてじわりと拡がる。
涙だ。
母さんが、泣いている。
「急にいなくなるから……っ、ずびびっ」
泣くのはいいんだけど、鼻水は勘弁してくれ。
あと抱きしめるパワー強すぎ。苦しい。背骨が軋み始めてる。もう少し自分の力の制御をしてほしい。
「そいやっ」
右回転で体を捻り、ドリルの要領で下方向へ脱出成功。
「あ、抜けちゃった。ママの愛が嫌だったの!?」
「人前でハグは恥ずかしいよ!あと結構痛かったんだよ!」
母さんはいつも変だけど、今日は特に変だ。情緒が不安定過ぎる。いつもはおちゃらけ一直線なのに。
「あの~……、校長先生?オレ全然状況が分からないんですけど、解説お願いできます?」
母さんとななは感情爆発大混乱中なので、比較的冷静そうな可児校長に状況説明を求める。が、可児校長は怪訝そうな表情。
さっきから立て続けに意味不明で困っているのはこっちなんですけど。
「駆郎君こそ、言うことがあるんじゃないのかい?」
「何をです?」
「誰にも連絡なしで丸一日もどこに行っていたのか、責任を持って説明してもらいたいんです」
「丸一日……は?いやいやいや、おかしいですよ!そんなことしたらお腹空きますよ!?それにオレは家で寝たい派ですし――」
「君は昨日から家に帰っていないじゃないですか!だから君のお母さんに来てもらって、警察に捜索願を出すか話し合っていたんですよ!」
可児校長が本気で怒る顔を、久しぶりに見た。
いじめをしていた子を叱っていたのを見た時以来か。子供達のことを思うがあまり恐ろしい表情になるのだ。
愛情を持ってのことだ、というのは重々承知している。だが、話が噛み合わないまま一方的に怒られるのはあまりいい気分ではない。
「帰るも何も、まだ月曜日ですよ!?これから帰るところだし、昨日は制服買いに行っていたし……」
「駆郎君、今日は火曜日ですよ?ふざけないで下さい。子供達や保護者も、職員だってみんな心配していたんです。神隠しに遭ったんじゃないかって噂も出ているんです」
……火曜日?
どうして火曜日?
オレは三年生のフロアで人形娘の霊を追いかけて、それから変な場所で理解不能な恐怖体験をして帰ってきた。時間で言えばせいぜい五分前後、大した時間じゃない。
それなのに何故一日たっているんだ?
ふざけているのはそっちじゃないのか、と邪推しそうになるが、可児校長はそういう度の過ぎた悪戯を一番嫌う。あり得ない。
日めくりカレンダーも、校長のパソコンも、何もかも火曜日の表示になっている。
「マジか……」
どうやらおかしいのはオレの方らしい。
だがオレの腹時計は二十四時間たったことを知らせていない。大体飲まず食わず一睡もせずだったらもっと疲労感と空腹感でへろへろになっているはず。頭に大きめのたんこぶがあるが、それ以外体に異常はない。
これはどういうことだ?
体感五分、みたいなヤツだろうか?
極度の興奮状態で時間の経過を速く感じる……とか。
「はぁ~……」
大きな溜息が出た。
色んなことが同時に起こって頭の中がもうぐちゃぐちゃだ。
「……とりあえず、なんだけどさ。落ち着いてオレの話を聞いてくれる?」
自分でも、うまく説明出来ない。
なのでオレ自身の気持ちの整理も兼ねて、体験した約五分間の特濃混沌物語を三人に語ることにした。
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