女児霊といっしょに。シリーズ

黒糖はるる

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女児霊といっしょに。~学校の七不思議~

第四章:撃鉄と焔―フレイム・アクション― 3

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 さっさと家に帰ると、タイミングが良いことに母さんがいた。丁度仕事が終わって戻ってきたところらしい。
 「相談したいことがある」と伝えると「仕事上がりは一杯飲みたい」と言うので、ビール一缶だけ許してから渡り廊下の件について話した。

「どうりで帰りが早いと思ったら……邪怪ねぇ。それは……困ったわね~」

 ビールを呷り、笑いながら聞いている母さんだが内心良い気分ではないだろう。対霊処として引き受けた仕事の中に邪怪がいたなんて、明日の授業に「ゴキブリとのたわむれ方」という科目があると言われるくらい嫌な気持ちになる。

「ねーねー、そのジャカイって何?霊とは違うの?」

 ぽかーん、としていたななが割って入ってきた。
 そうか、ななはアレが邪怪だということを知らなかったか。

「邪怪っていうのはねー、要するにゴミの塊よ。掃除をしないといつの間にか部屋の隅にある埃の塊とおんなじ」
「へー。アレって埃なんだー」
「違うから。どの辺りが埃だよ、オイ」

 母さんの説明が大変いい加減過ぎる。これではななが間違った知識を覚えてしまう。あと普通の家は埃の塊が出来る前に掃除をすると思う、多分。
 仕方がないので、母さんに代わりオレが邪怪について教えることにした。

 邪怪とは、不特定多数の人々が発した負の感情――「嫌い」「やりたくない」「ムカつく」「死にたい」などが漂い、凝り固まって生まれる怪物のことだ。ごちゃ混ぜにくっつけたような見た目をしているのは様々な人の感情が合成されているからで、それ故にキモイ。発生過程としては最初に核となる部分が作られ、徐々に大きくなっていく。立地や方角の関係で負の感情が集まりやすい、つまり邪怪が発生しやすい場所もあるらしい。そういう意味では埃の塊という表現は、まぁまぁ悪くない。
 昼休みのやり取りの通り、邪怪は完全体になるまでは念導者でも道具なしでは見ることが出来ない。しかしだからといって無害という訳もなく、不完全でも周囲に不幸をばらまく。それが四年生達に降りかかった災難である。そして完全体になると一般人でも見ることが出来るようになるが、同時に人間を捕食しエネルギー源にするようになる。倒すには最初の核を叩き潰すしかない。

「はーい、質問でーす」
「何でしょう、なな君」
「それなら駆郎にぃの浄霊で、えいってやればいいんじゃない?」
「はい、不正解です。先生の話は最後まで聞きましょう」
「駆郎にぃは先生じゃないでしょー」
「そこ、静かに」
「ななだけだし」

 対霊処に所属する念導者、つまりオレや母さんは浄霊のみを担当する。というのも、邪怪には浄霊が効かないからだ。あくまでも浄霊は個人の未練の解消であり、大勢の感情で構成された不幸と捕食以外の意志を持たない怪物相手では太刀打ち出来ない。
 よって邪怪退治は専門家に依頼する。
 その名も対邪処たいじゃどころ。戦闘に特化した技術――浄怪じょうかいで邪怪を殲滅する念導者が属している。
 彼らは邪怪の発生による被害で依頼を受けて出動し、掃討するプロフェッショナル。その多くは完全体になってからで、速やかに仕事を終わらせる。
 ただ問題なのは不完全な邪怪は霊の仕業と混同されがちで、度々対霊処に依頼が舞い込む。その場合対邪処に引き継ぎをするのが決まりとなっているのだが……。

