女児霊といっしょに。シリーズ

黒糖はるる

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女児霊といっしょに。~学校の七不思議~

終章:ふしぎななな

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 蝉が鳴いている。
 フライパン状態のアスファルトと降り注ぐ太陽のシャワーの板挟みで、肌がじりじりと徐々に焼かれていく感覚だ。
 猛暑と言っても過言ではない、燃え盛る夏。しかし、暑さに喘ぐのは大人達ばかりで、子供達は元気はつらつ。高温の道路の上を駆け抜けていく子が通り過ぎるのを目で追い、数年前までの自分の姿を重ねて見て感傷的になる。

 奥部小の横を通ると、プールではしゃいでいる子供達の声が聞こえてくる。昔はどんな風に遊んでいるかが外からでも分かったのだが、このご時世なので高い壁に囲まれていて確認出来ない。……が、つい数日前までここで仕事をしていたため、大体の見当はつく。
 数日前。
 あの濃密な二ヶ月間が終わると、それから後は一瞬のことだと感じてしまう。普通の高校生念導者に戻ったことで、時間の感覚もまともになってしまったようだ。依頼の期日が迫っていててんてこ舞いになっていたあの日々ですら、十分に長くて充実した時間だったと感じてしまう程に。
 それもこれも、あいつがいないからなのかもしれない。
 依頼内容を聞きに行ったあの日、偶然会った女の子。
 記憶喪失のくせに脳天気で喧しい霊。
 でも実はオレの初恋相手だった、あの子。

 童乃四季。

 七不思議を全て解決した最終日の朝、突然のキスをしたと同時に消えてしまった相棒。
 あの時はキスと消滅と夜明けのテンションで思考が追いつかず困惑してしまい、立て続けに全校児童の前で別れの挨拶をして感情も高ぶっていて頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。
 でも落ち着いて思い返すと、四季が言っていた「駆郎にぃと一緒」という言葉。あれは四季もオレのことが初恋の相手だった、ということだったのではないか?だから急にキスをしてきて、それで満足して浄霊されたんじゃないのか?

「いや……それはないか」

 自惚うぬぼれるのもいい加減にしろ。
 彼女に好かれるような要素がオレにあるか?ないだろ。一緒に過ごした二ヶ月強の日々で、何回ロリコン呼ばわりをされて蔑まされたことか。
 それとも、幼少の頃のオレに好意を寄せていたというのか?それこそあり得ない。あんなひ弱な子供に好きになるところなんてない。
 ……なら、どうして四季は消えてしまったのだろうか。

「女心は……分からんな」

 今まで一切モテずに生きてきたせいで、何を考えているのか全く分からない。それはこれからも変わらないだろう、悲しいことに。

「あなたなんかに分かる訳ないでしょ」

 校舎の壁からにゅる~んとつぼみちゃんが抜け出してくる。
 地獄耳か、お前は。

「人の独り言にツッコミを入れて楽しいか?」
「楽しいと思う?」
「全然」
「そういうこと」
「じゃあ何か用があるのか?」

 この子が意味なくオレの前に現れるとは思えない。ミツデ様を阻止した報告かそれとも新たな怪異が発生したのか、大方その辺だろう。

「よく分かったわね。そうよ、あなたに用があるの」

 そう答えるつぼみちゃんはうんざりしたような目をしている。これは相当厄介な事が起きていると予想される。

「この子を引き取ってもらえないかしら?」
「……この子?」

 つぼみちゃんが言うのだから霊かそれに準ずる存在だと思うのだが、どれを指しているのか分からない。四方八方どこを見渡してもそれらしき存在が見当たらない。

「あ~っ!ここまで連れてきたのに!もうっ!ちょっと待ってて、呼び戻してくるから!」

 ぷんすか怒りながらつぼみちゃんは校舎の中に戻っていく。どうやら引き取ってほしい存在がどこかに行ってしまったらしい。
 暑いのに屋外で放置かよ。生身の人間には辛いんですが。
 オレは熱中症対策で持ち歩いていた水筒を取り出し、乾ききった喉に冷えた麦茶を通す。心地よい冷たさが駆け抜けていき、体が潤っていくのを感じる。
 もう一杯、飲もう。
 心地よさをまた味わおうと麦茶を口に含んだ瞬間、目の前から一人の霊がロケットみたいに頭から突っ込んできた。

「ごぶぅーっ!」

 予想外の出来事に驚愕し、思わず麦茶を吹き出してしまった。
 汚い虹がオレの頭上に掛かった。

「ったく、いつまで恥ずかしがっているんだか……」

 再びぬる~んとつぼみちゃんが校舎から出てくる。どうやら霊体ロケットにされた子はつぼみちゃんに投げられたか蹴っ飛ばされたか、そんなところだろう。

「蹴っ飛ばしたのよ」

 キックでした。
 ん?じゃあ、蹴られたのは誰だ……?

