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悪いのは

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お嬢様が悪い、なんて言いたくはない。

けれど少しだけ、お嬢様も悪い。
俺に主従の誓いを立てさせたくせに、その後も何度も俺に好きだと告げたお嬢様も。
想う相手にそんなことをされて、心が揺れない訳がない。一度はただお側で見守ると決めたとしても。
俺の決意を揺さぶったのはお嬢様だ。

それでも、この件の責任は俺一人にある。想いを止められずに罪を犯したのは俺だ。わかっている。
お嬢様は、あんなことをしてまで俺と一緒になりたかったわけじゃない。当たり前だ、わかっている。

俺が、耐えられなかっただけだ。
何度となく俺に好きだと告げた声の主が、他の誰かのものになることに。
例え彼女の心がどうであれ、結婚したらその相手に身をまかせるのだ。
普段はドレスに隠されているその柔らかな肌に触れ、まだ誰も聞いたことのない甘い声を出させ、彼女のすべてを手に入れる。そして彼女に子どもを…。

そんな誰かが現れるのが許せなかった。まだ、相手も決まっていないのに、その時を想像しただけで気が狂いそうだった。

俺のお嬢様。
俺の大切なお嬢様。
俺のーー

こんなに深い執着を抱いてはいけない相手だと、わかっていた。
これ以上、側にいてはいけない。
彼女を不幸にしてしまう。
離れなければ。

そう思うのに、お嬢様に見つめられる度、名を呼ばれる度に、心は囚われた。
お嬢様に好きだと言われるたびに、心が砕けそうだった。

お嬢様から離れることが、どうしてもできなかった。



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