「引き継ぎすればいいのに~。やっぱり駆郎にぃの仕事だからダメなかんじ?」
「ダメじゃないさ……まぁプライドが傷つくけど。それよりも問題なのは……」

 オレはちらり、と母さんの方を見る。どうして引き継ぎたくないのか話して良いか、と視線を送ると無言で頷いてくれた。苦虫を噛み潰したような顔をしていたが。

「その対邪処なんだけどな、晩出市で活動している“りばやし”っていう店の人が……その……母さんに嫌がらせしてくるんだ」

 オレは子供が聞いても問題ないように、オブラートで何重にも包んで伝えた。

 “対邪処りばやし”。
 晩出市の邪怪事案を管轄としている専門店だが、そこの主人がとんでもない助平すけべい野郎なのだ。
 母さんに会う度にセクハラ祭りで狂喜乱舞、必ずと言っていいほど豊満な胸と尻を揉み、ついでに「ご無沙汰じゃない?」とか「火照っているのかい?」とかほざく糞野郎である。しかも性質が悪いのはそのタフさ。母さんは毎度流血沙汰の鉄拳制裁でぼっこぼこにするのだが、さすが戦闘のプロだけあってすぐに復活してくる。ある時は顔面が梅干しみたいになるまで拳を打ち付けたのに、その顔のままホテルに誘おうとする始末だ。
 そんなかんじの変態野郎なので、母さんは可能な限り借りを作りたくないのだ。一体何で貸した分を返さないといけないのか、考えるだけで邪怪並におぞましい。
 そしてもう一つの問題。“あまみや”と“りばやし”は所属しているグループが違う、ということだ。
 “あまみや”の本部は対怪異ソリューショングループ「醒果会せいかかい」。
 “りばやし”の本部は対怪異ソリューショングループ「清寂会せいじゃくかい」。
 更に面倒なのが、晩出市を主に管轄しているのはうちを除いて全処が「清寂会」に所属している点だ。つまりは完全アウェー。
 更に更に、グループの名前が似ているということから上層部同士でもいがみ合っているという状態。学芸会で主役を取り合う子供の図と大差ない。いや、譲り合う心を持っている分、子供達の方が百倍マシだ。

「え~っと、つまりこのはさんをいじめる悪い人なんだね!」
「うん、そういうこと」

 いやらしい部分を省いて話しただけ。嘘は言っていない。
 一応純真だろうななにセクハラする男のことなんて話したくないし、母さんだって嫌だろう。

「あと、セイカとセイジャクでややこしいね」
「それは同意」

 幼稚な喧嘩を上層部がしないでほしい。そのしわ寄せが来るのは結局末端、オレ達なんだから。連中を反面教師にして、まともな大人になろう。もはや“まとも”という概念が迷子になっているけれども。

「で、どうする母さん?」

 オレは指示を仰ぐことにする。
 “あまみや”を切り盛りする責任者であるし、何より被害を受けるのは母さん自身なのだ。オレの独断で決めてはいけない。
 だが、ほぼ答えは決まっているはずだ。“りばやし”の糞野郎に引き継ぐ、しか有効な手はないのだから。

「……よし、“きつねび”に頼もうか!」

 なので、母さんの決定には耳を疑った。

「……………母さん、ワンモア、プリーズ」
「だから“きつねび”に頼むのよ。仲良しだし」

 仲良しなのは知っている。よく長電話をしているのも知っている。年賀状が毎年凝っているのも知っている。
 だけども“対邪処きつねび”は「醒果会」が本部で、隣の県にある鉱輝こうき市を拠点にしているのだ。もし“きつねび”が晩出市の仕事を請け負えば越権行為になり、争いの火種になりかねない。

「それがどれだけヤバイことか、分かって言っているんだよね?」
「勿論。それに今更よ。駆郎は知らないだろうけど、何度か頼んでいるもん」
「マジっすか」
「マジです」

 えぇぇぇぇ……。
 平然と綱渡りなことするのやめて下さい。真下にクッションないし観客も巻き込むレベルの大事になるから。反社会勢力並の争いになるから。

「んじゃ、決まりね」

 母さんは缶に残った最後の一滴までアルコールを堪能すると、さっさと連絡を取りに行ってしまった。
 そして長電話の末、あっさり了承してくれたことを教えてくれた。あとの時間は何を話してたんだよ。世間話かな。

「そうそう、ましろちゃんが来てくれるって。駆郎は会うの、久しぶりじゃない?」
「……あいつが来るのか」

 派遣されるのは“きつねび”所属の狐火きつねびましろ――オレと同い年の念導者で、見習いとして仕事をしているようだ。
 最後に会ったのは小学生の低学年頃だっただろうか。確か双子の妹、こがねという子もいたはずだ。
 定期的に行われている「醒果会」の会合。それに無理矢理連れていかれ、別室で他の子供達と一緒に待たされていた時に初めて会ったのだ。当時は幼稚園児くらいだったか、親同士が仲が良いこともあり一緒に遊んで過ごしていた。
 でもオレはひ弱で二人の玩具おもちゃにされているような状態で、おままごとをすれば赤ちゃん役、戦いごっこをすればコテンパンにされる。そしてお医者さんごっこでは――おっと、ストップ。思い出すのをやめよう。あれは嫌な思い出だ。なかった、なかったんだよあんなこと。うん。
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