「酷いよつぼみちゃん!割と痛かったよ!」

 ひょろひょろと弱々しく起き上がるのは、白いワンピース姿の女の子。
 長い髪と、頭に響く甲高い声。
 そんな特徴を持つ霊は。
 そんな霊は見紛みまごうことなく。

「げっ、駆郎にぃ!?いや~~~~っ!」

 オレの相棒にして、初恋相手の童乃四季だった。

「ほら、もうそろそろ帰りなよ」
「無理無理無理無理!恥ずかしくて死んじゃうよ!」
「私達もう死んでるから」

 つぼみちゃんと四季はどたばたと空中で絡み合っている。
 何しているんだ、こいつら。

「取り込み中悪いんだけど、お前浄霊されたんじゃないのかよ」

 てっきりキスした後、満足してぽっくり浄霊されたと思っていたのに。まだ学校内をうろちょろしていたのかよ。

「いや~……えへへ」
「えへへじゃないでしょ!もう!ちょっと駆郎、聞いてくれる!?」

 おいコラ、呼び捨てかよ。
 あ、一応つぼみちゃんの方が年上か。

「この子ったらキスしたのが恥ずかしくて私のところに逃げてきたのよ!?信じられる!?しかも二週間もずっと引きこもってうじうじしてて、霊と人間じゃどうせ結ばれないのにーって――」
「やめてーっ!話さないでぇぇぇっ!恥ずかしくて爆死するぅっ!」
「だから死なないし爆発しないでよ!」

 ……つまり、何だ。
 うん、そういうことか。
 細かいことは置いておいて、とりあえず以前と大して変わらないってことだな。

「はい、あとよろしく」

 結局、つぼみちゃんは四季を押し付けるとさっさと帰ってしまった。
 夏の日差しの元、二人だけで取り残された。

「あ、あはは……それじゃ、さよなら~……」

 四季もそーっと帰ろうとするが、オレはその先で仁王立ち。
 ザ・とおせんぼ。

「そんなにキスしたのが恥ずかしかったのか?」
「もう掘り返さないでよぉ……」
「あれ、オレのファーストキスだったんだけど」
「それは……ごめんなさい」

 しゅん、と四季は萎れる。
 オジギソウ並のしなり具合だ。

「その罰として暫くオレと一緒に仕事をしてもらう」

 そんな彼女にオレは一つの提案をするが、それはただの建前。
 まだもう少し彼女と一緒にいたいという、それだけの理由。オレの願望だ。

「え~……それはちょっと……」

 嫌がるんかい。

「罰じゃなくて、依頼のお代ならいいけど」
「どういうことだよ」
「決まっているでしょー。まだ記憶が全部戻ってないんだから、ちゃんと全部思い出せるまでやり切ってもらわないと困るの!未練だって他にもあるし……。で、それなら仕事の相棒になって~、お代は体で払ってあ・げ・るってことだよ」

 言い方がやけにいやらしいな。
 でもまぁ、これも彼女なりの建前ってことか。

「オッケー、それで手を打とう。んじゃ、また相棒をよろしくな四季」
「四季はやだ。ななにして」

 本名を嫌がり、ぷくっと頬を膨らませる。
 これまた見慣れた、焼いたもちみたいな膨れっ面だ。

「全部思い出すまで、ななって呼んで」
「……ぷっ」
「あーっ!今笑ったでしょーっ!」
「まぁまぁ。笑って悪かったよ

 こうして改めて四季――ななはオレの相棒として、対霊処に戻ることになった。

「先に言っておくが、オレの初恋相手はだからな。子供のお前に恋するようなロリコンじゃないから」
「分かっているもんっ!ななだって別に駆郎にぃのことなんて、お兄ちゃんとしてくらいの好きって気持ちだもん!」
「はいはい」
「ひっどーいっ!軽く流したーっ!」

 オレとななの、こんな喧しくて下らない関係は続いていくだろう。
 多分、暫くは。
 はぁ。

「溜息つかないでよーっ!」

 殴られた。








 完。

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