656 / 984
654
しおりを挟む
「……そうか。あの子が……」
武衛の街を火の海にしないため走り回っていた春風の当主は、屋敷に着いた瞬間に待っていた呉服問屋の息子から雪也達の訃報を聞き、静かに瞑目した。
弥生が連れ出した美しい子。やっと楽しそうに笑うようになったと思ったのに、こんなに早く逝ってしまうとは。
「皮肉なものだな。己の権力と盲目的な考えに支配されている者達の命も等しく平等と思い、何よりも無辜の民を助けんと私たちは走り回った。弥生もまた、数多の命を守らんと今も駆けていることだろう。だというのに、一番守りたかった命を失うとは」
それも、何の罪もない命だったというのに。
これを知れば、弥生は何を思うだろう。誰よりも雪也達を大切に慈しみ、庵に行くことを楽しみにしていた姿を知るだけに、どう伝えたら良いかもわからない。
「兵衛とやら。知らせに来てくれたこと感謝しよう。雪也たちは身寄りがおらぬゆえ我が春風で引き取り、手厚く弔うこととする。後ほど庵に人をやろう。サクラも、当家で引き取る。して、湊といったか。そなたはどうする? よく火野の店に顔を出していると聞いたが、家はあるか? 身内がおらぬようであれば、この屋敷に留まってもよいが」
問いかけられた声音はとても柔らかで、これ以上ないほど残酷なものを見て傷ついたであろう湊を気遣う姿は、やはりどこか弥生に似ている。だが、それがなおさら湊には苦しかった。
(それをもらう資格なんて、ない……)
逃げてはいけなかったのに、己は逃げたのだから。
武衛の街を火の海にしないため走り回っていた春風の当主は、屋敷に着いた瞬間に待っていた呉服問屋の息子から雪也達の訃報を聞き、静かに瞑目した。
弥生が連れ出した美しい子。やっと楽しそうに笑うようになったと思ったのに、こんなに早く逝ってしまうとは。
「皮肉なものだな。己の権力と盲目的な考えに支配されている者達の命も等しく平等と思い、何よりも無辜の民を助けんと私たちは走り回った。弥生もまた、数多の命を守らんと今も駆けていることだろう。だというのに、一番守りたかった命を失うとは」
それも、何の罪もない命だったというのに。
これを知れば、弥生は何を思うだろう。誰よりも雪也達を大切に慈しみ、庵に行くことを楽しみにしていた姿を知るだけに、どう伝えたら良いかもわからない。
「兵衛とやら。知らせに来てくれたこと感謝しよう。雪也たちは身寄りがおらぬゆえ我が春風で引き取り、手厚く弔うこととする。後ほど庵に人をやろう。サクラも、当家で引き取る。して、湊といったか。そなたはどうする? よく火野の店に顔を出していると聞いたが、家はあるか? 身内がおらぬようであれば、この屋敷に留まってもよいが」
問いかけられた声音はとても柔らかで、これ以上ないほど残酷なものを見て傷ついたであろう湊を気遣う姿は、やはりどこか弥生に似ている。だが、それがなおさら湊には苦しかった。
(それをもらう資格なんて、ない……)
逃げてはいけなかったのに、己は逃げたのだから。
2
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
果たして君はこの手紙を読んで何を思うだろう?
エスミ
BL
ある時、心優しい領主が近隣の子供たちを募って十日間に及ぶバケーションの集いを催した。
貴族に限らず裕福な平民の子らも選ばれ、身分関係なく友情を深めるようにと領主は子供たちに告げた。
滞りなく期間が過ぎ、領主の願い通りさまざまな階級の子らが友人となり手を振って別れる中、フレッドとティムは生涯の友情を誓い合った。
たった十日の友人だった二人の十年を超える手紙。
------
・ゆるっとした設定です。何気なくお読みください。
・手紙形式の短い文だけが続きます。
・ところどころ文章が途切れた部分がありますが演出です。
・外国語の手紙を翻訳したような読み心地を心がけています。
・番号を振っていますが便宜上の連番であり内容は数年飛んでいる場合があります。
・友情過多でBLは読後の余韻で感じられる程度かもしれません。
・戦争の表現がありますが、手紙の中で語られる程度です。
・魔術がある世界ですが、前面に出てくることはありません。
・1日3回、1回に付きティムとフレッドの手紙を1通ずつ、定期的に更新します。全51通。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる