女児霊といっしょに。シリーズ

黒糖はるる

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女児霊といっしょに。~晩出霊獣伝説~

序章:晩出霊獣伝説

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 千年以上前。
 晩出市ばんでしがまだ萌入村もにゅうむらという名の小さな村だった頃の話だ。
 萌入村はその立地から海と山の幸に恵まれており、狭いながらも都のような賑わいであった。魚介類や野菜、穀物等々豊富な食材は民だけでは消費しきれない量で、周辺の街へ売りに行くことで財を成す一族も多かったようだ。
 人の往来も多く、宿屋を営んだり料理を振る舞う店が建ち並んだりという当時としては異例な発展をしていた。

 しかしある年、巨大な怪物が海より現れた。
 怪物はその全貌が分からない程の巨躯で、当時の記録からは「とにかくおぞましいの一言に尽きる見た目」と記されていた。

 見た目の不気味さから邪怪じゃかい(怪異の一種で、生物や無機物を合成したような肉塊)と判断した村人達は当時の対邪処たいじゃどころ念導者ねんどうしゃを呼んだが、怪物はそれを一蹴。念導者は殺されてしまったという。

 だが、念導者は死の間際に怪物の意志を読み取ったらしく、村人にそれを伝えた。
 怪物いわく「年に一度、自分が選んだ娘を一人にえとして差し出すのなら村を襲うことはない」、と。

 村人達に選択肢はなかった。
 修行を積んだ念導者が敵わなかった相手だ、村人総員で戦ったとしても万に一つ勝ち目はない。
 故に、村人は生け贄を差し出すことに承諾した。

 生け贄の儀式はこうだ。
 一年に一度怪物が海底から汚泥おでいのようなものを村のどこかに飛ばし、その家で最年少の女性が生け贄として扱われる。
 選ばれた女性は白装束しろそうぞくに着替え、一人で海で待つ怪物の元へ行き、食われる。この間周囲に人がいてはならず、怪物の姿及び捕食される様子を見てはいけない。そのため儀式の日は生け贄以外の全ての村人が家に閉じこもり、灯りを消していたという。
 無事儀式が終われば向こう一年は安泰。
 しかし、もしこの手順の内どこか間違えたり怪物を見たりしてしまったりする場合はそれ相応のたたりがある、と怪物からの注文があったらしい。

 最初の年の生け贄に選ばれたのは金貸しで大儲けしていた店の妻だった。
 子持ちの女性であったが、旦那に息子を預けていさぎよく生け贄になったという。

 二年目の生け贄に選ばれたのは宿屋に嫁いだばかりの若女将わかおかみだった。
 新婚生活が早々に終わり夫は抵抗したが、若女将は「皆が無事なら」と自ら白装束に着替えて海へ向かった。

 三年目の生け贄に選ばれたのは名家の一人娘であった。
 男子が生まれるまでは自分が代わりに、と日々鍛錬に励んでいたようで男勝りな娘だった。そのため跡取りの責務を果たせぬことに負い目を感じながらも、堂々と生け贄になることを受け入れていた。
 しかし、この年は怪物の言う禁忌きんきに触れてしまったらしく、村の三分の一が壊滅する程の災いが起きたという。

 四年目の生け贄に選ばれたのは地主の末娘すえむすめだった。
 生まれつき障がいがあったらしく敷地からは滅多に出ない娘で、侍女じじょの手を煩わせてしまいがちだったらしい。娘は「これまで迷惑をかけた分の恩返しに」、とこころよく生け贄になったそうだ。

 五年目の生け贄に選ばれたのは農業を営む一家の娘だった。
 豊富に採れる野菜や果物で生活に困らなかったせいでぐうたらな娘に育ってしまったそうで、「穀潰ごくつぶしだからせめて最期くらい役に立て」と追い出される形で怪物にその身を捧げることになったらしい。

 六年目の生け贄に選ばれたのは茶屋の娘だった。
 店の看板娘だったようだが当時の感覚でも相当のうつけっ子だったらしく、生け贄の件についても全く理解していなかった。そのため遊びの一環として海まで行くようだますことで、贄としての役目を果たせたようだ。

 七年目の生け贄に選ばれたのは当時の対霊処たいれいどころの娘だった。
 まだ幼く修行もしていなかったが知識と能力はあり、汚泥が来る前に自分が選ばれることを予言していたらしい。また今年の贄になることが自分の責務と感じていたらしく、誰の手も借りず儀式に臨んだそうだ。

 八年目。この年に選ばれた生け贄は不明。おそらくいたはずなのだろうが、どのような人物だったのか資料が残っていない。
 というのも、この年は犠牲者ゼロ。
 もとい、怪物が討ち滅ぼされた年だからだ。

 一人の念導者の娘と一匹の霊獣。
 彼女らの活躍により、怪物は倒されて萌入村に平和が訪れたのだ。

 これが後世に語り継がれることになる、“晩出霊獣伝説”である。


『晩出市の歴史』 出版・晩出市郷土資料館
 第二章:晩出市に残る伝承、その一 晩出霊獣伝説について
 より、一部抜粋







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